その姿に、三人が一斉に息を飲んだ気配がする。
まぁそれはそうだろう。
この学園内で彼を知らない妖怪はそう居るもんじゃない。
そうでなくてもあの眼光には怯えざる得ないものを感じるけど。
「とっ、遠野っ・・・さん、・・・!」
「ひっ」
「・・・な、何で・・・」
「師匠」
「師匠、じゃねぇよ・・・。馬鹿が・・・」
さすがにこんなにタイミングよく彼が現れるとは思わなくても驚いた。
まさに正義のヒーロー的なタイミングじゃないだろうか。
本人に言ったら絶対気色悪いと言われるだろうし、だって遠野の柄じゃないとは思うけど、
実際遠野は昭和の不良って感じで女子供には優しいから、
あながち間違ってもいない気もしないでもない。
とは言え、敵とみなした相手には容赦ないからやっぱり正義のヒーローってのはどうだか。
遠野が姿を見せてくれたことでの心にも余裕が出来たのか、
思わずそんなことを考える。
を囲んでいた男子生徒たちはと遠野が知り合いだったこに更に驚きを隠せない様だった。
と遠野の師弟関係は周囲には誤った認識をされてはいるが、
(が彼の手下その1みたいに思われてるらしい)
それなりに知られてることだと思ってた。
でもこの3人の様子を見る限り、
こいつ等はと遠野が知り合いだって事すら知らなかったようだ。
「おい、てめぇら・・・俺は何してやがるんだと聞いているんだけどな?」
「いいいい、いえいえいえ、何も!!!ま、まま、まさか、遠野さんの、お知り合いとは!!」
「あ、ああ、全然知りませんでした!!すみませんっ、ひぃいいいっ!!!」
「じゃあ、おれ達はこれで・・・・・・!!!」
分かり易く恐怖で動揺しまくった三人は、
それだけ言って遠野が立ってるドアとは反対側のドアから慌しく教室を出て走って逃げていく。
その様子が余りにもベタ過ぎて、本当にこんなことあるんだななんて妙に感心してしまった。
「けっ、何なんだありゃ。全く張り合いのねぇ。
おい・・・、・・・大丈夫なのか?」
「うん、ありがと、師匠」
「・・・ったく、てめぇは本当に何やってやがんだ?
あの程度の雑魚、今のてめぇなら捕まる前にぶっとばせるだろうが」
言って、近付いてきた遠野が片手の手の平でべしりとの頭をはたく。
その勢いが結構なもので、その衝撃でがくんとの頭が大きく揺れた。
「あだっ・・・。ごめん、不肖の弟子で」
「んなこと聞いているんじゃねぇよ。てめぇのことだ。
何か理由があるんだろうが?だったら・・・」
そこで不意に遠野は何かに気付いたように言葉を止める。
彼は少し驚いた様子でジッとを見ていた。
何なんだと不思議に思ったのは一瞬で、すぐにその意味が分かる。
だ。
の体、小刻みに震えている。
アイツらはとっくに居なくなったってのに、今更恐怖を覚えたとでも言うんだろうか。
恥ずかしさと情けなさで思わずは一歩、遠野から後ずさった。
これが人間の男女なら男三人に襲われそうになって間一髪助けられた女ってことで、
可愛げのある反応と取られるかもしれない。
いや、例え妖怪の女だとしても種族やレベルによってはそういうこともあるだろう。
だけどは元人間とは言え今まで何度も似たような状況に遭遇してるし、
(例えこうなる前に防いできてたとしても)
相手が三人だろうが本来ならそれを返り討ちに出来る術も知ってる。
あの程度の妖怪に怯えるなんて可愛らしい所か呆れられても仕方ない。
特に遠野はの『師匠』。
助けてもらった上にこんな情けないところまで見られるなんて、本当に恥ずかしすぎる。
は両手に強く拳を握ってどうにか体の震えを収めようと努力した。
「・・・遠野・・・あの、これは・・・っ!?」
それから遠野に何かいい訳めいた言葉を口にしようとした所で、
今度は彼がの肩を掴み、
がそれに驚いて目を見開いたと同時にその両腕に絡み取られた。
よく腕の中にすっぽりなんて表現を使うけど、彼の両腕はまさにそれだ。
元々の身長が平均より低いこともあって、
長身でガタイのいい遠野との体格差がそれを手伝い、
は彼の手にすっぽりと納まってしまっていた。
「急に、どっ、どうしたの?」
「うるせぇ・・・。ったく、そりゃこっちが聞きたいってんだ」
「え?」
自分からを抱きしめておいてどうやら遠野の方が戸惑ってしまってるらしい。
彼のことだ、弱ってる女子供を放っておけない感覚で、
不甲斐ないを呆れながらも突き放せなかったのかもしれない。
とは言え、普段自他共に認める硬派な昭和系不良の彼がこんなことをするなんて本当に珍しい。
今の一瞬で驚きすぎての恐怖心はあっという間に吹飛んでいた。
「何でもねぇよ・・・。少しの間こうしてろ。てめぇが嫌じゃねぇのなら・・・、な」
「・・・うん」
嫌だなんて全く思わない。
但し今は状況を把握して妙に緊張してるせいか、
分かり易く心音がどくどくしててそのことで一層自分が遠野を意識してるんだと分かる。
「・・・それで?あんな雑魚にとっ捕まってた理由は何だ?」
遠野は少しの沈黙の後、
何かを誤魔化すみたいにいつもより更にぶっきらぼうな口調で言った。
「・・・うん、実は今日・・・例の妖力の低い日で・・・、
しかも寝不足だったからちょっとぼんやりしてた」
「あぁ?何でそんな日にわざわざ学校に来ているんだ?いつもならサボっちまってるだろうが」
「1限目が小テストだったし、サボると面倒そうだったから」
「・・・・・・小テストだと?馬鹿かてめぇは」
の返事に頭上から心底呆れた口調の遠野の声が降ってくる。
彼はの妖力が低くなる日があることを噂じゃなくて、
の口から話をしてる数少ない友人(?)の一人だ。
この話はにとって大げさじゃなく命取りな情報でもあるから、
本当に信用の置ける友人にしか話してない。
「そんな理由であんな雑魚に捕まってこんな場所に連れて来られたなんざ、
考えなしにもほどがあるぜ」
「うっ・・・!そこまで言わなくても!そりゃ確かに情けないって言うか、
不甲斐なかったけど、
師匠が来なかったら術で吹っ飛ばしてその間に逃げるくらいするつもりだったし!」
自分が悪いと分かっていながら素直に頷けない。
は思わず顔を上げて遠野に抗議していた。
「そうなる前にあんな奴らに捕まってんじゃねぇって言ってんだよ、俺は!
つーか、小テストなんて馬鹿げたもんの為にあんな奴らに言いようにされて、
食われるようなことが万に一つもあってみろ、俺はてめぇを絶対に許さねぇからな・・・!」
「!?幾らでもそんな間抜けじゃないから!
それに、そうなったら絶対許さないも何も」
「うるせぇ!いいか?。
今のてめぇは俺達レベルかそれに近い妖怪襲われちまったらそれまでなんだよ。
こんな風にな・・・!」
「っ!!??ンぅっ・・・!!」
ほんの一瞬何が起きたのか分からなかった。
遠野がさっきよりの方に傾いてきたと気付いた時にはもう遅くて、
驚いて声を上げようとした口に彼の唇が乱暴に押し付けられていた。
元々抱きすくめられてたこともあって、抵抗する手段もないままはそれを受け止める形になる。
もっとも、抵抗できたとしても鬼の血を引いてるらしいという遠野に今のが勝てるはずがない。
強引に塞がれた唇に大きな舌が入り込み、
それがまるで生き物のように荒々しく口腔を暴れまわる。
その間に少しずつ増えて混ざり合う唾液。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「はっ・・・ん・・・」
は無意識に息苦しさに喘ぐみたいな声を漏らした。
抵抗を試みることを考えたのは最初の一瞬だけで、
その時でさえ嫌悪感を覚えることなく、殆ど遠野のなされるがままになってる。
何がどうしてこうなったのか、
そんなことを考えるより前に遠野のキスにこのまま完全に溺れてしまいそうになる、
その一瞬前。
先にから離れたのは、キスを仕掛けてきた彼のほうだった。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
唇が離れてすぐはお互い息が軽く乱れたままで、
少しの間無言でお互いを見つめていた。
遠野の唇が濡れてるのが妙に生々しい。
それなのに目が離せない。
さっきまで師匠と呼んでた相手とは別人みたいに見えた。
「・・・遠野・・・、今の・・・に『思い知らせる』だけの為に・・・したの?」
「・・・んな訳ねぇだろ・・・。
いや、まぁ・・・その・・・あの状況じゃそう思われても仕方ねぇだろうが、
・・・勢いってのがなかったとは言わねぇ・・・。だが、・・・」
遠野は自分でもどう説明したらいいのか分からないようだった。
を抱きしめたついさっきと何となく似ている感覚。
本当なら訳も分からずにあんなキスをしたのかと怒る場面なのかもしれないけど、
自身も悪かったとはいえないってことを覗いても、そんな気にはなれなかった。
「・・・。てめぇこそ、どうなんだ?」
「え?」
「今のキス・・・、何で抵抗しなかったんだ・・・?」
抵抗させてくれなかったから。
そう言えばそれで済むかも知れない。
実際そう言う部分がなかった訳じゃない。
だけど、本気で嫌なら、遠野の舌を噛んでやるくらいは出来たし、
そうじゃなくとも他に意思表示の仕方はあっただろう。
でもそうしなかったのは、それもまたある意味での意思表示だったともいえる。
だって、不思議と嫌だとは全然思わなかったから。
「・・・別に、嫌じゃなかった・・・し・・・」
素直に返事をしたに、遠野が少し驚いたような表情を見せる。
それから視線を逸らした後、どこか嬉しそうに一言。
「そうか・・・」
とだけ口にした。
一体なんなんだ、この妙に甘酸っぱい空気は。
ここは高校の教室で、達はそう言うお年頃。
更に男女二人きりってシチュはまぁこういう空気に相応しいかもしれない。
だけど実際はは妖怪一年生だから別としても、
本来妖怪にとって年齢なんて余り意味のないことみたいだし、
と遠野の関係はそんな甘酸っぱいこととは無縁の師弟関係。
たちの悪い妖怪から助けてもらった後とは言っても、
その後の会話には甘さなんて当然のようになかったはずなのに。
「・・・遠野、・・・今日はもう授業出ないから・・・。こ、これで帰る・・・」
「・・・おう、・・・お前の寝る場所まで送ってってやる」
「う、・・・うん・・・ありがと」
このぎこちない空気は何なんだろう。
いや、抱きしめあってキス(ちょっと違うけど)なんて真似をした後なんだから、
仕方ないといえば仕方ないんだけど、
余りにも達としてはあり得ない展開過ぎてどう反応したらいいのか分からない。
こっ恥ずかしいと言うか、むずむずするというか、何というか。
ただ、今回遠野がを助けてくれたことには本当に感謝してる。
それから、本気で心配してくれたんだってことも実は嬉しかった。
今のこの甘酸っぱい感じは微妙だけど、それでも嫌だと言うのとは違う。
取り合えず、
今は今後は妖力の低い日はもっと慎重に行動すると言う事を再度肝に銘じつつ、
遠野と一緒に校舎を後にすることにした。
絡みつく想いを
振り払えない
(了)
後書き
毎度のように長ったらしすぎたのを途中で二つにぶった切りました。
個人的に余りに長い一頁は読み難くて苦手なんですよね。
遠野は本当にあらゆる面で昭和の不良君で、ベタなことばっかさせても違和感ないので助かります 笑。
基本攻めの姿勢の人は強引にことを進めてる部分とか書いてて楽しいです。
そのくせあの照れた顔とか堪りませんね、ふへへ(オヤジか)。
あ、後、多分最初に登場した三人組は相当ボコられて痛い目見ると思います。
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有難うございますv
逢魔夢もマイナーから抜けきれるといいなぁ・・・。失礼します。