いかにも気持ちよさげに寝息を立てて眠っている真琴の上に、
は彼を起こさないように注意しつつそっとタオルケットをかけた。
室内は寒くもなく暑くもない適温に保ってるつもりだけど、
眠ると体温が下がって寒さで目を覚ますことも少なくない。
つけっぱなしだったテレビ画面には二人で見ていたDVDのエンドロールが流れていた。
は片手でチャンネルを掴んでそれを消し、再び真琴に視線を移す。
すやすやと言う擬音語が頭の上に浮かんでさえいそうな表情で彼は無防備に寝入っていた。
これは当分起きなさそうだ。
どうせ家は近所だし、今すぐ起こす必要もないだろう。
後1時間半位しても起きなかったらその時は声を掛けよう。
祖母は夕方の内に飲みに出かけた上に明日は休みだから、
多分明け方まで戻らないいつものコースだろうし問題なし。
何より『まこちゃん』大好きだし、万が一顔を合わせることになっても叱られることはないと思う。
はDVD鑑賞中に飲んでいたジュースとスナックを片付けると、
シャワーを浴びることにした。
いつもはゆっくりお湯に浸かるんだけど、そうするとどうしても長風呂になってしまうし、
その間に真琴が目を覚まさないとも限らない。
その点シャワーなら手早く済ませば20分位で終わるだろう。
はもう一度真琴の様子を確認した後、やっぱり熟睡モードだと判断し、
お風呂場へ向かうことにした。
◇◆◇
は、バカか。
バカだ。
そうだ、そうに違いない。
いや知ってたけど。
シャワーを浴び終えて脱衣所に出てきたは素っ裸のままタオル片手に呆然としていた。
の見下ろした先の脱衣所の籠は空っぽ。
パジャマがない。
それどころか下着もない。
と言うか、それ以前にはここに着替えを持ってきましたかと自分に笑顔で質問した。
答えはNOだ。
何故手ぶらでここまで来てそのままシャワーを浴び終えるまでそのことに気付かなかったのか。
しかも今日に限って一階に洗濯物を置き忘れてるとか、干しっぱなしのものがあるとか、
そう言うことをしてない。
つまり下着やパジャマを取りに自分の部屋まで戻る必要がある訳だ。
いつもならそんなこと別に大したことじゃないと思ってるし、実際何度か似たようなことはあった。
でもタオル1枚体に巻いて室内を歩くことに特に躊躇いを感じたことはない。
だけど、今回は、今回だけはそうはいかない。
の部屋には今、真琴が居る。
彼は多分まだ寝てるだろうけど、あの部屋にこの格好でパジャマや下着を取りに戻るなんて、
考えただけで恥ずかしすぎて、どんなミッションだと思ってしまう。
とは言え、これはもう選択の余地なんかない。
やるしかないのだ。
と言うことで、タオル一枚で再びは自分の部屋の前まで戻ってきた。
極力物音を立てないように、ゆっくりドアノブを回し、まずは隙間から中を覗いてみる。
ここからだと位置的に真琴の足くらいしか見えないけど、今の所特に動いてないみたいだから、
まだあのまま寝ているんだろう。
ゴクリ。
小さく喉を鳴らして、はこそこそと室内に足を踏み入れた。
自分の部屋に入ると言うのに怪しいこと極まりない。
は出来る限り足音を忍ばせて、テレビの前をスススーと素早い動きで進んだ。
その間も真琴から目を離さず、彼が起きてしまわないかに怯えながら。
ね、念の為に電気消しておくか。
万が一彼が目を覚ましても暗ければこんな姿を見られずに済むだろう。
真琴とは付き合ってるとは言え、こんな明るい状態で裸に近い姿を見られるのにはやっぱり抵抗がある。
嫌だというより恥ずかしすぎる。
何より理由も間抜けだし。
はテーブルの上にあるリモコンを操作して、明かりを一番小さなものにまで切り替えた。
真っ暗だと下着を取るのにも困るから完全には切れない。
それからは急いで、でも音を立てないように気をつけて、下着の入った引き出しまでたどり着くことが出来た。
後はさっさとパンツを掴んでここから脱出することだ。
と言うことで早速引き出しから下着を適当に1枚取り出し、再度、部屋のドアへ向かう。
そして、が丁度真琴が横になっているテレビの前を通りかかった、その時だった。
「・・・ん・・・」
「っ!!??」
真琴が微かに吐息のような声を漏らし、同時に少しだけ身じろぎした。
思わずの心臓が跳ね上がる。
ひぃっと口に出しそうだったところをどうにか堪えた。
ここで声を出さなきゃ多分いけるはずだ。
とにかく脱出せねば。
動揺しすぎて、慌てて再び足を踏み出した、瞬間。
ガッ
足の小指のやつが。
足の小指のやつが。
を裏切ってくれた。
テーブルの足にの足の小指だけがぶつかり、あの何とも言えない強烈な痛みと衝撃が走る。
ぶつかった瞬間は確実に変な角度で曲がってたに違いない。
そして数秒間は痛みで息が止まっていた。
「っだあああああああああ!!!!!!!」
は我慢できずに大声を上げ、その場に座り込む。
半分涙目で、正直この瞬間だけは痛みで真琴の存在が頭からすっ飛んでしまっていた。
「っなに!?え?うわあっ!?暗い!」
当然のようにの大声で真琴が飛び起き、更に室内が暗い事に驚いている。
しかも何の偶然なのか、がテーブルに小指をぶつけた衝撃で、
その上にあったリモコンが丁度真琴のすぐ目の前まで滑っていっていた。
だけどこの時はまだは痛みに悶絶してそれどころじゃなかった。
ようやくどうにか普通の痛みになってきて、気付いた時にはもう遅かった。
最悪だ。
まさか自分の体の一部に裏切られるなんて。
「え?!?大丈夫か!?待って、今電気付けるからな!」
「へ?あ、わああああ!ちょ、!!」
パッ、と。
が止める間もなく室内が明るくなる。
「!?だい・・・!」
「っっ!!」
テレビの前に座り込んだままのと、
慌てて立ち上がってこっちを見下ろした真琴の視線がそこでばちりと合った。
瞬間的に真琴はを見て瞳を大きく見開き、固まっている。
因みに、も石化していた。
お互い固まり続けること数十秒。
「・・・あ・・・・・・・」
真琴が一文字、音っぽい何かを発した。
その顔が、見る見る赤くなってくのが分かる。
多分、今回もまた、は彼と同じく真っ赤になってしまってるだろう。
なんてことだ。
あれだけ注意して上手くいくと思ってたのに。
「・・・ま、真琴・・・」
「今、その・・・ひ、悲鳴?上げてたよな・・・?」
言いながら、彼はから視線を逸らしている。
を心配してくれてると同時に、こんな格好で居るもんだから、戸惑ってるんだろう。
そりゃそうだ。
だって逆の立場だったら相当動揺してる。
「あ、あ、足の小指、テーブルにぶつけちゃって・・・」
「え!?大丈夫か!?って言うかそれ相当痛いよな。
冷やしたりとかした方がいいんじゃないのか!?」
「あ、うん、大丈夫・・・と言うか、うん、痛かったけど今は平気」
さっきまでは呼吸も止まるわ涙目になるわとにかく痛かったけど、
今はもう痛みも結構落ち着いている。
それよりもは今の状況の方が全くちっとも平気じゃなかった。
それは真琴も同じようで、彼は少し躊躇いがちにの傍まで近付いてきた。
その視線は当然のようにそわそわと落ち着かない。
「その、・・・はどうして・・・」
「・・・う、実はお風呂上りなんだけど、・・・し、下着を忘れてしまいマシテ」
恥ずかしい。
恥ずかしすぎる、色んな意味で。
「起きてすぐその姿は心臓に悪いよ。って言うか凄く目の毒かな」
「うう、ご、ごめん」
「いや、俺もDVD見てる間に寝ちゃったりしてごめん。・・・立てるか?」
苦笑した真琴がに向かって手を差し出してくれる。
はその手を取ってゆっくり立ち上がった。
足の小指に激痛が走ると言うこともないし、どうにか息があるようだ。
「・・・・・・」
「・・・真琴?」
が立ち上がった後も、真琴はの手を握ったまま無言でを見下ろしてる。
その瞳の奥にはいつもは穏やかでやわらかい光が見えるのに、
今は何だかそれとは違う、色っぽささえ感じる別のものが滲んで見えた。
さすがにタオル一枚の姿をまじまじ見られてしまうと恥ずかしい。
思わずは自分から彼の手を控えめに解いた。
「えーっと、、き、着替えてくる」
「え?あ、あぁ、うん」
真琴はそこでハッとした様子で頷く。
はぎこちない動きで彼に背を向け、部屋のドアに向かった。
どくり、どくり。
自分の心臓が激しく胸を叩く音がやけに大きく耳に響く。
がドアノブに手を掛け、それを引きかけた、その時。
「」
「え?」
トンッ。
のすぐ背後。
名前を呼んだ真琴が近付いてきて、開きかけようとしたドアを押さえるように手を伸ばしていた。
「え?ど、どうした、の?」
「・・・・・・行かないでくれって言ったら、どうする?」
「え?」
耳元。
唇を寄せて囁くように質問した真琴に、は動作を止めて聞き返す。
彼の大きな手が、そっとの肩に触れた。
びくっとしての体が瞬間的に硬直する。
肌に直に触れた真琴の掌は、予想以上に熱を持っているように感じた。
「に触れたいんだ」
「あ、あの・・・」
「嫌じゃないのなら頷いて欲しい・・・」
「・・・真琴」
嫌な訳がない。
正直に、本当に本当に正直に言えば、着替えてくるって口にした直前、実は期待してた。
こんな格好を見てもその気になられないのは、それはそれでやっぱり落ち込むから。
勿論、最初からそのつもりだったなんてことは全くなく、
下着を無事に手に入れられてたらそのまま普通に何事もなく済ませる気でいたのも本当だけど。
が戸惑いを覚えて返事を躊躇っていると、肩に置かれていた真琴の両手がするりとの体を絡め取った。
「っ!」
「無言は肯定だって取っちゃうけど、いい?」
珍しくどこか甘えるように真琴が囁く。
背中に感じる硬い胸板と熱い体温。
嗅ぎ慣れた彼の匂いが鼻をくすぐる。
「ズルイ」
「・・・うん、そうだね。ごめん・・・。こんな言い方ズルイって俺も分かってるけど、
どうしても抑え切れなかったんだ」
本当にズルイ。
その言葉さえも卑怯だと、彼は分かってるんだろうか。
いつも真琴が纏っている親しみ易い家族にみ似た空気が、今は完全に『雄』のものにとって変わられていた。
それを怖いとすら感じるのに、ここから逃げたいとは思えない。
ただ、真琴とこういう雰囲気になるのは初めてじゃないけど、は未だに慣れなくて、
どういう反応をすればいいのか分からなかった。
結局は、ぎこちない動きでひとつ、頷く。
「・・・」
「っ」
吐息混じりにの名前を呼んだ真琴の手が、タオルを解いて床に落とす。
その手がそのままの胸元に移動した。
そして、彼の掌が膨らみを下から包み込むように触れ、揉みしだき始めた。
真琴が手を動かすたび、の胸が彼の指で粘土細工みたいにぐにゃぐにゃと形を変える。
室内が明るいままのせいで、は思いっきり自分の体の変化を目にしてしまい、
一気に羞恥心が煽られた。
間違いなく自分の体の一部なのに、酷く卑猥なものに見える。
「あ・・・、で、電気消して」
「うん・・・、でももう少しこのままでいいだろ?」
「それは」
よくない。
全然よくない。
そう思うのに、真琴があんまり甘ったるい声で言うもんだから、ハッキリ嫌だと口に出来なかった。
こんな明るい室内でだけが裸になって、
こんな状態で居るなんて恥ずかしすぎてそれだけで死ねる気分だ。
今は彼に背中を向けてるからまだ少しは、本当に少しはマシかもしれないけど、
これで向き合った形だったらとっくに心臓ごとぶっ壊れている。
「、今ものスゴク困った顔してるな」
背後からを覗き込んだ真琴は、そう言って苦笑した。
その笑顔はいつもの彼なのに、どこか意地が悪く見えるのは気のせいだろうか。
「・・・!わ、分かってるなら電気消そうよ、・・・てか消してクダサ・・・わっ!」
半分ホンキで泣きそうになりながら返事をしていたその途中。
真琴は突然体勢を変えた。
と言うか、と彼を向かい合わせになる状態にしてしまった。
何度も言うが、と言うか現在進行形でそのことで動揺しまくってる訳だが、
室内は明るいままだ。
つまり何も身に付けてない状態のは羞恥心で死ねるところまで追い詰められてしまった。
「〜っ〜っ!!!」
は咄嗟に言葉を失ってなるべく真琴から体が見えないようにと無駄な努力をしつつ、
床に落ちているタオルを拾おうとした。
だけどその腕を彼に掴まれ、そのまま抱きすくめられてしまう。
ムリだ。
今の状況は、色々許容範囲を超えている。
このままだとの思考回路も心臓も爆発するに違いない。
「真琴っ、あ、遊ばないでよ!!本当に、マジで無理だから、色々!」
「遊んでないよ」
「じゃあ・・・!」
「今の俺にそんな余裕ない」
掠れた低い声。
の間近に迫った真琴の顔は、まるで熱に浮かされてるみたいに見えた。
「」
「・・・・・・」
名前を呼ばれたと同時に、彼の吐息がの唇をぬるく撫でる。
身体に回された手が、の背中やわき腹を滑っていく感触にぞくぞくした。
お互いの足が絡み合って、真琴のズボン越しに彼のものが硬くなってるのが分かる。
の足の付け根にそれが擦れると、何ともいえない切なさがこみ上げてきた。
真琴の唇が啄ばむようにの上唇を食む。
それと同時に彼は片手での胸を下から持上げるようにしてこねた。
胸の先端を指先で転がされ、その度に微弱な電気が身体をビリリと震わせるみたいな錯角に陥る。
「・・・ふっ、、片手に下着持ったままだ」
「っ!そ、そうだった」
真琴に言われてやっと思い出したけど、はまだ右手にパンツを握り締めたままでいた。
全裸でパンツだけ握り締めてるなんて、全く色気の欠片もない。
思わず彼と視線を合わせて笑いあう。
変な話だけど、室内はこんなに明るくて、恥ずかしさで死ねる勢いって気持ちは変わらないのに、
さっきまでほどの抵抗感はなくなっていた。
真琴が片手での腰を強く抱き寄せ、お互いの太股や足が更に密着する。
ズボン越しに相手の下半身が一層強く接触して、じわりと内側から濡れた感触を覚えた。
無意識に、の手が動く。
彼のズボンのチャックをゆっくりと下ろしていた。
「本当は俺・・・DVD観てる時からとこうしたくて仕方なかったんだ」
「!!」
彼はそこで困ったように笑って、
同時にぞくりとするほど色っぽい瞳でを間近で見つめる。
この視線は厄介だ。
この目で見られると、本当にもう全部、どうでもよくなってしまうから。
彼はまたの唇に軽く吸い付き、も瞼を閉じてそれに応える。
それから片手にあったパンツは、やっとそこで床に落としておいた。
(END)