きらきら


「えええ!?先輩!?」
「きゃああ!!」
「うわあ!?ちゃん!!」


足を滑らせた瞬間にヤバイと思ったときはもう遅かった。
そのままバランスを崩して水の中に突っ込む数秒、
まるでスローモーションみたいに感じたのは気のせいだろうか。
同時に周りから後輩たちが驚きの声を上げたのが聞える。
水しぶきを上げてプールに体が沈みこんで慌てはしたものの、
は足で底を蹴ってどうにか上半身を水から出した。
それからすぐにぷはっと息を吐き出して、呼吸する。
ずぶ濡れのTシャツやハーフパンツが水分を含んだせいで体に張り付いて重いわ動き難いわ、
ギリギリ人並み程度の水泳技術のは下手したら普通に溺れてたかもしれない。
当たり所が悪かったりしたら最悪だったが、それはなし。
が水から顔を出すとすぐに渚や怜が傍に近付いてきて、心底ホッとした様子を見せた。


「大丈夫ですか!?」
「怪我はない?ちゃん!ボクが支えてあげるから、そこの梯子に掴まって」


そう言って渚がの体に腕を回してすぐ近くにある梯子まで誘導してくれる。
なんと言うか、恥ずかしいやら申し訳ないやら。
咄嗟に息を止めることが出来なくて水を吸い込んだせいではげほごほ激しく咽こんでいた。
少し離れた場所に居た天ちゃん先生も慌てた様子で駆け寄ってくる。
なんてことだ。


さん!大丈夫なの!?」
「あ、あ゛い゛・・・・・ずびばぜ・・・っ」


咽ながら口にした言葉はまともな発音も出来ないまま日本語にもなってない。
それどころか鼻や口から水が入って女子にあるまじき凄い形相になってることだろう。
は続けざまに出てくるせきと格闘しつつ、口元を抑えた。
渚が苦笑しながら背中を撫でてくれる。
いつもは可愛らしいマスコットな彼なのに、こういうときはしっかり頼りになる男の子だ。
それに比べては一体何をしているのか。
まったくもってあり得ない。


「本当にどこにもぶつけたりとかもなくて良かったです。
あ、確か先輩部室のロッカーにジャージの予備置いてましたよね?
それ用意してますから、すぐ着替えて下さい」


江ちゃんもに怪我がないってのが分かってホッとしてくれてる。
しかも優しい気遣いに涙が出そうだ。
今日は水泳部の部長と副部長である真琴と遙は、先生に呼ばれて少し遅れて来る事になっていた。
と言う訳で今ここに居る『先輩』はだけなんだけど、非常に情けなさ過ぎる。


「ごめん、江ちゃん」


ようやくせきが落ち着いて呼吸もどうにか普通のリズムに戻ったは彼女にお礼を言って頷いた。
渚は後ろからを抱きしめるような形でが梯子に上れるように支えてくれている。
彼は他の三人に比べると色も白いし筋肉のつき方が悪いと気にしてるみたいだけど、
こうして間近で見るとどう見ても男の子の体つきだ。
不謹慎にも今更ながら渚の意外に逞しい腕や胸板にどきどきしてしまった。


「あ、怜ちゃんは先に上がってちゃんが上がるの手伝って上げて」
「ええ、分かりました」


返事をした怜がすぐにプールサイドに上がり、
水の中でを支えてくれる渚と一緒にが水から抜け出すのを手伝ってくれた。
皆何ていいこなんだろう。
天ちゃん先生もわざわざ大き目のタオルを持ってきてが上がってくるのを待っててくれてる。
彼女はの体にタオルを巻きつけながら笑顔を浮かべてくれた。


さんがプールに落ちちゃった時は驚いたけど、怪我がなくて本当に良かったわ」
「天ちゃん先生、すみません。渚も怜もごめんね」
「いえ、僕は何も。でもこれからは本当に気を付けて下さいね」


はどこまで恵まれた環境に居るんだろうか。
可愛い後輩達に優しい先生。
今はここに居ない幼馴染の同級生二人もこの場に居たらきっと心配してくれてた。
いつも思ってることだけど、水泳部に入って本当に良かったと思う。
うちの放任主義な祖母でさえ、高校に入学したらなんでもいいから部活に入れとずっと口にしてた。
彼女曰く、青春を感じられる一番いい方法らしい。
皆のおかげでその考えもあながち間違いじゃないななんて実感してる。


「こーら!ちゃん。さっきからごめんごめんって謝ってばっかりじゃない。
そうじゃないでしょう?ごめんなさいはモチロン大事だけど、ボク達もっと別の言葉の方が嬉しいな」


いつの間にかプールから上がってきた渚がそう言って軽くコツンと自分の頭をの後頭部にぶつけた。
そしてニっと笑ってみせる。


「ね?」


くりくりと大きな瞳がとカチ合った。
は少しの間渚を見つめ、それから天ちゃん先生、そして怜に視線を向ける。
二人が同時に軽く頷き、の唇に無意識に笑みが浮かんだ。
ああってどこまで恵まれてるんだろう。


「・・・、ありがと」
「大当たりー!!」


言った渚が後ろからぎゅうっとを抱きしめる。
それが何だか妙にくすぐったくて、照れくさくて、は思わず声を上げて笑っていた。
すぐ傍で怜が渚君!と顔を赤くして怒っている。
天ちゃん先生もなんだか慌ててたけど、渚は少しの間離れようとする様子もなく、
もそれを特に嫌だとは思わなかった。


空は快晴。
太陽はジリジリ。
このままでも思ってるより早くTシャツもハーフパンツも乾きそうだけど、
さすがにその間はちょっと気持ち悪い。
それに部室では江ちゃんがのジャージを用意して待っていてくれてる筈だ。
は渚の手が離れるのを見計らって、部室に向かった。


ちゃん!早く着替えてゴウちゃんと一緒に戻ってきてね」
「待ってます!」
「うん」


の背中に声を掛けてくれる二人に振り向いて軽く手を上げる。
少し小走りになりかけたに、すかさず天ちゃん先生が言った。


「あ、さん、慌ててまた転んだりしないように気を付けて」
「了解です」


一度足を止めてから返事をし、は再度、江ちゃんの待つ部室に向かう。
そろそろ遙や真琴も戻ってくる頃かもしれない。
そう思うとまた、は無意識に足を速めていた。


(END)


今回はある意味王道のプールに落ちるネタですが、濡れて透けブラきゃっ☆な展開ではなく、
敢えて普通に後輩トリオと絡ませてみました(笑)。可愛い過ぎるもの、あの三人。
何気に渚をちょっと贔屓気味。ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様!
本当に本当に有難うございます〜^^失礼致します