「あ、本当に来たんだ、暁。」
「・・・おいおい、人を呼び出しておいてそれかよ、。」
深夜。
黒主学園敷地内。
本来なら夜間部は授業を受けている最中のその時間。
と暁は守護係の目を盗んで、その片隅に居た。
「いや、そうなんだけど、本当に来てくれるとは思わなかったから。」
「俺はそこまで薄情者じゃないぞ。」
「って言うか、冗談だと受け流されたかと思ってた。」
「冗談だったのか?」
「ううん、冗談だったらここに居ないし。」
なんて答えつつも、実は殆ど自己満足に近い形でここに足を運んだのもまた事実だったりする。
だってさっきも言ったとおり、本当に暁がここに来てくれるなんて思ってなかったから。
今日こうして二人で会うことになったきっかけは、
昼間部と夜間部の交代時間の混雑時に数十秒程度で交わした短い会話だった。
十牙からの紹介でこの学園に編入してきたは、
ここに来てから風紀委員の特別要員と言う形で零と優姫の手伝いをしていた。
正直、まさか自分がリアルにあの女子生徒達の突進劇を止める役に回るなんて想像もしてなかった訳だけど。
まぁ、そのおかげで零や優姫だけでなく、
ナイトクラスの彼らと接触出来る機会が増えたことは、
危うく顔がニヤけそうになる位に嬉しかったことは間違いない。
そうだ。
にとっては2次元の世界の筈の彼らと、三次元で顔を合わせることが出来るなんて夢にも思わなかったから。
そこはある意味で彼らに果敢に突進劇を繰り広げようとする女子生徒と少し心境が被らないでもない。
まぁ勿論、当然、それを表に出したりはしなかったけど。
だって風紀委員のアレは所謂お仕事なのだから、そこはどうにか割り切るべきで。
だけど、そんな中、幾度も顔を合わせているうちに、
いつの間にかは暁や一条とは結構和んだ会話が出来るようになっていた。
そうやってこの世界の皆と接していく内に、
お気に入りのキャラに出会えたと言うミーハーな気持ちはいつの間にか薄れて、
あれだけ夢だと思い込もうとしていたこの世界の彼らと現実的に向き合おうとしている自分に気付いた。
優姫も零も、夜間部の枢達も、皆、にとって『キャラ』なんかではなく、
『友達』と呼べる存在になっていたのだ。
そして、同時に気付いたことがもうひとつ。
暁のことだ。
が、彼をただの友達だとは思っていないこと。
もう2次元の存在じゃないと、今彼がここに居るのは現実だと受け入れ始めていても、
いや、だからこそ、彼が吸血鬼だと知っている以上、
友達以上の関係に踏み込みたなんて考えないようにと自分に言い聞かせていた。
今みたいに普通に話が出来るだけでも、にとっては十分嬉しいことなのだから。
だけど今日。
たまにはゆっくり二人で話してみたいよね、
程度の軽いニュアンスで思わずが暁に小さく漏らしてしまった一言。
彼が反応してくれることを少しも期待しなかったかと言えば嘘になる。
とは言え、冗談として受け流される確率の方が高いだろうとは思ってた。
――――じゃあ今夜、会うか。
・・・・・・え!?っ・・・と、はいはい!押さないで下さい!
――こないだお前が昼寝してた場所で待ってろ。
・・・!?何で・・・・!
先を続けるより早く、再度、押し寄せる女子生徒達をどうにか抑えつつ、
は視線だけで暁を追った。
またな。
と、その唇が小さく動いたような気がしたけど、正直本気かどうか疑ってた。
暁は嘘を吐くようなタイプの人じゃない。
それは分かっている。
だけど、それでもやっぱり彼が授業を抜け出してまでに会いに来るなんてどうにも信じられなくて。
「英に何か言われなかった?アイツ、のこと嫌ってるみたいだし。」
「いや、英の奴はお前を嫌っているんじゃなくて、気に入っているんだ。」
「・・・・・・・ええ!?いやいやいや、さすがにそれはないんじゃない?」
「好きな子ほど苛めたくなるってヤツだろ。」
「それはない!」
あり得ない。
英がどれだけ単純お馬鹿な部分を持っているか、それはまぁそれなりに知ってるけど、
に対してのあれはそう言った方向のものだとは思えない。
視界に入るだけで苛々するらしく、えらく絡んでくるし。
優姫や零に対しても似たような感じだと最初は思ってたけど、どうにもそれよりも扱いが厳しい。
それに、何だかんだで英は優姫達の事を嫌ってる訳じゃないのは前の世界で読んでるから知ってる。
「、お前よりは俺の方がアイツのことを知ってるんだぞ、間違いない。嫌われてる訳じゃないさ。」
「それは・・・まぁ、暁が英のことをよく分かってるのはそうだろうけど・・・。
ううーん・・・、でも、そうね・・・嫌われてないと思った方が救われるかな。」
言って、は苦笑して肩をすくめた。
暁は慰めてくれてるのかもしれないけど、とにかく前向きに考えよう。
「・・・アイツのことが気になるのか?」
「え?英?・・・気になるっての言うのもちょっと違うけど、
もう少しこう、一条や暁みたいに仲良くやれたらな、とは思うわよ。」
「そうか・・・。」
なんて、勿論それも嘘じゃないけど、実際は英の話題だと暁と自然に話が出来るから、だったりするのも事実で。
何かそれって英をダシにしてるみたいでいやらしい。
って言うか、ホントのとこ、ダシにしているようなものなんだろうな・・・これは。
「実を言うと・・・少し期待していたんだがな・・・。」
「え?何を・・・?」
「今日、お前が俺と二人で話をしたいと言ったことだ。
もしかしたら・・・告白されるんじゃないか・・・とかな・・・・・。」
「っ!!??」
不意打ちに呟くように口にされた台詞。
一瞬。
どくん。
の鼓動が大きく、ひとつ、鳴った。
い、いやいやいや、じょ・・・冗談に決まってる・・・。
真に受けるな、・・・!
「あ、あははは・・・やだ、暁!貴族階級以上の吸血鬼のキミが、
人間のなんかにそんな期待しないでしょ。心臓に悪い冗談・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだな・・・そうだったなら、俺も楽だったんだが・・・。」
「え?」
「そうでなくともお前は吸血鬼ハンターになるかもしれない人間だ。
どうしてこんな気持ちを抱いてしまうのか・・・・、それでも止められねーから厄介だぜ。」
「あかつ・・・・っ・・・!」
グイ、と、不意に暁は片腕で力強くを自分の胸へと引き寄せた。
は抵抗することもなく、その腕の中へおさまる。
「今回ばかりは・・・俺も玖蘭寮長の気持ちが分かるかもしれないな。」
「暁・・・キミ・・・・それホンキで・・・。」
「ああ、本気だ。、俺はお前が好きなんだ・・・。」
「!!」
心音が。
鼓動が。
早まる。
ドクン ドクン ドクン ドクン
を好きだと言ってくれた。
暁の言葉。
嘘、じゃない。
彼は今、を好きだとハッキリ言ってくれた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「も、暁が好き・・・。吸血鬼でも・・・キミになら、血を吸われても構わない。」
言いざま、は彼の体に自分からも両腕を回した。
言った台詞に、嘘はない。
全然怖くないなんて、そんなことは言えないけど。
それでも。
もしも暁が望むなら、は、自分を差し出せる。
本気でそう思った。
「この状況でそう言う言葉を口にするなよ・・・、理性の箍が外れる・・・。」
「・・・・暁・・・。」
の方に屈みこんできた彼が、首筋に唇を寄せる。
ほんの一瞬、咄嗟にビクリとの体が大きく震えた。
それを宥めるように、ゆっくり、彼の舌がの肌をなぞる。
「・・・・・・・・・・・・・・吸血鬼は相手の血を吸うことで想いを満たそうとする。
・・・だけど安心しろ、・・・今はお前の血を吸ったりしない・・・。その代わり、別のものを貰うぞ・・・。」
湿った生温い吐息がの頬に触れ、殆ど囁くように暁が言った。
は彼の背中に回した掌で、軽くその洋服を掴む。
そしてゆっくりと瞼を閉じた。
同時にの唇に触れる、暁の唇。
「俺が・・・怖いか・・・?」
唇を軽く触れ合せたまま、暁がに問う。
「震えてるぞ、お前・・・・。」
彼が更にそう続けた。
はそれに答えず、自分から一層唇を暁のものに押し付けると、促すみたいに唇を微かに開いた。
それに応じる形で、彼がキスを深くする。
の舌が、暁の牙に触れた。
鋭くとがった、吸血鬼の牙。
いつか、の肌に、これが突き立てられる日が来るのだろうか。
勿論怖い。
凄く、怖い。
だけどどうしてだろう、同時にとてもその日が待ち遠しくて。
―――吸血鬼は相手の血を吸うことで想いを満たそうとする。
ついさっき暁から聞いたばかりの台詞。
それでは心の中で、一人、頷いた。
の血を吸うことで、お互いの想いが今よりもっと通じ合うのなら。
今は無理でも、はキミに――――
「暁・・・・。」
は小さく彼の名前を呼ぶと、自分から暁の唇に唇を重ねた。
キミは吸血鬼で、とは違う世界の人。
そうだ、優姫が枢を遠い存在だと思っていたあの頃の気持ちがには良く分かる。
結果的に、彼女は彼と同じ世界の人になれたけれど。
だけどにはその術がない。
この恋は、まだ始まったばかりで、でも順風満帆にいかないことはもう分かってる。
それでも。
キミとの気持ちが通じた、この恋を、手放そうとは思えない。
せめて今は、この甘いキスに酔っていよう。
今後の事を考えるのは、もっと後だ。
もっと後。
今は、後回しにして。
(END)
アトガキ
暁・・・、難しかったああああ!そして何だか予想以上に長くなりました。
アレッ!?展開が思ってたのと違う・・・だしな(遠い目)
とにもかくにも、ここまでお付き合い下さった貴重な姫様に深く感謝しつつ、失礼致します。