額にひんやりとした掌の感触を覚え、はそこで薄らと瞳を開いた。
そして、視界が焦点を結ばないまま、聞き慣れた声がの鼓膜を震わせる。

「悪い、起こしちまったようだな・・・。」
「・・・暁・・・。」

未だに覚醒しきれていない状態のまま、は彼の名前を口にした。
額に触れていた大きな掌が、の前髪をかき分けるよう移動し、頬にそっと触れてから離れる。
はそれを少しだけ名残り惜しい気持ちでぼんやり見つめていた。

「熱は下がってる・・・。当然か、玖蘭寮長が力を使って下さったんだからな。」
「え?枢先輩が・・・!?――――って、・・・?ここ、どこ?」

ようやく視界と思考が正常に動きだし、は周囲に視線を走らせた。
見慣れない豪華な家具。
寝心地最高の上質のベッド。
の寝ているベッドと丁度反対側の位置に、同じ型の物が配置されている。
はこの場所を知らないけれど(・・・・・・・)知っている。(・・・・)
この世界に来る前に取り入れた知識。
原作の中に描かれていた。
ここは。

「月の寮・・・、暁と英の部屋・・・。」
「ああ、そうだ。驚いていた割にはすぐ分かったな、お前。」
「え?うん・・・雰囲気が・・・ね。暁居るし・・・・。・・・・・・・・・・、ん??」

誤魔化し気味に返事をしつつ、そこでははたと動きを止めた。
が倒れたのは確か夜間部(ナイト・クラス)の授業開始数十分前位だった筈だ。
あれからどの程度時間が経過しているのかは分からないけど、
外の様子からしてがここに寝かされた時間は多分1〜2時間位だろう。
と言う事は、現在進行形で夜間部(ナイト・クラス)は授業中だと言う事になる。
にも拘らず、暁はあたしの側に居て。
それはつまり。

「暁、授業出ずに、の側に居てくれたの?しかも、ベッドまで・・・。」
「ん?ああ、寮長には許しを得ているんだ、だからお前は気にしなくていい。」
「いや、でもここまでして貰って気にしない訳には・・・・・・あ、ねぇ、それにここまで運んでくれたのって・・・?」
「俺だ。」
「・・・・え?」
「俺がお前をここまで運んだ。・・・迷惑だったか?」
「なんっ!?迷惑な訳ないし!って言うより、の方こそごめん・・・!」

言いざま、はガバリと体を起して、暁に向かって頭を下げる。
暁は一瞬驚いたような表情でを見つめ、それからフッと瞳を細めて笑った。

「いや、さっきも言ったがお前は気にするな、
俺がこの部屋でお前を休ませたいと言ったんだ、お前が謝ることじゃない。」
「・・・暁・・・。その、有難う・・・、それからやっぱごめん、色々と。」
「そうだな、迷惑だとは思っちゃいないが、確かに心配しはした。
余り無茶をし過ぎるなよ、・・・・・・・・・益々目が離せなくなる。」

後半。
小さく付けたされた一言。
ほんの一瞬ドクンとの心臓が跳ね上がる。
深読みすれば何だかとても意味深な言葉。
しかも暁からの台詞だ。
これが一条やアイドル先輩化した英(に対してそれはあり得ないとしても)ならまだしも、
彼の口からこんな言葉が軽い表現で飛び出す訳もない。
だけどだからと言って素直に浮かれてしまえるかと言うとかなり微妙なところだ。
は暁の事を好きだけど、だからこそこう言った台詞を意識的にそう言った方向(・・・・・・・)に結び付けようとしているのかもしれない。
はどうにか平静を装いつつ、再度、彼と視線を合わせた。

「次からは皆の前で倒れるようなことにならないようにする。
・・・・・それと、今度何かお礼をさせて貰うわね。」
「いや、そこまで気にするな。」
「ううん、がさせて欲しいんだ。ここまで運んで貰ってベッドまで借りて、しかも授業サボらせちゃったんだしさ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何より、重かっただろうし。」
ぼそり。
思わず漏らした最後の部分。
かなりの本音だった。
少女漫画のヒロインじゃあるまいし、
俗に言うお姫様だっこと言うヤツをされて『軽い』と認識されるほど可愛らしい重さじゃないと思う。
平均とは言え、最近は体重計に乗ってない。
暁は筋力もありそうだけど、これはある意味『恋するヲトメ心』と言うヤツだろうか。
申し訳ないと心底思う傍ら、ダイエットしとくんだった、的な妙な思考が働いてしまう。


てか聞こえなかったよね?今の。
いや、お願いだから聞こえなかったってことに・・・!


「・・・俺は、お前を降ろしてしまうのが惜しかったな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・え?」
「重さを感じる以前に、ずっと抱いて居たいと思う位に抱き心地が良かったぜ、お前は。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な、何、何言って・・・!?」

暁からの予想外過ぎる返事に、数十秒間。
たっぷりしっかり固まって、そしてようやく声を上げる
心臓があり得ない心拍数を叩き出し、急激に顔に熱が集中する。
よくもそんな恥ずかしい台詞を真顔で言えるものだと思う。
よくもそんな恥ずかしい台詞をさらっと言えるものだと思う。
しかも何が卑怯って、セクハラもいいところな台詞なのに、暁が言うといやに様になっているところだ。


「・・・キミ、自分で言ってて恥ずかしくない・・・?その台詞・・・。」
「いや?俺は正直な気持ちを言葉にしてみただけだが?」
「それが恥ずかしいって・・・・・・・、正直?」

ピタリ。
の動作が再度、無意識に止まる。
そして暁の視線との視線が絡まり合った。



「好きな女に触れたいと思うのは、極自然な欲求だろう?」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な、え?」


ぽかん。
一瞬。
暁の言葉の意味がよく理解できず、間抜けな顔を晒してしまう


今、暁・・・・・・・・・・。


「誰、が?誰、を?」
「俺が、、お前をだ。でなけりゃ、幾ら何でもお前を自室まで運んで休ませたりしない。
悪いが俺だってそこまでお人よしって訳じゃないからな。」

言った暁の瞳は真剣で。
その言葉に嘘はないんだろうと分かる。
分かるけど。
それでもやっぱり信じられない。
こんなことが、あり得る訳がない。
暁が、を、なんて、そんな。

「信じられないのか?」

の心の中を読んだように彼が問う。

「あかつ―――――――――んゥっ・・・!」

彼の名前を最後まで口にするより早く、その唇を唐突に塞がれる。
暁は片腕だけで自分の体重を支え、空いた片手での頬を捕えていた。
咄嗟の事に、瞳を見開いたままの状態の
暁は啄ばむ様に何度かの唇にキスを重ね、が抵抗せずにゆっくり瞳を閉じると、
今度は深く口付けてきた。
歯列を割り、口腔内を丹念に動き回る暁の舌。
やわらかく、ねっとりとした自分のものではないそれは、まるで軟体動物の様だ。
キスが濃厚なものになっていくにつれ、脳内が痺れて蕩けて行きそうな感覚に陥る。
いつの間にかは無意識に自分からも角度を変えては暁のキスに応えていた。
生温い二人分の唾液が溶け合い、混じり合う。
余りの息苦しさに息を荒げ始めたその頃、達はようやくお互いから唇を離した。
そこでと視線を合わせたまま、至近距離で暁がフッと苦笑する。

「玖蘭寮長から釘を刺されていた筈なんだが・・・、結局我慢出来なかった・・・な。」
「・・・・・・・・・・・・・・え?」
「寮長は俺の気持ちを知っていた。
・・・俺の事は信頼しているが、相手は病み上がりなんだから妙な真似はするなってな。」
「そ、そんな事言われてたんだ・・・。」
「ああ、俺も勿論そのつもりだった。だが・・・お前は俺に応えてくれた・・・、それでつい夢中になっちまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・応えて、くれたんだよな?」

再度、確認するように暁がに問う。
は小さく頷いて居た。

「じゃなきゃ、本気で抵抗してる。」

至近距離で見つめられる恥ずかしさに、は思わずぼそぼそとした口調でそう答えた。

「確かに、お前ならそうしているだろうな。」

言いながら、暁の手がの髪を梳くように撫でる。

「まだ授業が終わるまでに少し時間がある。もう少し眠っておけ。」
「え?でも・・・このベッド・・・このまま借りていい訳?」
「ああ、俺も今日はもう授業に出るつもりはないしな。お前が寝付くまでずっと側にいるさ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・暁・・・。」
「それとも、添い寝が必要か?」
「おやすみなさい!!」

さっきまでの甘い空気が嘘のように、がぐるんと彼に背を向けてベッドに横になる。
背後で彼がクククっと笑いを堪えている気配がした。

「・・・・・・・・・・暁。」
「何だ?」



「――――――有難う、もキミが、大好き。」



言ってすぐに、は瞳を閉じる。
今は恥ずかしすぎて面と向かって顔を見ることもできない。
だけど授業が終わるのは数時間後。


胸の奥に疼くこの熱のせいで、その間もは眠れそうにない。


(END)



アトガキ
・・・・・・・・・・・・ぶおお、最後超微妙な終りになってしまって申し訳ございません。
そして結局執筆した分岐・暁Ver(笑)
暁の行動がいちいちクッサイ感じになって、一人で慌ててました。
何より暁は3回目の執筆ですが、未だに書き慣れない。
(でも今まで書いた中で一番難しかったのは零)
何度も言うようですが、私の好きキャラNO1は夜刈十牙です(・・・)
キャラは好きでも書けないキャラと言うのが存在しておりまして、ご容赦頂ければ幸いです。
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様に感謝の気持ちを表しつつ、失礼致します