まさか、リアルにこの場面に自分が出くわすとは。
「何、ジロジロ見てるんだよ。
僕はお腹が空いてるって言っただろ、早く料理を持って来てよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・いや、つかキミ、現在進行形で食べてるよね。」
なんて会話を交わしている間も食べる、食べる、食べる、英。
見る見る内に手元の皿から料理が消える。
だけどこうして見ていると、単にがっついていると言う感じでもない。
一見食べる姿だけを見ていると、さすがに育ちのいい坊ちゃまらしく、綺麗に物を食べる。
だけど、その速さが尋常じゃない。
目の前にするとそれがよく分かる。
けど寮(家)出してきて人様のとこでこれだけ食べることの意味が分からない・・・。
あそこを出たいと思った理由は・・・やっぱりアレなんだろうけど・・・。
「ねぇ英、キミ・・・・。」
キミが月の寮に戻りたくない理由って、緋桜閑の死因が原因なんじゃない?
迂闊に口にしそうになった言葉を、はそこで飲み込んだ。
は多分、この世界の誰よりここのことを知っている。
だけど、だからと言って悪戯に彼らの中を引っ掻き回していいことじゃない。
だからは優姫達の手助けをしつつも、一歩引くべきところは引こうと思っていた。
勿論、知っているからこそ、無理にでも手出しをして、
彼らを助けられる状況があるならそうしたいとも思っているけど。
「何だよ、、お前もお腹が空いているのか?ったく、意地汚い女だな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。ていうか元々零はや優姫にも作ってくれてたんだけどね。」
英は優姫や零に対して以上に何故かを妙に嫌っている。
最初は夜間部好きのとしては結構なショックだったんだけど、
今ではそれなりにこれにも慣れてしまった。
まぁ勿論、嫌われてるってのはやっぱり悲しいものがあるけど。
「うわあ、藍堂センパイホントに全部食べちゃったんですか・・・。」
キッチンで零と話をしていた優姫が戻って来ると、
綺麗に料理を平らげられたテーブルの上のお皿を驚いたように見て言った。
「優姫、そうなの・・・。止める暇もなくって感じで。」
は小さく溜息を吐く。
即座、英が優姫に言った。
「遅い!」
凄い勢いで料理を平らげておいて態度がデカイ。
「すぐ作ってくれるって。ひとまず血液錠剤食べてれば?って」
言いながら、彼女は英の前にあるお皿の上に血液錠剤の入ったケースを置いた。
「っ!優姫!」
はその優姫の行動に思わず咄嗟に声を掛けた。
「え?何ですか?さん。」
一瞬きょとんと彼女がに視線を向ける。
「これ、錐生のか。」
「っ!!!!!ちが、違います!!!」
が声を掛けたことの意味を英の言葉で気付いたらしく、
彼女は激しく狼狽えた表情で上ずった声で否定を口にした。
だけど、そうだ、思い出した。
ここはそう焦る場面でもなかったのだ。
何故なら――――――――
「ふ、あわてるな・・・。僕が気付いている事は錐生も知っている。
僕は天才だからこの位気付いても当然さ。」
そう、英は知ってるから。
凄く、おかしげな勘違い的な言い回しだけど、とにかく零の事は知ってるから。
そして、この先の話。
これは、きっと優姫と英の二人でした方がいいことなんじゃないだろうか。
「優姫、ちょっと手を洗いに行ってくる。お皿運んだ時にソースがついたから。」
「え・・・?あ、はい、どうぞ。」
もっと上手い口実を見つけたかったんだけど、トイレに行って来るってのも何か微妙だしな。
どうにか不自然にならないようにいつも通りの態度を装いつつ、は二人を残してその場を後にした。
「・・・手を洗うだけだって言うのに随分長くかかったな、お前。
幾ら理事長の知り合いの紹介だからって自分の家じゃないんだぞ、一人でうろつくなよな。」
「・・・・・・・・・・・・英、キミにだけは言われたくない。しかも何か寝転がってるし。」
が戻って来ると、彼は丁度椅子に寝転がって天井とにらめっこを開始している最中だった。
人様の家に上がり込んで好き勝手やってるのはどう見てもじゃなく、コイツだ。
「はもう寮に戻るわ。誰かさんのせいでご飯も食べれなかったから。」
言って、はテーブルの上にあるグラスの水
(食事の用意の時に優姫が持って来てくれたものだ)を飲み干した。
瞬間。
―――ガシャン。
キッチンの方で陶器か何かの割れる音が聞こえる。
咄嗟に視線を音のした方に向ける。
英は素早く立ち上がるとキッチンを覗き込んだ。
あ、そうだ・・・忘れてた・・・。
ヤバイ。
と思った時にはもう遅くて。
落下した皿に手を伸ばした時に出来た傷から出た優姫の血を零が舐め取るシーンを、
英はしっかり目撃してしまったらしい。
は一人、再度部屋から出て行くことにした。
んだけど。
「待てよ、 。一人で逃げるな。」
「っ!?」
ひそひそとした小さめの声。
だけどの腕を掴んだその力は予想以上に強かった。
「・・・ものすごい迷惑だ、何だあれは。」
「ちょ、ちょっと、英・・・!」
の腕を掴んだまま、が向こうの世界で読んできたそのままの台詞を口にする英。
まぁ確かに、吸血シーンってのはどこかそこはかとなく色気があって、第三者として見るには気分的に複雑だ。
しかも英自身も吸血鬼だから余計にそうなのかもしれない。
「・・・?おい、お前・・・・・・・・・・・・・」
「え?わっ・・・!」
ずんずんと歩を進めていた英が唐突にピタリと足を止める。
はそれに反応出来ずにそのまま彼の背中に鼻をぶつけた。
すると、今度はいきなり彼はの顎を掴んで強引に上向かせる。
「・・・いい匂いがすると思ったら、優姫ちゃんの血のせいだけじゃなかったのか・・・。」
「はい?な、何・・・。・・・・・・・・・・・っ!!!??」
その時。
不意に目の前に影ができ、英が至近距離まで迫ってきた。
そしてぬらりと濡れた感触と同時にの唇を赤い舌が通過する。
「な"っ!!???」
「唇・・・切れてるよ。・・・・ンー・・・凄いな。
優姫ちゃんみたいな血って本当に貴重なんだけど・・・・、キミも負けてないね・・・。」
殆どうっとりしたような表情で英がそう呟いた。
どうやらさっき水を飲んだグラスが少し欠けていたらしい。
確かに、の唇は僅かに切れていた。
や、ヤバい・・・。コイツ・・・前科持ちなのに・・・。
大声を出せば優姫や零も気付いてくれるかもしれない。
だけど。
「やめてよ、英。また枢先輩に殴られたいの・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
ほんの一瞬、彼のを見つめる視線に険悪なものが滲む。
今、アノことで家出している英に枢の名前はある意味で逆効果だ。
の腕を掴んでいる手に、また少し、力が加わった。
「お腹は一杯だけど、デザートは別腹なんだ。お前のその血・・・少し分けてくんない?」
「・・・ア、ちょ、はなぶさ・・・!」
の首筋に顔を埋め、彼がそこにねっとりと舌を這わせる。
それと同時に熱く湿った吐息が肌を撫でた。
ゾクリ。
の中で恐怖と一緒に押し寄せてくる何か。
怯えとは別の何かが、ほんの一瞬背筋を駆け抜けた。
幾らなんでもこの状況はまずい。
やはり、大声を出すべきだろうか。
でも。
「本当に嫌なら・・・、少しだけ我慢してやるよ。その間に逃げればいい・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え!?」
余りにも予想外過ぎる英からの台詞に、は少しだけ声を上げた。
英のことだから、有無を言わさず強引に噛みつくのかと思っていた。
優姫の時の事を考えてもそうだけど、相手は彼が嫌っているだ。
そんな余裕をくれるなんて思ってもみなかった。
彼は言葉通り今、を拘束する手を緩めている。
振りほどくなら今だ。
選択権が与えられている、今なら逃げられる。
今なら――――
「英・・・」
「逃げないんだな・・・。逃げないんだったら遠慮しないよ・・・。僕も、我慢してやらない・・・。」
「ァっ・・・!!」
再度、英はの体をその腕に絡め取り、今度は容赦なくの首筋に牙を突き立てた。
――――――――ブツッ
耳元。
の肌を、吸血鬼の鋭い牙が突き破る音が、いやに大きく響いた。
同時に感じた鈍痛。
そこだけ、焼けているように熱くて。
「・・・・っ、あ・・・、・・・。」
ゴク・・・リ。
英の。
喉の鳴る音が、聞こえる。
「はな、・・・ぶさ・・・、っハ・・・」
ゴクリ・・・。
の血液が、彼の一部になる、音。
ゴクッ。
「ん・・・凄い・・・な・・・、・・・お前の血・・・極上だ・・・。今まで僕が口にした中で・・・誰より・・・。」
「・・・・・・・・・・・ふ・・・ゥ・・・。」
うっとりと夢見るみたいな声で彼が囁く。
はその声が何処か遠くから聞こえてくるような感覚に陥っていた。
全身の力が一気に抜けて行きそうなのを、英の背中に回した手で縋りつくようにしてしがみついて堪える。
「・・・本当はもっと欲しいところだけど、・・・止めとくか・・・。」
言いざま、一滴の雫さえ飲み零さないようにするように、
彼はの首筋付近を濡らしている赤い雫に舌を這わせた。
「・・・・・・・・血、洗い流して・・・部屋に戻るから、英も寮に戻って・・・。
ここに居たら優姫達に・・・見つかる・・・。」
「陽の寮の部屋に戻るなら僕が連れて行ってやるよ。
何かお前の血のおかげで・・・今何でも出来ちゃいそうな位、力湧いて来てるから。」
「いい・・・。一人で戻れるわ・・・。」
ふらつきそうな足元をどうにか力を入れて堪えると、は英の腕から離れた。
当然だけど、初めてだ、血を吸われたのなんて。
知らなかった、こんなにグッタリするものなんだわ・・・。
信じられない位の疲労感。
貧血を起こしているのかもしれない。
「・・・待てよ、僕が悪かった・・・。ごめん・・・。・・・少し、調子に乗り過ぎた・・・。
限度は分かっているつもりだったのに、お前の血に抗えなくて・・・。」
「英・・・。」
「先に洗面所に行くか・・・。僕がお前を送る。」
言って、差し出された手。
彼の唇は未だにの血で濡れていて、どこか夢見心地な潤んだ瞳に少し違和感を感じた。
それでも結局、は無言で頷くと、英の手を取った。
「じゃあな、僕は窓から出て行くよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「怒ってるのか?・・・。」
陽の寮内。
どうにかひと目に付かずに部屋に戻ってこれたたち。
いつもを見る度苛々してツンケンした態度ばかり取っていた英が、
今はいやに優しげな声でを気に掛ける。
だけどそれは単に、の血を吸って満足しているだけなんじゃないだろうか。
そう思うと、とても複雑な気分だった。
彼に血を吸われたこと自体に嫌悪感を覚えたかと言うと、そんなことはない。
恐怖を感じなかったと言えば嘘になるけど、どうしてか、嫌じゃなかった。
だからこそ。
「英は、のこと嫌いなんでしょう・・・?血が美味しければ誰でもいい訳?」
「・・・・・・・・・・・・・・何だって?」
「の血・・・。自身の事を気に入っていなくても・・・。」
「・・・・・・・・お前それ、本気で言ってんの?」
言った彼の表情が突然険しくなる。
はジッと彼に瞳を向け続けた。
「違うって言うの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、もうホント・・・。 ・・・お前って、どこまでもイラつく・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「そうだよ、僕はお前を見ていると苛々する。どうして、人間の小娘のお前なんかに、この僕がこんなに・・・!」
そこで言葉を切ると、英は唐突にの唇を強引に奪った。
一瞬、何が起きたのか分からず、呆然とする。
の唇に押し当てられた英の唇は予想外に温かくて。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・帰る・・・。」
「あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
開け放たれた窓。
ふわり、彼の体が薄闇の中に消える。
はただその様子を見送ることしか出来なかった。
首筋が、未だに生々しく、痛みを持っている気がする。
どこか甘さを含んだ、痺れ。
窓から滑り込んできた夜風が、静かにカーテンを揺らした。
(END)
アトガキ
難しいいい(2度目)しかも最初の方あんまり意味なかったような(苦笑)
実は零も登場させたかったんですけど、結局出せませんでした。
ツッコミどころ満載なのは私が一番分かっているのでスルーでお願いします。
ではでは、このお話をここまで読んで下さった貴重な姫様に深く感謝しつつ、失礼致します!