「だからさー、後もうちょい提出期限延ばしてくれって言ってんだろ?」
「後もうちょっとっていつまで?5年?10年?
あんたこないだも同じこと言ってうちの班の提出遅らせたよね?」
「さぁね、その話がいつのことだったかオレは覚えちゃいねぇけど。」
「あははははっ!ホントにあったま悪いんだから!
もうこの際それは置いといて、
とにかく今日と言う今日は英語の宿題出すまでは教室から出さないから!」

言いざま、は赤也の机に置いてある鞄をドスリと拳で殴りつけた。
帰り支度を進めていた周囲のクラスメイトには日常茶飯事の光景。
クスクスと笑いを零す者が幾人かは居るが、
殆どの生徒は全く彼らを気にしている様子はなかった。
今回は提出期限を目前に控えた英語の課題について揉めている二人だが、
基本的にこの二人が顔を合わせて喧嘩にならなかった試しがない。
と切原 赤也。
つまるところ、彼らは犬猿の仲と言うヤツなのだ。

「はぁ!?ふざけんな!オレはどっかの誰かみてぇに暇人じゃねぇーんだよ、
テニスの部活があるっつーの!」
「真田先輩と幸村先輩には了解は得てます。」
「な゛っ!!??!!まさか部長と副部長にこのことチクったのかよ!?」
「頭だけじゃなく口も悪いのね。こうでもしないと切原、延々提出期限守らないじゃない。
言っておくけど、自業自得よ。恨むなら自分自身を恨みなさい。」

はそう言ってどこか勝ち誇った様な表情を浮かべると、
赤也の机の右隣の、机をひとつ挟んだ場所にある自分の席へと足を運ぶ。

「・・・チッ・・・、アンタってさ、マジでヤな女だよな・・・。」

小さく舌打ちをひとつ。
その後、彼は眉間を顰めて毒づいた。

「何とでも。だけどこのまま部活に行ってあんたがどうなるかなんて分かってるでしょ?」
「ぐっ・・・・、・・・・確かに・・・このことを知られちまってる以上・・・、
このまま部活に行っても部長にも副部長にも絶対ェ許して貰える訳がねぇ・・・。」
「だったらさっさと済ませてよ。も暇じゃないんだから。」
、アンタマジで可愛くねぇよな。」

更に毒を吐きながら、それでも赤也は不承不承に鞄の奥から筆記用具と英語のノートを引っ張り出す。
は小さくフンと鼻を鳴らし、冷ややかな視線を彼に向けた。

「今更切原に何と言われようが痛くも痒くもないわ。
後、真田先輩からの伝言。罰則は既に決定事項だけど、
部活開始15分毎に罰則が重くなるってことらしいわ。」
「うげっ!?マジかよ・・・・!!つーかもう既に10分経っちまってるし・・・!」
「文句言ってる時間があるなら手を動かせってことね。」

赤也は先程よりも更に忌々しげに大きく舌打ちをしてをジロリとひと睨みした後、
すぐに慌てた様子で英語の参考書を開いて課題に取り掛かる。
彼女の言葉に従うのは大いに不本意だが、彼に拒否権など存在する筈もなかった。


ああークソっ!!一問目からマジ分かんねぇ!!全然分かんねぇ!!
つーかここは日本だぞ!英語とか出来なくても問題ねぇじゃん!つーか意味ねぇじゃん!!


赤也は心の中で悲痛な叫び声を上げるも、目の前の課題は一向に進まず、無情にも時間だけが過ぎていく。
チクタク、チクタク。
いつもは全く音など聞こえる事のない筈の教室内の丸い掛け時計の秒針音がやけに大きく、
且つ、厭味ったらしく耳元で響いているように彼は感じていた。
チラチラと落ち着きなく視界に入れる携帯のデジタル時計の数字は目にする度、確実に大きくなっている。
だがそれに反して彼の手元の問いは全くと言っていいほど埋まっていない。

「ブフッ・・・!!・・・・・・・・嘘だろ!?もう20分も経ってやがる・・・!!」
「時計ばっか気にし過ぎなんじゃないの?」
「っ!!」

気が付けばいつの間にか自分の席に座っていた筈のが赤也の席のすぐ側に立って彼を見下ろしている。
腕組みをして如何にも呆れた表情を赤也に向ける彼女の姿に、彼はやはり癪に障る女だと思った。

「うるせぇよ。誰のせいだと「自分のせいでしょ。それより問3、そこ過去形だからね。」

大きなお世話だ、開きかけた口を、結局赤也は閉じた。
体を傾けたの長い髪がサラリと彼女の肩から落ち、彼の頬を掠める。
それと同時に甘やかな果実を思わせるシャンプーの甘い香りが赤也の鼻孔をくすぐった。

「・・・っ!?」

たったそれだけのことに、彼は妙に動揺する。
それは動揺と言うよりは、驚きに近かった。
いつも口やかましく、顔を合わせれば口論をしなかった試しのない彼女と赤也。
赤也にとっては言わば天敵であり、当然彼女を女として見た事など一度もない。
だが、この一瞬。
彼女から放たれた甘い香りに、今更ながら、も女だったのだと気付かされた様な気がした。

「問5と問6、後問10はこのプリント見れば分かるわ。・・・て言うか聞いてる?」
「――――あ?何がだよ?」
「・・・・・・・・・・・・後35分で1時間経つけど、いいわけ?」
「どっわああああ!!ヤベェ!!!1時間遅刻とかマジあり得ねぇ!!殺される!!」
「こっちのページはこのプリント見れば分かるから、頑張れば10分以内には2ページはイケるはずよ。
3ページ目は教科書の51ページ見て。ほら早く!」

口調は厳しいものの、どうやら彼女は赤也の課題を片付けることに協力してくれるつもりの様だ。
一体どんな風の吹き回しだと訝りつつも、現在の状況から見て、彼が文句を口に出来る立場ではない。
時折彼の頬を優しく撫でるの長い髪に心をかき乱されながら、
だがどうにか赤也は英語の課題を部活の遅刻を1時間以内に収める形でやり遂げることが出来たのだった。
そしてそれは、彼女の協力あってこその結果だった。

「ゼーハーゼーハー・・・、よし・・・・、やっと終ったぜ・・・。」

殆ど顔面蒼白になりつつも、彼は机の上に広げられた教科書と筆記用具を急いでかき集め、
そのまま机の中へと突っ込んだ。
当然だが、それらを持ち帰って自宅で予習復習を行おうなどと言うつもりは赤也には毛頭ないのだ。

「・・・これはが帰るついでに先生に渡してく。あんたは早く部活に行けば?」
「・・・・・・・・・・っえ!?」
「後10分で1時間。」
「!!!!!!!、後は頼んだぜ!!」

赤也は恐ろしい勢いで鞄を掴んで立ち上がると、その勢いを保ったまま、教室の出入り口に向かった。
そして教室のドアを出て全速力で部室へと向かう、その一瞬前。
チラリ。
教室内のに視線を向ける。


「今回だけはマジ感謝するぜ!!サンキュ!」


怒鳴り声にも等しい大声でそう告げ、赤也はまた恐ろしい勢いでその場から走り去って行った。


だが彼は知らない。
教室に一人残されたが、たった今主不在となった彼の机の前に突っ立ったまま、動けなくなっていることを。
そしてその頬が、赤く染まっていることを。

そう、彼は知る由もなかった。


(END)



後書き
これは赤也なのか?赤也なのか!?と自問しつつもどうにか書き終えました。
こう言うの好きなんです。犬猿の中で生まれる恋心ってヤツがね。
しかし・・・想像以上に仲が悪くなってしまって・・・。(それ以前にお題に沿ってな・・・以下略)
しかも実は赤也の態度もっと冷たかったんですが、あんまりだと思って修正しました。
ええ、あれでもね。あれでも!・・・あははは(乾いた笑い)
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様!誠に感謝感謝!!!なのです!
有難うございます。失礼致します。


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