ようやく綺麗に片付いた部屋の中を見回した後、は一人、にやりと口元に笑みを浮かべた。
段ボールだらけだった時にはイマイチ実感が湧かなかったけど、ここがこれからが一人暮らしをするお城。
駅からは少し遠いけど、近くにコンビニは有るしスーパーだってある。
セキュリティがしっかりしてるって程近代的じゃないにしろ、近くに派出所がある上、管理人さんもいい人そうだ。
ご近所さん、と言うかお隣の住人さんの方は、
右隣は海外出張中らしいし、左隣は最近引っ越してしまって現在は誰も住んでないってことだけど、
ま、その辺は問題なし。
とにもかくにも、ここでの一人暮らし第一歩が始まる。
気分がいい。
とは言っても、さすがにちょっと疲れたな・・・。
お茶でも飲んで一息入れるか。
なんて思っていたら、視界の片隅。
玄関付近に段ボールがひと箱。
「・・・・・げ、忘れてた。」
まぁ、有る意味座りこんで脱力する前に気付いて良かったかもしれない。
は玄関付近まで行ってその少し小さめの段ボールを抱えあげると、それをクローゼットの傍まで運んだ。
この段ボールの中身は漫画。
マジックの太字で『テニプリ全42巻・他』と書いてある。
段ボールの大きさ自体はそうないものの、何気に重い。
クローゼットの横にある長方形の収納スペース。
本棚代わりに使えそうだ。
と言うか、既に使うつもりだった。
はガコガコと手早くそこに漫画を突っ込んでいく。
最初はやっぱ『テニプリ全42巻』当然1巻から順番に。
そしてテニプリ最終巻を直し終え、今度は他の漫画を直してしまおうと手を伸ばしたその時。
――――・・・〜〜♪
テーブルの上に置いてあるケータイが鳴り始めた。
は慌てて立ち上がると、そのままケータイを取りに行く。
ディスプレイには友達の名前が表示されていた。
「あ、もしもし?・・・・うん、・・・うん。・・・え?ああ、もう後漫画片付けたら終わり。」
が一人暮らしを始める事を知っていた友達からの電話。
結局それから取り留めのない話で盛り上がり、約40分位はは彼女と喋り続けていた。
それからその後、は段ボールの中の漫画本をさっさと全部直し終えてしまおうと、
クローゼットの前まで足を運んだ。
・・・・ん?ここ閉めたっけ?
漫画を突っ込んでいたクローゼット横の収納スペース。
そこは開き戸になってるんだけど、確かは開けっぱなしでケータイ取りに行った様な気がする。
とは言え、事実、閉まっている訳で。
ってことはつまり、無意識に自分で閉めて行ったってことだろう。
何せ、窓は閉まってるし、風のせいで閉まった可能性はない。
まぁいいや、と、再度、は開き戸に手を掛けた。
「・・・・・・??・・・・っ、・・・!?かたっ!!」
ついさっきは特に問題もなく普通に簡単に開いた筈の開き戸。
なのに今回は、どんなに引いてもガタガタと小さく音を立てるだけで中々開かない。
何度か勢いを付けて引っ張ってみるけどやっぱ駄目。
一体何だ、何なんだ。
なんて思いつつ、殆どムキになって足を踏ん張り、両手の力を強めて渾身の力を込めて開き戸を引っ張った。
瞬間。
「っ!!!???っわああっ!!」
何だか妙に空振りに近い軽さで、今までの頑なさが嘘みたいに戸が開いた。
もしかしたら何か引っかかってたのかもしれない。
やれやれ。
思ったのもつかの間。
「・・・・・って言うか、テニプリどこ!!??」
全42巻。
つまり42冊。
約40分前に確かにここに突っ込んだ筈の漫画が、綺麗サッパリ、消えていた。
えええええ???
えええええええ???いやいやいや、何、これ。
いやいやいやいや、ええええええ???
当たり前だけどこの部屋に誰かが侵入したなんてことはまずあり得ない。
ここはアパートの3階だし玄関にも窓にも鍵がかかってて、とかそう言うことじゃなく、
単純にケータイで話してる間もはこの部屋に居たからだ。
クローゼットの前に立って話してた訳じゃないにしろ、幾らなんでも誰かが部屋に入ってくればすぐに分かる。
じゃあ漫画はどうしてないんだって話だけど。
「・・・・・?」
そこで不意に、おかしなことに気付いた。
人一人くらいは入ってしまうことが出来るこの収納スペース。
(縦幅・横幅見る限り、細身の人なら二人はいけるかもしれない)
だけど、ここまで奥行きがあっただろうか。
しかも何でか妙に中が暗い。
奥が見えない程暗いなんて幾らなんでもおかしすぎる。
さっき漫画を突っ込んだ時はこんなんじゃなかった。
絶対なかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
不審に思いつつ、恐る恐る、中に頭を入れて覗き込んで見る。
やっぱり暗い。
と言うか、暗過ぎる。
それに、やっぱり妙に広く感じる。
まるで電気の点いてない広い部屋の中に頭だけ突っ込んだみたいだ。
その上――――――――――――――――――
「・・・・・・っっ!!!???」
気のせい、だろうか。
いや。
気のせい、であって欲しい。
何故なら、が頭を突っ込んだクローゼットの奥。
人の、話声が、聞こえてきた、から。
スゥーっと、の体から血の気が引いていく。
これはもしや。
これはまさか。
あれか。
アレなのだろうか。
アレ。
つまり、幽霊。
だけど別にここの物件は特別安かった訳じゃないし。
引っ越してきたのは一昨日だけど、特に変わったこともなかったし、それにそれに。
いやでも待て。
現に起きているじゃないか。
現に明らかに誰も居ない場所から複数の人間の話声が聞こえてきてるじゃないか。
こっちはクローゼットの向こうは当然普通に壁で。
しかもこの部屋の壁はそこまで薄くもなくて。
それ以前に両隣りは不在な訳で。
なのに。
なのに。
なのに。
――――なぁ、ここってロッカーの数、こんなあったか?
はぁ!?丸井先輩今更何言ってんスか?
ここのロッカーの数なんて変わる訳ないじゃないッスか。ねぇ、ジャッカル先輩。
そうだな、俺達レギュラーの人数と同じだからな。
さっきよりも会話がハッキリ聞こえ、咄嗟にビクリと大きく体を震わせた。
だけど不思議とさっきまで感じていた恐怖心は薄れていた。
って言うか、何か会話の内容が思ってた様なものと違う。
幽霊って言ったらもっとこう、恨みつらみとか、悲鳴とか叫び声とか、
そう言うものが聞こえてくるんだと想像してた。
でもこの会話はそう言った暗いものとは全く違う類っぽいし、
それに気のせいか何だか妙に聞き慣れた声の様にも思えた。
――――・・・妙じゃな、確かにロッカーの数が増えとるぜよ。
ええ、そうですね・・・。ですが真田君や幸村君からは特に何も聞いていませんが。
恐怖心が薄れていくと同時に、今度はおかしな好奇心が湧いてくる。
何より、この声。
明らかに複数だけど、が聞き慣れてるってのが不思議過ぎる。
それに。
――――鍵はかかってんスか?
さぁな、分かんね。じゃあ開けるぞ。ジャッカルが。
おい、俺かよ!それに、真田に確認取る前に勝手に触っちまっていいのか?
やっぱり。
やっぱりだ。
さっきから妙に親しみある声ばっかだってのも思ってたけど、名前。
壁の向こう(?)から聞こえる彼らが口にしてる名前。
丸井、ジャッカル、真田、幸村。
全部、が知ってるある物に共通してる。
でもそれは余りに余りな結論で。
けど実はテレビ付けっぱなしでその音がここまで聞こえてて、なんて勿論そんな間抜けな展開じゃない。
――――単に鍵がかかってるのかどうかの確認じゃ。ロッカー荒らしをする訳じゃない。
もしも鍵がかかっとらんで、中に何か入っておった場合はそのまま閉めてしまえば済むことじゃ。
ま、取りあえず話は開けてみてからってことぜよ。どきんしゃい、俺が開ける。
仁王君・・・そんなことを言って君は単に面白がっているだけでしょう。
仁王まで!!??
もしかして、まさかとは思うけど、隣のクローゼットの中にラジオでも落としてしまってるんじゃないだろうか。
昨日と一昨日は友達や家族が色々手伝ってくれたから、間違って直しこんだとか。
正直そんなことある訳ないとは思うけど、じゃないと説明がつかない。
この際クローゼットの方を確認しようと動きかけた、その時。
真っ暗だった空間に、スゥっと白い光の縦線が入った。
「鍵は掛かってなかったようじゃな。中は―――――」
「っ!!!????」
驚いてその場所を凝視する。
光は徐々に幅を大きくしていく。
そしてその光が殆ど完全な長方形に変わった時。
その光の中に、人影がひとつ、見えた。
――――――――――人影。
唐突に射しこんだ光が眩しくて、相手がどんな人なのか、には最初は余りよく分からなかった。
数秒後。
唖然としつつも目が慣れ始め、そしてが見つめる先。
1メートルも離れて居なさそうなその距離。
そこに立ってこっちを覗き込んでいる長身の男の人。
それは決して現実で顔を合わすなんてことはあり得る訳のない人物だった。
(プロローグ2へ続く)
後書き
異世界トリップも逆トリップも両方一気にやっちまおう的な考えで開始したシリーズ。
毎度のことながらプロローグながっ(笑←誤魔化す)
本当にビックリするほど恐ろしい数のテニドリサイトさんの中から、
拙宅にお越し下さり、この夢を読んで下さった姫様に深く感謝です。
ではでは、今回はこれにて失礼いたします。