数メートルの暗い空間を挟んで、()は殆ど凍り付いた様な状態のまま、
向かい合って茫然とお互いを見つめて突っ立っていた。
十数秒ほど。
思考も行動もの全てが停止する。
クローゼットの一部が開いてみればどことも知れない別の場所に繋がっていた。
なんて。
そんな馬鹿な。
漫画や小説なんかじゃあるまいし。


いや待て。
待て。
待て、


目の前。
の視線の先で彼らしからぬ(・・・・・・)様子でこっちを凝視する銀髪・長身の人物。
凄く、物凄く幼稚な言い方になるけど、この際もう気にしない。
気にしてる余裕ない。
彼が、ついさっき忽然と消えてしまった漫画(全42巻)「テニスの王子様」の登場人物の一人、
仁王雅治にそっくりだと言うこと。
って言うか、正直『そっくり』と言うレベルじゃない。
もしも万が一彼がコスプレの人ならば相当な完成度だし、人気のミュージカルの俳優さんならパーフェクトだ。
ここまで再現出来るなんてこの人はそれこそ仁王を演じる為にだけ存在してるんじゃないかと思う位。
だけど勿論そんな訳はないことは分かってる。
大体、クローゼットがこんな状態(・・・・・)な時点で、どう現実味を帯びた説明を加えようとしても全く無意味だと思う。
そうだ、何かの撮影中だったとか何かのイベント中だったとか、理由付けしたところでこの状況(・・・・)は、説明出来ない。
だったら目の前の彼は本物(・・)なのかどうなのかって話だけど。
そんなのある訳がない。
あっていい訳がない。


ないないないないない。
断じてない。


固まったままの状態で、頭の中。
ぐるぐる、ぐちゃぐちゃとパニっくに襲われる


「仁王君、どうしました?ロッカーの中にそんなに驚く様な物が入っていたのですか?」


と向き合っていた彼の隣り。
もう一人、人間が増えた。
しかも。

「・・・・・・これは・・・・・・・・・・!?」

「っっ!!!!!!!!???????」


今回姿を見せた彼も、彼までも。


ないないない。
ないないないないないない!!!!!!


心の中。
今、現在進行形で起きている事実から必死に目を逸らそうと、は殆ど呪文の様に否定しまくる。
確かに『テニプリ』は大好きだ。
だからこそ漫画を全巻買い続けていたし、何度も読み直しもした。
そりゃ本当に彼らが現実に存在してればいいのに、と全く思わなかったかと言えば嘘になる。
だけどない。
これはない。
そこまでない。
絶対ない。
そんな、漫画と現実を一体化させて夢見るほど、はそんなにイッてない。
―――――――――――――――――筈だ。


「おいおい、今度は柳生までロッカー見て固まっちまってるぜ。」
「・・・・・・・・・・・・もしかして、何かヤバい物でも入ってたのか?」
「仁王先輩と柳生先輩がビビって固まる様なモンっすか?死体とか・・・!」

ひょい。
ひょい。
ひょい。

立て続けに3人、またしても増えた。
そう、またしても増えやがった。


「!!!!!!!!!!!!!!!!!?????????????」


余りに余りな展開に、の脳は高速で回転し、目の前が眩暈でぐらぐらと揺れた。
衝撃。
と言う表現ではもう生易し過ぎる。
言うまでもなく、またしても『テニプリ』の登場人物殆どそのままみたいな野郎どもが三人。
こっちを覗いて驚きの表情を浮かべて瞳を見開いている。


―――パチンッ


丸井ブン太似の彼が、漫画の中とまるで同じに噛んでいたガムを膨らませ、
と目が合った途端にそれがやけに大きな音をたてて弾けた。
それが合図だったみたいに、その場に居た全員がハッと我に返る。

「お前さん、何者じゃ?このロッカーと関係あるのか?」
「・・・・・・・・・・え?・・・・・・そ、それはこっちが聞きたいんですけど・・・・。・・・ロッカー?」

仁王そっくりの彼の質問に、は頭で考えるより先にぼんやりとした口調で返事をしていた。

「俺達の部室に昨日まではなかった筈のロッカーが運び込まれて来ておっての。
それを開けて中を確認しようとしたらこの状況じゃ。お前さん、何か知らんのか?」
「・・・・・・・・・・知らない・・・・、って言うか、こっちのロッカーじゃないですし。」
「・・・ロッカーじゃない?んじゃ・・・そっちは何だ?」

弾けたガムをもう一度もぐもぐと噛みながらブン太っぽい男の子がそう言った。

「クローゼットの一部・・・。・・・・・一昨日から一人暮らし始めたから・・・・、荷物整理しようと思って・・・。」
「はぁ!?一人暮らしってことは、アンタそこに住んでんのかよ!?」

赤也に似たコがそう言うと、ジャッカルっぽい彼と柳生っぽい彼が考え深げな表情で口を開く。

「・・・・・・・・・ロッカーの後ろは壁だし、部室の外も特に変わった様子はなかったよな?」
「・・・・この状況を物理的に解明するのは無理の様ですね・・・。」

どうにか少しずつさっきよりはマシな思考を取り戻しながら、
は確認の意味も込めて自分からも質問をすることにした。
そうだ、この際ハッキリ本人達の口から聞けばいい。
そうすればこの不思議空間の事はともかく、彼らが漫画の登場人物に恐ろしく似てるだけ(・・・・・)ってことが分かる筈。
そうだ、あくまで彼らはそっくりさんであって本物じゃないってことが。

「・・・・と、・・・とと、ところで、そこ・・・・どこですか?あなた達、名前は?
あ、 。高校3年生です・・・・。」

変に緊張し過ぎてどもり、声が掠れる。
それでもはどうにか自分の居る住所を口にしていた。


「・・・・!?驚きました・・・・、貴女が住んでいらっしゃる場所は、明らかにこの周辺にある住所ではありませんね・・・。
・・・・申し遅れました、私は柳生比呂士と言います。貴女と同じく高校3年生です。
それからここは神奈川県・ 私立立海大学附属高等学校です。」



「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」


くわわわわわん。
くわわわん。
くわわわわわん。


やわらかく穏やかな笑顔の眼鏡の紳士。
彼の台詞を聞いた直後。
余りに余りな内容に、耳鳴りと眩暈とが一気にどっとに襲いかかってくる。



    私は柳生比呂士と言います

 それからここは神奈川県・ 私立立海大学附属高等学校です



やぎゅうひろし。
ヤギュウヒロシ。
柳生比呂士。
しりつりっかいだいふぞく。
シリツリッカイダイフゾク。
私立立海大学付属。


何処か、何か、逃げ道はないのか。
今彼が言った台詞の中に、テニプリと全然全く共通しない部分とか。
実は今のはの聞き違いとか。
幻聴とか。
何か。
何か。
何でもいいから。


「仁王雅治じゃ。宜しくな・・・と言うのもおかしな状況じゃが、これも何かも縁じゃろう。」
「俺は丸井ブン太。シクヨロ。」
「ジャッカル桑原だ。」
「切原赤也ッス!」



再度、パニックを起こして脳内ぐるぐるのを余所に、彼らはぐさぐさと容赦なくに止めを刺して行く。
いや、彼らはそんなつもりこれっぽちもないだろう。
単にに頼まれて自己紹介してるだけだ。
そう、が頼んだ。
それは、逃げ道を見出す為。
これが現実なら、そんな訳ねぇだろ的な、確認をする為だったのに。
なのに。
なのに。
最終的に、逃げ道と言う逃げ道、小さな穴と言う穴、全部、塞がれたような、状況。
神奈川県は当然の居る現実にだって存在する。
だけど当たり前だけど、立海大付属なんて高校は存在しない。
立海大付属は有る意味では国内でも海外でも凄く有名だけど(相当偏った意味で)
決して実在してる訳じゃないのだ。

「で?これからどうすんだ?コレ。」

ブン太(本人がそう言うんだったら“そっくり”とか言えない)は再度、ガムを膨らませつつ、
を視線で指し示した。

「そうですね・・・・、そろそろ真田君達が戻ってくる頃だと思うのですが・・・・。」

柳生がそう言ったその時。
他の4人の視線が一斉にから逸れた。
どうやら部室のドアから誰かが入って来たらしい。



だけどまぁ、このタイミングで部室に入って来られる人間なんて決まってる。


「お前達、まだ部室に残って居るのか!さっさとコートに出ろ!
よりによってお前達レギュラー陣が時間を守らんとは・・・・たるんどる!!!!!」


デターーーたるんどるううう!!!
と。
本来なら名ゼリフを聞けたことにテニプリファンならそれなりに感動する場面の筈。
だけど勿論、今のにそんな余裕なんて有る訳もなく。

嗚呼。
何てお約束な登場なんだ。
なんて思いつつ、クローゼットの前に茫然と立ち尽くしたまま、
は無意識に遠い目になってしまっていた。



(プロローグ3へ続く)



後書き
だからプロローグが長すぎるんだYO!!と自分自身にツッコミ。
毎度のことながらプロローグはやけに長くなります。
立海オールを狙った私が無謀でした。
つーかマジ、プロローグ終ろうYOOOOOO(切実)
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様!誠に有難うございます。
懲りずにこの長いプロローグに最後までお付き合い頂ければ幸いです。