――From ブン太
Sub 腹減り過ぎて死ぬ
これから俺だけでお前んち行ってもいい?
何度かメールをやり取りした後のブン太からのその返信に、
は驚きの余り危うくミルクティを口から吹き出しそうになってしまった。
恋愛感染メール
今日最初のブン太からのメールが来たのは、
が部屋で横になってペットボトルのミルクティ片手に雑誌を眺めている最中だった。
――From ブン太
Sub 部活終った
今何してるんだ?部屋に居んの?
クローゼットとロッカーから行き来しながらたまに差し入れを持ってったりしてたこともあって、
何だかんだで皆と結構交流を深めてる間に、
いつの間にかブン太とは毎日メールをやり取りするのも普通な仲になってた。
因みに、メールの届く範囲は部室との部屋の範囲に限る。
それ以外は圏外と言うか、当然のように達の間でケータイは通じない。
は不思議がる皆へのいい訳として、
(テニプリは数年前からの連載だったからケータイの機種もある程度前の物の筈だと踏んで)
うちは田舎だから電波が入り難いんだと言っておいた。
当然、今のケータイは性能がいいものばかりでそんなことは滅多にない筈なんだけど。
それにしても自分のケータイに『テニプリ』の登場人物からリアルにメールがあるなんて、
未だに本当に凄く不思議でおかしな話だと思う。
とてもじゃないけど友達にケータイを見せたりは出来ない。
現実的に考えればキャラメ的な物でも送信して貰ってんだと思われるだけかもしれないけど、
それにしては頻繁過ぎるし内容が余りにも自然過ぎた。
だけど勿論ブン太からのメールが迷惑な訳なんかあるはずもなく、
こうして『キャラ』としてじゃなく、
実際に友達として見る事の出来る位置に彼が居る事がは本当に嬉しかった。
――From
Sub お疲れ〜!
うん、部屋に居る。寝転がって雑誌読んでた。
――From ブン太
Sub RE:お疲れ〜!
お前、俺達が部活の練習してる間にそれかよ。
こっちは腹が減って動けないっつの。
カコカコと片手でまた返信メールを打つ。
そう言えばお昼に少し多めに作ったおにぎりがある。
あれを皆に差し入れしてもいいかもしれない。
この距離だし、別にお弁当に詰めなくても皿に盛って渡せばいいし。
冷蔵庫にはアクエリがあったし、あれも渡そうか。
――From
Sub あはは!
本当にお疲れ様!今から速攻で差し入れ持ってこうか?
おにぎりとアクエリ。
って言っても、皆に少しずつしかなくて悪いんだけどさ。
――From ブン太
Sub RE:あはは!
でもそれだと俺の取り分減っちまうよな。
ブン太の返信は毎度毎度本当に早い。
文字数が多かろうが少なかろうが関係なく、あっという間に返信が来る。
そのことにも最近慣れてきたけど、メール内容がブン太らしくて笑える。
なんて思っていたら、続けて入って来たのが、例のメールだった。
――From ブン太
Sub 腹減り過ぎて死ぬ
これから俺だけでお前んち行ってもいい?
「っぅぶ・・・!!??」
メール内容を確認したと同時に、は口の中に含んだミルクティを吹きだしそうになって、
間抜けな声を漏らしつつ、寸での所でそれを抑え込んだ。
代わりにミルクティは気管に入ってしまい、ゴボゲボと激しくむせる。
ひとしきりむせまくった後、はもう一度メールを確認した。
―――これから俺だけでお前んち行ってもいい?
だけど何度確認しても同じだ。
ルールとしてはから部室に向かうことは許されてても、
向こうからこっちに来ることは許されてない。
でもそれはが受け入れさえすれば解決することで、
実際一度だけとはいえ、立海メンバー全員がこの部屋に来たこともあるのだ。
ブン太とは他の皆より仲がいいってのも自惚れじゃないと思う。
当然それは、『友達』って意味で、だけど。
そうだ、別に変に意識することなんかない。
ブン太だってお腹すき過ぎて餓死寸前だからこんなことを口走ってるだけで、特別な意味なんかないに違いなくて。
これが普通の男の子ならそりゃだって恋愛な方面に自惚れるだろうし、
それに警戒もすべきだろう。
でも相手はあの立海大付属の丸井ブン太だ。
現実では勿論、二次元(原作)でだって女の子から相当な人気がある。
言ってしまえばより取り見取りなブン太が、
を意識してくれてるなんて考えるほど、は自意識過剰じゃないつもりだ。
とは言え、向こうが何とも思ってなくても、の方がテンパってしまう。
今まで一度だって二人っきりになったことなんかない。
メールでのやり取りはしてたけど、それはあくまでメールでだし、
部室での会話は当然のように周りに誰かしら居た訳だし。
それがいきなりの部屋に、なんて。
最近彼らを、特にブン太を、『キャラ』として見られなくなってしまったとしては、相当焦ってしまう。
ぐるぐると考えを巡らせた結果、はブン太にOKのメールを返信してしまっていた。
結局、何だかんだでもヲトメ的な部分が働いてしまってる訳だ。
――From ブン太
Sub 無題
お前、返信遅過ぎ。早くしないと真田達が戻ってくるじゃん。
すぐ行くからちょっと待ってろ。
クローゼット、開けといてくれよ。
さ、真田達、今部室に居ないんだ・・・。
内心ホッとしつつ、慌てて立ち上がると、急いで傍にあった鏡を覗き込み、
手早く乱れた髪を整えて、クローゼットの前に立つ。
クローゼットの収納スペースを開きつつ、
その手が妙に緊張してぎこちない動きをするのが自分で分かった。
ほんの少しの間を開けて、暗い空間の奥にスゥっと光の切れ目が入る。
そしてそれはすぐに大きくなり、光の中にブン太の姿が見えた。
「よぉ。」
「・・・よぉ・・・、って言うか、ホントに来るの?」
「はぁ!?今更何言ってんだよ。行くに決まってんだろ。
それともお前、俺を餓死させたいのか?」
「いや、それはないけど・・・・。」
ブン太の他に誰かいるのか、彼はそばに居る誰かに二言三言何か告げた後、
ロッカーの中に入り込んで向こう側の戸を閉めた。
そしてするりと素早い動きでの部屋へと滑り込むようにクローゼットから出てくる。
これでお手軽簡単逆トリップ終了と言う訳だ。
(ブン太は全然そのことに気付いてないけど)
「あー!マジで腹減ったぜ!なぁなぁ、おにぎりの他に何かあるか?」
「うん、まぁ一応。その前に手を洗って来なよ。は準備するからさ。」
「分かった!」
何だか母と子の会話みたいになってる。
ブン太は文字通り子供みたいにはしゃいだ様子で洗面所へ向かって行った。
マジでが相当緊張してたのが馬鹿らしくなってくる。
あっちは本当に全くこれっぽっちも意識してないみたいだ。
(後篇へ)
後書き
本当は一本のつもりだったんですけども、余りにも長くなりそうだったのでぶった切りました。
ここまでのお付き合い、誠に有難うございます!
後編もお付き合い頂ければ幸いです。ではでは、失礼致します!