一難去ってまた一難。
と、言えど、幾らなんでももうあんな恐ろしい目には遭わないだろう。
いや、遭いたくない。
お願い、ごめんなさい、が悪かったです、もう遭わせないで下さい。
そう願ったのが逆にいけなかったのか。
跳ね上がった心で気付いた
真田達と別れた後。
何だかんだでこそこそと学校案内をしてもらっていた。
確かに相当な恐怖体験もしたけど、それでもやっぱり正真正銘本物の立海の校舎に足を踏み入れたと言う事実が嬉しくて、
少なからず浮かれた気持ちが湧いてきていた。
その上校舎に入ってからこっち、仁王とは手を繋いだままで、
それが照れくさいと同時に何だか校内デートをしてるような都合のいい錯覚まで覚えてて、
浮かれ気分に更に拍車を掛けてたんだと思う。
この時の気分はかなり上向きになってきていた。
その、矢先だった。
「・・・・・・・・・っ!?」
「ぶっ!」
の少し前を歩いていた仁王が突然足を止め、その為には彼の背中で思いっきり鼻をぶつけた。
立ち止まった彼はまたまたまたしても前方に視線を向けている。
だけど、今度は今までと少し様子が違った。
あの何処か面白がってるみたいな笑みが浮かんでない。
「・・・・・・・・・ラスボス登場ぜよ。」
「・・・・・・・・・・・・・え?ラスボス?・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・まさか・・・・・・・今度は幸村?」
「・・・・・・・・・、いや、それも否定はせんが、今回は別もんじゃ。」
否定しないんだ!!
いや、も彼らと直に関わるようになって、
幸村が噂に違わぬツワモノだってのは身を持って知ってるけど。
と、そこでまた仁王はゆっくりと一歩、また一歩と、足を進め出した。
確かに廊下の奥の方からこっちに向かって一人、男の先生が歩いてきている。
「生活指導の教師の一人じゃ。いつもなら全く怖い相手じゃないが、
今回ばかりは顔を合わせるのはちと厄介じゃのぅ。」
「生活指導・・・?ってことは生徒の顔も名前も結構知ってんだ・・・。
で、で、でも、ここって生徒数半端なかったよね・・・・?」
「ああ・・・、その半端ない生徒の全部を顔も名前もクラスも暗記しとるから厄介なんじゃ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・、マジで・・・・・・・・?」
よくは覚えてないけど、確か立海の生徒数は千人は超えていた筈だ。
その生徒の顔と名前を一致させ、クラスまで覚えてるなんてどんな凄い教師だろう。
だけどここはテニプリの世界。
それもまた有る意味ここでは普通なのかもしれない。
なんて感心してる場合じゃない。
折角、あの真田にさえどうにかバレずに済んだって言うのに。
それにしても、ここからだとまともに顔は見えないけど、
どう見ても一見普通の人っぽいあんな先生にここまでビビらなきゃならなくなるなんて思わなかった。
「・・・ど、う、すんの?」
「そうじゃな、・・・ここは・・・・・三十六計逃げるに如かずぜよ・・・!」
「へっ!?」
―――クンッ
ほぼ言葉を言い終えるのと一緒に、仁王はの手を少し強めに引っ張ると、
向かい側から来る先生がこっちに気付くより早く、一番手前の角を素早く走って曲がり、
そのまま少し行った先にあった教室にを先に中に入る様に促すと、
左右に視線を走らせた後、自分もそこへ体を滑り込ませてドアを閉めた。
「・・・ど、どうにか助かった・・・?」
「いや、・・・向こうも角を曲がったようじゃな・・・。
気付かれてはおらんと思うが、念の為に教卓の下にでも隠れとくか。」
言うが早いか、彼はを連れて教卓の陰に身を隠した。
教卓の中。
仁王がを背後から抱き締めるような形で座る。
何だか凄く妙な状況だ。
そして、まるでどこかの少女漫画でみたような光景。
ホント、使い古されたネタもいいとこなのに、の心臓は恐ろしい程の勢いで鼓動を刻んでいた。
今日はホントにマジで心臓が何度爆発しそうになったか分からない。
真田と柳生と顔を合わせた時のアレが一番だと思ってたけど、種類が違うとはいえ、
今回の心音はもう限界を振り切ってしまった様な勢いだった。
ドクドクドクドク。
長距離を全力疾走しまくった後みたいな。
いや、もうそのレベル以上のものだった。
背中にある仁王の存在と体温からとにかく意識を逸らそうと必死になりつつ、
一刻も早く例の(今回に限り)ラスボス的存在な先生が教室の前を通り過ぎてしまうように願った。
その一方で、もうこの際先生がその辺うろうろしっぱなしだったらいいのに、なんて、
全く意味不明の思考回路が働いてしまう。
本当に自分自身、意味が分からない。
確かにテニプリファンとしては今の状況は万歳な勢いなものだけど、
そんな単純な感情ならもっと楽だったかもしれない。
どっどっどっどっどっ。
胸を突き破る勢いで聞こえる心音は、
そう言う種類の感情とはまた別のところにあるようにには思えた。
心地いいのに、落ち着かない。
甘いようで苦い様な、すっぱい様な。
そんなことを考える自分自身もまた、こっ恥ずかしい。
「・・・・・・・に、仁王・・・。」
「・・・・・・・・ん?」
「もう・・・先生行った・・・?」
「さぁ、どうじゃろうな・・・?こっからじゃよう分からん。」
わざとなのかそうじゃないのか、仁王の声がいやに耳元で囁くみたいに聞こえた。
しかも、彼が喋るたびにの耳朶を撫でるように吐息が吹きかかる。
はどうにかそっちに意識を奪われないように、ひそひそ声ながら必死に口を動かした。
「・・・・・・・・・、考えてみたら・・・さっきから足音も全然しないんだけど・・・・、お、おかしくない?」
「そうじゃのぅ、もしかしたらこっちに曲がったと思ったのは俺の気のせいかもしれんな。」
「・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・もしもし?仁王君?
それって・・・・・・・・・・、もしかしてもしかしなくても・・・さっきの、嘘だった、とか・・・?」
「ピヨ。」
そのピヨは肯定か!?肯定なのか!?
そこで咄嗟に振り向こうとしたの頬。
仁王のやわらかな銀髪が、くすぐるみたいに撫でた。
結局、仁王の奴がの肩口に額を押し付けていたから、
は振り向くことは出来なかったんだけど。
「・・・お前さん、いい匂いがするのぅ。・・・・・抱き心地も最高じゃ・・・。
放しとうなくなる・・・・・・・・・・。」
「な゛!!ななななっ!!な゛に゛い゛ってん゛の゛!!!???」
不自然な位にどもりながら声をあげ、
さすがの恥ずかしさに耐えかねて仁王の腕から抜け出そうともがいた、その時。
仁王が顔を上げ、そのせいで超至近距離でと彼の視線がカチ合った。
―――――――――ドッ ・・・クッンッ
「・・・・・・・・・・・・・・に、仁王・・・?」
彼の視線が妙に熱を帯びてるように見えて、心臓がそこでまたもや大きく一つ、跳ねる。
そしては殆ど吸い寄せられるみたいに彼の口元のほくろに目を向けていた。
仁王の口元のほくろは、何か妙に色気がある。
そのままぼんやりと彼の口元に見惚れていた、一瞬。
「・・・・・・・・・。」
いつもよりも少し低めの声で名前を呼ばれる。
彼の長くて骨ばった指が、のしている伊達眼鏡のフレームにかかった。
そしてそのまま眼鏡を外される。
その後、彼のまぶたがゆっくりと下がった。
ほんの少し、と仁王が距離を狭めれば、唇と唇は確実に触れ合う。
躊躇いは、殆どなかった。
ついさっきまでは心臓がぶっ壊れる寸前な位の心音で恥ずかしくてそのまま死ねると思ったのに。
彼がキスをしようとしていると瞬間的に分かった時。
は、少しでも早く彼の唇に近づこうと自分からも動いていた。
そして、必然的に重なり合う、と仁王の唇。
軽く触れ合わせただけのそれは、小刻みに震えて居て。
それは当然、の震えだと思ってたけど、本当はそうじゃなかった。
おかしな話だ。
キスをした瞬間に、どうしてか仁王の鼓動も実はと負けず劣らず早いこととか、
体がガチガチのと同じ位仁王の動きがぎこちないことに気付くなんて。
まさか立海の校舎内で、立海の制服を着て、立海の教室の中でこんなことになるなんて思いもしなかった。
仁王がほんの少しだけ距離を取って、自分の唇での唇の淵を辿るように撫でる。
それから彼はまたに何度か啄ばむ様なキスをした。
その間、何故だか心臓の辺りが痛い様な、心地いい様な複雑な感覚があって、
は自分の掌で制服の胸元をぎゅうっと握りしめていた。
「・・・・。俺はお前さんの事が好きじゃ・・・。」
告げられた台詞に、掴んだ胸の辺りが益々熱を持つ。
もしかして、この辺にのヲトメ心と青春ってのが詰まってんだろうか。
そんなことを思うくらい、胸が痛くて、同時にやっぱり心地いい。
そして、素直にムチャクチャ嬉しかった。
「・・・・・・・・・・、じゅ、順番違ってない・・・?」
照れ隠しに言ったの言葉に、仁王が苦笑する。
「ははっ、そうやの。すまん、我慢出来んかった・・・。
・・・・・・・・・・お前さんが、本当にうちの生徒なら良かったんじゃがな・・・・。」
「え?」
「そうしたら、妙な焦りも生まれてこん・・・。
とは、・・・・・ま、言いきれんか・・・・・・・・。」
「仁王・・・?」
彼は殆ど独り言のように呟いて、それからまたと視線を合わせた。
「、お前さんの返事を聞かせてくれんか?」
「・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・、す、好きじゃなきゃ、
キス・・・・・・とかしてないし・・・!」
半分早口の掠れ声でそう言ったに、仁王はフッと瞳を細めて如何にも嬉しそうに笑った。
いつものニヤリとした笑顔じゃなくて、年相応の、男の子の顔で。
その表情に、の心臓が、また、大きくひとつ、跳ねた。
(END)
後書き
どおおおおおおおにか、どおおおおおにか書き終えました!!
予想以上に長くなって自分でもびっくり。後半はもっとコンパクツにするつもりでした。
仁王を格好良く書きたかったのに、何か・・・・えへ☆(・・・)
とりあえず、ブン太夢が逆トリ系だったんで、今回は異世界系を書きたかったと言うことで!
ではでは、今回もここまでお付き合い下さった貴重な姫様、誠に深く感謝です!
有難うございます。心からの愛を込めて!(要らない)失礼します。