失恋戯曲
「・・・さんや、さっきからなぁに人の頭を見つめ続けてるのけ?
どうせ見惚れるならコッチ、俺様の甘いマスクの方でしょうがよ」
「んー・・・、頭って言うか、が見てるのはジャンの髪の方・・・」
返事をしながらも、はジャンの金髪から目を逸らさない。
見事にサラサラでつやつや、その上、本当に綺麗な金髪だ。
それなのに、ジャンは何を勘違いしたのか、それとも分かってるのか、
わざとらしくヒイッと声を上げて自分の頭を両手で抱えた。
「まさか俺の髪にもベルナルドおじさんの前髪と同じ兆候が現れてる!?
信じられないよ、助けてーマンマ!」
「安心おし、あんたの髪はふっさふさだよ、ジャンカルロ」
仕方がないので投げやりながらマンマ役をこなしてみる。
こう言う時のこう言うノリ、いつの間にかコイツらと付き合ってる内に自然と身についてしまってた。
一応これでも日本人の大和撫子。
殿方の繊細なお話にこのノリは微妙かもしれない。
でも、ある意味この位でないと彼らとはやっていけないのも事実。
と言うより、ジャン達の中じゃが女って認識は限りなく薄いから、
この程度ホントにどうってことないんだけど。
寧ろ下ネタが飛び交うことだって珍しくないことだし。
「そうじゃなくてさ、・・・・・あ・・・・でも、
前から思ってたけど、ベルナルドの前髪ってそんなにヤバい?
どっちかと言うとルキーノの生え際の方が結構キテるように見えるけど」
「ブッ!!クックック、じゃあ、何か?
実はあのライオンヘアは生え際誤魔化す為の目くらましってやつだと?」
「一理ある」
そこで達は顔を合わせて声を上げて笑った。
「でもやっぱりベルナルドおじさんには敵わないでしょ。
毛根にかかるストレスのレベルは確実にベルナルドの方が高いと見るね」
「まぁ、それは否定しない」
は思わず何度も頷いてそれを肯定する。
幹部筆頭と言う立ち場的な意味でも、
そしてまた彼の性格的な意味でも、CR:5の中で最も苦労性なのはベルナルドの他にはないだろう。
そう考えればやっぱり前髪にかかるストレスレベルは相当な物で。
って!そうじゃなくて!!
結果的に自分でこの話に乗っといて何だけど、がジャンの髪をジッと見てたのは当然、
彼の毛根の未来を案じてと言う訳じゃない。
ジャンの場合は今のところ案じる必要性もなさそうだし、
だからってベルナルドやルキーノの毛根事情も全く関係ないんだけど。
「言っておくが、二人とも、俺の前髪はこう見えてそう柔じゃないぞ。
何と言っても今までだってこうして立派に耐えてきているんだからね」
ついさっきまで電話線の海の向こうで仕事をしていた筈のベルナルドが、
いつの間にか達の座っている椅子の傍まで近付いてきていた。
つまりはまぁ、達はベルナルドの仕事部屋になっている室内で、
その主様の前髪毛根事情について話をしていた訳だ。
ベルナルドの片手にはトレイに乗った珈琲カップが3つ。
彼自身の珈琲はきっといつもと同様ブラックに違いない。
「ダーリン、アタシはこれからもあなたの前髪が堂々と存在し続ける事を願うわ」
「心配いらないさ、ハニー。俺の前髪は永遠に不滅だよ」
ジャンの軽口に応えてベルナルドが眼鏡の奥の片目を瞑ってウインクをしてみせる。
ジャンは更にそれに笑って返した後、ベルナルドから珈琲の入ったカップを受け取り、
再びに視線を移した。
「んで?、本当のところ、何で今更俺の髪なんか見てたんだ?」
「あ、ちゃんと気付いてたんだ、そこは」
あのまま本気で毛根事情ネタだけで終るのかと思ってた。
と言うか、ある意味その方がとしては有難かったかもしれない。
の言葉にニッとジャンが白い歯を見せて笑う。
「トーゼン。で?お兄さん達に話してみなさいよ」
「ま、大体予想は付いてるけどね。ルキーノのことだろう?」
続けて珈琲を一口啜ったベルナルドが質問を重ねた。
は思わず肩を竦めて苦笑する。
ここで違うと否定したところで彼らがそれを信用する訳がない。
それに、悔しい事にその通りだからだ。
自分がそこまで分かり易い奴なのかと思うと情けないもんがあるけど、
他の面子より付き合いの長い彼らを誤魔化せる筈もなかった。
「・・・うん、まぁ、そうなんだけど。話す程の事でもないと言うか」
それでも往生際の悪いは曖昧な返事を口にする。
そんなにベルナルドはクックと微かに声を殺して笑った。
「金髪が好きだとでも言われたかい?ベイビー」
続けられた彼の一言に、は飲みかけていた珈琲をぶっと吹き出しそうになる。
否。
実際吹き出してしまった。
「まぁ!はしたないわよ、
の隣に座っていたジャンがそう言ってニヤニヤ笑う。
思い切りいやらしい笑い方だ。
本当にどこまでも分かり易い反応の自分が憎かった。
有る意味普通に肯定するより明快な返事をしたかもしれない。
「も可愛いところがあるね。それでジャンの髪を見ていたとはね」
「抜け毛でいいなら1本やろうか?」
「いらん!!だったら根こそぎ頂くし!」
言いざま、はジャンの髪に手を伸ばした。
それに気付いたジャンが慌てた様子で身をかわす。
「どっわ、止めろ、!俺の毛根を死滅させる気か!?
ベルナルドの前髪どころかカヴァッリ爺様に追いついちまうだろうが!!」
そう言ったジャンの顔が結構本気だったので、思わず笑ってしまった。
と言うかこの場合、がそれ位の勢いに見えたってことだろう。
そう思うとさすがに微妙な気分かもしれない。
達のじゃれ合い(?)を見て笑っていたベルナルドが、
そこで不意に時計に視線を落として再びジャンに瞳を移した。
「さて、そろそろ楽しいお遊びの時間は終わりだぞ。ジャン、すぐ出るぞ。車はいつもの場所につけてある」
「
(分かった)
「おいおい、何をだ?まぁいい、先に行ってるから、すぐに来いよ。、またな」
「うん、珈琲ありがと。Ciao!」
ベルナルドが足早にドアに向かって行くのを見送った後、は椅子から立ちあがった。
ジャンもそれに続く。
「」
「ん?」
の背後から回りこんで来る形でジャンがドアの前に立ち、を振り返った。
同時にも足を止める。
彼はの頭に手を伸ばし、くしゃりとの髪を撫でた。
「俺、お前のその黒髪も好きだぜ。それにお前の魅力はそれ以外にだって山ほどある、だろ?」
「・・・・・・・・・、フッ、かもね」
「かもじゃない、そうなんだよ。お前は自分が思ってる以上にいい女だぜ、」
「
(ありがと)
笑顔で答えたの頬に、礼を言う場面じゃねぇよとジャンが軽くキスをする。
以前と違って最近は毎日の様に風呂に入ってると言うジャンからは、
苦い煙草の香りと一緒に清潔ないい匂いがした。
同時にの肌を掠めたやわらかな金髪は、やっぱり綺麗で見惚れてしまう。
ルキーノは確かに金髪の女が好みだと話してた。
いつもの下らないやりとりの合間に口にした、彼の何気ない一言。
アイツが無類の女好きなのはもう十分知ってるし、
そう分かってて片想いなんて不毛なことをしてるのもだ。
しかも奴はを殆ど女扱いしてないと言う始末。
不毛も不毛、不毛過ぎる片想い。
だけどそうじゃなくても、この恋は、きっと実らない。
ルキーノの視線がジャンに向けられてるのは、あの綺麗な金髪のせいなんじゃないかなんて、
そう言う理由を見つけて自分を安心させようとしてた。
そう気付いたのはついさっき。
本当はもう随分前からそうじゃないかとは思ってたくせに、
目を逸らそうとしてた訳だ。
片想いの相手が男を好きだなんて、本当ならネタになりそうなオチだけど、全然ちっとも笑えなかった。
多分それは、がジャンカルロ・ブル・ボン・デルモンテと言う男がどういう人間なのかを知ってるから。
あの無類の女好きが惹かれるほどの魅力が有るんだと、知ってしまってるからだ。
どーしてくれんだ、ドチキショウ。
ルキーノとジャン、両方に向けて心の中で呟いた。
そして更に、今度は声に出して独り言を口にする。
「・・・やっぱ毛根死滅させるべきだった?」
ふっと小さく溜息を吐き、はベルナルドの仕事部屋から廊下へと足を向けた。
(END)
アトガキ
あっれえええええ!!??これ、ルキーノ夢になる筈だったのに(大笑)。
何がどうなってこうなったのか自分でも分かりませんが、当初考えてたものと180度違うものに。
しかも序盤から中盤にかけてギャグ要素満載なのに、結局シリアスムードが。
いや、最後の一言はシリアスムードと程遠いですが。
でもジャンを登場させられた事は満足です。
ではでは、このドマナー夢にお付き合い、誠に有難うございますvv失礼します