獅子は飢えたり
シャワーを浴び終えて体を拭き、
下着を身につけようとした所ではやっと気が付いた。
その着替えをここまで持って来るのを忘れてしまってることに。
そう言えばベッドの上に着替えを放り投げた後、
電話が鳴ってそっちに気を取られたんだっけか、と、ぼんやり思い出す。
ここでこうして素っ裸で突っ立ってても着替えが向こうから飛んでくる訳もなく、
仕方なくは自分の体にタオルを巻きつけて一旦部屋に戻る事にした。
一旦、と言うか、もうあっちで着替えまで済ませた方が早いかもしれない。
ほんの一瞬ルキーノの奴のことが頭を掠めたけど、
彼が戻って来るのは深夜と言っていい時間になるって話を思い出した。
つか、万が一鉢合わせても、やっぱり貧弱な体してんなー位で終りそうだけどね。
あの無類の女好き野郎でさえ、の男装を見破れなかったのだ。
イヴァンの奴なんかより年下のくせに未だに人をチビガキ呼ばわりしやがるし、
他の連中より少し付き合いの長いジャンやベルナルドだって元はを『少年』だと思っていた。
しかも、結構長い間そう思いこんでて、結局アレッサンドロの親父様や、
カヴァッリ爺様にが女だと告げられるまで本気で気付いてなかったし。
男装してるんだから、女だって気付かれない事が大前提ではあるけど、それにしたって失礼な野郎どもだと思う。
一発で気付いてくれてたジュリオだけが有る意味心の支えだ。
『あー、何か今更そこはかとなくムカついて来た・・・』
ベッドの前まで戻ったは小さくボソリと呟きながら、体に巻きつけていたタオルを取る。
さっさと着替えて寝よ。
別に淑女様扱いして欲しい訳じゃないし、そんなもん望んじゃいないけど、
CR:5の幹部達はを女として見てなさ過ぎだと思う。
大体特にルキーノなんて他の女性に対する態度とに対する態度と違い過ぎなんじゃないだろうか。
それでもルキーノ・グレゴレッティって男が単にルックスだけで女たちを惹きつけてる訳じゃないのを、
はもう十分理解していた。
だからこそ苛々してしまうのかもしれない。
こうして同じ部屋で過ごしてても、
いやいやいや、別にそれはいいんだけど!期待してる訳じゃないし!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おい、」
「・・・・・・・・・・へ?」
不意に現れた長身のガタイのいい影にそう声を掛けられて、
は思わずポッカーーンと大口を開けて咄嗟に間抜けな返事をした。
ほんの一瞬何が起きたのか分からずに、の全機能が停止する。
「随分大胆なサービスに出たもんだなぁ?
とうとう捨て身で俺を誘惑してみる気になったか?」
どこまでも横柄な態度でそう言ったルキーノがニヤリと唇の端を引き上げて笑う。
フリーズしていたの思考回路とその他の機能は、
今度はクラッシュを起こしそうになっていた。
え?え?え?えええええええええええええ!!!???
いやいやいや、何でコイツいまここに居る訳!?いや、って言うか、え?えっ!?
着替え中にまさかの乱入。
お約束もお約束過ぎる展開。
だけど勿論そんなお約束はは全くちっともこれっぽっちも望んじゃいない。
は大慌てで体にタオルを巻きなおし、
ベッドに放り投げていた着替えを両手でかき集めた。
『も、ももっ戻ってきたならまずは一声くらい掛けてよ!!』
「はぁ?おい、何て言ってんだ?英語でもイタリア語でもねぇだろ、それは」
ルキーノが怪訝な表情で問い返して来る。
どうやら動揺が激し過ぎて思わず日本語で怒鳴ってしまったらしい。
「だ、だから!せめて一声掛けてくれって言ってるんです!」
「掛けたじゃねぇか、お前が気付いてなかっただけで」
言いながら、ルキーノは脱いだばかりの上着を無造作にソファに投げると、
大股にスタスタとの傍まで近付いて来る。
は慌ててベッドの奥へと回りこんでルキーノから距離を取った。
「どうして逃げるんだ?」
「ルキーノが近付いて来るから」
「ほぅ?お前にもいっちょ前に女としての防衛本能が備わってたか」
「・・・・・・・・・・・・・・・、防衛本能・・・って」
そんなもんが反応しなきゃなんないようなことをするつもりなのか、この男は。
確かに状況が状況だからのうのうと構えてられないのは確かだけど、
まさかルキーノが相手に今更手を出そうとするなんて本気で考えてた訳じゃない。
どう考えても女に困ってるタイプじゃないのは分かり切ってる事だし、
今までの態度から見てもそんな色気のある話は悲しい位に思い浮かべないと言うか。
だけど。
「お前が本当に女なのかどうか・・・この俺が直々にじっくり確認してやるよ」
「
(結構です!)
更にを追い詰める形でルキーノがスタスタの傍まで歩を進めて来る。
素早さにはジュリオと並べる程じゃないにしろそれに手が届く手前位には自信があるし、
腕力じゃルキーノに敵わなくても今ならまだ逃げようと思えば逃げられないことはない。
厄介なのは当然、捕まった後だ。
彼だって嫌がる女相手に強引にことを進めようとまでは思わないだろう。
多分、きっと、恐らく。
この場合限りなく怪しいけど。
と言うか既に強引モードに入ってるようにしか見えないけど。
でも、全力で嫌がれば何だかんだで女に甘いこの人が(相手とは言え)手酷い事をするとも思えない。
「っ!?」
なんてことを考えている間にも距離を詰められて、
気付けば大きな掌が完全にの肩を捕らえていた。
その拍子に大げさにビクついたの両腕が抱えていた着替えを床に落としてしまった。
しかも巻いていたタオルが緩みそうになり、は慌ててそれをきっちり巻き直す。
否。
直そうとして、それをドでかいライオン男に阻止されてしまった。
「どうせ裸になっちまうんだ。巻きなおす必要はねぇよ」
「ばっ!?・・・ならないし!!てか、は、放して・・・!」
片腕を振ってルキーノの手を振り払おうとしたところで逆にその腕を掴まれる。
更に奴の片腕がの体を絡め取り、強引に抱き寄せられた。
「ちょぉっ・・・!?」
「ホントにガキ並みに小さい女だな。俺の腕の中にすっぽりどころじゃねぇぞ、これは。
余裕が有り過ぎてこっちがビビっちまうぜ」
「だったらこんな事しないでくれませんかっ!?・・・ぁっ・・・」
の方に屈みこんで来たルキーノが首筋にねっとりと大きな舌を這わせる。
唐突に与えられた範囲の広い濡れた感触にの口から無意識に妙な声が漏れてしまった。
「いい声だ・・・。今のは完全に『女』の声だったな?
「マァ、ソレハ光栄デスワ
の肩胸全部を覆えるような大きさのルキーノのデカイ掌が無遠慮にその周辺を揉み始める。
やり方は強引なのにその無骨な手は予想外に繊細でやわらかな動きを見せた。
女の扱いに慣れてるってのは伊達じゃない。
タオル生地の上からでも自分の体の一部がぐにゃぐにゃと彼の掌の中で形を変えているのが分かった。
「思ったよりはあるな・・・、柔らかさも俺の好みだ・・・。フッ・・・握りつぶしちまいそうだけどよ・・・」
笑いを含んだ、だけど熱っぽい声でルキーノが囁く。
これ以上はヤバイ。
いや、今ももう既に十分ヤバいけど、本当にこれ以上はとにかくヤバイ気がした。
今ならまだちょっと行きすぎたジョークで済むかもしれないけど、
この先に進んだらそんなレベルじゃなくなるのは分かり切ってる。
の耳朶を甘噛みするルキーノ吐息がまるで獰猛なライオンが舌舐めずりする息遣いの様に聞こえた。
湿った吐息がの鼓膜だけじゃなく、体の全部を刺激する。
「・・・ッ、ルキーノ・・・っ!いい加減、からかうの、やめてっ、つってんでしょ!」
情けない位に陥落寸前に追い込まれつつ、それでもは必死で声を上げた。
その声も掠れて甲高さを含み始めた事は否定できない。
だけどこの際そこは聞こえなかったふりだ。
今はとにかく、何故か相手にその気になりやがったこのライオン男をどうにかするしかない。
「・・・見くびるな。からかうだけのつもりなら・・・手まで出さねぇよ・・・」
「・・・・・えっ!?何・・・!?何言って・・・」
「うるせぇお口は塞いでやるっつったんだ・・・!」
言いざま。
ルキーノの口がの唇に喰らい吐いて来た。
ホントに馬鹿な話なんだけど、この瞬間。
例えじゃなくて、本当に食われるかと思った。
唇が密着した途端に噛みつくようにの唇を貪り初め、
ルキーノの大きくて肉厚な舌がぬるりと口内に侵入してくる。
「・・・ふっぅ・・・!!」
は同時に口いっぱいに物を押し込まれたみたいな錯覚に陥る。
熱くぬめった弾力のある大きな舌はまるで生き物の様に口腔をねっとり這い回った。
こんなこと思いたくないけど、ルキーノは嫌になる位にキスが上手くて、
うっかり意識を飛ばしそうになったほどだ。
荒っぽさの中にも優しくて甘ったるい何かを含んだ舌の動きでを翻弄する。
「・・・体格差が有り過ぎると・・・、やっぱこのままじゃやり難いな・・・」
キスの合間にそう独り言みたいに呟いたルキーノに、思わずがハッとした時には既に遅かった。
彼にひょいっと軽々両手で抱えらたかと思うと、すぐ傍にあるベッドに横にされていた。
背中には上質の柔らかなシーツの感触。
茫然と天井を見上げるの目の前でルキーノが自分の服を手早く脱いでいる。
「っ!!??ちょ、ちょっと・・・ルキーノ!?本気で・・・っ」
「ここまで来て冗談で済むと思ってんのか?」
「嫌がる女を抱く趣味はない!!・・・でしょ?」
「・・・・・・・・・・・・ああ、ねぇよ。・・・・・・・・・・
言って、を見下ろしたルキーノのその髪と同じ位赤みがかった瞳と視線が有った瞬間。
―――――――――――ドックンッ。
の心臓が、大きく、跳ねた。
お前が本気で嫌がっているならとっくに止めてるさ。
と。
その目が言ってる様に見えた。
の心の奥の奥。
見透かされてるみたいな気分になる。
思わず唇を噛みしめて、ルキーノを睨みつける。
「ズルい・・・、ムカツク・・・!」
「ハハッ・・・、素直じゃねぇ肯定の仕方だな。だけどその目、いいな。ぞくぞくするぜ、」
服を脱ぎ終えたルキーノがに覆い被さって来た。
そして、あの大きな手でこっちが驚くほど優しい手つきでの頬に触れる。
「・・・ルキーノは・・・、を女だと思ってないんだと思ってた・・・、現在進行形で」
「確かに最初はそう思ってたよ。・・・だから俺も今更お前相手にどの面下げてって部分があったからな。
けどお前も悪いんだぞ、。俺がいい女だ、可愛い奴だって口にしても、
冗談か皮肉にしか取らなかっただろうが」
そう言われては少しの間今の状況を忘れ、いつだかの記憶の幾つかを探った。
ルキーノからに向けられた言葉の殆どは、
(イヴァン程じゃないにしても)どう考えても女に対してのものとは程遠かった気がする。
だけど確かにふとした瞬間に『いい女だな』みたいなことを言われた事も有った。
でもは今までの関係上どうしてもそれを素直に受け止める事が出来なくて。
「・・・・・・・・・・・・」
「思い当たる節があったみてぇだな」
「けど、が一方的に悪いのかって言うと納得いかない」
「ああ、分かってるよ。だから・・・これからそれを挽回しようってんだろ?」
低く甘さを含んだ声でそう言い、間近からルキーノがを見下ろす。
「挽回って・・・いきなりコレ?」
「・・・・・・・・これ以上焦らされちまうと俺のタマ袋は溜まり過ぎて破裂しちまうぜ」
普通のレィディ相手には絶対そんな言葉口にしないよね!!??
と言う余りに余りな台詞だけど、困った事にはそんな台詞も嬉しく思っている。
つまりはすでに完全に落ちてるってことだ。
ああ、全く、馬鹿な奴だな、も。
でも、悪くないと思ってるのもホントで。
「・・・・・・・・・・・・・」
はそこで少しの間を見下ろすルキーノと視線を合わせた後、フッと体の力を抜いた。
そして、既に殆ど緩みきってしまってるタオルに手を掛ける。
無言でそれを見ている彼の前で、
はそれを体を浮かして自分の手でゆっくり取り去った。
「壊れない程度にお願い・・・」
「ハハッ!当たり前だ。今回限りになっちゃ俺がたまらねぇからな・・・」
言いながら、ルキーノの大きな手がの肌の上を撫でるように滑って行く。
更にこっちに顔を近づけて来た彼に、は自分から両腕を伸ばしてその後頭部に回し、
その薄い唇にの唇を押し当てた。
何だかんだと理由を付けて、文句を垂れていたけど、
結局はは拗ねてただけなのかもしれない。
を女として、恋愛の対象にしてくれないルキーノに。
こうならなきゃ分からないなんても大概現金だと思うけど。
(END)
アトガキ
毎度どのジャンルでもそうなんですが、ギャグから微エロに持って行くのは得意です!(←・・・)
と言うことで、初・ルキーノ夢でした。
紳士的なルキーノも好きだけど、やっぱいつもの豪快でライオンな彼の方が好きです。
ではでは、ドマイナーなこの夢にここまでお付き合い下さった姫様に深くふかーく感謝しつつ、
失礼致します。有難うございましたvv