基本的に夢と言うのは目覚めた瞬間大半の内容を忘れてしまっているものだ。
それでも断片的な記憶の中、それが楽しかったのか、悲しかったのか、
自分にとっていい夢だったのかそれとも悪夢だったのか、ある程度は覚えているもの。
勿論、実際は夢を見たこと自体を忘れている場合があると言うことも知ってる。
つまり、大体が胸を張って夢の内容を全部覚えていると言えることは少ない。
その夢の破片が多く残っている場合には、自分が覚えている限りの内容を思い起こして
気分が酷く沈んだり、逆に楽しさで妙にテンションが高かったりする。
だけど大体はほんの数秒前まで覚えていた鮮明な映像は、
ある瞬間からあっという間に記憶の奥底に飲み込まれていくのだ。
そしてそれは特に驚くほどの事じゃなく、極自然な事。
例えば、今見てる自分の夢が楽しいから起きてからも覚えていようと思っても、
逆に、最悪のものだから絶対忘れてやろうと思っても、
それを自在に操る事(意識して訓練のようなことをする場合は含まない)は難しい。
そうだ、だからあの日、が見た夢も、
大好きなキャラ、『ジャンカルロ』が登場したことや、
今まで見た事もない位に綺麗な草原が広がってたことなんかは覚えてたのに、
目が覚めた瞬間に肝心な内容は殆ど忘れてしまっていて、
はそのことに少なからず落ち込んだものだった。
だけど、それはやっぱりにとって単なる夢の話でしかなく、
残念だったと言う気持ちが大きかったとは言え、
それはその時限りで終りだと信じて疑いもしなかった。
夢の続きが見られる事が有ると、聞いた事はあるけど、
そう言う類のものとは絶対的に違う、あの日の夢。
今なら言える。
ハッキリと。
―――――――あの日見たあの夢は、にとって、はじまりの夢だったんだと。
ゼロ×ゼロで創めよう
「うっわー!」
自分がいつからそこに居たのかなんか知らない。
どうしてとか、ここは何処だとか、そう言う事は一切考えなかった。
ただ分かってたのは、これが夢だって事で、その一つが分かってれば、
この状況全部を説明するには十分だったからだ。
雲ひとつ見えない真っ青な空は、
まるでスカイブルーの水彩絵の具をそのまま塗り込んだ様な目の覚めるような美しさだった。
そして当たり一帯に波打つ瑞々しい緑色の草とその香り。
の立っている場所からほんの少し先には、目を見張るほど巨大な一本の木が生えていた。
肌を撫でて通り過ぎてく風が爽やかで、また心地いい。
遠く聞こえる鳥たちのさえずり。
テレビ画面の向こうでしか存在しない様な、本当に文句なしに綺麗で、清々しい場所だった。
無意識に大きく息を吸い込んで、ゆっくり吐き出す。
これは夢だと分かってるのに、今まで見たどの夢よりリアルに感じていた。
まぁ、実際は、その今まで見た夢の内容も余りよく覚えてないんだから、
実は何度か同じように感じた事が有ったのかもしれないけれど。
は淡い空色のキャミワンピ一枚と言う、
本来現実なら今の季節にはそぐわない格好で、
草原と言う表現がピッタリのその場所から巨木に向かって走った。
そして、例えるなら小さな森の様なその大きな木の根元近くまで来た、その時。
はそこでようやく、
その根っこの部分に以外の人間がこの場に居ることを知った。
この距離だとまだ顔までは認識できない。
でも、体格や服装からしてどうやら男らしいと言う事は分かった。
彼は、こっちに気付いた様子は全くなく、巨木の太い根のひとつに背を預けて眠っていた。
夢の中で寝ている人間見るなんて、なんだか微妙におかしな感じがする。
いや、この場合、自分が夢の中でまた寝てるって訳じゃないので、そこまでおかしくもないんだろうか。
そんなことを考えつつ、はゆっくりと、だけど足早にその彼の傍まで近付いた。
綺麗な金髪の、黒いスーツに黄色いシャツを着た青年。
この爽やかで清々しい空気には何だか全然場違いな姿に見える。
でもまぁ仕方ないだろう、これは夢だ。
その一言で、全てが許される場所。
「・・・?外人さん?」
やっと彼の顔をしっかり見られる距離まで来て、は思わずそう漏らした。
今時頭が金髪ってだけで、相手が日本人じゃないと認識は余りしないものだ。
だけど、こうして近付いてみて、顔の造りを見てみると、どう見ても彼は日本人には見えなかった。
幾ら相手が寝てるからと言っても、顔立ち位は分かる。
さやさや風に揺れている金髪も地毛の様だし、スッキリ整った目元やハッキリした鼻や口元。
これはかなりの美青年と見た。
「・・・・・・・?・・・・・・・あ!?」
不意にそこで、は思わず小さく声を上げた。
爽やかと清々しさをそのまま形にした様なこの場所で、どう見ても違和感のある彼。
すぐには分からなかったけど、ごく最近何度か目にしたことがある容姿だ。
「・・・・・・・」
は相手が眠っているのをいいことに、
彼の頭のてっぺんからつま先までをじっくりゆっくり観察した。
間違いない、
等身大だと画面越しの二次元の世界で見てるのと感覚が違うから分からなかった。
思わずグッジョブ自分!と言う気分で口元にニヤリと笑みを浮かべる。
ジャンカルロ・ブルボン・デル・モンテ。
の大好きなゲームの主役であるキャラ。
まさに夢の中だからこそあり得る登場人物だ。
夢の中なら、ゲームのキャラを登場させて喜んでいる自分自身の思考回路を恥ずかしがる必要なんかないし、
誰の目も気にしなくていい、当然こそこそする必要もない。
とは言え、起きてくれればもっと嬉しいんだけど。
そう思っては更に数歩、彼に近付いた。
規則正しい寝息を立てている彼の綺麗な金髪は、
葉や枝の間から差し込んできている木漏れ日を反射して、見惚れるほどきらきらと輝いている。
はその場にしゃがみ込み、その綺麗な寝顔をジッと覗き込んだ。
・・・そう言えば、ジャンは風呂嫌いだった筈・・・。
ふと現実ならかなりどうだろう、なことを思い出してしまい、無意識に口元が引きつる。
だけど、これは夢だし、実際、結構な距離まで近付いてるってのに、ジャンから『それらしい臭い』はしない。
でも無臭って訳じゃなく、微かに石鹸の香りに交じって煙草の匂いがした。
肌で感じる風の感覚や、耳で聞く鳥のさえずりもそうだけど、
五感で感じるそう言う所は妙に現実っぽい。
勿論、あくまでもそれ『っぽい』と言うだけで、これが夢なのは間違いないことだ。
「ジャン、さん・・・」
一度、は殆ど小声で囁くように彼の名前を呼んだ。
いつもは呼び捨てにしてる『キャラ』なのに、
自分の口から声にすると、現実じゃないとは言え妙に緊張して、思わずさん付けで呼んでしまう。
ほんの一瞬、の声に反応して、彼の目元がピクリと動いた様な気がした。
「ジャンさん」
もう一度、今度はさっきよりも少し大きめの声で呼んでみる。
「ん・・・んー・・・」
あ!!お、起きる・・・っ!!??
ジャンの瞼がゆっくりと、上がり、そしてその金色の瞳がに向けられた。
その時だった―――――――――。
―――――――ピピピッピピピッピピピッ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
の耳に鳴り響いてるのは、お馴染のデジタル目覚まし時計の音。
は暫くの間ぼんやりとその音を耳にしながら、ただ天井を見つめていた。
・・・何か、・・・夢見てたような・・・。
しかも・・・そうだ!ジャンが出て来た!・・・ような・・・?
何だか急速に夢の記憶が遠のいて行く。
それでもどうにか思い出せるのは緑の草原と青い空位だろうか。
大好きなジャンが出て来た夢だったのに、どうしてこうも殆どの内容を忘れてしまってるんだろう。
ある意味自分の記憶力が呪わしい。
ハァーーーーーっ。
目覚めて早々深々と溜息を吐き、はベッドから抜け出した。
デジタル目覚まし時計を止めると、すぐ傍にあるリモコンに手を伸ばす。
テレビの電源を入れた後、いつものチャンネルに合わせた。
そしてそのまま顔を洗いに洗面所に向かいかけたところで、不意にテレビ画面に視線を移す。
「・・・・・・・あ!」
画面には、スカイブルーの水彩絵の具をそのまま塗り込んだ様な美しい空。
そして、周囲には風で波打つ瑞々しい緑をした草原が広がってる。
その中央には小さな森にさえ見える巨木が一本生えていて、
徐々に画面がその根元に近付くと、そこには犬が一匹眠りこけていた。
・・・これかー・・・。
夢の内容は未だによく思い出せないけど、草原だとか空だとか、その辺は覚えている。
どう考えても、このCMに影響されたとしか思えない。
は無意識に苦笑いを浮かべ、仕事に行く支度を進める事にした。
顔を洗ったら着替えて化粧をして、軽い朝食、歯を磨いたら出勤だ。
夢の余韻に浸りたい所だけど、生憎と浸れるほど内容を覚えてない。
それだけじゃなく、目覚めた今、
時間に余裕を持って目覚まし時計の設定をしちゃいるものの、
それでも何かに追い立てられるように、は忙しなく出勤の準備を始めた。
だから気付けなかった。
が脱いで洗濯機に放り込んだパジャマの背中。
いつの間にか、緑色の縦長の草の破片が付いてた事に。
(END)
アトガキ
毎度毎度のことですが、私の考える設定ってなんでこう無駄にややこしいんだろー(遠い目)。
と言うことで、見切り発車で開始な、連載っぽく見えてシリーズであって欲しい話。
いや、連載って言いきると、私が溺れて続かなくなるんで・・・。
まぁそれはそれとして、異世界トリップ要素を織り交ぜつつ、夢だと言うのが前提なので、
好き勝手やらせて貰おうと思います(いや、最初から好き勝手やってますが 笑)。
実はジャンの性格が掴めてるのか未だに不安なところが・・・。でも愛で乗り切ろうと思います。
今回一切喋ってないから登場してないも同然ですが、続きもお付き合い頂けると幸いですvv
Title by 207β