雲ひとつない空を仰げば、真昼の白い月が浮かんでいるのが見えた。
それから、柔らかな日差しを放つ太陽も見える。
は大きく背伸びをした後、緑の美しい草の波打つ草原の中をゆっくりと進んだ。
淡い空色のキャミワンピのスカート部分の裾がひらひら踊る。
そう言えば、このワンピ、何となく見覚えがあるな、ぼんやりそんなことを考えつつ、
は歩を進めながら前方に視線を移す。
そこには、小さな森に例えられる程大きな一本の木が立っている。


「・・・またこの夢・・・?」



いつか目にした光景だった。
それがいつだったかはよく覚えてない。
つい最近の様な気もするし、もうずっと前の様な気もする。
勿論あれも夢で、そうだ、思いっきりテレビのCMに影響されたと言う分かり易いオチだった。
あのCMは、今でも放映されてただろうか。
CMの放映期間なんてよく知らないし、
余りテレビを見てる方でもないからイマイチ分からない。
少しずつ巨木の傍に近付いて行きながら、はそこで、ハッとして一瞬足を止めた。


そうだ!ジャン!ジャンカルロ!・・・もしかしたら、また居るかもしれない!?


以前見た夢の光景とそっくりだからと言ってそのままとは限らない。
これはあくまで夢なのだ。
だからこそあり得ない事が可能になるのは確かだけど、
だからって以前の続きである確率の方が限りなく低いに決まってる。
それでもは膨れる期待を抑えきれず、その場から駆けだした。
そして辿り着いた巨木の根元。


前回同様この爽やかな草原とは場違いな黒いスーツ姿の金髪の青年の姿を、
の視線はハッキリと捕らえた。




奇跡のように青い






「居・・・・・た!ほ、本当に、居たっ!!」


思わず叫ぶようにそう言って、は彼の傍まで走り寄る。
案の定、ジャンカルロ・ブルボン・デル・モンテは、
以前見た同じ場所で同じように規則正しい寝息を立てていた。


「・・・、ジャ、ジャンさん・・・」


この間の夢の時と同様、は恐る恐る彼の名前を呼ぶ。
あの時は彼が目覚め掛けた所で『はい、暗転』な、お約束なオチだったけれど、今回はまだ少し時間が有る。
自分でもまともな説明はできないけど、
何故か夢の終わりの時間が来る感覚が何となくには掴めていた。


「・・・・・・・ん・・・」
「ジャンさん・・・!」
「・・・・・・・んー・・・」


の呼び声に反応する様に、二度、三度、微かに彼の瞼が震える。
そして。


「・・・・・・・・・お」
「・・・・・ど、どうも・・・」


これは夢だって分かってるのに、しかもジャンを起こしたのは他でもないなのに、
何だか妙に緊張してしまった。
彼はほんの数秒を見上げた後、不意にニヤリと口の端を上げる。


「やっぱあんただったな。驚きだぜ、ってことはコレ、マジであの夢の続きなのけ?」


目覚めたばかりのジャンはまじまじとを見詰めると、
そう言って何故か妙に満足げに笑った。
最後の問いは、にと言うより、殆ど独り言の様だった。
だけど、はジャンの言葉に少なからず衝撃を受ける。
何だろう、彼がたった今口にした台詞は、そのままの心の中の声みたいだった。


いや、待てよ、でも・・・。


「えっと、・・・ジャンさん、寝てましたよね?あの時(・・・)


そう、ジャンは眠っていた。
そりゃもう気持ち良さ気にすやすやと。
ついさっき見た彼がそうだったように、そして彼は前回、
の呼びかけで目覚める瞬間でお約束的な結果でが夢から離脱した訳だ。
そしてあれは間違いなく夢で、今回のこれも夢なのは確実で。
それなのに、彼は前回の夢の内容を覚えてることを思わせるような発言をした。
前回の夢のジャンと、今の目の前に居るジャンと、確かに周囲の風景は全くそのままだけど、
同じだってことなんてあり得るんだろうか。
つまり、あの夢の続きだってことが。


「そ、そ。夢の中でも眠れるなんて俺って何て器用チャーン。
あんときゃどうやっても自分が起きやがらねぇから、
思わず俺だってことを忘れてぶん殴りたい位だったぜ。
・・・・・・ん?つーか・・・あんた、あん時の事、覚えてるってこと?あん時(・・・)のコと同じってワケ?」
「・・・です、ね。じゃあ、その、ジャンさんも?あの時ずっと寝てましたけど」
「ああ、覚えてるぜ」


軽く頷きつつも今の状況に驚きを隠せないジャンと同様、もかなりビックリしていた。


え?え?えええええ!?これって・・・!?
何だかよく分からないけど、夢にしては凄くよく出来た?話なんじゃあ・・・。



こんなことって、あるもんなんだろうか。
でもこれが夢なのだけは間違いない。
それは分かる。
夢だから何でもあり、ってのは勿論そうだから、
やっぱりそう思うとこれもアリってことなのかもしれないけれど。
何だか軽く混乱して自分で考えている事の意味が分からない。
実は今までだって何度か二次元キャラと夢で御対面を果たした事はあったのだ。
だけど、それはもっと突拍子もない設定だったり、状況だったりして、ある意味今よりずっと夢らしかった。
それにもっと言えばそれが夢だとハッキリ自身が認識出来てる感じじゃなかったと思う。


「・・・なぁ」
「あ、は、はい」
「あんた、チャイニーズ?」
「いえ、ジャパニーズです」
「マジで!?へぇ・・・・・・。あ、けどイタリア語メチャメチャ上手いな。イヴァンのアホに見習わせたい位だ」


一瞬他キャラの名前が極自然にジャンの口から出た事に、嬉しいと言うか、
浮かれると言うか、とにかくそんな気分になりそうだった。
だけど、すぐにそれを押し留め、同時に『?』マークを頭に浮かべて返事をする。


「いえ、イタリア語じゃなく、日本語で喋ってますけど、思いっきり」
「・・・・・・・・え?今も?」
「・・・・・・・・え?今もですよ?」
「え?」
「え?」


ぽかーん。
ぽかーん。



二人して似た様な間抜けな顔でお互いを見つめる。
今更言うまでもなく、はイタリア語なんてそれこそ『チャオ!』や『ボンジョルノ』程度の挨拶位しか知らない。
どちらかと言えば英語の方がまだマシな部類で(単語や文法を知ってる数ではと言う意味だけで言えば)、
イタリア語がこんなにスラスラ出てくるなんて絶対にあり得ない。


「・・・・・・・、あー、なぁ、じゃあさ、イタリアと日本って時差ってヤツあるよな?」
「そうですね、確かえっと・・・8時間・・・位だったと思いますけど」
「おい、マジですか。8時間も違うのに、俺とあんた、同じタイミングで寝てるってどうなんだか・・・」
、ちゃんと夜に寝てます。深夜に近い位に」
「いや、そりゃ俺だって・・・・・」
「まぁ、これ夢ですから!」
「ソレで全部説明が付いちゃうワケね。・・・って、あんた・・・、・・・そだ、名前は?悪い、聞くのが遅くなっちまった。
そう言えば俺の名前は知ってるよな」
「え!?はい、ジャンさんはジャンカルロ・ブルボン・デル・モンテさんですよね。です」
「おいおい、俺のフルネームまで知ってるのけ!?」
「まぁ、これ夢ですから!」
「OK.OK.ソレ、ここでの魔法の言葉ってことね」


本当は夢と言うより、がジャンを知ってるのは『ラッキードッグ1』のプレイヤーだからなんだけど、
そんなややこしい話をこの場に持ち出した所でどうにもならない。
実際ジャンがここに居ること自体、夢だからあり得る事だし、
言語の垣根を飛び越えてることも、夢だからあり得る事だ。
『夢だから』は本当に色んな意味で魔法の言葉だと思う。
それを利用して騙してるみたいで、何かジャンには悪いけど。



・・・と言うか、は何でこんなに普通に(・・・)ジャンと接してるんだろ?



夢の中とは言え、二次元のキャラが等身大で目の前に居るってのは、
ある意味三次元の芸能人が登場するより驚きな事で、
もっとこう、わーきゃー言っても不思議じゃない筈の事だ。
最初の内はかなりはしゃいでたのは確かだけど、
今は寧ろ現実で初対面の憧れの人と喋る緊張感に近いような、
それで居て親しい友人と話をしている感覚にもにたものを感じる。
不思議で、おかしな気分。


・・・。名前、の方であってる?」
「あ、そうです。の国だと になります」
「へぇ、つまりあんたは、ジャポーネのサムライガールってことか。俺の夢の登場人物にしちゃ、まともだよな」
「あははは・・・」


俺の夢の、と言うか、の夢の登場人物がジャンなんだけど、本当に何か、
妙にリアルな感覚で喋るジャンだなぁ、なんて思ってしまった。


「あのさ、、こんな約束、もしかしたら意味ねぇかもしれねぇけど」
「はい?・・・・・・・・・ぁ」


ジャンの言葉に返事をした直後。
は不意に体を強張らせた。
前回、ジャンが目覚めてすぐに暗転したあの時は感じなかったけど、今回は何故かハッキリ分かる。



――――――――――が、起きる時間だ。


「俺、出来る事ならあんたと――――――――――――――――――――――」




ピピピピッピピピッピピピピッ



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


殆ど頭上にあるデジタル目覚まし時計が、いつもの朝と変わらない音でを起こしてくれる。




ピピピピッピピピッピピピピッ



そして毎度のことながら、まだ働かない思考回路を抱えてぼんやり天井を見つめる。
前回以上にこの音が恨めしく聞こえるのは多分、気のせいじゃない。



「ああ、もー・・・!・・・ジャン・・・・・・なんていおうとしてたんだ、ろ・・・」



前回同様急速に遠のいて行く夢の内容。
だけど、それでもが目覚める直後、夢の最後だけはハッキリ覚えている。
ジャンは、に何か言おうとしてくれてた。
何か、約束ごとをしてくれようとしてた。


ハアアアーーーーーーーーーーーーー。


前回と同じく、でも確実に前回より長く深く溜息を吐くと、はベッドから抜け出し、
デジタル目覚ましをノックアウトしてやった。
分かってる。
あの場で感じたあれこれがどんなにリアルな感覚を持ってても、所詮は全部夢なんだと。
ジャンが等身大で登場してるってことこそが、それこそ何より雄弁にそのことを物語っているんだと。
ちゃんと、理解しているのだ。
現実と夢をごっちゃにするほど子供じゃないつもりだ。
妄想を膨らませる事は無駄に得意だけど、そこまでイってないつもり。
分かってる。
分かってる、けど。
だからこそ、夢に、夢を見るもので。



「・・・・・・・・・ジャン、何て言おうとしたんだろ・・・・・」



が再度、落胆のため息と一緒にそう呟いた。
その時。
ひらひら。
のパジャマの裾から、緑色の草が数本、落ちた。


だけどはまたしてもそれに気付かず、テレビのリモコンを少し荒っぽく操作して、
そのまま真っ直ぐ洗面所に向かったのだった。



(END)




アトガキ

ドリームトリップとでも言うんだろうか、これ(笑)。
因みにジャンはまだカポになってなくて、デイバンに戻ったばっかの頃位のつもりです。
本当は脱獄編位のジャンにしようかと思ったんですけども、
それだといきなりヒロインがジャンに食われて(笑)終わりそうだったんで止めました。
いや、それもそれで美味しいかもしれないけど、話が進まないんですものっ!
と言うことで、今回はこれにて失礼します〜。ここまでのお付き合い、誠に有難うございますvv
Title by 模倣犯心中