空は綺麗な茜色に染まり、それ以上に真っ赤な夕日が浮かんでいる。
が居るこの場所は、学校の校舎の屋上だった。
もう随分前に卒業した筈の、母校の屋上に似ているのは、これがの夢だからだろうか。
よくよく見てみると何となく記憶と違う部分があるから、あくまで似ているって感じだ。
はその片隅にぼんやり突っ立っていた。
金網越しに遠く見下ろせるグラウンドでは、生徒たちが部活に励んでいる。
の周囲に人気はなく、軽く肌を撫でる風が少し肌寒さを感じさせた。
夢の中とは言え、久々に高校の制服のブレザーなんか着てると思うと何か妙な気分だ。
もしかして体も高校の時のだったりするんだろうか。
はそれならもしかしたらと言う期待を込めてブレザーのポケットを探り、
そこから学生時代に愛用していたコンパクトミラーを取り出した。
おお!あるもんなんだ。さすがの夢!
現実では確か今の独り暮らしのアパートには持ってきてないから、
実家の押入れの何処かか、引き出しの何処かに仕舞い込まれてしまってる品物だと思う。
もしかしたら捨ててしまっているかもしれない。
とにかく本来ならどにあるかも分からない物だった。
片手でパカリと鏡を開き、そこに映る自分自身の顔を確認する。
「おわ・・・!?」
何だか微妙に懐かしい、今より少し幼い感じの自分の顔ががまさに現在進行形でしてるであろう表情で、
驚いたようにこっちを見ていた。
あの頃気に入ってたローズピンクのグロス入りの口紅は、
今見るとの顔立ちには何だかちょっと浮いて見える。
は思わず苦笑いしてしまった。
これは、何か、小さい頃の恥ずかしい写真を不意に突きつけられた時の感覚に限りなく似てる。
あの時はこの色が好きだったのは勿論、自分で似合ってると思ってたから気に入ってた訳だけど、
実際今の方が客観的に見える分分かるものだ。
明らかに、似合ってない。
「なぁ、悪い、そこのあんた」
「・・・・・・・えっ!?」
鏡の中の自分に軽いショックを受けていたその最中。
唐突に声を掛けられて、は咄嗟にコンパクトを取り落としそうになった。
「わっ、とと!」
それをどうにかキャッチしつつ、声の主の方に視線を向ける。
そしてそこには。
「・・・・・・・・・・・・・・・え?え?え?えええええ!?」
ロマンティック・
ノスタルジー
ジャンカルロ・ブルボン・デル・モンテ。
その人が、居た。
ど、ど、どれだけジャンが好きなの!?自分!
いや、勿論好きだけど、大好きだけど・・・・!そうじゃなくて・・・!
激しく動揺しながら、は驚きの表情を隠せないまま、
少し離れた場所に立っているジャンを穴を開ける勢いで凝視した。
前回彼の夢を見たのがいつだったのか、ハッキリした記憶はないが、
それでもそんなに前の事じゃないのは確かだ。
時間が経過してても少なくとも1週間は経ってないだろう。
前回、前々回に引き続きまたしてもジャンの登場。
しかも最初の2回は同じ場所の夢だったから、まだほんの少しはそれなりに納得出来る要素があったけど、
今回は本当に心底予想外の出来事だ。
夢だからと言ってしまえば勿論、それは魔法の言葉ではある。
だけど。
「ジャ、ン、さん?」
限りなくぎこちない唇の動きでどうにかそう声を出して彼の名前を呼ぶ。
彼はの挙動不審っぷりと無遠慮過ぎる視線に少し困惑気味だったようだけど、
の声にと同様驚いた様に反応した。
「えっ!?・・・って、あんた、まさか・・・、?なのか?」
「はい・・・、、です・・・」
返事をしながら、はますます大きく瞳を見開いて彼を見上げた。
ジャンだ。
間違いない。
この反応。
このジャンは、前回と前々回、の夢に出て来た、あのジャンだ。
今回の夢だけの、今回限りの夢の登場人物じゃなく、これで顔を合わせるのが
何だろう、こんなこと、夢だけど、夢だからって、あり得るもんだろうか。
「マジかよ!?いや、えーっと、えーっと、けど、、そのさ、あんた、何か前より若くねぇ?」
「はい、どうやら高校生の時・・・学生時代の18歳位の頃の外見に戻ってるみたいです」
「・・・・・それでか。ってことはつまりだ、ここはあんたの昔居た、日本の学校?」
「そこに、似た場所、ですかね。何かよく見たら微妙に違ってたりしますし」
「・・・そうなのか。つーか、あんたもその様子じゃ相当驚いてんだろうけどさ、マジでこんなことってあるんだな」
「・・・・・ホントに、凄く驚きです」
はジャンの言葉に深く頷いて同意する。
まさかでまさかの2度目、あれも十分驚きだったのに、まさかでまさかのまさかな3度目があるなんて。
そして、達の記憶があの時からちゃんと繋がってるなんて、本当に驚くしかない。
「・・・あの、ジャンさん、からも質問していいですか?」
「え?ああ、ハイハイどうぞ、・・・・・・・うん、でも俺何となくあんたのツッコミたい所分かるぜ?」
ハハハ・・・。
乾いた笑いで口元を引きつらせたジャンがそう言った。
そして、自分が今着ている服、白と青のボーダーがとても分かり易い、
いつかの映画で目にした様な囚人服を片手で引っ張った。
「これはナイわよネ」
「が学校で学生の頃に戻るのは分かりますけど、ジャンさん何で囚人服なんですかね」
確かに前に、スーツ姿と同じ位、囚人服姿も堪能したかったなと思ったりしたけど、
まさかこのシチュで彼が囚人服なんて、前回までの草原でスーツより違和感がある。
は無意識に吹き出しそうになるのを堪えていた。
「つーかあり得ねぇし、もう当分着たくねぇと思ってたってのにさ」
やだやだ、と、ジャンは続けてそう言って、深い溜息を吐く。
でも何か可愛いな・・・。
さすがに囚人服が似合ってて可愛い、なんて言えるわけがないので、
内心そんなことを考えつつも、当然口には出さない。
代わりには彼の鎖骨部分にある『CR:5』と彫られたタトゥーを見詰めた。
「いやん、そんなに見ないで!」
ジャンはおどけた口調でそう言って、いつもは肩辺りまで露出させている素肌を隠す様に、
ささっと囚人服を上げなおした。
「本物・・・」
は思わず小さくそう呟く。
本物も何も、現実じゃないのは分かってるけど、でも、
スーツ姿だと見えない位置にある『CR:5』の組織の人間だと言う証を目に出来たことに、
無意識にまたむくむくとはしゃいだ気分がの中で膨らんだ。
もっと大げさに表現すれば、感動と言うのにも、近いかもしれない。
「?あんた、日本人だって言ってたよな?CR:5のこと、知ってるのか?」
「えっ!?あ、はい・・・、まぁ・・・」
夢の中だし、適当に誤魔化せばいいんだろうけど、その誤魔化しが上手く思い浮かばずに、
は何となく視線を泳がせつつ頷いた。
「・・・・・・・・・じゃあ、あんた、俺が」
「ほら、まぁこれ、夢ですから!」
「・・・ってまたその魔法のコトバかよ!」
ジャンの言葉を遮って強引にいつものまとめに入ったに、ジャンは笑いながら言った。
何で、どうしてを突きつめられたら困るのはジャンよりの方だ。
以前にも思った事だけど、ジャンが実はの大好きなゲームの主役だから、なんて話、
ややこしい上に今持ちだして説明したところでどうしようもない。
でも、それより何より、それを口にしてしまったら、今見てるこのリアル過ぎる感覚の夢が、
が『起きる』と言う意味じゃなくて、全部台無しになる様な気がした。
「・・・でもジャンさん、その格好、寒くないですか?」
「うん、少し。ま、でもこの位なら平気だろ。だって男の子だもん」
「の上着、貸しますよ」
「いらね、そう言う事は普通、男がするもんだぜ、
「でも風邪引くかもしれないですし」
「クックック!ねぇだろ!コレ、夢ですから」
ニッと笑ったジャンがが今まで何度か口にした台詞を真似てそう言い、片目を瞑る。
赤い夕日に照らされた彼の金髪は不思議な色に輝いていた。
ほんの一瞬、はぼんやりその綺麗な顔に見とれながら、ああ、本当の本当にジャンだ、
なんてもう幾度目かになる確認をしてしまう。
大好きなキャラが、こんな形でこんなに身近に接する相手になるなんて、
夢だからとは言え、夢だけど、この上ない贅沢な気がする。
「せめて校舎内に入りましょうか?」
「いや、俺はここがいいな。・・・ほら、こっからの眺め、サイコーじゃね?」
そう口にしたジャンが、金色の瞳を細めて夕暮れの空に視線を移す。
赤く染まった夕日は、沈む動きを見せないまま、さっきと全く同じ位置にあった。
茜色の空も、一時停止したビデオの一コマように雲が動いた様子もなく、夜の来る気配は見えない。
完璧な美しい夕暮れを、再現した空がある。
まるで一枚の絵ハガキをそのまま原寸大にしたような、
同時にいつかが見たことのある一番美しい瞬間の夕焼け空を再現した様な、そんな空だ。
「はい、綺麗ですよね」
「そゆこと、しかも隣には可愛い女の子が居るなんてマジでサイコー。あ、けどさ」
そこで彼は一旦言葉を切って、ちらっとの口元に瞳を向けた。
その瞬間、思い出す。
ジャンがの前に姿を現す直前まで思ってた、ローズピンクの口紅の事を。
の容姿には不似合いな、明らかに浮いた唇の色。
瞬間的に唇を覆おうと手をあげかけたところで、それより一呼吸早くジャンの片手でこっちに伸びて来た。
「っ!?」
まるでコマ送りにも似た動きでジャンの手がの唇付近まで移動する。
――――ドッ クンッ
大きくひとつ、の心音が耳に響いた。
それと殆ど一緒に、彼の白くて骨ばった指がの唇を軽く拭うみたいに動く。
「あんた、いつもの自然な唇の色の方が可愛いぜ」
ニッ、と。
どこか悪戯っ子のような顔でジャンが笑った。
ほんの一瞬自分の唇に触れた彼の指の感触に気を取られ、馬鹿みたいに茫然と突っ立っていると、
そこで不意に嫌な感覚が襲って来る。
嫌な感覚と言うのは、目覚めの時が近いと言うあの気配の事だ。
まだ、もう少しでいい、もう少しだけ、この余韻に浸っていた。
が切実にそう願ったその一瞬。
「ジャ、ジャンさん!!あの・・・!」「なぁ・・・、、俺達・・・もし、」
達お互いの台詞が重なり合い、視線がカチ合う。
だけどの願いは、聞き届けられる事はなく―――――――――。
ピピピピッピピピッピピピピッ
「―――――――――・・・また、このパターン・・・」
ピピピピッピピピッピピピピッ
聞き慣れた朝の始まりのデジタル音。
ぼんやり天井を見上げたまま、は苦い気持ちでそう呟いた。
そしていつものように目覚めた瞬間から遠のいて行く記憶を必死に掴み取り、
小さく唸り声を上げる。
またしても、ジャンの言葉を聞きそびれた。
またしても。
だけど、あり得る筈のない3度目の夢を見たのだ。
だったら、少しは期待してもいいだろうか。
次、が、あると言う、可能性を。
ま、夢は夢・・・か・・・。
は小さく苦笑してベッドから抜け出すと、枕元にあるデジタル目覚ましをKOしてやる。
間違いなく今は朝で、テレビを付ければいつも通りの番組があってる。
洗面所に向かう途中、何気なくテーブルに目を向ければ、出しっぱなしの卒業アルバム。
そう言えば、寝る前に高校の頃の友達から久しぶりに電話があり、
この話で盛り上がったんだっけと思い出した。
そして卒業アルバムの最後のページには確か夕暮れ時の校舎を背景に、校歌がのっていたような気がする。
何だかこないだのCMのオチと似た様なもんだな、と自分の単純さに軽く呆れつつ、
は再び洗面所に向かった。
因みに、本来実家にある筈の高校時代、
が愛用していたコンパクトミラーがベッドの下から見つかるのは、この数日後の出来ごとだ。
(END)
アトガキ
他のCR:5の面子は登場するきっかけがない!と思いながらも、
登場させたい気持ちがうずうずと。特にマイラバーの年上組!
でもイヴァンの馬鹿っぷりも(褒めてます)ジュリオのズレた懐き方も(褒めてます)好きだし、
何か機会があったら一人ずつでも出したいなー。
そして今回は微妙に甘さを感じて頂けるラストを目指したんですが、
何やらジャンがクッサイ感じに(笑)。
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様!心より感謝の気持ちを!!有難うございますvvv
Title by 207β