何だか不思議な夢を見た。
大体において夢ってのは不思議でおかしいのが前提ってのは今回は置いておく。
その日の夢はワンシーンワンシーンがぶつりぶつりと切れてて、
はその夢の中で当事者と言うか、登場人物の一人ではなかった。
第三者、と言うよりは殆どテレビ画面に映ってるドラマを見てるような感じだ。
出てくる場面は時間も場所もバラバラで、
まるで見所だけを集めた映画の宣伝よろしく殆ど短時間ですぐに次の場面へ切り替わる。
そして、ここが一番重要なんだけど、そのぶつ切りのワンシーンには漏れなくCR:5の幹部の姿があった。
ジャンは勿論、ベルナルド、ルキーノ、ジュリオ、イヴァン、そしてボス・アレッサンドロまで。
今思えばあれかもしかしたら、の夢に何度も出てきたあのジャンの、ジャン達の様子だったのかもしれない。
夢の始まりは突然だった。






揺れる天秤









―――ガゥン・・・ガンッガンッ


幸い治安のいい日本の一般市民なは今までの人生の中で、
銃声なんてドラマや映画でしか耳にしたことはなかったけれど、
が想像するよりもそれはずっと音が鋭く周囲に大きく鳴り響いていた。
廃墟のような建物が幾つか立ち並んだ暗い路地裏。
月明かりに照らされて見える建物の造りや辺りの様子から、は瞬間的にここが日本じゃないらしいと察した。
数人の影と石畳を駆ける足音や声が銃声と混ざって近く遠く聞こえる。
そこでの意思とは関係なく、の視界はゆらゆらとその周辺を見回すみたいに動いた。
そして、のすぐ間近。


「ファック!GDのクソ共が!調子こきやがって!!」


突然、聞き覚えのある声が忌々しげに吐き捨てるようにそう言うのが聞こえた。


イヴァン!!


咄嗟にが彼の名前を口にしたところで、ふっと周囲の様子が一転した。
イヴァンの姿を目に出来なかったことを残念に思う暇もない。
今度はさっきとは真逆の朝の時間帯らしかった。
目の前に真っ白な光が広がり、ようやくそれに目が慣れてきたかと思うと、
ふわりと白いカーテンが間近で揺れてることに気付く。
その後まるでカメラがゆっくりと引いていくように、室内の状況が見て取れるようになった。
同時に色々な音色の電話のベルの音が幾つも重なっての耳に飛び込んでくる。
窓のまん前にある大きく広めの木の机には、沢山の電話が所狭しと並べられていて、
その片隅にタイプライターのような物が置かれていた。
因みにどの電話も日本製じゃないし、その上今のの世界じゃアンティークと呼べるかなり昔のものだ。
この夢を見てる時は特に深く考えてなかったけど、
ジャンの居る世界は1932年の禁酒法の時代のイタリアだ。
にとってその場にある見るもの全部がアンティークなのは全く不思議じゃない。
そして机の前に座って忙しく電話を取っている人物がいた。
言わずと知れたCR:5のNO.2、ベルナルド・オルトラーニその人。


「何!?・・・それは確かな情報なんだな?・・・フハハッ、ああ、分かった。
いいだろう、こっちはもうぎりぎりだからな、どちらにせよこれ以上待つのは逆に危険だ」


電話を取った直前まで緊張した面持ちだったベルナルドは、電話口の相手の言葉に笑みを漏らしていた。
どうやらそれは彼にとって、いや、多分、『CR:5』にとっていい情報だったらしい。
それからベルナルドはその電話の相手に手短に指示を出して電話を切り、また別の電話に手を伸ばした。
そしてまたそこで唐突に、場面が変わる。


「・・・では、交渉成立、と言うことで宜しいですね」


数人の部下を後ろに控えさせ、いかにも上質そうな大きなソファに座っているルキーノが、
そう言って柔らかく、けれど真摯な瞳で笑みを浮かべている。
初めて見る等身大の彼は、本当に惚れ惚れするほど男前で、そして同時にぞっとするような迫力があった。
窓のない室内にはバーに似た雰囲気のほんのりした明かりがついてる。
ここがどこで、時間帯はいつなのか、イマイチ予想が出来ない。
どうやら相手はかなりの地位に居るイタリア系の年配の男性のようだ。、
は彼の顔に見覚えはないので、多分、ゲームの登場人物の中には居なかった人間だろう。
がその先を考えるより前に、次の場面へ移っていた。
一見監獄の牢屋内のようにも見える、冷たい石壁の地下倉庫。
無造作に積まれた木箱や南京袋がそこかしかに置かれているのが見えた。
そしてその床に、明らかに木箱や南京袋とは違う、何かが横なっているのが分かる。
それが何かを確認したかったけど、この夢はの思い通りに動いてくれる夢じゃない。
なので、さっき言ったようにの意思とは関係なく、視線が別の場所に飛んだ。
この地下倉庫唯一の出入り口らしい所だ。
そこから足音も立てずにこの場から去って行く人影。
長身でモデル並みにスタイルのいい細身の青年の後姿を目にし、
はついさっき床に倒れていた『何か』が何なのか瞬間的に悟った。
今回はさすがに強引に視点変えされたことに心底感謝する。


「ジャンさん・・・、俺、必ず・・・あなたを、守ります・・・」


この陰湿な場に不似合いな純粋で透き通った声でそう呟いて、
ジュリオはそこから姿を消した。
同時に何度目かの場面転換。
そしていきなりガラの悪いなんてもんじゃないいかにも性質の悪いタイプの男が二人、
の目の前にどーんと現れた。
当たり前だけど日本人じゃない。
相当ガタイのいい強面な、いわゆるギャングってヤツだろう。
映画や海外ドラマでみるような、だけどその倍以上は危険度の高そうな男達。
その二人は、突然現れて、そしてまた突然床に崩れ落ちた。


「・・・オヤジ、やっぱあんた・・・、マジもんの化け物だわ」
「フン・・・抜かせ。それより急ぐぞ!今ので他の連中も気付いただろうからな」


ギャング二人が倒れてすぐにの視界がジャンを捕らえる。
それとほぼ同時にどくりと心臓が強く胸を叩いた気がした。
場面が変わる度大好きなキャラ達を目にして、それなりに喜んだりしてた訳だけど、
そう言った類の気持ちとは違う、
何と言うか、もっと体全部を鷲掴みされるみたいな衝撃的な強い感情だった。
の激しい動揺を無視し、夢は今も普通に続いてる。
いかにも筋肉質で大柄な男性、CR:5のボス・アレッサンドロは、
ジャンと並んで長い廊下を走りながら、少々呆れ気味な表情で彼を見て言った。


「お前こんな時にまでガムなんか噛んでんじゃねえよ」
「ま、そう言うなって、オヤジ。このガムはトクベツ製なのよン」


その場の緊迫した雰囲気とは裏腹に、いつものように悪戯っ子みたいにニっと笑ってみせるジャン。
どくり、と。
彼の台詞に、またしてもの心臓が凄い勢いで胸を叩いた。
いや、さっきよりもっと強かったかもしれない。
それこそ胸を突き破りそうな勢いだ。
彼が笑って答えた、トクベツ製のガムとやら。
もしかして―――
そこでどこからかドカドカと数人の足音が下品な罵声と一緒に近付いてくる。
ジャンは表情を一転させ眉間に深くしわを寄せると、小さく舌打ちをした。


「チッ、おいでなすったか!GDのくそったれ共!!」
「おい、ジャン、逃げ道は確保してあるのか?」
「任せとけ!・・・っと言いたいところだが、確実にイケるかどうかは自信ねえんだよな・・・っとお!?
ファンクーロ!!オヤジ、話は後だ!前からも来やがった!!」


彼の言葉が終わるか終わらないかの内に、
二人の道を阻むように大柄でどう見ても悪役顔な男達が三人、姿を見せる。
マフィアにギャング。
どっちも呼び方が違う程度の認識の一般人にとっては悪役に違いないけれど。


「バカが!!この人数相手に逃げられると思ってんのか!?」


既に塞がれてしまった前方。
そしてほぼ数秒遅れで後方にもGDの下っ端たちが雪崩れ込んでくる。
つまり、ジャンとアレッサンドロはGDの連中たちに完全に逃げ場を抑えられてしまった。
最低最悪、絶体絶命の状況。


ふつり。


そこで、突然、今までがそうであったように、容赦なく唐突に、その夢は終わりを告げた。
まるでテレビの電源を切った画面のみたいに、目の前は黒で覆われる。
時間帯や話の繋がりが全くバラバラだったこともあり、
一体彼らはどうなってしまったのか全然予想が付かない。
いや、最後のジャンとアレッサンドロの状況から見ると、嫌な方向にしか思考回路が傾いてくれなかった。
いつもの目覚ましのデジタル音より早く目を覚ましたは、
ベッドに横になったまま、ただただ天井を呆然と見つめていた。
さっきまで見てた夢の内容は、の知ってるどのルートとも違う。
バッドエンドの落とし穴は、いつだって大きく口を開けて待っている。
だけど、信じると決めたから。
CR:5の幹部、誰一人欠けることなく、ジャン達はきっとこのGDとの抗争に片を着ける。
に出来ることは祈ることだけだと、知ってるじゃないか。
それさえ止めてしまったら、諦めてしまったら、それで終わりだ。
は大きく深呼吸をして、それからゆっくり体を起こした。
いつもより30分早い朝。
今日の目覚まし音はオフにする。
ジャンが前回の夢の終わりに口にした「明日」が、一刻も早く来るように。
それだけを祈りながら、は仕事に行く準備を始めた。


(END)





アトガキ

まずは、沢山の拍手とコメントありがとうございました!!!
ここに来て下さった同士様を逃すまいと必死に次の話を執筆(マイナー特有の焦り)
しましたが、今回はジャンと夢主の絡み一切なしという・・・、すみません。
単に他の幹部出したかったという理由じゃないんだあああ!
何気にジャンとアレッサンドロの会話書くの楽しかったです。
ではでは、ここまでお付き合い下さいました姫様!!猛烈感謝感激雨霰×10でございます!
ドマイナーだし年単位で間が空いても一話進められればいいか程度の気持ちだったので、本当に嬉しいです。
大変有難うございます、失礼致します!