気が付くと、とても見慣れた天井をぼんやり見上げてる状態だった。
いや、見上げてるって言うか、普通に自分のベッドで仰向けになってる形だ。


「?」


だけど、何だろう。
微妙に、違和感。


と言うか、何ではこんなベッドの隅っこに寄ってるんだ。
シングルベッドとは言え、そんなに狭い訳じゃないし、寝返りだってある程度打てる大きさだ。
なのに―――


「あらン、ようやくお目覚めなのね、ハニー」
「・・・・・・・・え?」


違和感の正体を確かめるため、まずは体を起こそうとしたんだけど、
その前にのすぐ隣から聞き慣れたふにゃっと力の抜けた声がした。
は反射的に飛び上がりそうなほど体を震わせて隣に顔を向ける。


「!!!???」
「よぉ、、何か俺から声掛けるのパターン化しちまってるよな」


視線の先にはと同じベッドで横になって、半分だけ体を起こしてるジャンの姿がある。
ニッと笑った彼はいつも通り、いや、何故か妙にご機嫌だ。
ジャンとが顔を合わせるのはこれで5度目。
そう、だけどそれは夢の中での話し。
だけどここは、このベッドは間違いなくのもので、
きょろきょろ見回した部屋の中もどう見てもの一人暮らしのアパートの一室。
生活感溢れるのお部屋。
もう一度隣に視線を向ける。


「・・・・・」
「おーい、さーん?」

の様子がおかしことに気が付いたジャンが、少しだけ体を傾けてこっちに近付いた。
その瞬間にふわりと石鹸の香りに混じってタバコの匂いがした。


「おいおい、マジでどした?」
「え?え?・・・え?だ、だってここは・・・・・・」
?」




瞼に塗られた幸運の色









「何での部屋にジャンさんが!?」


ぐるぐる混乱した頭でもう一度は目の前のジャンの姿を確認し、
更に室内を見回し、全然冷静になれないままそう口にする。
だってここはどっからどう見てもの部屋だ。
現実の部屋、そのもの。


「へぇ、ココあんたの部屋なのけ?道理で見たことないモンが色々置いてあるワケだ。
ってか、ジャポーネってもしかして想像以上にスゲェ国なんじゃ・・・。
っと、その前にだ、、あんたもしかして勘違いしてないか?」
「え?」
「いつもと同じさ、これは夢だってこと」


苦笑しつつジャンはそう言って、視線で窓の外を示す。
ベッドからもすぐに見える位置にある見慣れた窓のカーテンは何故か全開になってる。
当然だけど、夜はちゃんとカーテンをしてるし、今日だって間違いなく閉めた。
これじゃこっから外もよく見えるが、同じほど中の様子も丸見えになってしまう。
なんてことを考えたのも一瞬、まず、窓の外の空は薄っすら濃紺色に染まり、
紫が混ざってグラデーションが出来ている。
日が殆ど落ちかけた夕方みたいだ。
室内の電気は付いてないけど、カーテンが全開になってるからか薄暗い程度でだった。
が寝てるのは夜だから、その時点でおかしい。
更に、外に広がる風景。
いつもそこから見えてる道を隔てた隣に立っているオシャレチックなマンションは跡形もなく、
ちらっと見えてるレンガ造りの建物には全く見覚えがない。
そこではやっと、本当にやっと、ジャンが言ってる意味、
と言うか、彼がの部屋に居る意味が分かった。


「夢・・・いつもと同じ」
「そゆこと〜。もっと言うなら、こっから見えるあの建物、
デイバンの港に並んでる倉庫にソックリなんだぜ。って、ちゃんと確かめたワケじゃねえけど」


ここが現実世界じゃないことに内心ホッとして、ジャンの言葉に軽く頷いていたは、
そこでふと我に返った。
夢の中とは言え、こんなに自分の部屋がリアルに再現されてるのは、
自身がよく知ってる場所だからだろう。
だから妙に生活感まであって現実味があったってことだ。
それはまぁ、理解できた。
だけど、そうじゃなくて、そこじゃなくて。
この場所にあの大天使とも思われる我等がジャンカルロが居ることの不自然さ。
夢の中とは言え、美青年系イタリア人な彼が、の部屋にいることの奇跡。
この際、それもちょっと置いておく。
そう、そこでもない。
いや、それは非常に大変とても重要だけど、だけど―――


「・・・」
「おーい?もしもーし、今度はどうしたんだ?まだ何か気になることがあるのか?」


寧ろジャンは気にならないのかと申したい。
と言うか、この状況で何にも感じてないんだとしたらやっぱりショックだ。
この状況。
つまり、同じベッドで殆ど裸同然みたいな格好で一緒に居ること。
そうだ、今更だけど、本当に本当に今更だけど、何でかは下着姿だった。
しかもの一番お気に入りのちょっと可愛らしいデザインのブラとパンツ。
ジャンは上半身は間違いなく裸。
綺麗な鎖骨のラインに『CR:5』の刺青がしっかり見えてる。
下まで確認する勇気はない。
自分の部屋そのままの場所でこんな状況なんてある意味現実さと非現実さが入り混じって、
恥ずかしいなんてレベルじゃない。
その上前回の夢の終わりのことまで思い出し、の心臓が急激に爆音を上げ始める。
のベッドは一人だと広々使えるけれど、イタリア男なジャンと一緒だと何だか妙に狭く感じた。
それに、さっき彼が距離を詰めてきたから、
布団やシーツを通じてだけじゃなく、相手の体温を感じ取れてしまう。
肌が触れ合ったりはしてないのに、そんなことばかりに意識は集中した。


?」
「あ!あの!今日ってジャンさんにとっては5日目ですか?」
「ん?あ、ああ、そうだな」


視線を激しく泳がせていたが突然ジャンと目を合わせて急に今までとは全く違う話題を口にしたからか、
彼は少し面食らった様子で頷いた。
それからあの綺麗な金色の瞳をふっと細める。


「あんたの言ってた通り、色々厄介でクッソ面倒なことは次から次へと起きてっけど、
俺も仲間もイマントコはどうにか踏ん張ってるよ。だからこうして会いに来られたってワケ」
「・・・5日目・・・、じゃあ・・・」


もう少しで、GDとの抗争に片がつく。
だけど、当然まだまだ気は抜けない時期だ。
ジャンのラッキードッグとしての幸運、それから他の『CR:5』との絆や組織の掟。
にはそのどれも現実味のないものだけど、彼にとってはその全部が現実で今すごく必要なもの。
こういう言い方をするのは、何だか打算的かもしれない。
でも、ジャンが無事であってくれるなら。
ついさっきまでジャンと同じベッドに居ることを意識しない為に何か話題を、
なんて下らないことを思ってたのに、今この時はそんなことは頭から飛んでいってしまっていた。
デイバンに戻って5日目。
彼にとっての正念場はこれからでもある。


「あの、、次も待ってますから。ジャンさんや皆さんが無事で居ること、祈ってます」
「・・・・・・」
「いつまでこの夢が続くのか分かりませんけど、
・・・それでもせめてジャンさんが今の窮地を乗り越えるのを見届けたいです」


出来るなら、彼がボスの座に着くまで、ううん、もっとその先もずっとこうして会えればいいと思ってる。
だけどそれが叶わないなら、せめてが知ってるあの画面越しの組織のピンチを乗り切って、
彼がファミリーの皆と笑ってるんだって確認できるところまでは見てたい。


「・・・、あんた、一体どこまで知ってるんだ?」
「え?・・・それは・・・えっと、・・・」
「あー!いーや!やっぱ答えなくていい!」


彼がそう言ってくれてホッとした。
さすがに彼に本当のことを全部告げる勇気はない。
だからってここまできて適当な嘘を吐くのも何だか嫌だった。


「・・・
「はい」
「俺が今日もこうしてあんたに会いに来られたのはさ、やっぱ前回のアレが効いてるからだと思うんだよな」
「・・・前回の・・・、・・・っ!!


そこでまたまたまたしても突然、ジャンの発言によって今の達の状況を思い出す。
今のこれや前回のあれのことを考え過ぎて変に意識しないようにしてたのに、
ジャンがぐっと距離を詰めてきた。
同時に、布団の中で彼の片腕が動いてを自分の方へと引き寄せる。
一瞬本気で口から心臓が飛び出してジャンの顔面にぶち当たった位の感覚があった。


「・・・あ」
「もう一回同じおまじないをさせて貰えたら、
俺はあのくそったれな厄介ごとの中でも不死身になれちゃうと思うんですけどね?シニョリーナ」


ジャンはいつもより少し声を落として囁くようにそう口にする。
直にの肌に触れてる彼の手が皮膚の上をくすぐるみたいに動いてた。
彼はベルナルドの手の動きをいやらしいと表現してたけど、自分だって全然負けてないじゃないか。
の心臓も思考回路も爆発寸前。
これは夢だけど、こんなところまでに大サービスみたいに夢見たいなことしなくていい。
今ここに居るジャンとは出来るならこの先もずっと会えればいいと思ってるし、
彼の現実が順調に進んで行くことを祈ってるのは本当だ。
だけど、これは恋じゃないはず。
だって彼はにとって現実じゃないし、大好きなのには変わりないけど、
それなら他のCR:5の幹部にだって同じような感情を持ってる。
そうだ、これは恋じゃない。
あれだ、イケメンに迫られるなんて自分の世界と言うか現実じゃあり得ないから動揺しまくってるだけだ。
そうだ、そうに違いない。


それに、それに・・・!!


この数秒の間、の思考回路はぐるぐるぐるぐる凄い勢いで回っていた。
勿論、混乱してるって意味だ。
彼に引き寄せられた分だけ埋まった距離が、お互いの肌が重なるところまで来てしまってる。
画面越しだと(人種の違いだけでなく)色白で細身に見えた彼は、だけどしっかりと男の人の筋肉がついていて、
押し当てられた胸板は予想以上に硬さを帯びていた。
気のせいか、少し彼の体温が高く感じる。


「ハーイ、時間切れ〜」
「ジャンさん!!その前に聞きたいことが!」


ニヤリ。
笑った彼がの唇に自分の唇を重ねようとしたその瞬間。
はそう叫んでいた。
ジャンは動きを止めてくれる。
が焦って不自然に大声を出したものだから、彼は吹き出すのを堪えていた。


「へいへい、ナンデショ?」
「・・・ず、ずっと聞きたかったんですけど、2回目と3回目に何か言いかけてましたよね?
いつも聞きそびれてたから、聞いておきたくて・・・!」


このタイミングで思い出したのはちょっと微妙だけど、でもずっと聞きたかったのは嘘じゃない。
ジャンはの質問におんや?と言って首を傾げ、それからすぐにああと一人、納得した。


「?ジャンさん?」
「もしも出来るなら、次もあんたに会いたいって言いたかったんだよ」
「え?」
「ははっ、確かに2回とも最後まで言えなかったけど、結局4回目に会った時、
あんたから同じようなこと言ってくれただろ」
「あ・・・」



―――出来るなら明日も明後日もまたこの夢を見て欲しいんです。


彼の言葉で思い出す。
が口にしたその台詞を。
間近にあるジャンの唇がニッと端を上げて笑う。
も無意識に微笑んでいた。



「は、はい。え?あ、ちょ、ちょっと待ってくだ、」
「これ以上焦らしちゃ、イヤン」


おどけた口調でそう言って、その口でジャンはの唇を塞いだ。
いつの間にかさっきよりも強く彼の腕の中に引き寄せられてて、
キスをしたのと同時に必然的に上半身同士がピタリとっくつく。
しなやかで硬さのある彼の肌は、吸い付くようにの肌と重なっていた。
ジャンがと触れ合わせた唇をやわからかく食む。
その何度目かにちゅぷ、と小さく音がした。
それを合図に僅かにが唇に隙間を作り、そこから彼の舌が入り込んでくる。
そしての太ももを割ってジャンの下半身が密着してきた。
思わずビクッとの体が震える。
これだけ密着してしまうと、ジャンのものが硬く昂ぶってるのが分かってしまった。


「んっ、じゃ、ジャンさん・・・」
「スマン、・・・無理やりエロいことしたりしねえから・・・もう少しだけ・・・」


言い終えるか終えないかのタイミングで、彼はまたにキスをする。
画面越しに見た時は確かルキーノがジャンの唇を小さい口だと言ってた覚えがあるけど、
にくらついてる彼のものはそんな可愛らしい表現には収まらない気がする。
ジャンは元はノンケだし、可愛い格好いい顔してるし、イタリア男だし、
ルキーノに届かないまでもある程度女の扱いには慣れてそうだ。
実際彼自身も女受けがいい顔だと自覚があるはず。
表情や仕草ひとつひとつに、ぞくぞくする色気がある。
それこそ、女のよりずっと。
口内で絡んだ舌が二人分の唾液の中で強弱を付けて吸われる。
その度にくちゅり、ちゅくりと粘着質な水音が聞こえ、の鼓膜をくすぐるみたいに刺激した。
ジャンと密着してる肌と肌がどんどん体温を上昇させてるのが分かる。
体の中心から、じわりともどかしい痺れを感じた。
前回のキスよりもっと長く濃厚で、絡めた舌から蕩けそうな甘ったるい錯覚に陥る。
幾ら夢の中とは言え、自分の部屋そのままのこの場所で彼とこんなことをしてるなんて信じられない。
非現実的なのかそれとも逆にすごく現実的なのか、もう頭は色んな意味でグチャグチャだ。


「なぁ・・・、、あんた今・・・、スゲェエロい顔してんだけど、
もしかして・・・俺のキス、気持ちイイ・・・?」


唾液をゴクリと飲み込んで、濡れた唇を重ねたまま、ジャンは笑い混じりににそう聞いた。
そんなの、答えられる訳がない。
下着越しにジャンのものとの両足の付け根が擦れ合って、ねっとりと湿り気を帯びてるのが分かる。
彼がほんの少し脚を動かした瞬間に、ぐりとその部分が押し付けられて薄い布を押し上げられる感触がした。
今すぐ逃げ出したいほど羞恥心が膨れ上がってんのに、
それ以上に彼のキスに夢中になってる自分が居る。
ジャンは気付いてる。
も、彼と同じほど興奮してること。
気付いててわざとそんな意地の悪い質問をしてるのだ。


「・・・エロっ!?・・・き、聞かないで、くださ・・・」
「なんで?俺は気持ちイイぜ・・・。あんたの唇・・・全部食っちゃいたい位に」
「・・・、っ、く、クサイ台詞」
「ハハッ、実は俺も・・・チョット恥ずかしい台詞な自覚あったわ」


ジャンはズルイ。
こんな時まで、彼はやっぱりジャンカルロだ。
画面越しに見てた以上に、男前で可愛らしい。
そのことが今は恨めしかった。
これは夢なのに、どう考えても夢なのに、細かい一つ一つの感覚が夢とは思えないほど現実的だ。
泣きたいくらいに。


「は、でも・・・そろそろマジでヤバいから、今日はこの位でやめとくか・・・」


ちゅ、と、軽くの下唇に吸い付いたジャンはそう言って熱っぽい瞳で笑った。
笑った、と言うか、実は余り笑えてないんだけど、多分、笑ったつもりじゃないかと思う。
はこの状況で引いてくれたことにホッとしたような、ガッカリしたような、複雑な気持ちだ。
だけどどうせ夢にしか出てこない相手なんだからといい加減な扱いをして強引に先に進もうとしなかったことに、
ジャンのへの気遣いを感じた。
彼にとってもにとってもこれは夢。
夢なんだから、深く考えずに突っ走ることも出来たはずだ。
でもジャンはそうはしなかった。


「アー、こりゃまた起きたらチ○コしずめるの大変だな・・・」
「え?」
「いんや・・・何でもねぇ・・・」

こんなに間近に居るのに余りにも小さく呟かれたから彼が一体何を言ったのか全然聞こえなかった。
タハハっと力なく笑ったジャンはそこでベッドから抜け出し、その隅に腰掛ける。


「ジャンさん、布団から出ると寒いんじゃ」
「ヘーキだ、つか今は少し寒いくらいの方がいいカモな。色んな意味で」
「?えっと」
チャンはきにしなくていいのよん」


そこでジャンは苦笑しつつ、の髪に手を伸ばす。
は何となく彼の体の事情を察したけれど、取り敢えず気付かなかったことにした。


「なぁ
「はい?」


「いつかあんたに、直接会えればいいのにな」


小さく呟かれたジャンの言葉に、の心臓がどくりと大きく脈打つ。
さっきまでの暴走めいた心音とは違う。
がジャンに彼には彼の現実があると考えているように、彼も、を単なる夢で出会う登場人物じゃなく、
一人の人間として扱ってくれているんだと今更ながら実感した。
そのことがたまらなく嬉しい。
だからこそ、胸の奥がぎしりと軋んだ。


―――だってそのいつかは、きっと永遠に来ない。


「そう、ですね・・・」


ぎこちなく返したに、ジャンが少し困ったように笑った。
何故だろう。
その表情を見て、彼も本当は分かってる気がした。
勿論、自分がゲーム上のキャラだってことって意味じゃなくて、ただ、
例えジャンが海を渡って日本に来たとしてもと会えないことを。


「・・・・ジャンさん」
「ん?」
「そのジャンさんの座ってる右の足元にバッグがあると思うんですけど」
「?ああ、あるぜ」
「その外側のポケットの中、探って貰っていいですか?」
「はいよ」


またしても突然話題を変えたに特に気にした様子もなくジャンは応じてくれ、
が言った通りに足元にあったバッグのポケットに手を突っ込んだ。
ここが現実のの部屋の通りなのはもう分かってる。
だから、そこにバッグがあるのも不思議じゃない。
でも、これはあくまで夢。
こんなことに意味はないのかもしれない。
だけど、例えば三度目にジャンと会ったあの時みたいに、
高校時代に使ってたコンパクトミラーが今ののこの部屋のベッドの下で見つかった、
あの不思議な出来事のようなことが起きるかもしれない。
いや、起こって欲しい。


「!なぁ、ポケットの中に入ってたコレ、もしかしてバブルガムか?」


ジャンがそう言って差し出したのは、透明の小さな袋に一粒入った黄色のガムボール。
つい最近、ふらりと立ち寄った駄菓子コーナーで見つけたものだ。
最初はただ眺めて終わるつもりだったのに、いつの間にか幾つかレジに持っていってしまってた。
が食べたのはオレンジ味で、久しぶりに口にしたガムにしては結構上手く膨らませられた。
後3色位種類があったはずなのに、彼が確認もせずにつまみ出したのはレモン味。
つまりジャンの好きな黄色、そしてよく膨らむってのはの保証付きだ。


「はい、良かったら、どうぞ」
「くれるのけ?」
「はい」
「・・・Grazie(グラッツェ)、。んじゃ遠慮なく」


片目を瞑って笑った彼は、嬉しそうにそういった。
その時。
今まで一度も感じたことはなかったけど、今回は何故かもうすぐ目を覚ましてしまうと言う予感がした。
理由は全然分からない。
だけど考えてる暇はない。


「ジャンさん」
「ん?」


は布団を胸元まで引っ張り上げて、上半身を起こした。
それから、ベッドの端に座ったままのジャンの片手にそっと自分の手を重ねる。



「もう一度言わせてください。、ジャンさんと次も会えるって信じてますから。
ジャンさんのファミリーと絆で幸運を引き寄せて、今のくそったれな状況から抜け出せるって。
は明日も明後日もあなたの夢でこうして会いたいです」
「・・・俺も同じキモチだ。ダイジョーブ、あんたに『協力』して貰ったし、それに俺はこう見えて・・・」

一瞬言葉を切った彼が、と視線を絡める。
その時、は彼が何と続けようとしてるのかを瞬間的に察した。
は大きく頷いて、笑顔を向ける。



「ラッキードッグ、待ってます」



ほんの数秒ジャンが驚いたようにを見つめ、そしてと同じように笑った。


「A domani!(アドマーニ)
(また明日)



ピピピピッピピピッピピピピッ


今日は休日だから、いつもより遅めの時間に目覚ましをセットしていた。
一度開けた瞼を再度閉じ、そしてまた開ける。
念の為に自分の体を見下ろして確認したけど、当然のように普通にいつものパジャマ姿だ。
視線を窓に移してみると、こっちも当然のようにちゃんとカーテンが閉まった状態。
それでも朝だから光が差し込み、夢で見たときより室内は明るい。
体を起こして、ふと、自分が妙に壁際に寄ってることに気が付いた。
これはまぁ、寝てる間に寝返り打ってってこともある。
それよりももっと気になること。
は小さく喉を鳴らして唾を飲み込み、
ベッドのすぐ側に置きっぱなしにしてあったバッグを掴み上げた。
そのポケットに手を突っ込んで、中に入ってたガムボールの包みを3つ取り出す。
ストロベリーの赤、メロンの緑、ソーダの青。
ポケットをもう一度がさごそ乱暴にかき回してみたけど、どう見ても何も入ってない。
間違いない、なくなってる。
一色ずつ買ったはずのガムボールは5個。
オレンジ味の橙色はが最初に食べた。
そしてポケットに残ってたのは、本当なら後4つ。
跡形もなくなってしまった色、それは―――


「・・・き、黄色、レモン味、なくなってる・・・」


奇跡だ。
奇跡、起こしてしまった。


夢の記憶は今も鮮明で、ジャンの肌の熱さや筋肉の硬さ、
それに前回よりも濃厚だったキスの甘さも全部全部覚えてる。
何より、最後に彼が見せてくれた笑顔は、思い出すと何故だか泣きそうな気分になった。
これで実はガムボールのレモン味は最初から買ってなかったとか、
そもそ前回のコンパクトが発見された件もの勘違いとか、
そういうオチがあったら痛いどころの話じゃない。
重症すぎる。
それこそ頭おかしい。
コンパクトの方はもしかしたら本当にもしかしたら、の記憶違いってこともあるかもしれないけど、
今までベッドの下を掃除した時あんなものは落ちてなかったし、
少なくともガムボールの種類は財布の中にレシートと言う証拠が残ってる。
そうだ、つまりの妄想の産物なんかじゃない。
でもだから怖くて、不安で。



――――――ラッキードッグ、待ってます。



夢の中で彼に告げた台詞を、心の中でもう一度繰り返す。
に出来ることなんて、祈ること位だ。
所詮夢は夢なんて、もう笑えない。
夢の世界でしか会えない人だけど、彼はきっと、幸運を逃がさない選択をしたラッキードッグだ。
仲間を信頼して、幸運を呼び寄せる、オヤジ転がしで皆から愛されるカッコ可愛い男前の、
天使なジャンカルロ・ブルボン・デル・モンテ。


きっとそうだと信じてる。


(END)






アトガキ

今までで一番ながあああああ!?ということで、前回の話更新した際に、
久々に見る拍手数でこれは同士様からのご褒美だと勝手に解釈して執筆しました。
単純で申し訳ないです\(^0^)/そしてあとがきじゃねぇなこれ(笑)。
微エロに突入するとノリノリになりすぎてあかんかったです。
ジャン受けは至高ですけど、男前で攻めのジャンが書きたかった。
結局中途半端に止めましたけど、夢主が想像する以上にジャン頑張ったと思います 笑。
ジャンも女の子相手だとちょっとクサめの口説き文句口にしそうだ。
あくまで個人的なイタリア男へのイメージですけどね。
他の幹部出したいと思ってましたが、話の流れ上無理だと断念。
IF的な感じで他の幹部がお相手だったら、みたいなのも書いてみたいな(言うだけはタダ^^^)
ではでは、今回ここまでお付き合い頂きました姫様!!感謝、感謝、でございます。
失礼いたします