傷口に生クリーム
自分がここらじゃ珍しい人種の人間だって事くらいは理解してるつもりだ。
CR:5の幹部様方に限らず、
男装姿のを10代そこそこのガキンチョ(♂)だと思いこんでる人間が多いだろうってのも確か。
欧米人に比べて東洋人は若く、と言うか幼く見えるんだってことも、ここ居れば嫌でも分かる。
分かり易く言えば身長差が有り過ぎるって部分や、顔立ちの違いなんかなんだろうけど。
だって本来は日本に戻れば特に小さいと言われるほど目立って身長が低い方じゃない。
体つきだって、そりゃバンキュッボンからは程遠いけど、
男装仕様じゃなければ幼児体型とまではいかない――――筈だ。
きっと、多分。
とは言え、だからって自分がベルナルド・オルトラーニの隣に堂々と並んで立って居られる自信があるのかと言うと、
それは限りなく微妙なところだった。
と彼が一緒に居て、
周囲から恋人同士だと見られる確率からして低いだろうことなんか安易に想像できるし、
それもまぁ、仕方ない事だとは思っては居る。
こんなことこっぱずかし過ぎて本人には言えないけど、ベルナルドはその位に男前なのだ。
外見は勿論、中身も、ルキーノとはまた違う魅力で女たちを惹きつける。
だから、あの日、彼女たちがそんなベルナルドの隣に立ってるを見咎めたのは仕方ない事だったのかもしれない。
ベルナルドはイヴァンやルキーノに比べて自分のシマの中でもカタギの人間にまで顔が知られてる訳じゃない。
彼の仕事の殆どは電話線の海の向こうにある電話の山の中で鳴り響くベルと一緒に行われるからだ。
勿論重要な交渉ごとなんかも任されてるし、外出する機会がないってことじゃないけど、
それはあくまで裏で行われてる事。
ルキーノ達の様に表だって行動を起こして、カタギな人々と接触したりすることは滅多にない。
ベルナルドの仕切りの店に出入りしている人間でさえ(従業員も含めて)、
彼がどう言う人物なのか理解してる人間は少ないと思う。
それでもベルナルドが女たちの目を惹いてしまうのは、
そりゃまぁ、当然と言えば当然なのかもしれない。
その日、は今までも何度か連れて来られたことのあるベルナルドの仕切りの店に来ていた。
勿論、彼もいっしょに。
だけど店に入って席に座るより早く、
ベルナルドは部下の一人に何事か囁かれて席を外している所だった。
「ねぇ、今のシニヨーレ・オルトラーニじゃない?」
「ええ、今日は付いてるわ。最近は余り顔を見なかったんだけど・・・」
ひそひそと交わされる会話は女の声のもので、
どうやらが案内されたテーブルの斜め後ろ辺りの席から聞こえるらしかった。
店内を見回すふりをしつつほんの一瞬ちらりと視線を向けると、
綺麗所なお姉さま方が三人ほどこっちを見ている。
「あの子、連れよね?何だか可愛らしい坊や」
坊やと来ましたか!
いや、もう慣れてるけどさ、分かってるけどね・・・!
今のは男装姿なので、不本意ながらこう言う反応にも慣れている。
「チャイニーズかしら?・・・あら?・・・でも私、あのコ何だか見た事があるわ。
・・・・・・・・・・以前にもシニョーレ・オルトラーニと一緒だったような・・・」
「っ!ちょっと、待って、そう言えば・・・。
間違いないんじゃないの、だって私もみたことがあるもの・・・、凄く親しそうに話してるの」
「・・・そうなの?」
そこで彼女たちが三人揃って沈黙し、を品定めする様な視線を送って来てるのが分かった。
この空気は余り頂けない。
『女』が放つ独特の、とても嫌な視線だ。
向こうはを『坊や』だと言ったけど、
何だか一気に有る意味『女』としての立ち場的な敵視をされてしまった気がする。
「シニョーレ・オルトラーニってもしかして・・・、
「まさか!でももし万が一そうだったとしてあの坊やが彼の?・・・・・ないわよねぇ?」
ぐっさぐさ、ぐっさぐさと、三人の美しきお姉さま方は容赦なくに視線を突き立てる。
しかも会話内容は間違いなく攻撃的になっていた。
店内には他に客だって居るし、意識して耳を傾けなけりゃこんな話が聞こえる事もない。
周囲が騒がしいって程じゃないにしろ、内容が内容だけに相手はかなり声を潜めてるんだし、
本来なら殆ど聞こえないものの筈だ。
だけど、悲しい事に、こう言う盗み聞きのスキルが妙に高いは、
どうしても彼女たちの話に聞き耳を立ててしまう。
しかも。
「ないない!あの坊やが、例え女だったとしてもないわ!!
だって見てよ、彼とあの子なんてどう見ても絶対釣り合わない!あり得ないわ!!」
どうやら興奮してしまったらしいお姉さま方の内の一人が、
声を潜めるのも忘れてそうキッパリハッキリ断言して下さった。
瞬間。
ズッゴーーーーーン。
と。
の後頭部にドデカイハンマーか何かで殴られたみたいな衝撃が走る。
もしかしたら彼女が声を上げたのはわざとだったのかもしれない。
それならその威力は彼女の狙い通りかそれを上回るものだったと思う。
これがもっと他のよく知った人間からの言葉なら、
相手に食ってかかる位の事はしたかもしれない。
でも彼女達は当然の様に見ず知らずの人間で、つまりは完全な第三者な訳だ。
(向こうは気付いてないけど)同性の第三者から下された評価。
嫉妬交じりの嫌味だって事くらいは分かってるけど、
それでもは思いの外ダメージを受けた。
だからその後戻ってきたベルナルドが緊急の用事で仕事に戻らなくちゃならないって話を聞いた時、
実を言うと心底ホッとしてしまった訳だ。
◆◇◆
「クックック、、それでお前、ここ最近俺に何か話したそうな面して見てたのか」
ホテルのロビーの片隅。
実は今日も余り時間が取れなさそうだったらしいルキーノは、
それでもその合間にに声を掛けてくれた。
そしての話を聞き終えると、そう言ってさも楽しそうに喉を鳴らして笑ったのだった。
「ルキーノが忙しそうだったからタイミング掴めなくてさ。いや、現在進行形で忙しいんだろうけど。
って言うか、そんな面白そうに笑わないで」
「ま、最近ちっとばかし立てこんでるからな。それもそろそろ片付きそうだ。
本当ならもうちょっとゆっくり出来る場所で話を聞いてやりたかったんだが、悪かったな」
「ううん、それは全然構わないけど。こっちが無理に時間作って貰ったんだし」
が余りにも始終ちらちらルキーノに視線を送りまくってたから、
それで彼もの『話を聞いてくれ』光線に気が付いたんだろう。
今現在達の周囲に余り人気がないのもきっとルキーノの配慮に違いない。
そこまでしてくれるほど大げさな内容じゃない事が申し訳なさ過ぎる。
コイツ、たまにイヴァン並みに物凄くムカつくことがある奴だけど、
こういうところは本当にいい奴だなと思ってしまう。
「その女たちがお前に嫉妬してそんな嫌味言ったこと位はお前だって分かってんだろ?」
「まぁね・・・」
「ま、確かに、お前は元は悪かねぇが、こっちの女と比べると身長も足りてねぇし、
実際俺達もガキだと思ってたからな。
けどな、考えても見ろよ、それでもアイツはお前を選んだんだぜ」
そこで一旦言葉を切り、ルキーノは上着のポケットから煙草とマッチを取り出した。
そしてそれを口にくわえると、慣れた手つきで煙草に火を付ける。
その煙をゆっくりと吸い込み、吐き出した後で、彼はまた先を続けた。
「、お前とベルナルドが釣り合うのかどうかなんざ、
お前と深く関わった人間なら俺を含めて誰でもよく分かってるさ。
何よりアイツ自身がお前に夢中なんだ、そんなどーでもいい女達、勝手に嫉妬させときゃいいんだよ」
「・・・ルキーノ」
ニッと笑ったルキーノが大きな手での頭を軽く何度か叩いた。
子供扱いされてる様な仕草だけど、今は何だかそれが心地いい。
ルキーノの言葉で自分の気持ちが軽くなったのも分かる。
「グレゴレッティ幹部、お時間です」
ルキーノの背後から彼の部下が静かに告げた。
ルキーノはちらりと腕時計に視線を向けて、部下に向かって軽く肯く。
「悪いな、。俺はもう行く時間だ」
「ううん、こっちこそ。・・・・・・・・・・
(ありがと)
「ははっ!ファンクーロ!今更水臭いんだよ、じゃあな、」
(クソッタレ)
その背中を見送った後、が部屋に戻ろうとした所で、
こっちに向かって歩いて来る数人の人間に気が付いた。
真っ先に視界に入ったのは緩く波打つ髪を持ち、眼鏡を掛けた長身のイタリア人。
ベルナルドだ。
「」
「ベルナルド、外出中だったんだ?」
「ああ、少し厄介な件でね。だがそれもどうにか片付いた所だよ。
お前は・・・ルキーノと一緒だったのか」
言われて、思わず内心でギクリとしてしまった。
ベルナルドはこっちに向かってる途中にルキーノとが会話してるのが見えたからそう口にしただけで、
特に深い意味はないんだろうし、あの距離なら達が話してた内容なんて聞こえてる訳はない。
そうは分かってても、相談してた内容が内容だけに動揺してしまいそうになった。
「え?ああ、そう・・・。ルキーノも忙しそうだったけどね」
極力普通を意識しつつ、は笑顔を作って応える。
ベルナルドはさしてそれを不審に思った様子もなく、
傍に控えていた部下達に下がるように言った。
「、部屋に戻る所だったんだろ?俺もご一緒させてもらうよ」
「了解、そんじゃあ行こっか」
ベルナルドに内心の動揺を悟られなかったことにホッとしながら、
はそう答えて頷いた。
(後篇へ)
アトガキ
詳しいリク内容は後篇の後書きで書かせて頂きますね。
毎回のことですが、長ったらしくなったので途中でぶった切ってみました。
ちょっとぶった切る部分がまた微妙だったかもしれないな(苦笑)。
そしてきっと前半と後半の長さと流れも微妙。
いいんだ!!大好きなベルナルドを書かせて頂けたと言う事実が大事です!
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様、後編もお付き合い頂ければ幸いですvv
※汚いイタリア語表現は念の為カタカナ表記のみにしてます