はじめのダウト



親父様から久しぶりに任された結構と言うかかなりヤバめのお仕事。
その分いつも以上に慎重に、但し素早くことを実行しようと心構えは出来てたつもりだった。
それなのに、一番大事な局面で紙一重で判断を誤りかけ、
結果、その時のパートナーだった仲間を危うくハチの巣にされかけた。
カタギさんのお仕事とは違い、
特に仲間の命が掛かってた今回は『次頑張ればいい』じゃ済まされないレベルの話。



ジョカー(切り札)、なんて、一体誰の事だ。
聞いて呆れる。



「おい!!テメェ、聞いてやがんのか!?アァ!?」
「・・・え?ああ、イヴァン、あんた居たんだ」
「てんめぇ『居たんだ』!?だと!?マジで今気付きやがったな、このクソチビ!!
お前は胸もケツもねぇだけじゃなくて目もねぇのか!?」


相変わらずどでかい声で目の前のイヴァンがぎゃいぎゃいと騒いでいる。
と奴との距離はそう離れてないにも関わらず、
半径2、30メートル程先の人間にも声が届きそうな勢いだ。
確かに、これほど騒がしい奴が傍に居て気付かなかったは相当どうかしてた。



・・・お前が居てくれたから助かったんだぞ、なんて言ってたけど、
でもアレは本当に下手したらのせいで・・・。



つい数日前の仕事のことを思い出すとやっぱり自己嫌悪に陥る。
どうにかいつも通りを装いつつも、イヴァンが目の前で大声を上げてるってのに、
気付けばマイナス思考のエンドレスだ。


「・・・・・・・・・」
「おい!って、お前はまぁたぶっ飛びやがって!薬でもヤってやがんじゃねぇだろうな?」
「・・・・・・・・・・」


いかん、いかん、いかん、思い出すと本気で泣きそうかも・・・。


「シカトするんじゃねぇぞ、チビガキ、こら!」


不意にそこでイヴァンの奴がの肩を軽く掴んで強引に顔を上げさせた。
さすがにムッと来たはその手を跳ねのける。


「ああー、もう、うっさいわ!」
「んだと!?てめ――――――――――――――」


言いかけた奴がそこで突然の顔を見てぎょっとした表情を見せた。
が跳ねのけたと同時に再度に触れようとしてたらしい、
イヴァンの手も、妙な形で空中で止まっている。


「?」


怪訝な表情を浮かべてイヴァンの奴を見上げていると、
奴は何故か変に焦ったみたいな顔をしてパクパク口を動かした。


「お、・・・おま、・・・、なっ何だよ・・・急に・・・っ」


更にいやに動揺した様子でイヴァンはさっきまでの勢いをなくす。


「??」


さん、お話中すみませんが、失礼します。隊長がお呼びです」


そこで見覚えのあるベルナルドの兵隊の一人が足早に達の傍まで近付いて来たかと思うと、
に静かにそう告げた。
は慌てて腕時計に視線を落とす。
そう言えば2時半に次の仕事の事で少し話があると言われてたんだったと思い出した。
今は約束の時間を5分ほど過ぎている。


「そうだった!すぐ行きます!っと、まぁそう言う事だから、イヴァン、See You!」
「・・・・・・・・・っ!?あぁ!?って、お、おい・・・!」



背後からイヴァンがを呼び止める(?)ような声がしたけど、
は足を止める訳にはいかなかった。
ベルナルドをこれ以上待たせる事は出来ない。
イヴァンとは今度会った時にでもまた話をすればいいだろう。
の先を進むベルナルドの兵隊の長いコンパスに後れを取らない様にと、
殆ど小走りに彼に続いた。



◆◇◆




それから数日後。
は例の仕事でのミスの一件に気持ちの中でもどうにかこうにか片を付け、
その日は何となく清々しい気分で一日を終えていた。


久しぶりに飲みに行きたいな。誰か誘って・・・、
てか、寧ろ誰かの仕切りの店で飲ませて貰うってのもアリか。



そんなことさえ考えつつ、ホテルに戻る。
そしてその時真っ先に思い浮かんだ相手が、自分でもかなり驚きなんだけど、
イヴァンの奴だった。
ベルナルドやルキーノの仕切る、いかにもこ洒落た落ち着いた大人の店よりも、
(と言ってもが知ってる彼らの店はごく一部だけど)
今はちょっと弾けて羽目を外せるくらいがいい。
甘いものを食べたいんだったらジュリオやジャンなんかに声をかけてるとこだけど、
今はそう言う気分とも少し違う。
はイヴァンの兵隊の中でも特に顔見知りの一人に頼んで、
アイツに先に話を通して貰う事にした。


あ、そう言や、ここ最近イヴァンの奴の様子がおかしいとかって皆が言ってたな。


『ま、アイツは元からおかしいけどな。イヴァンだし』とは、我らがカポ・ジャンカルロのお言葉だ。
それでもわざわざああやって口に出すってことは、
何だかんだ言ってイヴァンの事を気に掛けてるってことだろう。
この間との別れ際の時も何か変な感じだったし、
その辺聞いてみるのもいいかもしれない。


「・・・な、何の用だよ?」
「え?だから、飲みに行きたいから付き合ってくれって話」


イヴァンの兵隊から直接彼の部屋を訪ねていいという許可が降りた事を伝えられ、
は言われた通りに直に彼の部屋に顔を出した。
何だか居心地悪そうな、微妙な空気のアイツはいつも通り無愛想な表情を浮かべながら、
でもいつものようなぎゃいぎゃい噛みついて来る勢いは感じられなかった。


?やっぱ何かあった、とか??


「はぁ!?飲みに、だと・・・?・・・つーか、お前・・・!」
「?何?」
「・・・・クソッ!・・・・んでもねぇよ!ちょっと待ってろ!」


特別機嫌が悪い様には見えないけど、様子がおかしいのは確かだ。
妙にそわそわしてるというか、と視線を合わせようとしないと言うか。
イヴァンは一旦部屋の奥に引っ込むと、再びドアまで戻ってきた。


「ブッ!!あんた口の横ケチャップついてるし!どっちがガキ!」


ついさっきは奴の様子が変だって事に気を取られて気付かなかったけど、
イヴァンの唇の横には赤いケチャップソースがついたままだった。
は咄嗟にそれに手を伸ばす。
そしてイヴァンの唇の横辺りを親指でグイとふき取った。
と。


「わ、わあああああああああっっ!!!??」


何故か凄い叫び声を上げて相当な勢いでから後退るイヴァン。
は驚いてぽかんと奴を見詰めた。
その顔が何故か真っ赤に見えるのは、気のせい、だろうか。
奴の過剰反応のおかげで傍に控えていた兵隊の一人が慌てた様子で飛び込んで来る。


「兄貴!?」


いやいやいや、違うから!悪い事してないしね!?


「な、何でもねぇ・・・!」


こっちは何もしてないのに勝手に一人でゼェハァゼェハァと息を切らしてるイヴァン。
彼の兵隊はその一言でホッとした様子で下がる。


と言うか、何だ、何なんだコイツは一体。


「あのさ、前から知ってたけど、何かいつも以上に変じゃない?あんた」


いつものイヴァンなら間違いなくに食ってかかって来る言葉だ。
だけど今回の奴の反応は違ってた。


「うっ、うるせぇな!・・・だ、大体、お前が悪いんだろうが・・・、お前が・・・!」
「はい?が?てかかいっ!」


思わずきょとんと問い返す。
それはにとって当然、予想外も予想外な返事だった。
つまり今の過剰反応の原因はだってことだろうか。


「・・・Shit!、ちょっと来い!」


言いざま、イヴァンがの腕に手を伸ばす。
振り払おうと思えば出来ない事もなかったけど、は大人しく奴に従った。
何だかよく分かんないけど、彼は妙に苛立ってるらしい。
その割に頬が赤くて、本当に分からない。
は結局ずんずんと歩くイヴァンと一緒に奴の部屋の中に。


「きゃー、イヴァンに部屋に連れ込まれたー、助けてー」
「だっ!!馬鹿か!!誰がお前相手にその気に・・・・・・!!!」

当然ジョークのつもりで言ったんだけど、
イヴァンは更に顔を真っ赤にしてそれを否定しようとしてくる。
予想通りの反応。


「あーだよね、ならないよね、分かってるって」


はいはい、胸もケツもねぇチビガキですからね。


取りあえずここまで引っ張ってきた用件は何だと聞こうとしたんだけど、
何だかまたしてもイヴァンの様子がおかしい。
何か変な物でも食べたんだろうか。
と言いたい所だけど、
その程度のことでイヴァンの様子がおかしくなるほど繊細な思考や体の持ち主じゃない事は十分知ってる。
と言うか、ある意味実は見かけ以上に慎重なコイツがそんなヘマをする筈がないって意味だ。


「そうだよ!!俺がお前相手にその気になんざなるわきゃ・・・・・・・!!
ああああああ!!shit!なのに何で俺は!!あり得ねぇっ・・・!!!」


本当に何だろうコイツ。


なんて思って一人でぎゃいぎゃい騒いでいるイヴァンを見ていると、
不意に奴がぎらりとを睨みつけて来た。
同時に未だに掴まれたままの腕がぎゅっと更に強く握られる。
痛みを感じるか感じないかの力加減だ。


あれ?そう言えば、今日会ってからまだ一度もチビガキって言われてないな。


この状況でそんなことを思い出すも有る意味かなりイヴァン慣れしてるかもしれない。
だけどそれはにとって十分驚くべき事実だった。
イヴァンがと顔を合わせれば真っ先に出る言葉は『チビガキ』『クソガキ』のどちらかで、
寧ろ名前を呼ばれる事の方が珍しい位だ。
それなのに、今回は未だにチビともガキとも言われてない。


!」
「何?」
「お、お前・・・!!この間何であんな顔してやがったんだよ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・、は?」


何の話??


そもそもイヴァンの言う『この間』が分からない。
がきょとんと聞き返すと、奴はチィッと舌打ちをした。


「この間!!俺と話してる最中にベルナルドの兵隊に呼ばれて別れる前の話だ!!」
「あ、ああーー!あの時!」


そこでやっと奴が言ってるのがいつなのかを理解し、は大げさに頷いた。
が例の仕事の件でまだドップリ自己嫌悪に陥ってる時に、
イヴァンと顔を合わせて話をしたあの時の事だろう。
『あんな顔』ってのは情けないけど、
もしかしたら落ち込んでるのが目に見えて分かる様な表情をしてたのかもしれない。


ってことは、もしかして・・・・・・。
イヴァンの奴、心配してくれてた??とか??
え?そう言う事?ええええええええ!?



「・・・・・・・・・・・・イヴァンあんたって・・・」
「ア!?な、何だよ・・・!?」
「思ってたより可愛い奴じゃないか!」
「はぁあああああっっ!!??」


何だかそう思うと今まで犬猿の仲ってのがピッタリの関係だった筈の相手が無性に可愛く見えてしまった。
もホント、大概単純だ。
だけどさっきまでのイヴァンの意味不明な挙動不審っぷりが全部の態度に繋がってたんだと思うと、
やっぱり嬉しく思えてしまう。


「ばっ、訳わかんねぇ事言って、抱きついてくんな!!このクソチビ!!!」
「はっはっは!今日のは寛大だから気にしない。Thanks!イヴァン」
「だからっっ訳分からねぇっつてんだろうが!!」


ぎゃいぎゃい騒ぎはするものの、を引っぺがそうとする手には余り力が入ってない。
寧ろ何だかわたわた焦ってる様子が妙におかしかった。
もう少しだけイヴァンで遊んだら、今度こそ一緒に飲みに行こう。


今日はホント、イイ気分でお酒を楽しめそうだ。




(END)





アトガキ

◆頂いたネタ内容◆(管理人の都合上表現が変わってます)
チビガキといつものやり取りの途中でふと夢主が見せた涙目の表情に内心おろおろするイヴァン。
(実は単純に仕事のミスで自己嫌悪中だった為)
理由を知らないイヴァンは「え・・・、な、何だコイツ、・・・急に・・・」と、どきどきし始める。
次に合った時にはいつも通りの夢主にイヴァンは一人、もやもやする。

と言ったものでしたが、ヒロイン視点なので若干分かり難かったかもしれません。
でも私自身は相当楽しんで執筆出来ました(笑)。
弄りやすいイヴァン、そんな君が大好きだ!
ヒロインは特に鈍い訳じゃないんですが、
結局最後までイヴァンの様子がおかしかった本当の理由に気付かないままと言う(笑)。
彼はそのことに内心少しホッとしつつ、でも「コイツ絶対ェ分かってやがらねぇ!!」と苛々してそうだ。
その内「何で分からないんだ!?」って方向に爆発していきなり襲われそう(笑)。
ではではネタ投下して下さったねこ様、そしてお付き合い下さった姫様、
誠に誠にまこっとに有難うございますvv