スパイシークラシック



一体何処から間違えたのか。
何がどうしてそうなったのか、そんな方向にぶっ飛んだのか、
それとも実はが気付いてなかっただけで、
は最初からそっちに向かって歩いてたんだろうか。
違う、そんなことはない。
だけど、途中から間違ったのは確かだと思う。
だって、あり得ないじゃないか、こんなこと。
こんな――――――――――。
はジャンが好きで、ジャンに片思いしてて、
だから、そのジャンを手に入れたらしいベルナルドのくそオヤジに、
一方的とはいえ、恋敵に向ける対抗意識的なものを抱いてた。
勿論ベルナルドの事は仕事上じゃ幹部筆頭としてホントに尊敬してるし、
プライベートな面でも兄貴分的な存在として頼りにもしてる。
だけどそれはそれ、これはこれだ。
自分に勝ち目がないどころか同じ土俵にも上げて貰えな事が分かってても、
それでもジャンの気持ちがベルナルドにあって、
お互い想いあってるんだと思うとやり切れなかった。
男相手に負けたとかそう言う部分で向きになってるとこが一切なかった訳じゃないけど、
ジャンにとってベルナルドが性別を超えた意味で惚れた相手なんだと分かってしまったから、
だからまたやりきれなかったのかもしれない。
でも、とにかく、にとってベルナルドは恋敵だった。
そりゃ彼がルックスも含めて中身だっていい男なのは、知ってたし、
だからこそジャンが惹かれたんだろうとも思ってた。
それでもやっぱりにとってベルナルドは恋敵だった。
そうだ。
その筈だった。
なのに、どうして。



ジャンを目で追うのと同じように、ベルナルドに視線を向けて、
ジャンの事を考えるのと同じように、ベルナルドの事を思っている。



そんな自分の行動と思考が、理解できない。
―――――――――――――したく、なかった。


だって、あり得ないじゃないか。
今も変わらずジャンを想ってて、それは胸を張って堂々とそうだって自信があるのに。


まさか、にとって恋敵の筈の相手を、
そのジャンに向ける気持ちと同じように好きになってるなんて。


認められる訳がない。
幾らなんでもそりゃないだろう、自分。


確かには随分昔からジャンの事を好きだった。
だけど、一途に彼だけを見詰めて、誰とも付き合わなかったかと言えば嘘になる。
特にジャンの事を好きだと強く認識するより前は、
だって他に恋人っぽい相手も何人か居た。
だけどそれはやっぱり何処か『本気の恋』とは違ってて、
こんな仕事をしてる合間にどうしても埋められない寂しさ、
人恋しさを紛らわせる関係ってヤツだったのも事実。



何だかんだ言っても、
に複数の男を同時に『本気』で好きになるなんて器用な真似は出来ないのだ。


それなのに、片想いの相手の恋人まで好きになるなんて、
イカれてるにも程がある。


しかも、どっちにしろ、には手の届かない相手だってのに。


だからはこの時この気持ちと向き合うことを最大限回避した。
GDとの戦争が始まるかもしれない局面はもうすぐそこで。
考えずに居られるならその方が言いに決まってる時期。
は必死で目を逸らそうと努力した。



――――――――――だけどそれは、野郎共二人によって、ある時唐突にに突きつけられた。





とある仕事を終えての帰宅途中。
長距離を歩くことには慣れている。
とは言え早く戻れるに越した事はなくて、
近道になる路地裏を抜けてホテルに戻って行こうとして居た、その途中。
は、見覚えのある二人の姿を見つけた。
幾ら周囲が殆ど街灯がなくて薄暗いとは言っても、が彼らを見間違う筈がない。
それにしても車を使ってないなんて珍しい事もあるもんだ。
声を掛けるべきか否かをほんの数秒考えて、結局止めにした。
目のいいはこれだけの距離だってのに、
二人が楽しげに会話をしてるのが表情まで見て取れて分かってしまう。
向こうはには全く気付いてやがらない。
がどこぞの刺客かなんかだったらカポ候補と幹部筆頭様はあっという間にあの世行きだろう。
声を掛けないと決めた時点でさっさとこの場から立ち去った方が賢明だと思いつつも、
は二人から目が逸らせなかった。
そこで不意に、二人が顔を寄せ、同時にの心臓が凄い勢いで胸を打った。
次の瞬間にはジャンとベルナルドの唇は完全にお互いのものと重なってて、
傍から見てるにも、それが軽い接触じゃないこと位すぐに分かる。
野郎同士のそりゃもう生々しいこの上なくディープなキス。
ウゲ!じゃ、済まない筈の場面なのに、
は足に根っこでも生えたんじゃないかと思うほどその場から動けなかった。
それどころか、これは本当に心底認めたくなかったんだけど、
見惚れてしまってさえ、居た。
貪るように夢中でジャンの唇を味わっているベルナルド。
それを軽い抵抗の意を示しながら、でも明らかに受け入れてるジャン。
どっちも、の知らない二人だった。
本当ならジャンに片思いしてるはベルナルドのエロオヤジに嫉妬で狂いそうになってるか、
こんな場面を見せられた(奴らは気付いちゃいないけども)ことで、
ジャン達二人に嫌悪を感じるかするものかもしれない。
けど、その時のはそのどっちも全然感じてなくて。
もっと、普通ならあり得ないような感情を抱いてしまっていた。


は今すぐここから駆けだして、二人をメチャクチャにしたかった。


ジャンだけを、じゃなくて、ベルナルドのことも、だ。
抱きしめて、抱きしめられて、キスをしたかった、して欲しかった。
の胸の奥にずっと抑え込んでいたジャンへの想いが恐ろしくあり得ない方向に膨れ上がり、
気付けば怪物みたいな感情が出来あがってしまっている。
違う。
これは、怪物なんかじゃない。
この気持ちは。



――――――は、ジャンとベルナルド、二人に同じほど、恋をしてしまって、いた。





◆◇◆





あの日口にした言葉が、アルコールの入った勢いを全く借りて居なかったと言えば嘘になる。
だけど、自慢じゃないけどは今まで酒で酔った事は数えるほどしかないし、
その数える程度の酔っぱらった経験も、殆ど突然寝落ちすると言う可愛らしいもんだった。
つまり、あの時が奴ら二人に言った台詞は、ほんの少しの勢いがあれば、
すぐにでも口にしてしまいた位に大きかったものだったのだ。
だから勿論、後悔はしてない。




「は?・・・えーっと、その・・・悪い、。今あんた、何て?」


驚き過ぎて茫然としてるジャンがほんの一瞬ぽかんとした表情を浮かべた後、そう聞き返してきた。
はついさっき、数秒位前に言った言葉をもう一度、口にする。



「好きだって言った、ジャンの事」


「いや・・・え?・・・・・・そ、そりゃ・・・その・・・」


ジャンの目が激しく泳いでいる。
それはそうかもしれない。
ジャンはが彼の事を好きだってのに薄々気づいては居ただろうけど、
まさかベルナルドが一緒に居る状態で告白を受けるなんて思いもしなかっただろうから。
そう、は今、ジャンとベルナルドが二人で滞在してるメインルームに居た。
久しぶりに三人で飲んでいたところだった。


「あんた・・・酔ってるのか?いや、あんたに限ってそりゃねぇ、よな?」
「落ち着け、ジャン」


微かに苦笑してベルナルドがジャンに言った。
でも、気のせいかその眼鏡の奥の瞳が微かに揺れてる。
まさかベルナルドがなんぞを正式に恋敵と認めた訳じゃないだろうけど、
何となくいつもの彼とは違って見えた。
まぁ、ベルナルドもジャンと同じく、
まさか自分が一緒に居る時にがジャンに告るなんて予想しなかった事だろう。
だけど、の告白はこれで終わりじゃない。
この先が有る。
二人には悪いけど、のへの親愛と言う名の好意を利用させて貰う。
だけがほんの少し楽になって、盛大に傷付く為に、
ジャンとベルナルドにはの我儘に付き合って貰う事になる。
彼らは、を嫌ってない、好きだって分かってるから出来る、ズルイ手だと思う。
好意が有るから、何だかんだ言っても二人はの言葉を聞いて、
それを拒絶しなけりゃいけない事に胸を痛めるだろう。
はそれを知ってる。
でも、もう無理だった。
このままこの気持ちを抱え続けるのは。



「あのさ、それで・・・・・・・・・・・・・」



そこでは一呼吸置き、スゥっと軽く息を吸い込んだ。
ドックドックドックドック。
心臓の音が耳に大きく響き渡る。
緊張で喉がからからだ。



「――――――――――ベルナルドの事も、好きで・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・っ!?」「・・・・・・なっ!?」


のこの言葉に、二人は同時に反応した。
さっき以上に驚いた様子のジャンと、
そして更に予想外の告白にさすがに動揺したらしいベルナルド。



だよね、・・・うん、ホント・・・普通驚くよねー・・・。



の言葉が、親愛とかそう言った類のものの意味じゃない事が分かってるから、
ベルナルドは驚かずには居られなかったんだと思う。
ジャンに対する想いと同質の恋心だと、分かったから。
拒絶どころか、軽蔑されるかもしれない。
そうなったら仕事上の関係だけになって、今まで見たいに接して貰えないんだろうか。
いや、ジャンもベルナルドもその辺は大人だから、きっと今まで通りを装ってくれるだろう。
そしては、それを知った上でこうしてこの言葉を口にした。



だけど、やっぱり辛いもんが有るな・・・・・・。



長い、長い沈黙の後。
ジャンとベルナルドの視線が数秒、お互いの瞳を奥を探るようにカチ合った。
当然それは、恋人同士の交わす甘い会話とか、そう言うもんじゃなく。
でもお互い相手の瞳の中に何か見出すものがあったらしい。
突然、フッ、と、二人は殆ど同じタイミングで軽く笑った。
はその意味が分からなくて、少し不安になる。
いや、不安にも何も、答えは分かり過ぎるほど分かってんだけど。



「・・・ごめん、こんなこと突然言って、・・・「


の台詞を遮るように名前を呼んだのはジャンだった。
床に落としかけた視線をジャンに戻す。
そこで、ジャンはチラリとベルナルドに瞳を移した。


「ベルナルド、悪い・・・。先にあんたに謝っとくわ。
・・・これから俺が言う事が、あんたにとっていいこととは限らねぇからな」
「・・・・・・・・・いいさ、ジャン。俺も・・・そうだな、分かっていると思う」


「・・・・・・・?」


二人の会話の意味がイマチ分からなくて、はジッとジャンを見詰めた。
の視線に気付いたジャンが、再びの方に瞳を向ける。



・・・、俺はあんたが好きだ」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・、は・・・・・・・・い?え?え?」


今度はが混乱する番だった。
ジャンだって、さっきの告白がの本気のものだって分かってる筈だ。
この状況で彼が軽いノリや、仲間的ニュアンスでこんな返事をするとは思えない。
でもジャンは今、ハッキリを好きだと言った。
そのことに喜ぶよりも、はただただ混乱してしまった。
それを感じ取ったらしいジャンが微かに苦笑する。


「俺もあんたと同じなんだよ、。・・・・・・・・こう言や分かるか?」



と、同じ・・・・・・・・え?それって、え?えええええええええ!!??」


まさか。
そんな。
つまりは、それって。



「ベルナルドも、も、好きって・・・・・・・・・・こと?」



そんな馬鹿なと思いつつ、それでもそれしか思い浮かばない。
が恐る恐る口にしたその言葉を、ジャンは何処かばつが悪そうに笑って肯定した。


「そーいうこと・・・。あー・・・その、ベルナルド・・・、さっきも言ったけど、マジで悪い・・・」


少しの間無言で達のやり取りを傍で見ていたベルナルドは、
ジャンの言葉にフッと小さな溜息を吐いた。
だけどすぐに顔を上げ、困った様に笑う。


「謝るなよ、ジャン。・・・・・・お互い様だ、俺も・・・・・・・・・だからな」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・へっ!?えええええええええっっ!!??」
「・・・・・えっ!?おい、ベルナルド・・・・・あんた・・・もって・・・、あんたもぉおっ!!??」



何が、一体、何が起きてるんだ、一体!!??


つまりは、がジャンとベルナルドを好きなように、
ジャンもとベルナルドを、そしてあり得ないと思ってたけど、
まさかでまさかの展開で、ベルナルドもジャンだけじゃなくてを好きだと、
そういうことだろうか。


いやいやいやいや、いやいやいやいやいや。
ええええええええええええ!!??




「なっ!?ちょ、・・・待てよ!?じゃあ、何だ!?
いや、何かさっきあんた見た時、
俺ももしかしてそうじゃねぇかと思ってたけど、っつーことは俺達は・・・・・・」
「・・・両想い・・・って表現はおかしいが・・・、まぁそんな感じかな・・・」
「ええええええっっ!!??そ、そうなの!?本当にそうなのっ!?」


もう余りにも驚きな展開にの思考回路は混乱を極めてしまった。
自身の気持ちが二方向に向いてること自体あり得ないと思ってたのに、
まさかこの野郎共二人まで同じようなことを考えてたなんて、どんな神様の悪戯だ。
ないない、ないだろう、それは。
幾らなんでもの都合良すぎる超展開過ぎる。


「えええ、っと、でも、だって、・・・・・・ほっ、本当にそうなの!?」


もう何が何やら分からなくて、は馬鹿みたいに狼狽えた挙句、また同じ台詞を口にした。
ここで嘘だよと返事があったら、それはそれでショックだけど、でも納得すると思う。
その位にあり得ないことだ。


「ああ、・・・何かさすがの俺もマジで驚きな展開だけど、本当にそうなのよ、ベイビー」
「ふふっ、確かにね。俺も、これまでに経験のない展開かな。
・・・でもジャンの言う通り、本当にそうだよ、


ついさっきまではそれなりに驚いて動揺してた筈の二人は、
今は何故だか普段通りで、妙に落ち着いて見えた。
しかも、早々と腹を括ってるみたいな感じだ。


「俺がベルナルドに惚れてるってのは間違いない。
けど、俺は・・・あんたのことも、諦めたくない」
「・・・俺も、ジャンを愛してる。コイツは俺にとって最高の恋人だよ。
だけど、、お前に対する気持ちも・・・もう捨てられない位に大きなものになっちまっているんだ」


「ジャン・・・、ベルナルド・・・」


ああ、これは一体どんな夢だ。


CR:5の次期カポ候補と幹部筆頭。
どっちも引けを取らない位ににとっても周囲の人間にとっても魅力的な野郎達。
それが、揃ってに告白して来てくれてる。
だけじゃなく、お互いの相手を想って、それでも。


・・・」



二人を同時に好きだと認めてても、
そして二人もそうなんだって口にしてくれてても、
この関係を受け入れるのに全く抵抗がないかと言えば嘘になる。
だけど。


いつの間にかソファから立ち上がって、並んで立っているジャンとベルナルド。
彼ら二人の片手が、それぞれに伸ばされてる。
一歩、一歩、は前に進んだ。
後一歩、進めば、二人に手が届く。
二人。
どっちにも、届く。


「来いよ、
「おいで、


ああ、もう。
あああああああああ!!!もおおおおお!!!!



三人で、恋人になる覚悟なんて、出来てない。
心構えなんて、ありはしない。
だけど、もう。




「ドチクショウ!!二人とも、大好きっ!」



差し出された二つの手。
それを掴まないなんて選択肢、の中で存在しない。


がばり。


と。


ジャンとベルナルドが、をその腕に抱き寄せる。
同時に、お互い自分以外の二人を抱きしめていた。



「・・・・・・・・くっく、まさかこうなるとはな!ちょい欲張り過ぎでしょ、俺達」
「ふっ、全くだな・・・。だけど、俺は最高の気分だよ。
ラッキードッグにジョーカー・・・まさに敵なしの組み合わせを手に入れたんだからね」
「うん、でも一気にこんなイイ男の恋人が二人もできるなんて、が一番贅沢もんだと思う」


三人でそれぞれに視線を交わし合い、それから達はまた笑顔を浮かべた。


、覚悟しといたほうがいいぞ。このオッサン、マジで筋金入りのエロだからさ」
「ははっ、酷い言われ様だな。愛情表現が上手いと言ってくれよ」
「・・・・・・・お手柔らかにネ、ダーリンズ」




◆◇◆




あれから数ヶ月。
GDとの戦争にも決着がつき、ジャンは親父様との儀式を終え、
新しいカポとして忙しい毎日を送ってる。
その傍らには勿論、個性派ぞろいの幹部達、CR:5の姿があった。
そして達三人の関係は、あの頃と変わらず、と言うより、
あの頃より今の状況を楽しめる分、随分恋人らしくなり、
忙しいながらも時間が合えば3人で過ごしたりしてる。



あの日、から告白したあの時の事を、
ジャンやベルナルドは女のに一番負担を掛ける状況を作った、
なんて言ってたけど、は当然、後悔なんてしてない。


あの時の事が有ったから、は今、大好きなコイツらと恋人同士としてやってけてる。


堂々と、笑って言える。



はジャンが大好きで、ベルナルドも大好きなんだと。





(END)




アトガキ

◆頂いたネタ内容(管理人的表現に変えてます)は、『スパイシーバニラビーンズ』の三人の馴れ初めのお話。
三人恋人状態になるまでの葛藤ってことだったんですが、
入れ込みたい話が多すぎて、結局かなり削りました(笑)。結果的にあっさりしすぎたかもしれない。
そして毎度のことながら前半と後半の釣り合いが取れてないと言う・・・。
それ以前に前篇は三人それぞれの視点なのに、後編ヒロイン視点のみですからね。
あははは!分かってるんですけども!!・・・キャラ視点は私が息切れしただけとか言わない。
ベルナルドが酔っぱらって寝落ちしたヒロインにキスするとことか、
ヒロインが実は過去に一度ジャンに告って振られた(ことにしようとして止めました)とか、
とにかく楽しく妄想させて頂きました。
ネタ投下して下さった菅野 香様、そしてここまでお付き合い下さった姫様、大変大変有難うございますvv