スパイシークラシック



ジャンとベルナルドがGDとの戦争の発端ともなる脱獄後、
以前の腐れ縁的な関係とは違う方向に親しくなり始めてるのを、
実はは薄々感づいていた。
だけどそれでもそんな思考が働きそうになる度に、
「いやいやいや、違うだろ!」と自分にツッコミを入れてはそれを否定したりもしてた。
だって、単純に考えて彼らは男同士。
そして、そう(・・)なるなら、
とっくにくっついてる位の年月の付き合いはしてる筈だから。
それに二人の傾向を見る限り、男に興味があるようには見えなかった。
だけど何より彼らがそうなってくのを信じたくなかった一番の理由は、
がジャンの事を実はもう随分と長い事好きだった事が関係してる。
多分、ジャンがの性別を知るより前にはは彼の事を好きになってたんじゃないだろうか。
特にハッキリ意識し始めたのはここ最近の事だけど、今思えば色々と思い当たる節がある。


まぁそんな訳で、大変不本意とは言え、
にとってベルナルドはプライベート視点的には恋敵になった訳だ。
あの風呂嫌いのジャンが毎日シャワーを浴びる習慣を身に着けてくれた事は、
大歓迎だったし心の底からホンットに嬉しかったけど、
それがベルナルドのおかげなんだと思うと微妙な気分でもあった。
ベルナルドはにとっても面倒見のいい兄貴分。
その上今じゃ幹部筆頭様だ。
がアレッサンドロ親父様の友人の忘れ形見と言うことで、
組織との関わり方も特殊だったこともあり、何だかんだで親しくして貰ってるけど、
本来なら雲の上の人みたいな存在なのだ。
(それを言うならCR:5の幹部は皆そうだけど)
もう少し分を弁えた態度を取るべきなのかもしれない。
勿論今更そんな態度を取ったら気持ち悪がられるだけなのは目に見えてるけど。
とにかくベルナルドとは親しいとは言っても、
本当なら恐ろしく天と地位の上下関係が成り立っていい筈なのは事実で。
それは分かっちゃいるけど、
ジャンとのことを思うとどうしてもはベルナルドの奴の前髪に毒電波を送らずにはいられなかった。




「なぁ
「何?ベルナルド」
「その・・・間違っているのならすまない」
「うん?」
「最近お前の俺の前髪対する眼差しが妙に鋭い様に思えるんだが気のせいかい?」


珈琲片手に困った様な笑顔を向けてベルナルドが言った。
ああ、ホント、嫌味な程にイイ男だ。


にっこり。
と。
は少しの間沈黙した後、満面の笑みを浮かべる。


「まさか、そんな訳ないじゃない、スイートハート。あなたの気のせいヨ」



ベルナルドノ前髪周辺ノ毛根死滅シロ!!!



言いながら、同時に心の奥底から最大級の毒電波を発してやった。
ベルナルドは眼鏡の奥の瞳に何だかかなり複雑そうな色を宿した視線でを見つめ、
軽く口元を引きつらせる。


「俺の気のせい・・・か、そうかい、それならいいんだ、ベイビー」


は毒電波の強さを緩めないままベルナルドに頷き返し、
それから同じソファに座っているジャンに瞳を向けた。
ここ最近のゴタゴタ続きでかなり疲れが出ているようだ。
それでも少し前までは必死で瞼を見開いてベルナルドに任された仕事をこなしてた。
撃沈したのは数分前。
そしてきっと、後5分もしない内に彼は飛び起きるだろう。

「・・・さてと、俺の休憩は終わりだ。っと、ジャンはもう少しそのままで・・・」
「ん、分かってる。・・・もそろそろ行くから」
「ああ、Ciao!」
「Ciao!」


ベルナルドに別れの挨拶返し、そのまま彼の仕事部屋を後にする。
その直前、はチラリと室内に視線を向けた。
その片隅に、ソファで転寝するジャンの髪に手を伸ばしてるベルナルドが映った。
可愛い弟分を見つめる兄貴分と言うには余りに行きすぎた『愛しさ』を込めた瞳で、
ジャンを見下ろすベルナルド。
ドアが閉まる最後の最後のその瞬間。
は今日何度目かになるベルナルドの前髪に対する毒電波を一層強く発してやった。




◆◇◆




ちっちゃくても女だな、と言うのは既に成人している彼女に対して失礼な話だが、
のジャンに対する気持ちにはかなり以前から気付いていた。
恐らくの性別がハッキリと女だと分かった時点で、
既に彼女はジャンの奴をそう言う対象に見ていたんだろうと思う。
あの頃の俺はまだジャンを弟分として可愛がってやりたいと純粋に思っていたし、
下手な手出しをしないまでも、
の恋心がそれなりに彼女が傷つかない方向に向けばいいとも思っていた。
あの頃の、少なくとも数年前までの俺ならば本気でそう思っていたと堂々と言える。
だが今は―――――――――――――


ジリリリンッ 
「ああ、俺だ。分かった、そっちは予定通り進めてくれ」


チリリンッ
「そうか、後は・・・そうだな、俺から連絡を入れておく。ああ、じゃあな」


引っ切り無しにベルの鳴り響く室内でいつもと同じように仕事をこなしながら、
俺は不意に瞳だけを少し離れた場所にあるソファへと向けた。
俺の視線に気付いたジャンがファイルに落としていた視線をこちらに移して微かに笑って返す。
たったそれだけのやり取りで、俺の中で確実に広がる何とも言えない昂ぶり。
まるで十代そこそこのガキそのものだ。
しかも相手は腐れ縁の、昔は弟分として欲しがっていた筈の男。
俺だってこの歳になるまでには色々あった。
場数を踏んでいる方なのかと聞かれれば、そうだろう。
男を抱いた経験だって今までになかった訳じゃない。
そして愛した女も――――――――――居た。
脱獄後、このデイバンで、ジャンと同じ部屋で仕事をこなし、同じ部屋に戻り、
以前よりずっと顔を合わす時間が長くなった事がアイツへの気持ちに拍車を掛けるきっかけになったのは言うまでもない。
だが、例え時間の差はあれど、
俺が最終的にジャンを欲することになるのは間違いなかったと断言出来る。
ジャンカルロ・ブル・ボン・デルモンテ。
アイツは俺にとってそう言う相手だ。
ジャンに長い事片想いをしてたが、俺を疎ましく思うのも無理もない。
俗に言う女の勘ってヤツが働いたってとこだろう。
最近は殺気立ったものさえ感じる。
と言うか、本人は否定していたが、
特に彼女が俺の前髪に異常に鋭い視線を向けてきているのはまず間違いない。


「参ったな・・・」


フッと小さく溜息を吐き、俺はジャンに悟られない程度の小声でそう呟いた。
ジャンを誰にも渡したくないと言う子供じみた独占欲は俺の中で確実に膨れ上がり、
日々大きくなるアイツへの想いを否定するつもりは毛頭ない。
アイツを始めて抱いたあの時から、もう俺の気持ちは決まっていた。
だが、俺は、自分でも信じ難い事に、俺を敵視し始めているにさえ心奪われかけている。
彼女とも以前より深く関わり過ぎたのかもしれない。



本当にまったく、俺はどうかしてる。





◆◇◆




が俺の事を好きなんじゃねぇかと気付いたのはつい最近だ。
一体何だって今になって気付いちまったのか、
これがもう少し前だったってんなら話が少しは変わってるかもしれない。
だけど俺はベルナルドとの関係はなるべくしてなったもんだと思ってるし
(街角レイプについちゃ今だって根に持ってますケドネ)、
例えアイツに抱かれてなかったとしてもアイツを好きになることは変わらなかっただろうとも思う。
そう考えると、俺ってば実は気が多い奴だったのかしら。
やっぱどっちにしろ、最近だろうがもっと昔だろうが、状況はあんまかわらねぇのかも。
GDとドンパチおっぱじまるかもしれねぇって最中に三角関係って、俺達一体何やってんでしょうねマジで。
(実際はベルナルドのイロのナスターシャの事も含めりゃ三角関係じゃ収まらねぇけど)。
それでも、目の回る様なクソ忙しい日々の中で、
俺の中で確実にデカくなっていくベルナルドへの気持ちを確認する一方、
を想う心も無視出来ない程の存在になっていた。
アイツは人種の違いのせいか確かに一見ガキみたいな面をしてるが、
俺に向ける目にビビる位ぞくぞくする強い眼差しを持ってる。
それに気付いたが最後、俺はアイツから目を逸らせなくなっちまってた。
今までだって同じ視線を向けられてた筈なのに、気付いたのはつい最近。
全くおかしなハナシだ。
そこまで鈍チン野郎じゃないつもりだったんですけどねぇ。
つっても、だからって俺はの気持ちに応える訳にはいかない。
同時に二人の相手を好きになっちゃってどうしよう、なんて、
使い古され過ぎて小説のネタにもなりゃしねぇ。
俺だって昔は遊びたい盛りに何人かの女と同時にヨロシクやっちゃったこともあるにはある。
でも今はそんな余裕や体力がないって理由だけじゃなく、
に対してそんないい加減なことをしたいとは思わない。



「ジャン」


部屋に戻る途中に背後から聞き覚えのある女の声で呼び止められ、俺は足を止めた。


「おー、か。どうした?」
「別に用って訳じゃないんだけど、てか今から出るとこだし」
「出る・・・って、何だよ、今から仕事か?」
「うん、そ、お仕事」


もう真夜中と言っていい時間帯だが、特に幹部連中は昼となく夜となく走り回っている。
ベルナルドの奴も朝っぱらから深夜まで、
あの電話線の化け物達の居るベルの鳴り響く部屋でほぼ丸一日仕事をこなしていた。
は元々カヴァッリ爺様の孫娘、ローザリアの護衛が主な仕事だったらしいが、
俺らが脱獄してこのデイバンに戻ってきて以来、
CR:5の幹部達の補佐に近い役割を果たしている。


「行ってらっしゃいのキスが欲しいわ、スイートハート」


自分の腕時計にチラッと視線を落としたアイツはそう言ってニヤリと笑って俺を見上げた。
この顔はジョークで言ってる軽いノリで、マジで口にしてる訳じゃない。
元々はシャイで真面目な日本人だ。
本人が言うにはヤマトナデシコと言うヤツらしい。
それがどんなもんだかよく分からんが、
キスをマジで強請るような真似は『恥ずかしさで死ねる』位には御大層なことだとか。
確かには口も悪ぃし、悪ノリにも平気でついて来る方だが、
本気で照れてる時があるのを俺は知っていた。
だから今回のこれはジョーク以外の何もんでもないだろう。
それでも俺はほんの一瞬どーすっかなと迷っちまった。
いつも通りの軽いノリなら同じくノリで返せばいいものの、意識しすぎじゃねぇのか、馬鹿か。
童貞のガキでもあるまいし、モジモジしてやがる自分がキモチ悪ぃ。
だけど内心の微妙な心の揺れをアイツに悟らせる訳にはいかず、
俺は数秒の沈黙を無かった事にして、ニッと唇の端を上げて笑った。


「行ってらっしゃい、ベイビー!」


軽く屈んでの頬にキスをする。
――――――――――――いや、そのつもりだった。


「・・・・・・っ!?」
Grazie(グラッツェ).ジャン」
(ありがと)


突然が首の角度を変えたので、俺の唇が触れたのは、の唇に限りなく近い頬だった。
俺は不覚にもそのことにどきっとする。
の奴は男装したスーツ姿とは言え相変わらず十代そこそこのガキにしか見えない。
だが、近付いて触れ合った瞬間にふわっと俺の鼻をくすぐったのは、
間違いなく『女』としての甘い香りだった。
そのことを今更ながら意識して、俺の心臓が情けない位にばくばくと鼓動を刻む。
おいおい、マジですか、何だよこの甘酸っぱい感覚は。
これじゃまるで初恋知ったばっかのガキの気分だよ、マンマ。


「じゃあ、もう行くから、Ciao!」
「ああ、じゃあな」


いつも通りの反応を装って、俺は手をひらひらさせてを見送った。


なぁベルナルド、これも浮気ってヤツに入っちまうのかな。


だが浮気なら可愛いもんだ。
(まぁ別に手を出したって訳じゃねぇけど)
単なる出来心なら俺だってもう少し気が楽だろう。
けど、今のこの状況で、俺がベルナルド以外の奴に心を移すなんてあり得ない。
自分で自信を持ってそう言っちまうくらいに、俺はベルナルドに惚れている。
つまり俺のに対するこの感情は、
浮気なんて可愛らしいもんじゃないってことだろう。


「ハァ・・・、マジで厄介な事になっちまったぜ・・・」


やらなきゃなんねぇことも、考えなくちゃならんことも山ほどあるだろうに、
ホントに一体、なにをしちゃってるんでしょうネ、俺は。
独り言を口にした後、
俺はカタツムリ並みにのろのろとした動きでまた部屋に戻る廊下を進み始めた。



(後篇へ)




アトガキ

詳しいネタ内容は後編で!と言うことで、
キャラ視点がえれぇ似非な感じで申し訳ないです(苦笑)。
会話だけならどうにかなるんですが、毎度キャラ視点ってやっぱり苦手だ。
それでも最後のジャン視点はまだそれなりに長さがありますが、
中間のベルナルド視点の短さ(笑)。でも努力だけはしました。
それからこれの時間軸が何気にあれこれと矛盾してたりするかもですが、
まぁ、そこはひとつスルーでお願いします!(←・・・)
ではでは、後編もお付き合い頂ける事を願って、失礼致します〜vv