チョコミントを讃えよ
「今日、仕事早めに終わりそうだから、そしたらそっち顔出してもいい?」
朝食を終えて仕事に向かう途中の廊下。
偶然見つけたジュリオに駆け寄り、は彼にそう声を掛けた。
「・・・ああ」
返って来た答えは極簡潔で短い二文字。
一見すれば愛想どころか感情の全くこもってない返事だった。
それでも最近はジュリオの僅かな表情を読み取る事が出来るようになったのは、
やっぱり以前よりずっとまともに彼と接するようになったことが大きな理由なのは間違いない。
昔は、は彼をまるで感情を持たない人形のように綺麗な顔をした坊ちゃんだと思っていた。
そりゃ『マッドドッグ』の噂はそれなりに知ってたけど、
あの頃はまだジュリオ自身が本当はどんな人間なのか殆ど知らなかったし、
組織内でいつの間にか『ジョーカー』なんて御大層な通り名が付いてる自分が、
実際は噂で囁かれるような人間じゃない事を嫌と言うほど分かってたからだ。
ただ、アレッサンドロ親父様の屋敷で何度かすれ違ったジュリオは、
見惚れるほど綺麗な顔してんのは確かだたけど、
いつも無表情で何の感情もないみたいな無機質なガラス玉の瞳が印象的だったのだけは覚えてる。
その時、マッドドックなんて通りの名を持つ人物には見えない、
紳士的な好青年のようだったと、仲間の誰かが言ってたのを思い出した。
すれ違うだけの関係だったには、そんな風にも思えなかったけど。
でも今は違う。
ジュリオには感情がない訳じゃない事が、ハッキリ分かる。
さっき言った様に、昔よりずっと近い距離で彼に接している事がその大きな理由だと思うけど、
一番の理由は、やっぱり、ジャンの存在のおかげだと言えた。
まるで飼い犬が無条件に主を慕う様に、ジュリオはジャンを信頼して、
寧ろ崇めてるといっていい位に尊敬してる。
そのことについては当初、普段のジュリオを知る周囲の人間達は勿論、
崇め奉られてた本人のジャンも理由が分からずかなり戸惑ってる様子だった。
因みに、はつい最近その元になる理由をジュリオから聞いたばかりだ。
きっと、当のジャンにさえまだ話していない筈の、ジュリオにとって特別大事な記憶。
それを話してくれるほど、に気を許してくれてる事。
以前なら考えられないけど、今なら、が彼の事を『友達』だと口にしても、
彼はきっと受け入れてくれるだろうと思う。
組織のファミリーとしてだけじゃなく、プライベートな友人として。
そう思えるのは、さっきの素っ気ない短い返事の中に、
それでもジュリオの中のへの親愛の情ってヤツを感じ取れたからだ。
そしてこれが単なる独りよがりでない事を、はもう知っていた。
「よぉ、」
「ジャン」
予告通り早めに仕事を終える事が出来、だけど予定よりは少し遅めの夜10時5分。
はジュリオの部屋を訪れた。
そこには先客が居て、彼は部屋の主共々、
この時間に食べるにはちょっとどころじゃなく大きすぎる器に盛られたチョコレートサンデーを食べていた。
しかも、それを残すどころか綺麗に平らげ、丁度最後の一口を食べ終わったところらしかった。
甘党の我らがカポ、ジャンカルロだ。
「来てたんだ」
「おう。つっても悪い、もう行かなきゃならねぇんだ。
俺が我がまま言ってジュリオと糖分補給させて貰ったからな。ジュリオ、付き合ってくれてサンキュ」
「いえ。俺も、久しぶりに、ジャンさんと、
一緒に・・・チョコレートサンデー、食べられて、嬉しかった・・・です」
軽く頬さえ染めてそうな勢いでそう言って、ジュリオは口元に弧を描いてジャンに向かって微笑んだ。
彼に尻尾が生えてたとしたら、間違いなくパタパタと勢い良くその部分は振り回されてる筈だ。
身長はどう見てもジャンよりジュリオの方が上なのに、
その姿はまるで小さな子供みたいにも見えた。
相変わらず、ジュリオのジャンに対する態度は分かり易い。
これがジャンに対してだけってところがまた、本当に分かり易いと思う。
「ってことは、また仕事?」
「ま、そんなとこ。お勉強だとよ。ベルナルドおじさんが先生してくれるの」
「そっか、ガンバレ、ボス」
「おうよ!そんじゃな、ジュリオ、に食われるなよ?」
「はい、また明日・・・、ジャンさん」
「食わないし!てか、ジュリオもそこは返事しなくていいし!」
が即座にツッコミを入れると、ジャンはケタケタと笑い声を上げて手をひらひらさせながら部屋から出ていった。
ジュリオは最後の最後までその背中を見送った後、に視線を移す。
「・・・、入らないのか?」
「あ、入る、入る。お邪魔します」
部屋の中に入れば、室内はチョコレートの甘い匂いで満たされていた。
ジュリオのチョコサンデーはジャンが食べていたサイズ(それも結構なもんだ)よりも更にドデカく、
しかもそれも残さず綺麗に平らげられた後だった。
「相変わらず、その細い体のどこにそんなに入るのか・・・。羨ましい通りこして憎いよね」
これで昔はもっと食べてたってんだからまた驚きだ。
しかも、太らない体質だと来てる。
『脂肪』と言う二文字とは無縁なしなやかな体は、モデル並みのスタイルの良さで、
一見ほっそりして見えるけど、実はしっかり筋肉がついているのが分かった。
「そろそろ来る頃だと思っていたから、あんたの分も用意させた」
「・・・・・・・え?の分?・・・ってチョコサンデー・・・!?」
ジュリオのに対するその気遣いへの純粋な驚きと同時に違う意味でぎょっとする。
確かに甘いものは大好きだ。
こんな時間に食べたら確実に太ると自覚しながら、
最終的に文字通りの甘い誘惑完全敗北して手を伸ばしてしまったことも数知れず。
だけど、さすがにこのバケツ並みなチョコサンデーと同じ量の物を食べられるかと言うと、
幾ら何でもご辞退申し上げたい。
勿論、ジュリオがわざわざの為に用意してくれたってところは凄く嬉しいけど。
「いや、これだ」
「あ、チョコケーキ!
(ありがと)
こんな時間にケーキって、を太らせる気ですか、ドチクショウ。
と言う気持ちが全くない訳じゃないけど、
既には彼から差し出された目の前のケーキを胃に収める気満々だった。
この一流のパスティチェーレが作った、食べる前から美味しさを保証されてるケーキをみすみす逃すなんて真似、
には出来ない。
残念ながらジュリオやジャンと違ってこの深夜のケーキはしっかりの肉になって、
肉になるんだろうけど、今回はもうその辺は考えない事にする。
「そう言えばさ、ジャン、さっきベルナルドとお勉強とか言ってたけど、
何だかんだで嬉しそうだったよね。・・・ここんとこ、お偉方との食事会やら会議やら何やらで、
まともにベルナルドと過ごせてなかったからだろうけど」
「・・・ああ」
の言葉にジュリオは短く返事をし、ほんの僅か、表情を和らげる。
本当にジュリオの奴はジャンのこととなるとビックリするほど分かり易い。
そして、だからこそ以前は不思議だった。
いや、実は今でも不思議だ。
腐れ縁的な関係だった筈のベルナルドとジャンが、実はどうやら『そう言う関係』に収まってしまったらしいと言う事は、
幹部連中は大体それなりに気がつている。
(イヴァンの奴はどうやらそう言うのとは違う意味で、ホモホモ騒いでたけど、アレは別だ)。
最初、そのことでジュリオはベルナルドに嫉妬するんじゃないかと思ってたけど、
本人の様子を見る限り、その心配はなさそうだった。
まぁ、ジュリオのジャンへの気持ちが俗に言う恋愛系に収まる様な単純なものじゃなくて、
もっと本当に純粋な、そして周囲から見ればそりゃもう大げさな位に崇拝の域に入ってる好意だってのは、
それなりに分かってたから、
その気持ちをすぐにベルナルドに嫉妬する方向に片付けるのも微妙な話だとは思うけど。
でも、傍から見るとそうなってもおかしくない程度にはジュリオは色々な角度でジャンを慕っていると思う。
それ程盲目に近い形で(でもジュリオは口数少なくても見るべきとこは見てる)彼に慕われているジャンを、
羨ましいと思っているのは、実はだったりもする。
ジュリオを男として見てるからってよりは、どちらかと言うと、
ひとつ年上な筈の彼に母性本能をくすぐられている部分があるからかもしれない。
確かにジュリオの中にに濃くて深い闇が有るのを知ってるのに、
ジャンを見る瞳の奥に純粋で可愛らしい少年が覗いてるのが見えてるから。
とは言え、にとってはジュリオとの関係は今の位置が丁度良く、
上手くバランスが取れてると思ってるのもまた事実。
「ね、ジュリオ」
「何だ?」
「ベルナルドのこと、羨ましいと思わなかった?」
答えは何となく予想できるような出来ない様な。
だけどはジュリオ本人の口から返事を聞きたくて、敢えて質問してみた。
ジュリオはほんの一瞬少しだけ瞳を大きく見開いた後、
間を開けて考えるようにから僅かに視線を逸らす。
は既に半分程胃に収まったチョコレートケーキをフォークで突き刺し、
そしてそれを口に運んだ。
「俺は、ジャンさんが、幸せなら・・・それでいい」
短いけど、でもある意味とても明確なお答えだった。
の質問の返事になってるかと言えば微妙にずれてる。
それでも、今のになら解読可能な返事だ。
この場合、ジャンさんの幸せ、には、相手の男がどんな野郎なのかもちゃんと含まれてる。
つまり、ベルナルドの事を信頼して、そして何よりあのジャンが選んだ男だからと理解してるんだと思う。
元々二人とも『そっちの気』はなかった筈で、腐れ縁と言う関係を覆す何かがあの二人に起って、
それがどんなきっかけだったかなんて達は知る由もないけど、
ジュリオはジャンを手に入れたベルナルドに嫉妬するよりも、ちゃんと祝福してるようだ。
まぁ、勿論、だってジュリオをまるっと理解出来てるかと言えば、
そんな自信はある訳もなく。
それでも。
「フッ・・・」
「・・・?」
思わず小さく笑ったに、ジュリオが怪訝そうな表情を浮かべる。
いかん、何故かまで嬉しくてにやにやしてしまった。
ジュリオは普段、ジャンの居ない所じゃ滅多に柔らかくて可愛らしい顔を見せてくれる事はないけど、
以前に比べればそう言う面を見る事も少なくなくなった。
結局『ジャンさん』のことに関してって部分は変わらないとは言え、やっぱり嬉しいもんだ。
いや、寧ろだからこそ嬉しいのかもしれない。
ジャンの事を慕ってないジュリオなんてジュリオじゃないとさえ思ってしまう。
「最後の一口、食べる?」
またしてもニヤニヤしてしまいそうになるのを誤魔化す為に、
はケーキの最後の一口をフォークで突き刺し、ジュリオに向かって差し出した。
勿論、ジョークのつもりで。
いや、と、一言で終るのを予想してたから、はすぐにフォークを引っ込める気満々だった。
「・・・・・・・・・・ん」
「・・・・・・・・・っ!!??」
不意に、フォークの先。
男にしては綺麗過ぎる唇が、ゆっくり開かれたかと思うと、
いつの間にかそこにあったチョコケーキの最後の一口はなくなってしまっていた。
思わずぽかんとその様子を眺めるに、何故かジュリオは不安そうな顔をする。
「、食べては・・・いけなかったのか?」
「え!?いやいやいや、そうじゃなくて!食べるかって言ったのはだし!」
「・・・?」
きょとん。
不思議そうにを見つめるジュリオ。
無防備なその顔が、彼の大好きなジャンさんの話をしてる時と重なる。
何だかよく分からないけど、はそれが無性に嬉しくて、無意識にまた笑う。
「ジュリオ、もそろそろ戻るね、ケーキありがと。後さ・・・また遊びに来ていい?」
ニッと笑って続けたに、ジュリオがライラック色の綺麗な瞳を微かに細めて答えた。
「・・・ああ、あんたが、そうしたなら・・・いつでも来ればいい」
そのやわらかな笑顔だけで、
は今のジュリオと自分の関係を酷く心地よく感じてる事を再認識したのだった。
例えばジュリオががこうして彼の部屋に来る事を拒まないことや、
彼の慕うジャンについて話が出来る事、
その度にジュリオ自身が無意識に見せる意外な表情。
そう言ったジュリオとのやり取りの小さなひとつひとつの積み重ねを、今更ながら嬉しく思う。
ジュリオも少しでもと同じ気持ちで居てくれればと思うのは、少し贅沢すぎるだろうか。
だけど、何となく、単なる自惚れじゃなく、その答えもはもう分かってる気がした。
(END)
アトガキ
リク内容は(管理人的表現に変えてます)ジュリオとの絡みで(NOTラブラブ可)
ベルジャンを見守る二人。
ってことだったんですが・・・、ジュリオ殆ど喋ってぬぇええって感じで申し訳ないです。
しかもベルジャンの話題には触れてるけど、・・・見守って?る?と言う感じだ。
ジャンの登場シーンじゃジュリオも動かし易かったんですが、どどどどうだろう!?
イヴァン以上に緊張したぞ、ジュリオ。でもこれでCR:5キャラオールで書けたってことが嬉しいですvv
ではでは、ネタ投下下さった日比谷様、ここまでお付き合い下さった姫様、誠に有難うございます。失礼しますー。