ロマンシング・ア・

      ロマンス





「さすが、2代目カポともなると、連れている御婦人からして違いますな、
あなたの様な若くて美しい方にお目に掛かれるとは、光栄ですよSignorina(シニョリーナ)
Grazie(グラッツェ).シニョーレ・ベッティーニ。
こちらこそ、お声を掛けて頂いただけでも光栄ですのに、そのようなお言葉、私には勿体ない限りです」


軽く唇で弧を描くように微笑する表情を心がけ、はあくまでも『淑女です』と言う演技を貫く。
そして、横も縦も大きな年配の紳士がの傍を去って行くと、
は普段のなら欠片も持ち合わせてない筈の優雅、かつ、しなやかな動きで歩を進めた。
正直さっきから自分の口から発する言葉の余りの柄じゃなさ過ぎる内容に笑いを通り越して、
遠い目になりそうな勢いだ。
だけどとにかく今は我慢するしかない。
自分の台詞にどれだけ噛みそうになっても、吹き出しそうになっても、
そして慣れないヒールとエレガントと言う言葉がピッタリの窮屈なドレスに疲労を感じても、
いつもの『素』のを出す事は許されないのだ。
せめてこのパーティが終わる瞬間までは。
周囲の招待客の中にはとジャンを含め、カタギさんとは真逆の世界で仕事をしてる人間も多い。
だけど、豪華すぎるほどに華やかなこの広い会場内のあちこちで談笑している人々は、
上質の服や靴を身に着けてるって理由だけじゃなく、誰も彼も酷く洗練された紳士、淑女に見えた。
こう言う場所に全く慣れてないってことも含め、
こんな御大層なパーティなんかには本来全く無縁のはそれだけで気後れしてしまう。
しかも、はCR:5・2代目カポ・ジャンカルロのパートナーとしてこの場に連れて来られたのだ。
が妙な真似をすれば、間違いなくジャンに迷惑が掛かる。



・・・そうならない為にこの1ヶ月近く必死にやってきた訳だしね。




◆◇◆





ジャンの元にこのパーティの主催者であるCR:5とも浅からぬ繋がりのある、
とある大富豪から招待状が届いたのはもう一ヶ月以上前の話だ。
その時は何となくそれっぽい話を聞いちゃいたけど、
には全然関係ない話だと思ってたから特に気にしても居なかった。
それから一週間ほど経って、がちょっと厄介な長期のお仕事から戻ってきたその日。
まさかでまさかの驚きの展開が待っていた。
今回のパーティは是非パートナー同伴でと言う一文が添えられていたらしく、
何故かにその白羽の矢が立ったわけだ。
当の本人である我らがカポ、ジャンカルロ曰く。


「だってしゃーねぇだろ?真っ先にの顔が浮かんじまったんだからさ。
あんたなら気心も知れてるし、俺もヘンに気取らずに済む。
ま、トーゼン、ちっとばっかしイロイロ気張って貰う事になるだろうけどな」


正直、幾らカポ直々のご指名とは言え、こんな提案が通るとは全く思ってなかった。
―――――――――のに。

「そうだな・・・、不安がないと言えば嘘になるが、なら万が一・・・、まぁそんな心配もないとは思うが、
いざという時もジャンの護衛を任せられるだろう」


と、主に前髪の毛根にストレスを浴びている幹部筆頭様が頷き。


「いいだろう。そんじゃ、ドレスと化粧は俺に任せとけ。
今と見違える最高にぴかぴかのレディにしてやるぜ」


と、俺様な女ったらしの幹部NO,2が早速乗り気になり。


「そう、だな・・・。ジャンさんに迷惑を掛けない為にも、
には、ある程度の、マナーを・・・身に着けて貰う」


と、お貴族様なマッドドッグが何故だか珍しくやる気を見せたのだった。
この時、この話の流れについて行けずに茫然としているの傍。
唯一、微妙な反応をしていたイヴァンの奴が言った。


「おいおい、お前らマジで言ってんのかよ!?
本気でこのチビガキを、パートナーにしてパーティに出席するってのか!?」


いつもならイヴァンのこの言い草に即座に噛みついてるとこだけど、
今回ばかりは内心ヤツの意見に賛成してしまっていた。
だって、幾ら何でもがジャンの、CR:5の二代目カポのパートナーとしてパーティに出席なんて、あり得ない。
明らかに性別が女だからって部分しか見られない気がする。
とは言え、ジャンが誰か別の、頭も切れてモデル並みの美女を見つけ出してパートナーにすることになったら、
それはそれでは物凄く傷付いて、嫌な思いをしてると思う。
本当に勝手な言い分だとは思うけど、
ジャンが真っ先にの顔が浮かんだって言ってくれたこと自体は嬉しかった。


「何じゃ?お前は不満なのか?イヴァン」


それまで黙って話を聞いていたカヴァッリ爺様がチラリとイヴァンに視線を向ける。
この口調。
かなり驚きな感じだけど、カヴァッリ顧問はこれ、他の幹部に賛成してるっぽい流れだ。


「ジイ様・・・、不満っつーか・・・、だって、コイツだぜ?・・・どう見たって・・・カポのパートナーが務まる様な女かよ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


そう言ったイヴァンがのつま先から頭の天辺までを無遠慮にジロジロと観察する。
その眼差しがそりゃもう分かり易く語って下さっていた。
どこもかしも貧弱じゃねぇか、この女?と。
やっぱりここはもう、そろそろ一発殴っておくべきだろうか。


「フン、お前はやっぱり分かってねぇなぁ、イヴァン。女ってのは、磨けば驚くほど化けるもんなんだぜ?
特にコイツはこう見えても元はイイ。、お前の自覚のなさも原因なんだぞ」
「自覚、と申されましても」


日頃からあれだけ『野郎』と言うよりガキ扱いしてるあんたには言われたくない。
まぁ、この場合複数形だけど。
イヴァンを筆頭に、を女扱いしてない野郎共ばっかだ。
ジャンに限って言えば、以前に比べればかなりマシな扱いをしてくれてるようにも思うけど。


「ふむ、、お前はどうなんじゃ?
ジャンのパートナーとしてパーティに出席するのは、やはり嫌なのか?」
「え?・・・嫌、と言うより、・・・・・・・うううーーん、ほ、本当にでいいのかなーと」
「ほう、と言う事は半分以上はその気なんじゃな」


ニヤリ。
の返事にじさまが笑う。
気のせいかそこはかとなくいやらしい笑い方だ。
何となく内心を見抜かれてしまった様で動揺する。
カヴァッリの爺様とはアレッサンドロ親父様と同じ位長い付き合いで、
正真正銘の小娘だった時からのことを知ってる相手だ。
そうでなくとも表情にあれこれ出やすいタイプらしいの口調や何かから、
がジャンに対して抱いてる気持ちを見抜いてるのかもしれない。


「・・・、あのさ、ジャン、・・・本当にでいいの?」
「トーゼンだ。じゃなきゃ最初っからこんなこと口にしてない。
言っただろ?真っ先にあんたの顔が思い浮かんだって」


ニッと笑ってジャンが答える。
彼の綺麗な金色の瞳は、真っ直ぐを捕らえていた。
ほんの数秒。
は周囲に他の幹部やカヴァッリ爺様が居る事も忘れ、
ジャンのその瞳を見惚れるみたいに見つめ返した。



「・・・・・・・・・・・・・・、分かった。、やってみる」



頷いた瞬間に、全く後悔しなかったかと言えば嘘になる。
だけど同時に、この短期間で叩きこまれるだろうあれこれを吸収する為に必死に取り組む決意も、
は確かにしていた。


「面倒な仕事だってのは分かるけどさ、ヨロシク頼むぜ、
「・・・・・・・・・う、うん、こっちこそ宜しく」
「よし、そうと決まれば、お前には色々と覚えて貰う事が山ほどある。
ベルナルド、ルキーノ、ジュリオ、頼んだぞ。それにイヴァン、お前もちゃんと協力するんじゃぞ!」
「ああー、へいへい、どうせこうなるとは思ってたけどな」



それから約1ヶ月の間は本当に濃ゆかった。
は普段の仕事をこなしながら、そして勿論幹部様方もそれぞれのシノギをきちっとこなしつつ、
その合間を縫ってパーティで必要な出来る限りの知識や作法をスパルタな感じで
(特にジュリオは物静かな分、逆に何かもう半端なく恐ろしかった)文字通り叩きこまれた。
イヴァンの奴も思った以上に協力的で、自分が知っているパーティ出席者のお偉方情報なんかを教えてくれた。
但し、あのアホは当日これを活用しろと大量のパッドの入ったブラを押し付けてきやがった為、
その大半をイヴァンの顔面に投げつけてやった。
実は2枚ほど活用しようと思ってコッソリ抜き取っておいたのはだけの極秘事項だ。
(ルキーノの奴なんかその辺目敏そうで怖すぎるけど)
そして今日。
パーティ会場に向かう車に乗り込む1時間前。
は着替えを済ませた後(コーディネイトはルキーノ&ベルナルド)
約1時間半もの時間を掛けて、ルキーノに念入りにメイクをされ、
最終チェックを兼ねてCR:5の幹部達とカヴァッリ爺様と顔を合わせた。
鏡の中のまるで魔法にかけられたシンデレラのように、別人の、だけど紛れもない私自身を見たとき、
あの時ばかりは何も考えずには素直にルキーノの礼を述べずには居られなかった、
化粧一つで女は変わるって言うけど、まさかそれに自分が当てはまるなんて思いもしなかったからだ。
自分で言うのもなんだけど、ドレスに着替えて着飾り、メイクをした後のは、
『チビガキ』の面影もなくなってたと思う。
そしてそれがの自惚れじゃないと教えてくれたのは、他でもないCR:5の幹部達だった。


「・・・おいおい、・・・マジかよ!?嘘・・・、だろ!?・・・あのチビガキが・・・!?」
「ファンクーロ!今のコイツをそう呼ぶのは止めろ、イヴァン。どう見ても立派なレディだろうが」
(くそったれ)
「ああ、ははっ・・・!全く驚いたね、綺麗だぞ、
「・・・そう、だな・・・。本当に、綺麗だ」
「うむ、文句の付けようがないな!アレッサンドロの奴にも見せてやりたい位じゃ」


普段は滅多に向けられる事のない視線と褒め言葉に、無性に気恥かしくなる。
そして同時に凄く嬉しかった。
まだパーティ会場に到着どころかそれ以前の状態だけど、
少なくともジャンの隣に立っても恥ずかしくないだけのレディだと認められた訳だ。
無意識に口元を緩めつつ、早くジャンにもこの姿を見て欲しいなんて、柄にもないことを考えた。
そして丁度その時。


「んぁーっ、クソっ、スーツもかたっ苦しくてあんま好きじゃねぇけど、タキシードなんかもっとキライだ!
動きにくくって仕方ねぇぜ!」


眉間に深くしわを寄せ、ぶつくさと文句を垂れつつ、ネクタイを鬱陶しそうに弄りながら、
奥の部屋からジャンが姿を見せた。
どうやらたった今着替え終わったらしい。


「おい、ジャン、さっきも言っただろうが、タイを緩め過ぎるな」
「ああ、そうだな、それから・・・ほら、ジャン、そこのボタンを外すんじゃない」
「うぅ〜、へいへい、わーってますよ。ピシっとね、ピシっとー」


早速ルキーノとベルナルドから厳しいチェックを受け、ジャンはふくれっ面をしつつもそれに従う。
ルキーノが見立てたと言うタキシードは、驚く位にジャンに似合っていた。
あのライオン野郎のセンスの良さはそれなりに分かってるつもりで居たけど、
彼は単にセンスがいいってだけじゃなく、相手にどんなものが似合うのか、そういうことを良く分かってるんだと思う。
は思わず少しの間無言でぼんやりジャンの姿に見とれてしまっていた。


「お前にしちゃ、上出来じゃな、ジャンカルロ」
「ジイ様、それ褒めてるのけ?」
「ジャンさん、・・・その格好、凄く、似合ってます」
「おう、あんがと、ジュリオ」
「ま、オーダーメイドってヤツらしいから?あつらえた本人に似合ってねぇとシャレにならねぇよなぁ?」
「うるせぇぞ、馬鹿イヴァン。つーか、それよりは・・・・・・・――――――――」


カヴァッリの爺様やジュリオ、それにイヴァンの憎まれ口にそれぞれ返事をし、
不意にの名前を口にしてその先を続けようとしたジャンは、
彼らの影になっていたを見つけて一瞬驚いたみたいに瞳を見開いた。
そして、少し足早にの方に近付いて来る。


「・・・・・・・・?あんた、だよな?」
「・・・う、うん」
「・・・・・・・・、綺麗だな。そのドレスさ、スッゲェ良く似合っているぜ。
やっぱりあんたを俺のパートナーに選んで正解だった」


いつものニヤリとした笑みとは違う、微笑みの様な柔らかい笑顔を浮かべてジャンが言った。
余りの嬉しさと照れくささで無意識に視線が下を向く。
なんだろう、これは。
いつものなら絶対にこんな可愛らしい態度なんて取らないのに、下手したら頬さえ染めていそうな勢いだ。
もじもじしてしまう。
らしくなくて、いつもみたいに笑い飛ばしたいのに、それが出来ない。


「ふぅん、そうやって二人並ぶと益々いいな。さすがは俺の見立てだぜ。
・・・と、言いたい所だが、おい、お二人さん、お前らそんだけ美男美女なんだ、普段ももっと気合入れろ」
「俺様は自然体が一番イイ男なのヨ。でも、ま、あんたにゃ感謝してるぜ。
タキシードなんて俺にはどれも同じに見えたしな。ありがとよ、ルキーノ。
何より、・・・は今まで見たどのレディよりサイコーだ」
『・・・・・・・・・・・・・・・それは褒めすぎ』


この上ないこっぱずかしさには思わず日本語でボソリとそう呟いて、ジャンから視線を逸らす。
本当にらしくない。
だけど、今位は、こんなに綺麗に着飾って貰った今日位は、
大人しくて可愛らしい女を気取っても許されるかもしれない。
と言うか、パーティ会場じゃ、否応なしにそれを要求される訳なんだけど。


この後、達は護衛の車を引きつれ、ルキーノとベルナルドをお共に
(因みに彼らもパーティに出席はするものの、女性同伴じゃない)
パーティ会場に向かって出発した。
そして、会場となっている邸の敷地内に入る直前。
がっちがちに緊張し始めていたに、
ジャンが周囲に気付かれない程度の声で囁くように言った。



「自信を持てよ、。あんたは元々イイ女だけど、今日は特別イイ女だぜ。
あの馬鹿デカイ屋敷に招かれてる客のパートナーの誰より一番だって、俺が思っちゃう位にな」




「・・・・・・・・・・・・・・・ジャン」



いつもなら、茶化して笑い飛ばして照れくささを誤魔化すようなジャンからの台詞。
でもこの時は、そんな事をしようとは思えなかった。
ジャンのその一言で、は余計な事を考えずに自信を持って彼の隣に立っていようと決めた。
この約一ヶ月、色々と協力してくれた皆の為に。
そして他でもない、ジャンカルロ、の大好きな人の為に。



はその時初めて、その着飾った姿で彼を真っ直ぐ見て笑った。




(続く)






アトガキ

頂きネタの内容は後篇にて!と言うか、まさかここまで長くなるとは!
いや、何となく長くなるだろうとは思ってたんですけど、
予想以上に色々書き足しちゃいました。
まぁ、それでもツッコミ所が多すぎるところが多々あるとは思いますが、
細部に妄想力を使用すると肝心な所の妄想力が追いつかなくなりそうだったので、
スルー&スルーでお願いします。何気にCR:5が揃ってる所書くのって初めてで、
凄く楽しかったです。カヴァッリ爺様もお初だし(出番少ないけど)
ではでは、宜しければどうぞ、後編もお付き合い頂きたく、お願い致します〜。
※因みにオーダーメイドは、和製英語です。なのにイヴァンに言わせた台詞だと思うと微妙かもなぁ(苦笑)