優しいキスをして
左之がモテることなんか、付き合う前から、それこそ直に出会う前から知ってる。
画面越しに見てた時から人気が有って当然だと思ってたし、
リアルに出会ってからはそのことに納得だってしてたし、
だからこそそれなりに覚悟が必要だって思ってた。
私の知らないとこで告られてるって話だって、
本人はそんなこと一度も言わないけど、何度も耳にしたことだってある。
だけど、これはない。
これはないだろう、ホントに。
こう言うの、勘弁して欲しい、心底。
「原田先生・・・、もう私の気持ちに気付いていらっしゃるんでしょう?」
柔らかく、だけどしっとりした色気のあるソプラノ。
声の主は我が薄桜学園の中等部の音楽教師、だと思う。
最近クラスメイトの女子が左之の女性関係の情報を仕入れたと楽しげに噂してて、
彼女はその相手になってる女性教師の容姿にピタリと当てはまるから。
中等部の教師は極たまに高等部に姿を見せたりするんだけど、
この先生がまたかなりの美人で、男子達が妙に騒いでたのも知ってる。
私が知ってる噂の内容としては、
この迫力美人な音楽教師が左之に猛アタックしてるって話だ。
ゴージャスなタイプの華やかな美人なだけに、左之と並ぶと嫌味な位にお似合いで、
不本意ながらこの場に居合わせてしまった私は二人から目が逸らせなかった。
因みに、今私達が居るのは薄桜学園・高等部の校舎内、第二倉庫の中だ。
この倉庫は頻繁に使われてる第一倉庫より広い割に、物がごちゃごちゃ置いてあって、
場所によって死角になる所が多い。
私は偶々他の先生に頼まれて当分必要のないらしい教材をここに置きに来ていた。
置き場所が奥まったところだったから、
後からここに入って来た彼らは私の存在に気付かず、話が始まってしまったと言う訳。
こんなことになるんなら、教材を倉庫に持ってくことなんか引きうけなきゃ良かった。
本当に今、心の底からそう思っている。
私だって何も望んでこんな盗み聞きみたいなことをしてるんじゃないのだ、断じて。
「今井先生の気持ち、ですか?さぁ、俺は別に超能力者でもなんでもないんで、
そこまではちょっと分かりませんね」
苦笑して答えた左之は、
彼にゆっくり近付いた今井と言うらしい音楽教師から、さり気なく距離を取るように歩を進めた。
私は極力息を殺して、それでもしっかりと二人を視界に捕らえる。
長いまつ毛の下の瞳を伏せて居た彼女が、その視線を上げて左之をジッと見つめた。
女の私でも、ちょっとくらっとしてしまいそうなそりゃもう綺麗な顔で。
「原田先生・・・・、私・・・・貴方が好きなんです。私とお付き合いして頂けませんか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・、って、・・・・・そう来ましたかっ!!
てか、普通言う!?それここで!
なんて内心で彼女に激しいツッコミを入れつつも、私は食い入るように左之を見る。
彼のことを疑ってる訳じゃないけど、それでも彼の返事が気になるのは仕方ない。
「申し訳ないですが、今井先生の気持ちには答えられません。
俺には付き合ってる女が居る。・・・俺にとって特別に大事なのは、たった一人ですから」
どくんっ。
と、左之の言葉を聞いた瞬間、私の胸の奥で心臓が大きく跳ねた。
彼は私がここに居ることに気付いてるんだろうか。
いや、そんなことはない筈だ。
だけど、だから、今の言葉が無性に嬉しくて堪らない。
キッパリと言い放ってくれた左之の気持ちが、本当に心から嬉しかった。
「原田先生・・・・!」
「すまねぇ、・・・・今井先生。あんただけを好いてくれる男を見つけてくれ。
俺はあんたの気持ちを受け止めてやれねぇんだ」
ついさっきまでの敬語を止めて、左之が続ける。
彼は基本的に女性には優しい。
それは年齢に関係なく、それこそ小さな女の子からおばあちゃんまで、女性には敬意を払うタイプなのだ。
それでもこう言った場合、中途半端な優しさが、
後々相手の気持ちを更に傷つけるってことを分かってるんだと思う。
今井先生と呼ばれた彼女の細い肩が小刻みに震えた。
彼女は唇を噛みしめて、視線を上げ、不意に左之に向かって駆け寄った。
「・・・・っ!!」
私は思わず声を上げそうになってしまい、寸での所でそれを抑え込む。
両手で口元を覆い、息を殺して二人を見詰めた。
左之の胸に縋るみたいな形で彼女が腕を回している。
それを目にした途端、私の胸の奥をぎゅうっと潰れるような感覚が襲う。
同時に、自分でも驚く位にどす黒い感情が込み上げてくるのが分かった。
「原田先生、私・・・・っ!」
涙交じりに彼女が左之を呼ぶ。
まるで何だかドラマか何かのワンシーンを見せつけられてるみたいだ。
それ位に二人は絵になった。
どっかでカメラが回っててもおかしくない。
だけど、残念なことに、私の胸の中から湧き出て来た感情はそんなお綺麗なものには全く相応しくなかった。
「・・・・・今井先生・・・」
左之が彼女の名前を呼び、そっとその肩に手を触れる。
――――――――――――――ど く り。
私の心臓が嫌な意味で大きく跳ねた。
さっき心臓が跳ねた時の甘くてふわふわしたみたいな想いとは全く真逆に有る気持ちが揺さぶられる。
「原田先生、好きなんです・・・あなたが・・・・」
彼女が潤んだ瞳で左之を見上げた。
元が美人なだけにその表情は本当に嫌んなる位に綺麗で。
そして。
「・・・・・・・・・・・・・・」
左之は無言で、彼女の肩をゆっくりと自分の身から離す。
その動きで彼女は彼の完全な拒絶を察した様だった。
酷く傷付いた様子で左之を見上げた後、唇を噛みしめて体を小刻みに震わせ、
そのままくるりと踵を返して小走りに第二倉庫を出て行ってしまう。
左之はその背中を見送りながら、深い溜息を吐いていた。
事の一部始終を目にしてしまった私は、
すぐ傍に有った棚に背を預け、そのままへなへなと床に座り込む。
正直、心底ホッとしてた。
「・・・・おい、」
「・・・・・・・・・・・・へ?・・・・ぎゃっ!?」
不意に背後からひょこっと覗き込むようにして左之が私の方に屈みこんでくる。
あのまま倉庫を出てったもんだと勝手に思い込んでたから、私は思わず声を上げた。
「おいおい、ぎゃってのは何だよ、ぎゃってのは」
苦笑しながら左之は私の正面まで回り込んで来た。
私は床に座り込んだまま、彼を見上げる。
「い、いや、だって・・・・え!?き、気付いてた!?私が居た事・・・」
「ん?ああ、ま、途中からな・・・。
お前、今井先生が俺に抱きついて来た時、声出しそうになったろ?」
「っ!!」
よりによってそこかいっ!!
だけど考えてみれば確かにあの時は息を思いっきり吸いこんで吐きだして、
本当に無意識に声が上がる所だった。
今思えばあれはバレても仕方なかったかもしれない。
「・・・ごめん、別に盗み聞きするつもりなかったんだけど・・・」
「いや、後から入って来たのは俺達の方だしな。
ちゃんと他に生徒が居ないか確認しなかったのはこっちが悪い」
まぁ、確かにあれを私以外の生徒に目撃されてたらえらいことになってただろうし。
別に教師同士の恋愛はご法度とかある訳じゃないけど、
それにしても妙な噂が立つことは間違いない。
「それよりいつまでそんなとこに座りこんでるつもりだ?腰冷やしちまうぞ」
「・・・・・う、・・・ん」
短く返事をして、のろのろと立ち上がろうとする私。
そこで彼は私の腕を掴んでグイッと力一杯引っ張り、私を自分の腕の中に引き寄せた。
「っと、わっ!?ちょ、ちょっと待った!原田先生!?」
「ん?」
「いやいやいや、あの、ん?じゃなくて・・・!こ、この体勢は、ヤバイんではないでしょうか?」
私の体に完全に絡められた左之の両腕はしっかりと私を捕らえている。
何でこうナチュラルに自分の流れに持ってくのが上手いんだこの人は。
「安心しろよ、ここは出入り口からも死角になってるからな。
誰かが入ってきても相手からはすぐにはバレねぇ筈だ。」
「け、けど・・・・!」
「・・・・・・・それより、、悪かったな」
「えっ!?」
不意に名前を呼ばれた上、謝罪の言葉を口にされ、私は驚いて瞳を見開き、彼を見上げる。
左之は僅かに瞳を細めて困った様に笑った。
「嫌な思い、させちまっただろ」
「あ・・・・・・・・・」
その言葉で、彼の言っている意味が理解出来た。
つまり、左之はついさっきここで起った、今井先生とのやり取りの事を言ってるんだ。
「・・・・でもあれは別に左之のせいじゃないし」
「かもしれねぇな・・・、だけどお前を不安にさせちまったのは事実だろ」
「・・・・・・・うっ、いや、別に・・・そんなことは・・・・・・・・・・」
「無理すんな。顔に書いてあるぞ」
言った左之が至近距離で私を見下ろしたままフッと苦笑する。
私は思わず眉間にしわを寄せ、そのままボスリと彼の胸に顔を押し付けた。
「ごめん・・・・」
「何でそこでお前が謝るんだ?」
「だって、・・・左之のこと、信じてないみたいに見える」
「そんなことねぇよ。寧ろあんな場面見ても本当に平気ですって顔される方が焦るぜ」
「・・・・・・・ホントに?」
「ああ」
彼のスーツは微かに煙草の匂いがする。
あの人も、ほんの短時間とは言え、この胸に触れて、この香りを嗅いだんだ。
そう思うと、やっぱり胸の奥が嫌な痛みを訴えた。
あ、駄目だこれは。
これはもう、正直に口にしてしまった方がいい。
「・・・あのさ・・・左之」
「何だ?」
「・・・・・・今井先生が左之に触れた時、私・・・凄く嫉妬した・・・・・。
さっきも言ったけど、左之の事信じてない訳じゃないけど、でも・・・やっぱり嫌だった」
「・・・・」
左之が私の名前を呼び、私の体に回した腕に力を込める。
密着して生まれた体温が心地いい。
「最初から見てたなら分かってるよな?俺は、お前以外の女なんざ見えてねぇんだよ。
・・・・お前相手じゃなけりゃ、リスクを負ってでも手に入れてぇ・・・なんて思えなかった。
どんな女が現れようが、俺にとっちゃ同じだ。 、お前じゃなきゃ、意味がねぇ」
彼の言葉に胸がぎゅうっと締め付けられる。
だけど、今度のは全然嫌じゃなかった。
嬉しくて、嬉し過ぎて、不覚にも、本気で泣きそうだった。
左之にはホント、参る。
「・・・・・・・・・うん」
それだけ言って頷くのが精いっぱいで、気付いたら左之は私の額に、
鼻に、頬に、柔らかく優しいキスの雨を降らせていた。
こういうのは困る。
本当に困る。
柄じゃないって分かってるのに、嬉しくて抵抗できない。
「左之助・・・」
無意識に私は彼の名前を呼ぶ。
いつもの渾名みたいな呼び方じゃなく、ハッキリと彼の名前を口にしてた。
その瞬間、それに反応して左之が少しの間動きを止める。
僅かに瞳を見開いて、それから照れたように笑った。
駄目だ、その顔は反則過ぎる。
さっきからいつもより乱れた感じで脈打ってた鼓動が益々不自然に勢いを増した。
再度、左之の顔がゆっくり私に近付いて来る。
だけど今度彼の唇が触れたのは頬や額じゃなかった。
私の唇をくすぐるようにして左之の唇が重ねられる。
更に、優しく食むように彼の唇が動いた。
今まで数えるのも馬鹿らしい位にした濃厚なキスとは違う。
ふわふわした接触なのに、妙に甘ったるくて、気恥かしい気分にさせられる位に優しい。
ああ、やっぱ私は左之の事が好きなんだ。
そう、実感させられてしまうキス。
そして同時に、彼が私を大事に思ってくれてるんだと、分からせてくれるキスだ。
頭ん中・・・、相当溶けてるな、私・・・・・・。
そんな考えが一瞬頭を過りはしたものの、本当にそんなのは一瞬だった。
0コンマな世界で、あっという間に開き直る自分が居る。
いいじゃないか、これで。
だって本当にその位幸せなんだから、と。
この先だって左之は相変わらずモテまくって、不安になる事は有るだろう。
だけど大丈夫だ。
彼が私にこんなキスをしてくれる間は、私はいつだって立ち直れる。
リアルに左之が私の彼氏になってから、夢みたいだと思い続けてた事は確かだけど、
夢なんかで終わらせるつもりはない。
例え万が一これが夢だとしても、私はこの先もずっとこの夢を見続けてやろう。
本気で、そう思った。
(END)
左之がモテることなんか、付き合う前から、それこそ直に出会う前から知ってる。
画面越しに見てた時から人気が有って当然だと思ってたし、
リアルに出会ってからはそのことに納得だってしてたし、
だからこそそれなりに覚悟が必要だって思ってた。
私の知らないとこで告られてるって話だって、
本人はそんなこと一度も言わないけど、何度も耳にしたことだってある。
だけど、これはない。
これはないだろう、ホントに。
こう言うの、勘弁して欲しい、心底。
「原田先生・・・、もう私の気持ちに気付いていらっしゃるんでしょう?」
柔らかく、だけどしっとりした色気のあるソプラノ。
声の主は我が薄桜学園の中等部の音楽教師、だと思う。
最近クラスメイトの女子が左之の女性関係の情報を仕入れたと楽しげに噂してて、
彼女はその相手になってる女性教師の容姿にピタリと当てはまるから。
中等部の教師は極たまに高等部に姿を見せたりするんだけど、
この先生がまたかなりの美人で、男子達が妙に騒いでたのも知ってる。
私が知ってる噂の内容としては、
この迫力美人な音楽教師が左之に猛アタックしてるって話だ。
ゴージャスなタイプの華やかな美人なだけに、左之と並ぶと嫌味な位にお似合いで、
不本意ながらこの場に居合わせてしまった私は二人から目が逸らせなかった。
因みに、今私達が居るのは薄桜学園・高等部の校舎内、第二倉庫の中だ。
この倉庫は頻繁に使われてる第一倉庫より広い割に、物がごちゃごちゃ置いてあって、
場所によって死角になる所が多い。
私は偶々他の先生に頼まれて当分必要のないらしい教材をここに置きに来ていた。
置き場所が奥まったところだったから、
後からここに入って来た彼らは私の存在に気付かず、話が始まってしまったと言う訳。
こんなことになるんなら、教材を倉庫に持ってくことなんか引きうけなきゃ良かった。
本当に今、心の底からそう思っている。
私だって何も望んでこんな盗み聞きみたいなことをしてるんじゃないのだ、断じて。
「今井先生の気持ち、ですか?さぁ、俺は別に超能力者でもなんでもないんで、
そこまではちょっと分かりませんね」
苦笑して答えた左之は、
彼にゆっくり近付いた今井と言うらしい音楽教師から、さり気なく距離を取るように歩を進めた。
私は極力息を殺して、それでもしっかりと二人を視界に捕らえる。
長いまつ毛の下の瞳を伏せて居た彼女が、その視線を上げて左之をジッと見つめた。
女の私でも、ちょっとくらっとしてしまいそうなそりゃもう綺麗な顔で。
「原田先生・・・・、私・・・・貴方が好きなんです。私とお付き合いして頂けませんか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・、って、・・・・・そう来ましたかっ!!
てか、普通言う!?それここで!
なんて内心で彼女に激しいツッコミを入れつつも、私は食い入るように左之を見る。
彼のことを疑ってる訳じゃないけど、それでも彼の返事が気になるのは仕方ない。
「申し訳ないですが、今井先生の気持ちには答えられません。
俺には付き合ってる女が居る。・・・俺にとって特別に大事なのは、たった一人ですから」
どくんっ。
と、左之の言葉を聞いた瞬間、私の胸の奥で心臓が大きく跳ねた。
彼は私がここに居ることに気付いてるんだろうか。
いや、そんなことはない筈だ。
だけど、だから、今の言葉が無性に嬉しくて堪らない。
キッパリと言い放ってくれた左之の気持ちが、本当に心から嬉しかった。
「原田先生・・・・!」
「すまねぇ、・・・・今井先生。あんただけを好いてくれる男を見つけてくれ。
俺はあんたの気持ちを受け止めてやれねぇんだ」
ついさっきまでの敬語を止めて、左之が続ける。
彼は基本的に女性には優しい。
それは年齢に関係なく、それこそ小さな女の子からおばあちゃんまで、女性には敬意を払うタイプなのだ。
それでもこう言った場合、中途半端な優しさが、
後々相手の気持ちを更に傷つけるってことを分かってるんだと思う。
今井先生と呼ばれた彼女の細い肩が小刻みに震えた。
彼女は唇を噛みしめて、視線を上げ、不意に左之に向かって駆け寄った。
「・・・・っ!!」
私は思わず声を上げそうになってしまい、寸での所でそれを抑え込む。
両手で口元を覆い、息を殺して二人を見詰めた。
左之の胸に縋るみたいな形で彼女が腕を回している。
それを目にした途端、私の胸の奥をぎゅうっと潰れるような感覚が襲う。
同時に、自分でも驚く位にどす黒い感情が込み上げてくるのが分かった。
「原田先生、私・・・・っ!」
涙交じりに彼女が左之を呼ぶ。
まるで何だかドラマか何かのワンシーンを見せつけられてるみたいだ。
それ位に二人は絵になった。
どっかでカメラが回っててもおかしくない。
だけど、残念なことに、私の胸の中から湧き出て来た感情はそんなお綺麗なものには全く相応しくなかった。
「・・・・・今井先生・・・」
左之が彼女の名前を呼び、そっとその肩に手を触れる。
――――――――――――――ど く り。
私の心臓が嫌な意味で大きく跳ねた。
さっき心臓が跳ねた時の甘くてふわふわしたみたいな想いとは全く真逆に有る気持ちが揺さぶられる。
「原田先生、好きなんです・・・あなたが・・・・」
彼女が潤んだ瞳で左之を見上げた。
元が美人なだけにその表情は本当に嫌んなる位に綺麗で。
そして。
「・・・・・・・・・・・・・・」
左之は無言で、彼女の肩をゆっくりと自分の身から離す。
その動きで彼女は彼の完全な拒絶を察した様だった。
酷く傷付いた様子で左之を見上げた後、唇を噛みしめて体を小刻みに震わせ、
そのままくるりと踵を返して小走りに第二倉庫を出て行ってしまう。
左之はその背中を見送りながら、深い溜息を吐いていた。
事の一部始終を目にしてしまった私は、
すぐ傍に有った棚に背を預け、そのままへなへなと床に座り込む。
正直、心底ホッとしてた。
「・・・・おい、」
「・・・・・・・・・・・・へ?・・・・ぎゃっ!?」
不意に背後からひょこっと覗き込むようにして左之が私の方に屈みこんでくる。
あのまま倉庫を出てったもんだと勝手に思い込んでたから、私は思わず声を上げた。
「おいおい、ぎゃってのは何だよ、ぎゃってのは」
苦笑しながら左之は私の正面まで回り込んで来た。
私は床に座り込んだまま、彼を見上げる。
「い、いや、だって・・・・え!?き、気付いてた!?私が居た事・・・」
「ん?ああ、ま、途中からな・・・。
お前、今井先生が俺に抱きついて来た時、声出しそうになったろ?」
「っ!!」
よりによってそこかいっ!!
だけど考えてみれば確かにあの時は息を思いっきり吸いこんで吐きだして、
本当に無意識に声が上がる所だった。
今思えばあれはバレても仕方なかったかもしれない。
「・・・ごめん、別に盗み聞きするつもりなかったんだけど・・・」
「いや、後から入って来たのは俺達の方だしな。
ちゃんと他に生徒が居ないか確認しなかったのはこっちが悪い」
まぁ、確かにあれを私以外の生徒に目撃されてたらえらいことになってただろうし。
別に教師同士の恋愛はご法度とかある訳じゃないけど、
それにしても妙な噂が立つことは間違いない。
「それよりいつまでそんなとこに座りこんでるつもりだ?腰冷やしちまうぞ」
「・・・・・う、・・・ん」
短く返事をして、のろのろと立ち上がろうとする私。
そこで彼は私の腕を掴んでグイッと力一杯引っ張り、私を自分の腕の中に引き寄せた。
「っと、わっ!?ちょ、ちょっと待った!原田先生!?」
「ん?」
「いやいやいや、あの、ん?じゃなくて・・・!こ、この体勢は、ヤバイんではないでしょうか?」
私の体に完全に絡められた左之の両腕はしっかりと私を捕らえている。
何でこうナチュラルに自分の流れに持ってくのが上手いんだこの人は。
「安心しろよ、ここは出入り口からも死角になってるからな。
誰かが入ってきても相手からはすぐにはバレねぇ筈だ。」
「け、けど・・・・!」
「・・・・・・・それより、、悪かったな」
「えっ!?」
不意に名前を呼ばれた上、謝罪の言葉を口にされ、私は驚いて瞳を見開き、彼を見上げる。
左之は僅かに瞳を細めて困った様に笑った。
「嫌な思い、させちまっただろ」
「あ・・・・・・・・・」
その言葉で、彼の言っている意味が理解出来た。
つまり、左之はついさっきここで起った、今井先生とのやり取りの事を言ってるんだ。
「・・・・でもあれは別に左之のせいじゃないし」
「かもしれねぇな・・・、だけどお前を不安にさせちまったのは事実だろ」
「・・・・・・・うっ、いや、別に・・・そんなことは・・・・・・・・・・」
「無理すんな。顔に書いてあるぞ」
言った左之が至近距離で私を見下ろしたままフッと苦笑する。
私は思わず眉間にしわを寄せ、そのままボスリと彼の胸に顔を押し付けた。
「ごめん・・・・」
「何でそこでお前が謝るんだ?」
「だって、・・・左之のこと、信じてないみたいに見える」
「そんなことねぇよ。寧ろあんな場面見ても本当に平気ですって顔される方が焦るぜ」
「・・・・・・・ホントに?」
「ああ」
彼のスーツは微かに煙草の匂いがする。
あの人も、ほんの短時間とは言え、この胸に触れて、この香りを嗅いだんだ。
そう思うと、やっぱり胸の奥が嫌な痛みを訴えた。
あ、駄目だこれは。
これはもう、正直に口にしてしまった方がいい。
「・・・あのさ・・・左之」
「何だ?」
「・・・・・・今井先生が左之に触れた時、私・・・凄く嫉妬した・・・・・。
さっきも言ったけど、左之の事信じてない訳じゃないけど、でも・・・やっぱり嫌だった」
「・・・・」
左之が私の名前を呼び、私の体に回した腕に力を込める。
密着して生まれた体温が心地いい。
「最初から見てたなら分かってるよな?俺は、お前以外の女なんざ見えてねぇんだよ。
・・・・お前相手じゃなけりゃ、リスクを負ってでも手に入れてぇ・・・なんて思えなかった。
どんな女が現れようが、俺にとっちゃ同じだ。 、お前じゃなきゃ、意味がねぇ」
彼の言葉に胸がぎゅうっと締め付けられる。
だけど、今度のは全然嫌じゃなかった。
嬉しくて、嬉し過ぎて、不覚にも、本気で泣きそうだった。
左之にはホント、参る。
「・・・・・・・・・うん」
それだけ言って頷くのが精いっぱいで、気付いたら左之は私の額に、
鼻に、頬に、柔らかく優しいキスの雨を降らせていた。
こういうのは困る。
本当に困る。
柄じゃないって分かってるのに、嬉しくて抵抗できない。
「左之助・・・」
無意識に私は彼の名前を呼ぶ。
いつもの渾名みたいな呼び方じゃなく、ハッキリと彼の名前を口にしてた。
その瞬間、それに反応して左之が少しの間動きを止める。
僅かに瞳を見開いて、それから照れたように笑った。
駄目だ、その顔は反則過ぎる。
さっきからいつもより乱れた感じで脈打ってた鼓動が益々不自然に勢いを増した。
再度、左之の顔がゆっくり私に近付いて来る。
だけど今度彼の唇が触れたのは頬や額じゃなかった。
私の唇をくすぐるようにして左之の唇が重ねられる。
更に、優しく食むように彼の唇が動いた。
今まで数えるのも馬鹿らしい位にした濃厚なキスとは違う。
ふわふわした接触なのに、妙に甘ったるくて、気恥かしい気分にさせられる位に優しい。
ああ、やっぱ私は左之の事が好きなんだ。
そう、実感させられてしまうキス。
そして同時に、彼が私を大事に思ってくれてるんだと、分からせてくれるキスだ。
頭ん中・・・、相当溶けてるな、私・・・・・・。
そんな考えが一瞬頭を過りはしたものの、本当にそんなのは一瞬だった。
0コンマな世界で、あっという間に開き直る自分が居る。
いいじゃないか、これで。
だって本当にその位幸せなんだから、と。
この先だって左之は相変わらずモテまくって、不安になる事は有るだろう。
だけど大丈夫だ。
彼が私にこんなキスをしてくれる間は、私はいつだって立ち直れる。
リアルに左之が私の彼氏になってから、夢みたいだと思い続けてた事は確かだけど、
夢なんかで終わらせるつもりはない。
例え万が一これが夢だとしても、私はこの先もずっとこの夢を見続けてやろう。
本気で、そう思った。
(END)
よっしゃ!書き終えたぞ!(笑)
リク内容は左之助か夢主どっちかが告られてる現場を目撃ってことだったんですが、
実は最初は夢主の方が告られる予定でした。
だけど途中でどうしても行き詰ってしまいまして・・・orz
ワンパになりそうなんで夢主が告白させれる方が新鮮かなと思って執筆したものの、
どうあがいても無理だったんで、安易な方向に流れました!申し訳ないです。
でもやっぱり最愛な左之を書くのは楽しかったです〜vv
ではでは、リク下さったたれめ様、そしてここまでお付き合い下さった姫様、
誠に有難うございます。深く感謝しつつ、失礼します
リク内容は左之助か夢主どっちかが告られてる現場を目撃ってことだったんですが、
実は最初は夢主の方が告られる予定でした。
だけど途中でどうしても行き詰ってしまいまして・・・orz
ワンパになりそうなんで夢主が告白させれる方が新鮮かなと思って執筆したものの、
どうあがいても無理だったんで、安易な方向に流れました!申し訳ないです。
でもやっぱり最愛な左之を書くのは楽しかったです〜vv
ではでは、リク下さったたれめ様、そしてここまでお付き合い下さった姫様、
誠に有難うございます。深く感謝しつつ、失礼します