「・・・・さっきの先輩、部活の?」
「・・・・・・・え!?さっきの?」
帰り道。
他愛ない世間話をしながら歩いていたとムツ。
ほんの少し空いた無言の一瞬を突くみたいにされた質問に、
は咄嗟に頭が回らなくて、きょとんとした表情でムツを見上げていた。
「ほら・・・教室の」
苦笑してムツがそう続ける。
そこでようやくは彼が誰の事を言ってるのか理解した。
さっき、に告白して来た、先輩の事。
「・・・・・・・・うん、そう・・・」
「3年生がわざわざ1年の教室に来るなんて珍しいね」
「・・・・・・・・・あ、うん」
まさか先輩が何をしにの教室に来たのかを説明する訳にもいかなくて、
は曖昧に笑って答えた。
不意に彼が足を止めてジッとを見つめる。
つられても同じように立ち止まった。
「・・・?ムツ?」
「・・・・・・・・・・・・もしかしてさ、、さっきあの先輩に・・・・・・・・」
言いかけた彼が、フッと小さく溜息を吐く。
それからほんの少し苦笑して、再度、歩き始めた。
「ううん、なんでもないよ。・・・・行こう」
「・・・・・・・うん」
それからまたそれまでと同じように他愛ない話をしつつ、達は足を進めた。
だけどそれから後は少しだけ、ムツの様子が変だった。
もしかしたら彼は薄々さっきの先輩が何をしにの教室に来たのか気付いたのかもしれない。
もしも、そうだとしたら、ムツはどう思っただろう。
ふとそんな考えがの頭を過る。
実はも何カ月か前にムツが同級生のコに告白されてるのを見てしまったことがあった。
それは今日とは丁度逆の状況で、はメールでムツに教室に行くから待ってて欲しいと送った。
ムツはが頼んだ通り自分の教室でを待っていてくれて、その時に彼女に告白されたのだ。
は教室に入る寸前でその告白を聞いてしまい、当然中には入らなかった。
――――ムツキ君が好きなの。・・・私と・・・付き合ってくれない?
彼女の告白に、ムツが答えるまで少しの間があった。
は正直凄く動揺してしまって、もしも、もしもムツが彼女の言葉にYESと答えたら。
なんて、そんなことを本気で考えて怖がってた。
ムツが人気があるのは知ってたし、
何度か告白されて一度も受け入れた事がないって言うのも勿論知ってた。
でも、怖かった。
ムツが誰かを好きになることが。
家族以外の特別を作ってしまうことが。
それが、じゃない、ということが。
怖くて、怖くて。
だけどムツは、結局彼女の告白を断ったのだった。
――――ごめん、・・・俺、君とは付き合えない。
その言葉を聞いて心底ホッとしてしまった。
同時に、自分がとても嫌な人間に思えた。
ムツの返事を聞いてすぐ、が立ってたのとは逆のドアから女の子が飛び出して来て、
彼女はには気付かずにそのまま走って行ってしまったけど、
にはそのこが泣きそうな表情をしているのがチラリと一瞬だけ見えた。
驚いたのは、彼女がムツと仲のいいクラスメイトだったこと。
よく笑う、明るくて可愛い、学年でも人気者の女の子。
ムツと同じクラスのの友達からも、何度か話を聞いた事のある、
『あの子だったら早坂君も付き合っちゃうかもね』と。
でも彼女は振られてしまった。
そのことにまたホッとしている自分に、罪悪感を覚えた。
って、嫌なコだ・・・・・・・。
思って、そしてその時ハッキリ気付いた。
自覚してしまった。
は、ムツが好きなんだって。
幼馴染として大事な
「じゃあ、ここで。あ、今日は夕飯うちで食べてく?」
「えっ!?・・・・・ううん、今日は叔母さん早めに帰ってくるって言ってたから、でもありがとう。
お弁当箱も明日の朝返しに行くね」
「ん、分かった。じゃあな」
「うん・・・」
いつものように家の前まで送ってくれたムツがの家の隣の自宅に足を向ける。
いつもならその背中を見送った後、も家の中に入るところ。
でも―――――――――――――
「む、ムツ・・・!」
「・・・・・ん??どした?」
ムツが足を止めてに視線を向ける。
「・・・・・・あ、あのね、・・・・・・さっきの、教室に来てた先輩なんだけど・・・」
「えっ!?・・・ああ、・・・・・・うん」
「・・・・・告白・・・・・・されたんだ・・・」
ムツの顔を殆ど見ずに、は言った。
彼は一瞬、息をのんだ様な気配を見せる。
それからフッと、小さく息を吐いた。
「そっか・・・。じゃあ、やっぱり突然教室に入って行っちゃって、悪いことしたな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「今度からはちゃんとメールするからさ、じゃあ・・・」
「・・・・・・・っ!?」
それだけ?
それ、だけ?
は瞬間的に顔を上げてムツの方を見た。
だけど彼はもう自分の家に入って行くところで、それ以上声なんか掛けられる訳もなくて。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
殆ど茫然と、その様子を見送る。
は一体、何を期待してたんだろう。
ムツから、どんな反応が返ってくると思ってたんだろう。
でも考えてみれば、ムツだって幼馴染から突然こんな話持ち出されても、どう答えればいいのか困るに決まってる。
だけど、そうじゃなくて。
そうじゃ、なくて。
――――――――――――――って、じゃあ、どうあれば、は。
翌日の放課後。
先輩に呼び出されたのは図書室の片隅。
そこで、は先輩に返事をした。
好きな人がいます、と。
好きな人。
ムツとはその朝から何だかぎこちない空気だったけど、それは自業自得で、
今日の帰りは一緒に帰れないとメールがあった。
――――――――ガラッ
図書室から教室に戻ってきたがドアを開けると、教室内に人影があった。
それは。
「・・・・・ムツ・・・?」
「・・・おかえり」
「・・・・・・・・・・な、何で・・・・・・?今日は一緒に帰れないんじゃ・・・?」
「うん、そのつもりだったんだけどね・・・。気になることがあってさ」
答えたムツが、ちょっと困ったみたいに笑った。
は丁度彼の立っている辺りにあるの席まで足を運ぶ。
「気になる事って?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
問い返したと、無言のままのムツの視線が合う。
何だろう。
ちょっと様子が変だ。
もしかして昨日、が先輩の事を持ち出してしまったことが尾を引いてるのかもしれない。
あんなこと、言うんじゃなかった。
少しでも、ムツにのこと気にして欲しくて。
も女の子だってことに、気付いて欲しくて。
ホント、馬鹿なことした。
「あ、あの、・・・ムツ・・・」
「何て答えたの?」
「・・・えっ!?」
「・・・・・返事、・・・・・・先輩の」
「あっ・・・!・・・・・・・・・・えと、・・・・・それは・・・」
まさかムツの方からその話題を出すとは思わなくて、は咄嗟に動揺してしまった。
声が掠れて変に落ち着かなくなる。
別に焦らなくても、普通に素直に話してしまえばいいんだ。
そう思って、口を開きかけた時だった。
「付き合わないで、欲しい・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・え!?」
「・・・・・・・・・・・・ごめん、俺はただの幼馴染だし、こんなこと言う権利、ないのかもしれないけど・・・。
でもどうしても気になって・・・・」
「ムツ・・・・・・・」
彼の言葉が余りに予想外で、はただただムツをジッと見つめていた。
でも同時に、凄く嬉しかった。
ムツがのことを気にしてくれたことが。
それがの持つムツへの想いとは違ったとしても、素直に嬉しかった。
「・・・・・・・・・・断った、よ」
「・・・・・え?・・・断った?」
「うん。・・・・・・・付き合えないって先輩には断った」
「・・・・・・・・・・・・そっか」
「・・・・うん」
そこで達はお互いの視線を合わせて、フッと少しだけ笑い合った。
に告白してくれた読書部の先輩は、とても優しくて感じのいい人だった。
だから断った時に彼が辛そうな顔をしてて胸が痛まなかった訳じゃない。
だけどやっぱり、には――――――――
「・・・・・・・・、そろそろ帰ろっか?」
「・・・・・・うん、帰ろ」
荷物はすぐ帰れるように準備してあったから、は机にある鞄を掴んで頷いた。
その日の帰り道は、いつもと同じようで、いつもと少しだけ、違った。
校舎を出て数分。
人通りの少ない道に差し掛かったその時。
ムツが極自然にの手を取った。
も、極自然にそれを受け入れた。
今よりずっと子供で、ずっとずっと小さかった頃。
サっちゃんとカナちゃん、そしてムッちゃんと、4人並んで手を繋いで帰ってた頃をふと思い出す。
だけど違う。
今は違う。
もう、あの頃とは。
今、ここにサツキちゃんやカナデくんが居ない、二人きりだと言うことも含めて。
少しずつ、少しずつ、達に起こった変化。
「・・・、・・・・・今日はさ、夕飯、どうするつもり?」
「・・・・・・・・うーん、今日叔母さん遅くて、一旦帰ってから買い出しに行こうかなって」
「だったらうちに来れば?母さんも姉ちゃんも最近とご飯食べてないって寂しがってたし」
「・・・・・じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかなぁ・・・。実は、まだ何を作るか考えてなかったり」
そう言って笑うと、ムツもフッと微笑んでくれる。
「・・・・・うん、おいで。俺もが居ると楽しいし・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・ありがとう」
いつまで。
こんな優しい関係が続くのかは分からない。
いつまで。
ムツがを幼馴染としてでも隣に置いて、家族同然に特別扱いしてくれるのかは分からない。
だけどは、願ってしまう。
強く、強く。
少しでも長く今の状態が続きますように。
そう、願ってしまうのだ。
手を繋いで隣を歩けるだけで
(END)
アトガキ
ゼェハァゼェハァ!予想以上に長く、そして苦戦したぜ!ムツキ幼馴染夢。
何か最後、どうにかまとめようと気張った結果、無理やりと言うか無駄にアッサリ感が一杯に(苦笑)
でもでも、私としてはムツキ夢が増えたからそこは満足です!
では、最後までお付き合い下さった有難すぎる姫様!感謝感激雨霰!本当に有難うございます。
Title by 群青三メートル手前