「ちゃん、早坂君が呼んでるって」
「うん?はーい!分かった」
お昼休み。
寝坊してお弁当を作ることが出来なかったは、
購買部に出かけようと財布を準備してるところだった。
友達に声を掛けられて教室のドアに目をやると、幼馴染のムツの姿。
は急いで彼の居る出入り口まで駆け寄って行く。
「ムツ、どうしたの?あ、もしかして教科書貸して欲しいとか?」
「違うよ、じゃあるまいし。母さんから弁当渡されてたの、忘れてたから。
本当は今朝渡すつもりだったんだけどね」
言って、ムツはちらりと視線を教室の方に向けると、余り人目の付かない廊下の隅に移動する。
も後からそれに続いた。
「お弁当・・・。おばさん、また作ってくれたんだ・・・。でも・・・」
「ん?ああ、何でお前が今朝も弁当持ってないの知ってたかって?」
「うん。だってほら、最近、自分で言うのも何だけど、結構頑張ってお弁当作ってたから」
「ははっ、まあ確かに。けどそろそろ辛くなって来た頃じゃないかって、ずっと母さん気にしてたし。
今朝は何となくがお弁当を作れなかったってことになってそうだーって言って、
俺にお前の分の弁当を渡して来たって訳」
そうに説明をしつつ、ムツがの手にお弁当の包みを渡す。
周りの人間に見られてまたひやかされるのが嫌なのか、こっそりと、
それでも素早く彼はにお弁当を受け取らせた。
「おばさんには敵わないなー・・・」
手にしたばかりのお弁当に視線を落して、は小さく呟く。
ムツは笑って言った。
「母さんにとっては、も俺達と同じ自分の子供同然だって言ってたからね」
「・・・・・・そっか。あ!ムツ、おばさんにお礼言っておいてくれる?
凄く助かった、有難うございます!って。今度からも直接言うね」
「ん、分かった。じゃあ」
「うん、ムツもありがとう」
笑顔で軽く手を振るに、ムツはちょっとだけ苦笑して応えた。
あの様子だと、多分またここに来る前にクラスメイト冷やかされてしまったんだろう。
ムツは少しだけ足早にの傍から離れて行った。
教室に戻ってすぐ、仲のいい友達が数人。
を取り囲むみたいに近づいてきた。
「ー!ねぇねぇ!早坂君と何話してたの!?」
「え?えーっと、おばさんがね、の為にお弁当を作ってくれて・・・」
はついさっきムツに手渡されたばかりのお弁当をおずおずと出して見せる。
すると、彼女達は大げさにおおっと声を上げた。
「それで渡しに来てくれたんだ!?いいなぁ、親も公認ってヤツじゃん」
「えっ!?えっ!?ち、ちが「マジ超羨ましいよ、はー。うちらもあんな格好イイ幼馴染欲しいー!」
「「だよね!」」
慌てて否定するの声も彼女達の耳には入らなかったようで、ハモるみたいに揃ってそう言った。
早坂ムツキ。
の幼馴染で同級生。
小さい頃から海外出張の多い両親の代わりに、を育ててくれたのは叔母で、
その叔母の家の隣りに住んでいたのが早坂家だった。
早坂さんちのと同い年のムッちゃんとお姉さんのサっちゃん、
それから同じくすぐ近くに住んでいたカナちゃんとは、とにかく毎日の様に一緒に遊んだ。
(尤もカナデくんは中学になって一旦海外に転校してしまったけど)
高校に入ってからは小さい頃に比べて一緒に居る事も随分減ったんだけど、
それでも特に仲が悪くなった訳でもなくて、校内で顔を合わせれば勿論会話もするし、
学校の行き帰りも家がすぐ側だから一緒なことが多い。
そのせいか、周りには何だか誤解されがち。
実はとムツが付き合ってるんじゃないか、なんて噂も未だにある位。
多分それは彼が女子生徒から人気がある割に、
余りそう言った方面に興味を持ってないように見えるって言うのもあると思う。
基本、ムツは身内とか親しい友達以外には深い関心を示さない。
はどちらかと言うと身内扱い。
だから周りから冷やかされて前より距離を置き始めては居るけど、
それでもやっぱり色々と気にしてくれてるって分かる。
それがクラスメイトや同級生達にはがムツに特別扱いされてるように見えてるみたいだ。
でもは分かってる。
ムツにとっては幼馴染、それ以上でも以下でもない事。
家族と殆ど同じ扱いってことは、ムツにとって凄く特別な意味があるのも本当だ。
おじさんが仕事の都合で長く家を空けてる事もあって、
ムツは自分がおばさんやお姉さんのサツキちゃんを守っていかなければいけないと、凄く大事に思ってる。
一番大事なものを聞かれれば、ムツは変に格好付けたりしないで『家族』だってハッキリ答えるに違いない。
の知ってる幼馴染の
だからムツに家族同然に扱ってもらえるのは、本当に嬉しい事で。
ずっとずっと、そう思って来た筈なのに。
最近、それが寂しくも思えるようになって来てしまった。
それはの中で、確実にムツの存在が『幼馴染』以上に変化してしまった証拠。
勿論、彼にそれを打ち明ける事は出来ないけど。
放課後。
読書部の活動を終え、図書室を後にしたは荷物を取りに教室に戻った。
ムツの部活が終わる頃には向こうからメールがある。
は自分の席に着いて部活中に読んでいた本の続きを読むことにした。
それから少しの間読書に熱中していると、不意に教室のドアが開いた。
咄嗟に視線を上げて、入って来た人物を確認する。
そこには、読書部の先輩の姿。
「さん・・・」
「・・・・・・あれ?えと、に・・・御用ですか?」
「うん、・・・本当はさっき声を掛けようと思ったんだけどな。その、今少し、いいか?」
「え?は・・・はぁ・・・。大丈夫、です」
小さく肯いて答えると、先輩はゆっくり教室内に入って来た。
気のせいか、何だか緊張してるみたいだ。
何の用事かな?
先輩の用と言うのがイマイチ予想出来なくて、は内心不思議に思いつつも立ち上がった。
先輩はの席の斜め前辺りで足を止めて、
ちょっと躊躇いがちに、同時に凄く緊張した声で口を開いた。
「・・・・・・さんってさ、今誰かと付き合ってる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?・・・・・ええっ!?・・・・・・・いえ・・・・・・・・ないです。」
突然の、そしてとても予想外な質問。
戸惑いながらもどうにか返事をする。
先輩は暫くの間落ち着きなく視線を動かした後、決心したみたいにを見つめた。
「もし好きなヤツが居なかったら、オレと付き合ってくれないか?」
「っ!!」
まさか告白されるなんて思ってもみなくて。
は瞬間的に硬直してしまった。
どうしよう。
どうしよう。
ぐるんぐるん。
思考が回る。
だけど、先輩は凄く真剣な顔での返事を待ってて。
このまま答えない訳にはいかない。
「あ、・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「先輩、・・・・・・・・あの・・・ ―――――ガラッ――――――
返事をしようとしたの言葉の途中に唐突に開いた教室のドア。
それからすぐに教室に入って来たのは、ムツだった。
「、メールしなくてごめん。真っすぐ教室に来た方が早いと思って」
「ムツ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あ、・・・と、すみません。他に誰か居るなんて思ってなくて、突然入って来ちゃって」
ムツはの傍に立っている先輩に軽く頭を下げて謝った。
先輩は少しの間驚いたみたいに目を見開いて固まっていたけど、小さく溜息を吐いて首を左右に振った。
「いや・・・いい。・・・・・じゃあ・・・さん、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・返事、今度でいいから」
「あっ・・・!・・・・・・・・・・・・・・・・・は、ハイ」
が答えたのと、先輩が殆ど小走りでムツが居るのとは逆のドアから出てったのは同時だった。
はそこで一気に脱力してしまい、ストンとそのまま椅子に腰かけた。
「あー・・・あのさ、何か俺・・・不味い時に来ちゃった?」
「・・・・えと・・・少しだけ」
「・・・・・・・・・ごめん、やっぱメールしてから来るべきだったね」
「ううん、ムツが悪い訳じゃないから。あ、すぐ準備するから待ってて」
言って、は笑顔を作ると急いで帰り支度を済ませた。
内心、ムツが先輩の告白を聞いてなかった事にホッとしながら。
(後篇に続く)
アトガキ
ものっそ長ったらしくなったので、途中でぶった切りました(いつものこと)
ムツキ幼馴染夢。ムツキって多分攻略キャラとしては超サブ扱いだけど、
人気は有ると思うんですよね。だって私大好きだしぃ(聞いてない)
私の大好きな管理人さんが2人ムツキ愛なことですし(笑)
でも年上ヒロインの方が需要は有りそうだと思いつつ、王道に走りました。
年上はシリーズヒロインでやっちゃってますしね。
この話全体的に王道過ぎて先が読め過ぎて申し訳ない!でも好きなんですもの。
と言うことで、ここまでお付き合い下さった姫様!有難うございます。
後編もお付き合い頂ける事を願って、失礼致します
Title by 群青三メートル手前