「ムツのベッドなんだからムツが寝るべき」
「だから、俺はいいんだって。が寝なよ」
「いいの、は床でも全然平気だし」
「よくないって。女の子床に寝かせるなんて、出来る訳ないだろ?」
「ううん、気にしないで、本当にいいんだから」
「良くない。が良くても俺がよくないんだって。
を床で寝かせて男の俺がベッドで眠るなんて出来ないよ」


「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」


現在の時間・午後10時45分。
は早坂家にお邪魔中。
おばさん達のご好意で、久しぶりに早坂家に泊らせて貰えることになった。
―――――――――――だけど、予想外の出来事が。



ことの始まりは4時間ほど前。
は早坂家の食卓に招待されていた。
その席にはカナデ君の姿もあって、凄く久しぶりに幼馴染4人が揃ったこともあって、
おばさんの機嫌もとても良かった。


   皆が小さい頃はよくこうしてご飯食べてたわよねぇ。
   懐かしいわ、ほら、カナデ君もちゃんも遠慮なんかしないでね!
   はい!カナデ君、ご飯!


   あ、有難うございます・・・。


おばさんは凄く張りきった様子でお茶碗に山になって盛り上がる位にカナデ君のご飯をよそっていた。
思わず小さく吹きだして笑ってしまったの隣。
ムツがおばさんに言った。


   って、母さんそれご飯盛り過ぎ。幾らカナデが男でもそれはないって。

   カナデ、無理しなくていいよ?少し減らそうか。

   ・・・い、いや・・・大丈夫だ、食える。


カナデ君、変な所で格好つけてる。・・・・気を使ってるんだろうけど。


なんて内心また笑いを零しつつ、もお茶碗によそってもらったご飯を受け取った。
それから後も小さい頃の思い出話に花を咲かせながら、達は楽しい夕食のひと時を満喫した。
そして丁度がお茶を飲み干して、空いた食器を片づけようと立ち上がりかけた、その時。


   ねぇ、ちゃんもカナデ君も今日は泊っていきなさいな!

   えっ!?
   えっ!?


おばさんのその言葉にとカナデ君は同時に反応してしまい、
そしてこのことに驚いたのは達二人だけじゃなかった。
ムツとサツキちゃん、早坂姉弟もやっぱり驚いたように目を見開いて固まっていた。
但し、二人の反応は、ほんの少し違ってたんだけど。


   か、母さん?泊っていけって・・・カナデはともかく、も・・・?

   ちゃんは分かるけど、・・・どうしてカナデまで・・・。


複雑な表情の達を余所に、おばさんはいつもの明るい笑顔で一言。


   当然でしょ?みーんな、の可愛い子供同然なんだから!


言いきってしまった。
この時点での部屋割は当たり前の様にはサツキちゃんの、カナデ君はムツの所にってことだったんだけど。


   え?カナデが姉ちゃんに話があるって言って部屋から戻ってこない?

   うん、だから悪いんだけど、はこっちのソファ借りていい?


カナデ君が海外から戻って以来、サツキちゃんとカナデ君は長い間どこかぎこちなくて余所余所しい感じだった。
その後数か月経ってようやく二人は以前と同じようにとまでいかなくても仲良くなって、
最近は何となく楽しそうに一緒に居る所をよく見かける。
カナデ君が小さい頃から変わらずサツキちゃんを好きな事を知ってるとしては、
様子を見に行くと言うことも何だか憚られてしまい、
最終的に彼がサツキちゃんの部屋から出てくるのを待つのは諦めた。
ムツは少しの間考えてから、困った様に笑って言った。


   をソファで寝かせたりしたら、母さん達に怒られちゃうよ。
   俺の部屋においで。ここには俺が寝るから。


当然はこれをキッパリ断った。
幾ら幼馴染だからってそこまで図々しいことなんか出来ない。
それに、は本当にソファでも十分だって思ったからだ。
だけどムツは承知してくれなかった。


   ・・・・・じゃあムツの部屋に行くけど、・・・ムツも一緒に来て。


言ったに、ムツは凄く驚いたようで。
勿論だってこんな台詞を恥ずかしげもなく言った訳じゃない。
だけどムツのベッドを占領して置いて彼をソファに寝かせるなんてどうしても出来なかった。


そして今。
ムツの部屋のベッドの前。
達はまた、どっちが床でどっちがベッドに眠るのかと言うことで揉めているのだった。


「・・・・・・・・・・ムツ、あのね「言っとくけど、・・・一緒に寝ようっていうのはなしだからね?」

が口にしようと思っていたことを先回りされてしまい、は咄嗟にそのままの形で動きを止める。

「じゃあやっぱりが床に寝る!」
「それも駄目。はベッド」
「・・・・・・・・ムツの強情」
「それはだろ」


「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」

そしてまた達はお互いを見つめたまま黙り込んでしまう。
それもこれも、カナデ君のせいだ。
なんて内心カナデ君を恨みつつ、はまた口を開いた。

「ムツが一緒にベッドに寝てくれるんだったらもベッドで寝る。
でもムツが床に寝るんだったらベッドでは寝ない」
「・・・・・・・・。それ、どっちも無理だって・・・」
「・・・・・・・・じゃあやっぱりソファ借りる。大丈夫、おばさんやサツキちゃんにはから上手く言っておくから」
「そう言う問題じゃないよ」

言ったムツが小さく溜息を吐いた、それから少しの間無言で足元を見つめると、諦めたように言った。

「もう11時になってる。そろそろ寝よう、
「・・・・・・ムツ」
「・・・分かってる、いいよ、ベッドで寝よう・・・。一緒に」
「・・・・・・・・・・う、うん」

自分から言いだしておいて、思わずはぎこちない動きで頷いて居た。
それを見たムツキが苦笑する。

「だから言っただろ。・・・俺は床で「ムツが先にベッドに入って」

彼の言葉を遮る様に言いながら、はムツの腕を軽く引っ張った。
ムツが一瞬驚いたみたいにを見て、それからまた困った様に笑う。

「・・・ん、分かった」
「・・・・・・・・・・・・」

彼はベッドに入ると、の場所を空ける為に端の方まで寄ってくれた。

「・・・、ほら、これなら入れるだろ?おいで」
「・・・・・・・うん」

短く返事をして頷くと、はおずおずとムツのベッドに近づき、彼の隣に入り込む。
ベッドに横になった瞬間、ムツの香りがを包んで、至近距離にある彼の瞳と視線が合った。
照れくささを隠す為、お互いほんの少し目を逸らす。
余り大きなベッドじゃないから、無理に空間を作ろうとするとどうしても体の一部がベッドからはみ出してしまう。
それには自分からムツに一緒にベッドで寝てくれるように言ったんだし、
余りそう言う素振りを見せるのは何だか逆に失礼な気がした。
何か言おうと口を開きかけた時、すぐ側にあるムツキの唇がフッと小さく笑った。

「・・・・・・・・何か、久しぶりだよね・・・、こう言うの・・・」
「・・・・・・うん、昔はしょっちゅうムツの家に泊って一緒に寝てたしね」
「そうそう、はオバケの絵本読んじゃって、夜中一人でトイレに行けない時もあったし」
「ぅうー・・・、そ、それは・・・」
「はははっ、ごめんごめん。まぁ、子供の頃だったから仕方ないよな」

それから達はまた、小さかった頃の夜にまつわる色々な話をして時間を過ごした。
毎日顔を合わせてるんだし、今更改まってするようなことじゃないと分かってても、
何だか今の状況を一番自然に過ごせる話題が子供の頃の思い出話のような気がした。
本当は、もう思い出と言える位に昔の子供の頃とは違う、目の前のムツの姿に、動揺しっぱなしだったんだけど。

「・・・・・そろそろホントに寝よっか、
「うん。・・・あ、ねぇ・・・」
「ん?」
「もしもカナデ君が戻って来たら遠慮なく起こしてね」
「え?ああ・・・。うーん・・・・でも・・・カナデ・・・戻ってくるかな・・・」

後半。
殆ど独り言みたいに呟いて、ムツは少しだけ複雑な表情を浮かべた。

「カナデ君とサツキちゃん・・・て、付き合ってる?」
「・・・・・・・え!?あ、どうだろ・・・、まだそこまでは・・・。
ただ、姉ちゃんもカナデも・・・お互い好きみたいだけど・・・」
「・・・・・・・・うん、それは確かに。・・・・・・・いいね、あの二人、羨ましい・・・・・・・」

本当言うと、ほんの一時期。
本当にほんの一時期だけなんだけど、は、カナデ君が好きな時があった。
と言っても、それは、恋と言うには余りにも子供っぽくて、一方的なもの。
まぁ、子供の頃の『好き』って気持ちなんて、少なからずそう言うものなのかもしれないけど。
結局、サッちゃんにはどうやっても敵わない、と言うよりも、
カナちゃんのサッちゃんへの気持ちにはどうやっても敵わない、と思い知らされて、すぐに諦めた。
今思えば、はサツキちゃんを思い続けてるカナデ君を好きになった訳で、
最初から叶わないのは目に見えてたってことになる。
勿論、小学生くらいの頃だったから、告白なんて大それたことをした訳じゃないけれど。

「・・・・・・・・・・はさ・・・、カナデのこと・・・好きなの?」
「え・・・・・・・・!?」
「あ、違った?」

ムツが余りにもタイミング良くそんな事を聞いてくるから、は一瞬驚いて瞳を大きく見開いていた。

「・・・・・・ち、違うよ。ううん、好きだけど・・・、それはサツキちゃんも好きだし、ムツ・・・・・だって・・・・・・」

ムツのことを口にした時、何だか凄く緊張してしまって、声が少しだけ掠れた。
心臓は今もどくどくと鼓動を刻み続けてる。
胸を叩く音が余りにも大き過ぎて、本当にそのまま飛び出してくるんじゃないかと思った。

「俺も・・・・好き?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・え、・・・・・・・・えと・・・・・・・・・う、ん」

動揺しちゃいけない。
そうじゃないから。
これは、ムツはそう言う(・・・・)意味で聞いてるんじゃないから。


「・・・そっか・・・・・。うん、・・・・・・・・俺も・・・が好きだよ」
「っ・・・・・!」


ド  ックン。


心臓が、今までで一番、大きく、強く、の胸を、ひとつ打った。
ムツは知ってるんだろうか、この瞬間、がどんな想いで居たのか。
どれだけ複雑な気持ちでこの言葉を聞いてたのか。



ううん、きっとムツは知らないだろう。
そうじゃない(・・・・・・)と分かってても、がこんなに嬉しいと感じてるなんて、きっと知らない。


「・・・・・・
「な、何?」
「・・・・・もう少しこっちに寄りなよ」
「え・・・!?」
「大丈夫、何もしないよ・・・。・・・・・・あ、・・・・・・やっぱり嘘・・・。・・・腕、体に回してもいいかな?」

ドクドクドクドク。
脈打つ早さは一向に収まる気配を見せないまま、ムツの言葉に血が逆流しそうになる位動揺する
だけどは、彼の言葉に無意識に返事をしていた。

「・・・・・・・うん」

短く返した答え。
言い終えた瞬間。
ゆっくりと、ムツの腕がの体に伸びてくる。
それから恐る恐る、彼はを自分の腕の中に引き寄せた。

「・・・いやじゃ、ない?」
「・・・・・・・ない・・・」
「そっか・・・・・・・、良かった」

心底ホッとしたような声でムツはそう言うと、さっきよりほんの少しだけ両腕に力を込めた。
ムツの腕の中。
男の子の、腕だと思った。
より筋肉質で硬い、小さな頃にじゃれつき合った細いだけの腕じゃない。

「・・・・・・ムツ」
「ん?」
「おやすみ・・・・・・・・」
「あ、・・・・・・うん、おやすみ・・・・・・」



心音は変わらずの耳に響く様な大きさを保ってるし、
今の状況だとやっぱりすぐに眠れそうにはない。
だけどおかしな話、同時には大きな安心感を覚えていた。


それは多分、と重なったムツの鼓動が、
予想以上にのものと同じ速さを刻んでたことも理由のひとつだと思う。


もしも今カナデ君が戻って来たら、その時は、それはそれでカナデ君を恨んでしまうかもしれない。

そんなことを考えつつ、はゆっくり目を閉じた。




限りなく幸せに近い現状


(END)



アトガキ
ガーベラのヒロインに比べてクッサイ文章になりがちなのは、ヒロインの性格のせいでしょうか?(苦笑)
しかも設定文のところにヒロイン大人しめとか書いてるけど、そうでもないような・・・。はっはっは!
とにもかくにもムツキ夢が増えたからそれでいいや(それもどうだ)
と言うかですね、この小説の目的は「おいで」とベッドに(やらしくない方面で)
ナチュラルに誘うムツキ(ながっ)だったので、そこは満足です。
ではでは!ここまでお付き合い下さった貴重な姫様、本当に有難うございます!
深い感謝の気持ちを表しつつ、失礼します
Title by 群青三メートル手前