背中に柔らかくて軽い衝撃を受けて、はフッと瞼を開けた。
最初に視界に入ったのはをベッドに下ろしてくれようとしているムツの横顔だった。

「・・・え?・・・ムツ・・・?」
「あ、、ごめん、起こしちゃったね」
「ううん、それはいいんだけど・・・」

答えて、は周囲に視線を向ける。
ここは見慣れたの部屋。
確かに目を閉じた瞬間まではタクシーの中だった筈なのに、いつの間に運ばれたんだろう。
そこではハッとして、またムツに目を向けた。

「ムツ、ここまで運んでくれたの!?」
「うん、、よく眠ってたみたいだし、今日は家に一人だって言ってたからさ。
・・・・あ、勝手に部屋に入っちゃってごめんな」
「・・・そ、そんなっ・・・!こそ、ごめん・・・!」

タクシーで迎えに来て貰った事と言い、今の状況と言い、
今回ムツには迷惑掛けっぱなしだ。
幾ら幼馴染とは言え、こんなにお世話になりっぱなしなんて情けない。
先輩方やカナデ君、サツキちゃんにも迷惑を掛けたし。

「・・・うぅー・・・起きなくてごめんね、階段とか・・・重かったよね・・・」
「ううん、全然。一人くらい、普通に抱えて行けるって。俺だって男だよ」
「・・・分かってる、けど・・・・ほんと、ごめん・・・」
「今日のは俺に謝ったりお礼言ったりしてばっかだね。今更水臭いよ、そんなの。
それに俺がやりたくてやってるんだから、は気にしなくていいんだよ」

言ったムツがいつものように屈託なく笑う。
つられても口元を綻ばせた。

「それより、タクシーの中に居た時より酔いが抜けたんじゃない?」
「うん・・・、少しでも寝たからかな、さっきよりは大分いい感じ」
「そっか、良かった・・・、姉ちゃんもカナデも心配してたから」
「・・・本当に申し訳ないことしたわ・・・。・・・明日、二人には朝いちでメールする・・・」

視線を少しだけ伏せて言ったの頭に、ムツの片手が伸びてきた。
そしてそのまま彼はポンポンと優しく叩く。

「・・・ムツはに甘すぎると思う・・・」
「うん、そこは否定しない。俺、には甘いよ。
姉ちゃんや母さん達が凄く大事なのと同じように、は俺にとって特別だからさ」
「・・・・・・幼馴染で、家族みたいなものだから・・・?」
「・・・うーん、・・・まぁ勿論それも間違ってはいないけどね」

言いながら、ムツは少しだけ複雑な表情をして困った様に笑った。

「他にも理由がある・・・ってこと?」
「・・・・・・・・・・・・」

短い沈黙。
彼はちょっと戸惑った様にから視線を逸らして、それからまたに瞳を向けた。
その瞳が余りにも真剣で、瞬間的にの心臓がドキリと大きく胸を突く。


「・・・はさ、・・・俺にとってどんな女の子よりも特別なんだ。
・・・・・・・・・・俺は、・・・・・・がずっと昔から好きだから・・・」


「ムツ・・・・・・・・・」


脈拍数が上がってるのは、アルコールのせいだけじゃない。
はジッとムツの視線を受け止めながら、殆ど無意識に唇を動かしていた。


もムツが好き・・・」


驚くほど自然にするりと出てきた台詞。
だけどその時零れ出た笑みも、ムツに向かって伸ばした腕も、いつもなら照れくさくて出来ないことだ。
お酒を飲んだ事が影響してないとは言い切れない。
でも、素直にムツの言葉が凄く凄く嬉しくて、は自分からムツの体に腕を回してた。

「・・・・・・・・」

ムツがちょっとだけ遠慮がちに、そしてぎこちなくの背中に腕を回す。
力を込める加減を考える様に、やわらかく。
ほんの少し視線を上げると、ムツの赤く染まった顔と目が合った。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

ムツと
どちらからだったかは分からない。
それから達は極自然に、唇を重ねていた。
軽く触れ合わせただけのキス。
ムツの両腕が、さっきよりも力を強めての体を抱きしめる。
ムツの腕、間違いなく、男の子の、腕だ。
少し距離を取って唇を話した後、達は再度、視線を合わせて照れ隠しに笑い合った。

「・・・・今日は俺、もう帰るよ」
「・・・・・・・・うん、分かった・・・、有難う。・・・・・そ、それと、これからも、・・・宜しく」

色々な意味を込めて口にした台詞。
ムツはすぐにそれを分かってくれたようで、フッと柔らかく微笑んだ。

「うん、こっちこそ・・・宜しく。・・・って、何か照れくさいけど・・・」
「・・・・・・・・・・言えてる」
「じゃあ・・・また明日。おやすみ、
「待って、玄関まで送らせて」
「ううん、今日はここでいいって。俺がここまでを運んだんだからさ」
「・・・・・・・そう、か・・・。うん、分かった・・・。おやすみなさい、ムツ」

が返事をすると、ムツは頷いてゆっくりのベッドに背を向けた。
でもすぐに立ち止まって、こっちを振り返る。

「あ、・・・言い忘れてたんだけどさ」
「うん?」
「分かってるとは思うけど、お酒飲む時は気を付けなよ、
今日は姉ちゃんやカナデが居たし、周りの先輩達もいい人ばっかだったから良かったかもしれないけど、
いつもそうだとは限らないからね」
「あ・・・・・・・ハイ、肝に銘じとく・・・」
「うん、そうして・・・。、・・・・・・・お酒飲んだ時は特に心配だからね」

言ったムツが視線を伏せた。
何だか複雑な表情を浮かべている。
そしてが聞きとれるか取れないか位の呟く程度の声で、続けた。

「・・・・・・無防備過ぎて・・・誰かにとられちゃいそうで心配になる・・・」
「・・・・・・・・・・ムツ・・・」
「・・・なんてね、・・・じゃあ・・・今度こそ行くよ」



――――――――――パタン・・・。


の部屋のドアが閉まって、それからすぐにムツが階段を下りてく音がする。
はムツが玄関を出て鍵を掛けてうちから出て行ってしまう最後の瞬間まで、
自分の部屋のドアをジッと見つめていた。


酔いはもう随分覚めたと思ってたのに、アルコールの余韻みたいに頭の芯がぼーっとする。
脈拍も未だに正常に戻らない。



でも今夜は、凄くいい夢が見られそうな気がした。



一番じょうずに甘やかすひと


(END)



アトガキ
途中で展開の路線変更をしたらラストが微妙なことになって・・・(苦笑)
しかも前篇と後篇の長さのつり合いが取れてなくてすみません。
・・・・・・・・・・まぁ、いつものことですよねっ!(開き直った)
本当は告白せずにそれでも自然に付き合いだした二人ってのもありかなとも
思ったんですけど、ムツキはその辺ちゃんとハッキリ口にしそうだと思って止めました。
と言うか、微エロに仕立て上げようとしてたんですが、・・・・結局普通に。
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様!!もう本当に有難うございますっ!
心より感謝しつつ、失礼致します
Title by 群青三メートル手前