「コイツには乾杯の時の1杯目のビールしか飲ませるなって言っただろ!?
誰だよ、コイツに酒を注いだのは!」
「す、鈴城君、落ち着いて・・・」

ぼんやりとした頭にカナデ君の声が遠くでふわふわ漂うみたいに聞こえてきた。
それを慌てた様子で止めてるのは日下部先輩。
は少しだけ視線を移動させてサツキちゃんの姿を探した。
いつの間にかサツキちゃんが居ない、
そう言えばさっき電話をしに行くっていうようなことを言ってたような気がする。

「・・・・・し、しかしだな、鈴城、マメ子(のこと)はついさっきまで普通通り話をしていたんだぞ?
それこそ5分程しか経っとらん位の話だ」
「そうだね、ついさっきまではいつも通りだった・・・。・・・セイの注いだビールも普通に飲んでたしね」
「うん、そうそう、楽しそうだったよね!セイが3杯目、飲ませちゃう瞬間までは」
「ばっ!お、お前ら!それは俺が原因だと言いたいのか!」

夜凪先輩とユキ先輩の発言に、東先輩は狼狽えたように少しだけ声を大きくした。
はぽややんとした頭をどうにかハッキリ働かせようと努力しながら、
カナデ君に東先輩を責めないように言おうと思って彼に視線を向けた。
だけどカナデ君にの意思は伝わらなかったみたいで、
カナデ君はの腕を軽く引きよせると自分の背中に隠す形での前に進み出た。

「・・・・・、お前はこっちに来い。コイツらは危険すぎるからな!」
「うわ、僕達何だか狼扱いだよ!誰かさんが言い付け守らなかったせいで!」
「ぬっ!?ユキ!それは俺のことを言ってるのか!?大体お前だって喜んですすめて居ただろう!
それに俺は無理やりマメ子に飲ませたりはしていないぞ!なぁ、日下部!?」
「・・・えっ!?・・・う、うん・・・まぁ、東君は無理強いしてた訳じゃないのは確かだった・・・と思うよ」

言って、日下部先輩は自信なさげに小さく頷く。
そこで東先輩は力強く声を張り上げた。

「当然だ!俺は女子に無体を強いる様な真似はせん!」
「ふぅ・・・よく言う」

呆れた表情の夜凪先輩の隣。
日下部先輩がのすぐ傍まで近寄ってくる。
カナデ君は何故かちょっとだけ警戒したみたいな素振りをみせたけど、
結局日下部先輩の邪魔をしたりはしなかった。

「・・・さん、大丈夫?・・・すぐそこにベンチがあるから、
あそこに座ってた方がいいんじゃないかな・・・?」
「・・・・・・・・日下部先輩・・・・・・りがとう・・・ざいます・・・」

いつもより少し小さめの声しか出せないのは、アルコールで頭がぼんやりしてるせい。
お酒を飲み過ぎた時はいつもこうだ。
元々アルコールには弱くて、少しでも飲み過ぎてしまうと自分でも呆れる位にぼーっとした感じになってしまう。
これでも一応吐いてしまったり記憶が飛んだ事なんかは一度もないんだけど、
それでもまるでスイッチが入ったみたいに突然こんな状態になるのだ。
自分でもそれが分かってるから、
友達と飲みに行く機会があっても極力ソフトドリンクを飲んだりしてやり過ごすんだけど、
今回は周りが学園時代の先輩ばかりできちんと断ることが出来なくて、
結果的に逆に迷惑を掛けてしまった。



「もうすぐサツキが戻ってくるからな、。もう少し待ってろ」

ベンチのある場所まで移動してそこに座らせて貰った所でカナデ君がそう言っての顔を覗き込んだ。
は小さく頷いてそれに応える。
カナデ君はの頭を小さな子にするようになでなでと撫でた。
いつもはもう子供じゃないんだからと言う所だけど、今は何だか心地いい。

「悪かったな、俺がもうちょっと気にしてやれば良かった」
「・・・・・・・ううん・・・・・こそ・・・・・・ごめん・・・なさい」
ちゃん、僕たちも気付かなくてごめんね。周り年上ばっかだし、やっぱ気使っちゃったんだよね」
「・・・・・・・ま、確かに・・・。セイの馬鹿が続けて飲ませる前に、席を移せば良かったかもね」
「は、はは・・・夜凪君・・・」
「トウワ!お前は・・・!!」

東先輩が更に夜凪先輩に抗議を続けようとしたその時。
電話をしに達の傍を離れてたサツキちゃんが戻って来た。

「皆、またせちゃってごめんなさい。ちゃんは・・・、あ、ベンチに座ってるんだ。大丈夫?」
「・・・・・・・・・・ん、・・・・平気」
「ムツキから丁度電話があって、ちゃんのこと話したらタクシー呼んですぐに来てくれるって言ってたの。
多分そんなに時間掛からずに来られると思うよ」
「・・・・ムツが・・・・」

ムツにはサツキちゃんやカナデ君と一緒に演劇部時代の先輩と食事をしに行くことは予め話してあった。
多分お酒を飲む事にもなりそうだってことも言っておいたんだけど、
その時にくれぐれも飲み過ぎないようにとくぎを刺されてもいた。


「・・・・・・・め・・・わく、掛けてごめん・・なさい・・・。ムツにも謝らないと・・・」
「気にしないで、ちゃん。半分私が付き合わせちゃったみたいなものだから」

言ったサツキちゃんの眼鏡の奥の瞳が柔らかく微笑む。
それを綺麗だなぁ、なんて思って見つめた後、は東先輩に視線を向けた。

「・・・・・・東先輩・・・、すみませんでした・・・」
「ぬっ!?い、いや・・・、俺の方こそすまなかったな・・・・、その、・・・配慮が足りなかった・・・」
「いえ、・・・そんなこと、ない、です」

軽く頭を下げて東先輩を見上げて微笑むと、何故か先輩は驚いた様な顔をしてを凝視し、
瞬間的に真っ赤になってのけぞった。
更に、ぶんぶんぶん、と頭を左右に振っている。

「い、いかん!マメ子相手に何を動揺する!?・・・俺には心に決めた女が居ると言うのに・・・!!」
「・・・・・・酔った女の色気にあてられて、何をおかしなことを口走ってるの・・・?セイ」
「まぁセイがおかしなことを口走るのはいつものことだけどね。
・・・ん、でも・・・僕も今、ちょっとセイの気持ちが分かっちゃった・・・」
「・・・・・・・・・・、僕も・・・・少し・・・」

「お前達はやっぱりそれ以上絶対に近づくな!」

カナデ君は何故か今回もまた、東先輩を始め夜凪先輩やユキ先輩、
そして日下部先輩からを守る様にの座っているベンチの前に立ちはだかった。

「・・・もう、カナデ、大きな声出しちゃ駄目よ」

サツキちゃんが呆れたように言って、それから何かに気付いたみたいに視線を少し遠くに向けた。

「・・・・あ、あのタクシー」
「ムツキか?」
「うん、多分。・・・メールが入ってる。・・・うん、やっぱりそうみたい」

サツキちゃんが手元のケータイでメールを確認したのと同時に、
達の居る公園のすぐ側にそのタクシーが停止して、誰かが中から出てきた。

「姉ちゃん!」
「ムツキ、こっち!」

サツキちゃんが片手を上げて手を振ると、
タクシーから降りたムツが達の居る場所まで駆け寄ってくる。

「こんばんは、皆さん、お久しぶりです」
「おお、ムツキか!久しぶりだな」
「どうも・・・」
「こんばんはー!」
「こんばんは」

ムツは先輩達と軽く挨拶を交わし、すぐにベンチに座っているに視線を移した。

「・・・・・・気分は?気持ち悪くない?」

言いながら、ムツは少し屈んでを下から覗き込む。
は微かにかぶりを振って答えた。

「ムツ、それは平気・・・。でも、ごめん・・・」
「・・・いいよ・・・少し心配したけどね。・・・あ、皆さんもすみません、コイツが心配掛けちゃって」

先輩達に向かって頭を下げるムツに、カナデ君はむっつりとした表情を浮かべて言った。

「ソイツらに謝ることなんかないぞ、ムツキ。元凶はあっちだ」
「カナデ・・・!」

咎めるように声を上げたサツキちゃんに、ムツが苦笑する。
それからムツは、の肩に軽く腕を回した。

、立てる?タクシーに乗ろう」
「・・・・ん・・・、ありがと・・・」
「姉ちゃんとカナデも」
「ああ、分かった」
「うん」

「じゃあ僕たちは君達を見送ってから帰ろうかな」

ユキ先輩の一言で、他の先輩方も達の乗るタクシーの傍まで付いてきてくれる。
サツキちゃんとカナデ君が皆と別れる挨拶を済ませて、
助手席にカナデ君、それから後部座席の奥にサツキちゃんが乗り込んだ。

「・・・・ありがとうございます、先輩達・・・。楽しかったです。
でもすみません、ご迷惑、・・・・・・おかけしました」
「ううん、いいって、僕たちは全然気にしてないよ!ホント、楽しかったしね」
「うん、楽しかったよ、凄く」
「ああ、次の機会があれば是非また一緒に食事をしようじゃないか!」
「・・・・・その時は、セイの隣は止めておいた方がいいよ」

「今日は姉ちゃんやがお世話になりました、皆さんもお気を付けて」

ムツは先輩達に丁寧に頭を下げた後、に先にタクシーに乗る様に促した。

は真ん中の方がいいだろ?ほら、先に乗って」
「ん、・・・・・ありがとう、ムツ」

はムツの言葉に頷いてサツキちゃんの隣に乗り、
それに続くようにムツがの隣に乗りこむ。
タクシーのドアが閉まってゆっくりと動き出すと、
外に居る先輩達が笑顔で手を振って達を見送ってくれた。


タクシーが動き出してすぐに急激な睡魔が襲って来てしまい、
はほんの少しでも油断したら完全に閉じてしまいそうな重い瞼と格闘していた。
だけどアルコールの入った体は思うように言う事を聞いてくれなくて、
どうしてもコックリコックリと舟を漕いでしまう。
その上サツキちゃんの肩に軽く額を押し当ててしまいそうになっていた。

「・・・あ、ごめ・・・サツキちゃん・・・」
「ふふっ、眠そうだね?いいよ、私の肩で良ければ貸してあげる」
「でも・・・」
「寝てなよ、。着いたら起こすからさ」
「・・・・・・じゃあ、うん・・・少し、だけ」

言って、はゆっくりと瞼を閉じた。
サツキちゃんの柔らかくて優しいいい香りが心地いい。
自分でも驚く位にあっという間に意識が薄れていく。
ムツがに自分の上着を掛けてくれた気配がしたけれど、
その時にはもうは目を開けることが出来ない状態だった。



(後篇へ)



アトガキ
演劇部員も全員出しちまえいっ!と思ったら予想以上の長さに・・・。
大体において、相手キャラ以外のキャラを登場させると毎度無駄に長くなります
多分キャラ同士の絡みを書くのが予想以上に楽しいのが原因かと(聞いてない)
後編もお付き合い下さると幸いですv では、失礼致します。