うわ、雨だ。
そう思った時には、もう遅かった。
ポツポツと2.3滴、の肩を濡らした雨は、あっという間に本降りになり、
その上叩きつける様などしゃぶりになってしまった。
バケツをひっくり返した様な、とはよく言ったもんだ。
やっぱり傘を忘れたのはマズかったとは思ったけど、それももう後の祭り。
どこかの軒先で雨宿りしようにももうすっかりずぶ濡れだから、それも全く意味なし。
それに雨宿りをしてる時間が勿体ない。
今日は久しぶりにハルと会う約束をしている。
と言っても時間をハッキリ決めてる訳じゃなくて、
こっちの仕事が終わり次第、がハルの家(お邸と言った方がいいかも知れない)に向かうことになってた。
このまま走り続ければ後5分位でハルの家の門前が見える所だ。
バシャバシャと足元で跳ねる雨水も、体を叩くように降る雨もお構いなしで、はとにかく目的地を目指した。
日下部家の門前に到着すると、そこには傘をさして立っているハルの姿があった。
「ハル!」
「・・・・・っ!?なっ、さん・・・!?」
彼はを視界に入れるなり、ぎょっとしたような声を上げた。
まぁ、こんな状態で表れれば驚かれるにも当然かもしれない。
は肩で浅い息を繰り返しながら、雨で頬に張り付いた髪を片手でよけた。
「もしかして出迎えてくれようとしてた?」
「うん・・・、今出てきたばかりだけど。そ、それよりも君、
傘もささずにこの雨の中を走って来たの?ずぶ濡れじゃない・・・!」
「天気予報見てなかったのよね。んで、来る途中で降ってきてさ・・・、あ、あんまりに近寄るとハルまで濡れる。」
言って、は側に近付いて来たハルから2.3歩、遠ざかる。
すると彼はの肩に少しだけ強引に腕を回した。
「そんなこと言ってる場合じゃないよ。
とにかく早くうちに入ろう。このままじゃ君、風邪を引いちゃう。」
「・・・・・・わ、分かった。」
いつも穏やかで優しいハルの声とは違う。
ちょっときつめの声。
それがを気遣ってくれてるからだと分かってたから、は素直に頷いて彼に従った。
「・・・電話してくれれば、僕から迎えに行ったのに・・・。」
ハルの部屋でタオルを借りて髪を拭いている最中にそう言った彼の声は、もういつもと同じに戻っていた。
それでもまぁ、少し不機嫌そうに見えるのは仕方ない。
どう考えてもが悪いんだから。
「ごめん、もう着く寸前位だったし、電話して来てもらうのも申し訳ない距離だったって言うか・・・。」
まさかハルに一刻も早く会いたかったなんてキャラ違いもいいとこな台詞、口が裂けても言えない。
しかも実は電話して迎えに来て貰うと言う選択肢は最初から思いついてなかったし。
つまりは自分からハルに会いに行くってことで頭が一杯だった訳だ。
「だからって何もこんな雨の中を走らなくても・・・・、君の体、凄く冷たかったよ。」
「・・・・・・・・・・か、返す言葉もございません。」
「今度から僕を呼んでね。・・・君が待ってるならどこでも迎えに行くから・・・。」
言い終えると、ハルは自分の台詞に俯いて赤面している。
こんなこと思ってることが彼にバレると嫌がられるんだろうけど、その姿が可愛くて、
は思わずニヤけそうになる唇をどうにか引き締めた。
「さん、シャワー浴びておいでよ。」
「・・・・・・・・・・え?」
ハルの言葉に思わずどきりとしては聞き返した。
「僕の部屋、シャワーも付いてるから。濡れた洋服をいつまでも着ていたら本当に風邪を引いちゃうし、
それにシャワーだったらすぐに――――――」
そこで彼はの表情の変化に気付いたのか、ハッとした様に瞳を見開いた。
ハルが好意で言ってくれてるのは最初から分かってたけど、
反射的に意識しまくって柄にもなく顔を赤くしたりなんかしたのが悪かった。
彼はなんかよりもずっと真っ赤になって焦った様に上ずった声で言った。
「あ・・・あの、僕・・・、深い意味で言った訳じゃなくて・・・!
少しでも早く君が温まってくれたらって・・・、その、ほ、本当に・・・それだけ・・・だから・・・っ!」
ハルが余りにも焦った様子だから、逆にの方が申し訳なくなってしまった。
しかも、そんな姿もやっぱ可愛いとか考えてる時点で、の脳内は恋愛色に染まってしまってる。
それに、達が付き合い始めてもう一カ月近く経つし、正直に言うと、
としてはハルと
会う度心の何処かで期待してたと言うのも事実で。
「えっと・・・、早くしないと体が冷え切っちゃうね・・・。・・・・・・・・シャ・・・・、シャワーはこっちだよ・・・。」
「は別に、・・・・・・さっきの、・・・・深い意味でも構わなかったけど・・・・・・。」
「・・・・・・・え!?・・・・ええっ!?」
「じゃあお言葉に甘えてシャワー浴びさせてもらうから・・・!!」
殆ど言い逃げみたいにして、は驚きつつ赤くなってしまっているハルを残してシャワールームに飛び込んだ。
幾らなんでもああいう台詞ってのは女のから口にすべきじゃなかったのかもしれない。
と言うか、ホントは言うつもりなんかなかったんだけど、いつの間にか口に出してしまったと言うか。
・・・・な、何やってんだか・・・、は・・・!
水に濡れて肌に張り付いた洋服を悪戦苦闘しながら脱ぎつつ、今更ながら後悔する。
体はかなり冷えてる筈なのに、顔だけ妙に熱い。
もハル並みに顔が赤かったんじゃないだろうか。
シャワーのおかげでお湯に浸かった時程じゃないにしろ、冷えた体は程良く温まった。
はシャワーを止めるとそのまま脱衣所に足を運び、タオルで濡れた体を拭いた。
そしてそこでようやく気付く。
タオルは最初からここに用意してあった物を使わせて貰った訳だけど、肝心の着替えの事をすっかり忘れてた。
ハルに
この状況、もしかして凄くヤバいんじゃ。
ハルは着替えの事に気付いてるかもしれないけど、
バスルームから出てきたとはち合わせたらと気を使ってくれてんのかもしれない。
だったら自分から出てって着替えを貸して貰うしかないんだけど、幾らなんでもそれは無理。
こんな格好で出てくなんて恥ずかし過ぎる。
でもだからってこのままここにこもってたって意味ないし。
と言うか寧ろ湯冷めして風邪引いたりしたらただの馬鹿丸出しだし。
いやいやいやいや・・・!!そんなことより・・・さっき
思いっきり・・・・・・・・・・さ、さささ、誘ってるみたいじゃない・・・・・!!??
自分の考えに一瞬にして顔に熱が集中する。
だけどこの状況は明らかにそんな流れを呼んでしまいそうだ。
勿論、はハルが好きだし、だからこそ口にした台詞ではあるけど、
でもだからってこんな露骨にから迫ったみたいな展開は望んでない。
そんなことを考えている間にも折角温まった体が少しずつ冷え始める。
・・・・そうだ!こっから少しだけドアを開けて、それでハルに頼めばいいんだ!
それはそれでハルの手を煩わせる事にはなるけど、タオル一枚で彼の前に出てくことは避けられる。
はそれを実行に移すべく、ドアノブに手を掛け、片目が覗く程度にゆっくりドアを開けた。
「は、・・・・ハルー・・・!ハルー!」
「・・・・・・・・・・、・・・・えっ!?な、何!?どうしたの・・・?」
がバスルームのドアから彼の名前を呼ぶと、ハルは少しだけ間を置いて答えてくれた。
「あ・・・、あの、ごめん・・・・。申し訳ないんだけどさ、何か着替え・・・貸して貰えない?
貸して貰えるならどんな服だっていいから。」
「あ、そうか。うん、ちょっと待ってて。」
言って、ハルは慌ててクローゼットの方に走って行った。
・・・・・ホンット、何やってんだ・・・。・・・・・・・。
自分で自分に呆れていると、バスルームのドアの前にハルが戻って来た。
は無意識に体に巻いたタオルを支える手に力を込める。
「さん、もう少し・・・ドア、開けて。それじゃ服、渡せないから・・・。」
「えっ!?あ、う、うん。」
言われるまま、はドアを開ける幅を広げる。
と言っても、完全には開けてないんだけど。
今の状況でも十分、心臓はどくどくと早鐘を打っていた。
心臓の血管の動きが分かる位に、激しく。
「・・・ハル、ごめんね、ありがとう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
が彼の手から洋服を受け取ろうと手を伸ばした。
瞬間―――――――――
「っっ!!!???」
その手首を掴まれて、ハルは強引にバスルームのドアを大きく開くと、素早くの居る所に侵入してきた。
そして気付けばは彼の腕に抱きしめられてる様な状態だった。
余りにも唐突なハルの行動と展開に、呆気にとられては目を見開く。
それからすぐに、自分がタオル一枚しか身につけてないような状況でハルに抱き寄せられたんだと理解した。
体が瞬間的に硬直する。
「はっ、ハル!!??」
「ごめん・・・・、でも僕・・・・・・・我慢、出来なくて・・・・。」
ハルはの耳元に唇を押し付け、切羽詰まった様な響きを滲ませて弱々しくそう呟いた。
その湿った吐息が妙に熱くて、咄嗟にの体にぞくりと何かが駆け抜ける。
「本当は・・・雨に濡れた君の姿を見た時から・・・、君に触れたいって思ってたんだ・・・。」
「ハル・・・。」
「君も・・・・・・そう思っててくれたんだよね・・・・?そうでしょ?・・・・・。」
付き合い始めてから初めて名前を呼ばれたことに驚きつつも、ハルの言葉に小さく頷こうとしたと同時。
彼はの唇に自分の唇を重ねた。
「・・・・・・・・ンっ・・・」
いつもよりも何処となくぎこちない動きでの唇を割り、彼の舌が口内に入り込んでくる。
ハルはの舌を探り当てると、ぬるりとそれを絡ませて、更に性急に口付けを深めてきた。
きつく、よわく、強弱をつけて舌を吸い上げられ、少しずつ二人分の唾液が口の中にたまっていく。
時々ハルの口から漏れる吐息みたいな声が妙に色っぽい。
はいつの間にか自分からも彼の後頭部に腕を回してしまっていた。
押さえていたの手が離れたことで、体に巻いていたタオルがとハルの胸元に挟まれて、
中途半端にぶら下がってしまっている。
ハルはキスを続けながらもそのタオルをゆっくり外すと、そのままそれを床にパサリと落とした。
そして当然、タオル一枚しか身につけて居なかったは必然的に裸になってしまう。
これはさすがにも焦った。
焦ったなんて軽いレベルじゃない。
恥ずかしさが一気に頂点に達してしまい、は咄嗟に彼から唇を放してタオルを拾おうとしていた。
「っ!!・・・・は、・・・、ハル・・・!待って、ちょっ・・・まっ・・・て!」
「・・・・・ん、・・・ふ、ダメ・・・待てないよ・・・・。タオル、拾わない、で・・・・・。」
唇を合わせたままそう言うと、ハルはわき腹から胸元まで滑る様に掌を動かして、
そのまま胸の膨らみを揉みしだき始めた。
「・・・・・・・・ァっ・・・・、・・・!」
まるで粘土みたいにハルの指の動きに合わせて胸がぐにゃぐにゃと形を変える。
それは自分の体の一部だとは思えない程、いやらしい光景だった。
「ちょ・・・・いやっ・・・、・・・・ハル・・・!」
の唇の端から顎へ伝う唾液をベロリと舌で舐めとった後、彼は間近での瞳を覗きこんできた。
「・・・いや、なの?・・・・・・・本当に?」
キスの余韻なのか、ハルの息が少し弾んでいる。
母親に叱られたばかりの子供みたいな泣きそうな声。
だけど彼の掌は今もの胸の膨らみを弄び続けてる。
そのせいなのか、違うのか、シャワーを浴びたすぐ後より体温が高いような妙な状態だ。
それにこの感覚。
体の芯が疼き始めて切なさを訴えていた。
「・・・・・・・服・・・・・・・、ハルも・・・・・・、せめてキミも・・・・・・服を・・・・。」
最初からハルを拒絶するつもりなんか無かった。
ただ、この状況で自分だけが裸なんて恥ずかし過ぎる。
の言葉で、彼はが何を言いたいのかすぐに分かってくれたみたいだった。
「あ・・・・・・ごめん、・・・・・・その、ベッドに移動しよう・・・。僕も・・・・・・・・・・・・・・脱ぐ、から・・・・・・・・。」
「・・・・・・うん。」
ベッドまでの距離はそこまで遠い訳じゃないけど、余りにも気恥かしくて、
は床に落ちたタオルに手を伸ばしてそれをまた体に軽く巻き付けた。
ハルがの手を引いてベッドへと向かう。
どくばくと言う心臓の音が今更ながら大きく耳につき始めた。
彼が触れた左の胸元がいやに熱く感じる。
ベッドに着くと、ハルはおずおずと服を脱ぎ始めた。
も手を伸ばしてそれを手伝う。
積極的すぎるっぽいけど、何もせずに待ってる方が恥ずかしさでどうかなりそうだった。
「僕は、雨男で・・・いつも大事な時に雨を降らせちゃうし、雨はあんまり好きじゃないんだ・・・。」
「・・・・・・・・・・え?」
何も身に着けずに裸になってお互いの体に腕を回したその時。
不意にハルがそう言った。
「そのせいで君もずぶ濡れになっちゃったし。」
「それは単にのせいで、ハルのせいじゃないから・・・。」
「・・・・・有難う。・・・・うん、今回だけはね、少しだけ・・・雨が好きになったかもしれない・・・・。
勿論君が風邪を引いちゃったりしたらそんなこと絶対言えないけど、でも・・・・。」
そこで彼は一度、言葉を切った。
「こんなキッカケがなかったら、君に触れることをもっともっと限界まで我慢していたと思うんだ。
・・・・・・・・・・だから、・・・・・・少しだけ、雨が好きになったかな・・・。」
の体に回されたハルの腕に、ぎゅっと力がこもる。
直接重なった肌と肌。
温い体温が熱になってく。
ハルの胸板でつぶれた自分の胸の感触がなんだか凄く生々しい。
だけどこんなのじゃ物足りないと思ってる自分も、居て。
「・・・。」
視線を上げると待っていたようにハルがにゆっくりと顔を寄せてきた。
は素直に瞳を閉じる。
窓の外からは、微かに聞こえる激しい雨音。
情緒の欠片さえ感じられない筈のそんな雨さえ、今のには愛しいと感じていた。
雨、匂いたつ
(END)
アトガキ
ハル執筆終了ーー!これで一応メイン攻略キャラは全員執筆した訳ですが、
何か・・・これはハルなんだろうか?(苦笑)で、でも一応書き終えたし!
と言うことで、ここまでお付き合い下さった姫様!誠に誠に有難うございます。
深く感謝しつつ、失礼致します。
Title by 選択式御題