「・・・・・・・・ねぇ、カナデ・・・、もうこう言うの・・・やめようか・・・。」

薄暗い室内。
極力隣で横になっているカナデから視線を逸らそうと、
はいつの間にか見慣れてしまった天井をジッと見上げていた。
情事後の独特の熱はゆっくりと、それでも確実にの体から薄れて行こうとしている。
ほんの少し肌寒さを感じ始めていたけど、はそれに構わずただ彼からの返事を待った。

「・・・・・・・・どう言う意味だ・・・?」
「・・・・・・・・・・分かってるくせに。」
「分からないから聞いてるんだろ。」


嘘だ。
嘘ばっかり。


は唇を軽く噛みしめ、ごろりと体を反転させてカナデに向き直った。
同時に事後処理を済ませていないシーツからするいやらしい匂いがの鼻を突いた。

「・・・・・・・・・・こう言う風に会うの(・・・・・・・・・)今日で最後にしよ。このままじゃ、もキミも辛いだけだし・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

カナデはの言葉に答えず、無言でと視線を合わせている。
普段は眼鏡越しに向けられる瞳。
でも最近は、こうして眼鏡を外した姿を目にする方が多くなっていた。
それは単純に、がカナデとベッドで過ごす事が多いからだ。
哀しい位に、可笑しい位に、とカナデは体でしか繋がってない。


カナデはサツキの幼馴染だ。
中学の頃に彼が海外へ引っ越す以前、カナデがサツキの気持ちを踏みにじる様な言葉を口にする前までは、
かなり仲が良かったと言うようなことを、はサツキから何度か聞いた事がある。
カナデにしてみれば思春期特有の照れ隠しだったんだろうけど、
結果的にはサツキを男性恐怖症気味にさせるほど傷つけてしまい、
数年たった現在でも同じ職場だと言うのに滅多な事がない限りは彼女はカナデに話しかけない。
それでもまぁカナデがこっちに来たばかりの頃に比べればマシになった方だけど、
カナデの奴はサツキと顔を合わせると未だに心にもない事を口にする始末だ。
中学時代は勿論、それよりもっと前から彼はサツキの事が好きだったと言った。
そして当然の様にカナデは今でも彼女の事を好きなのだ。
海外に行ってから日本に一時帰国してきた今でも。



―――――――――――『ったく、何で俺はお前にこんなこと話して聞かせてんだか・・・。
こんな話・・・・・・今まで他の誰にも話したことなかったってのにな・・・。』



そう言って苦笑したカナデの顔は、見ているこっちの胸まで痛くなる様な表情をしていた。
馬鹿なヤツだと思った。
9年。
そんなに長い間離れていてもずっと好きで好きで堪らなかった相手を前に、
大人になった今でも子供のころと同じ間違いをしてるんだから。
でもは、もうその時からカナデの事を好きになってしまっていたのかもしれない。

そうだ。
カナデに負けず劣らず馬鹿だったのはだ。
と言うより、はカナデよりずっと大馬鹿野郎だと思う。
何故なら、こうやって肌を重なるきっかけを作ったのも、だったんだから。


サツキがカナデと再会した時と殆ど同じ頃、と彼女は学園時代の演劇部員の皆と再会した。
そしてそのことをきっかけに、
サツキは他の部員と顔を合わすより前からステラ劇団で大道具として働いていた元演劇部員のユキとも、
以前よりもっと親しく接するようになっていた。
サツキを始終見つめてるカナデがそのことに気付かない訳がない。
彼は嫉妬心から同じ間違いを重ね続けた。
結果的にそれは、サツキを傷つけるのは勿論、自分の傷を抉ってるだけなのに。


――――――――――『慰めて欲しい?』


そんなカナデに陳腐で安っぽい台詞でそう声を掛けたのは他でもないだ。
結局も、自分の傷を抉る様な道を選んだ。
カナデを巻き添えにして。
彼の中のサツキの代わりなんて、絶対に無理だと分かってたくせに。
大馬鹿で、最低の行為を、が選んだ。


「・・・・カナデ、・・・・・、自分勝手なこと言ってんのは分かってるつもり・・・。
最初に言い出したのはだし・・・。」

そうだ。
カナデを責める権利はには全くない。
ちっともない。
ほんの少しでもいいから、視界の片隅でも、心の一番隅でも、どこでもいいから、
とにかくカナデにの存在を気にして欲しかった。
サツキしか見えてないのを承知で、無理やりに隙間を作ってそこに押し入ったのはだ。
そのくせ今になって、カナデのあのピアノの鍵盤に触れる長い指が優しくに触れる度、
囁くように低い声で名前を呼ばれる度、切なく歪んだ表情を目にする度、
それが自分に向けられたものじゃないって分かってる筈だったのに、
は、勘違いしそうになっていた。
カナデと体を繋げて快楽を感じながら、同時に心臓がぎちぎち締め上げられるみたいな痛みを感じて。
苦しくて、ただ苦しくて。
でもそれもこれも全部、最初から分かってた筈の事だ。
それに苦しいのはきっとだけじゃない。
そう、カナデも。

「・・・・・・・・・・このままじゃ、お互いどこへも行けない・・・。ただ苦しいだけ・・・。
今更遅いのは分かってるけど、ごめん・・・・・・・・・カナデ。」
「・・・・・・・・・・・・・、俺は・・・・・・・。」
「シャワー、借りる。それからすぐ出てくから・・・・・・。」

言って、は体を起こすとベッドの隅に移動し、そのまま立ちあがろうとした。
瞬間――――――――――


「待てよ!」
「っ!!??」


背後からの左右に腕が伸ばされ、そのまま体を絡め取られた。
裸の背中にカナデの硬い胸板が押し付けられる。
彼はの肩口に顔を埋めていた。

「・・・・・・・か、カナデ?」
・・・・、俺は・・・・・・・・・・俺の方こそ、ごめん・・・。
けど俺は・・・・お前とこれっきりで終っちまうなんて無理だ・・・。」
「・・・・・・・でもやっぱりには、サツキの代わりは務まらない・・・・。
キミも、サツキの代わりなんて本当は求めてない・・・。」
「ああ・・・・・・・そうだな。アイツの代わりなんか、誰にもなれやしねぇよ・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


ずくり。
胸が大きく軋んだ。
自分から口にしておいて、肯定されると痛くて仕方ない。
これ以上、の恋心も、カナデの恋心も、傷だらけになるべきじゃない。

「分かってるんだったら放して。・・・・・あ、・・・仕事場で会ってもそれなりに上手くやれるから大丈夫、
って結構神経図太いしさ・・・・・・・。だから・・・・・・・・。」
「そんなこと心配してんじゃねぇよ!・・・・・・・、俺は・・・・・・・。」

そこでほんの一瞬、スゥとカナデが息を吸い込む気配がした。
の背中は、カナデとの体温で少しずつ熱を帯び始めている。

「俺は・・・お前が言う通り、今でもまだアイツが忘れられねぇし・・・、
俺にとって欲しいと思えるのはアイツだけだと思ってた・・・。」
「・・・・・・・・・っ。」
「待っ、おい、!違うんだ!だから最後まで俺の話聞けよ・・・!」

咄嗟に立ちあがろうと体を動かしたに、彼はに回していた腕に力を込める。

「・・・・・・・けど、今は違うんだ。いや、・・・・お前だけは違うんだ
正直、他の女から何度か言い寄られたこともあったけど、相手にしようとも思わなかった。
好かれてること自体鬱陶しいと思ったこともある。
けど・・・・・・・お前は違った。
が俺の事を好きだってのを知ってからも、それを鬱陶しいと思った事なんかねぇんだ。
今まで誰にも話したことのないサツキの話を出来たのも、
サツキ以外の女にこんなに触れたいと思ったのも、・・・・・・・・・お前だけだ。
お前は自分を自分勝手だとか言ってたけど、俺だって同じなんだよ・・・・・。」
「カナ、デ・・・・・。」

を抱きしめるカナデの腕が一層力を増した。

ねぇカナデ、達って、ズルくて、そして弱いね。
は彼の腕に両手を添え、カナデに応えるようにそれを強く握りしめた。

「今はまだ・・・・・・・・、」
「え?」
「今はまだ、サツキが忘れられなくても仕方ないけど・・・、
サツキに負けてても仕方ないけど、・・・けどさ・・・、
この先もまだとこうやって会いたいってカナデがそう言ってくれるんだったら、
・・・・・・・・・・は・・・・頑張れる・・・・・・。キミの中のサツキ、追い越そうって・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


本当は。
こんなのは強がりで、やっぱりずくずくと痛む胸は圧迫感で苦しくて堪らない。
にカナデが文字通り恋い焦がれてたサツキを超えることなんて出来る自信だってない。
だけど。
それでも。


「・・・・・・・・・・ムカつくことに、・・・・・・・・・・はカナデがやっぱ凄く好き・・・・。」


先の事なんか分からない。
の恋は、今よりもっと傷だらけになるかもしれない。
それでも、手放さないと決めたから。



でも、なくしたくないの



(END)


初・カナデ夢・・・・・・びっ、びみょおおお(苦笑)
超グダグダな関係になってしまった。でもカナデを見る限りではそう簡単にはいかなさそうだし。
何よりサツキのお相手として一番のメインですよね、ゲームの中で。
その印象からこんな状態になりました。
ではでは、ここまでお付き合い下さいました姫様に海より深い感謝の気持ちを表しつつ、
これにて失礼致します。
Title by 群青三メートル手前