がたった今淹れたばかりの紅茶を一口啜り、夜凪は深い深い溜息を吐いて一言。

「まずい・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」

これで今回3度目の淹れ直し。
今日はかなり調子が悪い。
のお茶淹れテクには何故か面白いほど波が有った。
調子のいい時には一発で合格。(と言っても奴は無言で飲むだけだけど)
そうじゃない時、つまり今回みたいな時は淹れ直しの連続。

「香りは飛んでいるし苦すぎる。お前、お茶のひとつもまともに淹れられないなんて本当にとんだ駄犬だね。」
「だっ、駄犬って言うな!」
サツキ(アイツ)にお茶の淹れ方を熱心に聞いていたようだけど、全く身になってないね。
お前のお茶の味には安定感がない。毎回淹れ方をおかしく変えているんじゃないか?」
「変えてないし!いつも同じだから!・・・・・・・・・・・って言うか、いつ見たの!?
がサツキにお茶の淹れ方教わってたの・・・。」

毎度毎度お茶の味に関してこき落とされるから、こっそりサツキにお茶の淹れ方を伝授して貰い、
夜凪をあっと言わせてやろうかと思ってたのに。
とは言え、コイツは例え驚いても絶対に表には出さないだろうけど、それでも眉のひとつでも動かさせてやろうかと思ってたのに。

「さぁね。・・・ああ、そうそう、お前が一人でお茶淹れの特訓らしき事をしていたのは少し笑えたかな。」
「・・・・・・・・・・っ!!!!だっ、だからキミはいつ見てたのよ!?」

確かに夜凪の言う通りだ。
は一人でこれまたこっそりお茶淹れの特訓をしていた。
特訓用の紅茶は自腹だからそういいものは用意できなかったけど、
それでも上手く淹れればかなり美味しい筈の物。
でもその日は調子が悪くて、お茶の味はイマイチだった。
と言うか、元々ここでサツキの淹れた紅茶を飲むまで紅茶の入れ方一つであんなに味が変わるなんて知らなかった。
彼女の淹れた紅茶は色も味も、温度も、それに香りも、どれを取っても最高。
紅茶の茶葉自体もいいものを使ってるってのも勿論あるとは思うけど、
それにしたって紅茶の味に拘り何か全くなかったでさえホントに美味しいと思った。

「・・・・・・・・・・もう一回淹れ直す・・・。」
「要らない。お前の不味い紅茶を何杯も飲まされて俺の腹は凄く嫌な具合に膨れちゃったし・・・。
これで腹でも壊したら、お前の責任だね、。」
「・・・・・・・・・うっ・・・・・・・!」

悔しい。
ものすごーく、悔しい。
でも、全くその通りで。
返す言葉もない。
だけど実は以前から不思議に思ってた事がある。
それは。


何でコイツ不味い不味いって言いながら全部綺麗に飲み干してんだろ・・・?


そうなのだ。
一応試飲的な感じでカップ一杯ではなくて半分以下位にしか紅茶を注いではいないけど、
でも奴はいつも結局が淹れたお茶を全部飲みほしてしまう。
ティーポットの分も含めて。(勿論失敗作なのでも飲んでる)
がここに来て初めて淹れたお茶は調子のいい時だったらしく、かなり美味しく淹れる事が出来た。
だけどその翌日。
前日とは違い、紅茶の味は最悪で、夜凪はお得意の素敵で辛辣な言葉を穏やかな笑顔で言い放つと、
最初の一口を飲んだきりでそれを突き返して来たのだった。
(その後口直しと言う意味でサツキにお茶を淹れさせていた。)
なのにここ最近ずっと、の淹れたお茶を残そうとはしない。
それが好調の時は勿論、絶不調と思える時でも。
何だか変な感じだ。
茶葉が高級品だからとか、そう言う理由とは別な気がする。

「ねぇ・・・夜凪。」
「何?」

なんぞはもう用なしとばかりにいつものように自分の世界に入りかけていた夜凪は、
明らさまに、まだ居たの?と言う冷めた視線でを見上げた。
そんなのはまぁいつものことで、は構わず口を開く。
聞き返したってことは、聞く気はあるってことだ。

「・・・・・あのさ・・・の淹れた紅茶、不味いとか言いつつ、何で残さず飲んでんの?」
「・・・・・・・・・・・。」

ピクリ。
と、ほんの一瞬、奴の眉が跳ねる。
それから少しの間夜凪は何か考える様な表情を見せた後、小さく溜息を吐いた。

「お前の紅茶の味、日によって・・・今回もそうだけど、芸術的に不味いんだよね・・・。
ほんと、昨日と今日でこんなに違うなんて一種の才能だよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・え?はい?」

皮肉を言われた。
それも、思いっきり。
それは分かる。
分かるけど。
が質問したことの答えとは、どう考えても思えない。
芸術的に不味いなんて、だったら普通に考えて益々全部飲んだりしないだろう。
と言うか、毎度のことながら本当にムカつく男だ。

「・・・不味いんだけど、気付いたら飲み干してる。性質が悪い、何かの薬でも入っていそうだな・・・。」
「入れてないから!!!!結局理由は何!?」
「さぁ?・・・・・・・ああ、言っておくけど病みつきになっている訳じゃないから、
こんな物を飲ませてくれた責任はしっかりと取らせるよ・・・。そう、しっかりと、ね。」

にっこり。
微笑んだ表情は穏やかで、嫌味なほどに綺麗だ。
そして同時に、心底、物凄く、非常に、大変、怖い。


「聞きたい事はそれだけ?だったらさっさと後片付けを済ませなよ。仕事はまだまだあるんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


釈然としない思いを抱えたまま、それでもは無言でティーセットを片付けることにした。
本当に全く意味が分からない。
分からないけど、何だろう、自身の気分は悪くない。
あれだけの皮肉を言われて、あれだけ恐ろしい笑顔を向けられていながら、だ。
これもまた本当に全く意味が分からない。
夜凪も。
そして自分も。


この意味が分かる時なんか来るんだろうか。
は、この意味が分かる時を待っているんだろうか。


・・・せめて芸術的に不味いなんて事だけは言わせなくしてやる・・・!


そんな決意を固めつつ、はまた、自分の仕事に集中することにした。


(END)



アトガキ
トウワ夢第二弾!何故かトウワで思い浮かぶ話はことごとく学園編ばっかです。
今回の話は何かぽんっと思いついたのをささっと書いてみたんですけど、
予想外に早く執筆出来て自分でもびっくりです。
一応これはトウワがヒロインを意識し始めた頃な感じ、・・・のつもり、です。
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様に深い感謝の気持ちを表しつつ、
これにて失礼します。本当に、有難うございますね!