「・・・・・お前も俺も体温が低いんじゃ、
熱くなるのに時間が掛かるかもしれないと思ってたけど・・・、そうでもなかったな・・・。」

お互い何も身に付けていない裸の体に両腕を絡めたまま、夜凪は殆ど独り言みたいにそう呟いた。
あれから(・・・・)そう時間が経っていないせいか、体は未だに熱を持っていて、夜凪と密着した部分からどろどろに溶けてしまいそうな錯覚さえ感じていた。
肌と肌が汗と精液でぬめる。
部屋中がいやらしい匂いで満たされて、甘ったるくて卑猥な空気に思考がぼんやりと霞んだ。
甘ったるい。
そう、いやらしく淫靡な空気の中には確かに甘さも含まれてて、
それがには何だかおかしな気分だった。
あんなに、嫌ってたのに。
夜凪からは馬鹿にされて見下されてて。
で学園時代はそれに食ってかかってたし、
卒業して再会してからも余りその関係に変化が見られた様には思えなかった。
それに(彼自身、絶対に自覚があると思うんだけど、)こんなドSとしか言いようのない男、
何があっても願い下げだったつもりなのに。
気付けば、は、達は。

「・・・・・・・。」
「・・・・・・え?」
「お前、朝は弱い方?」
「別に普通・・・だと思う。はキミみたいに低血圧な訳じゃないし。」

夜凪がを腕に抱いたまま、片手で髪を梳くようにの頭を撫でた。
それが妙にくすぐったく感じて、は少しだけ肩をすくめる。

「明日の朝はお前が俺を起こして・・・。」

夜凪の台詞には咄嗟にがばりと身を起して彼を見下ろしていた。

「・・・・・・・明日の、朝?・・・・って、ここに泊れってこと・・・!?」
「・・・・お前は泊らないつもりだった?」
「いや、だって・・・・・・、まだ、8時半、だし?」

微妙に語尾を上げて訊ね返してみる。
今はまだ8時過ぎだから、もう少しゆっくりしてシャワーを浴びて帰る支度をしても十分電車は有る時間だ。
勿論そんな計算を最初からしてた訳じゃないけど、だからって泊っていこうと言う気はなかった。
と言うか、夜凪がにそんなことを許してくれるのかと言う考えがあって、
彼の心の中を未だに計りかねてる自分が居るのだった。
は遊びとかそういう意味で好きでもない相手とあんなこと(・・・・・)
をしたりはしないけど、彼の方がどう言うつもりでこうなった(・・・・・)のかがいまいち良く分からない。

「・・・・・・・・・寒い。」
「え?・・・・っ、っ・・・!」

唐突に片腕を伸ばされたかと思うと、夜凪は体を半分起こした状態のを強引に自分の胸に押し付けてきた。
はあっという間にバランスを崩してそのまま彼にしがみ付く。
会話をしてる間にどうやら正常な思考と感覚が戻って来たは、
反射的に恥ずかしさの余りそれに抵抗を示そうとしてしまった。
でも結局夜凪にそれを易々と抑えられて、裸の体は益々密着する。

「や・・・夜凪・・・っ、キミ、何・・・「、お前、いい加減にそれ、止めない?」
「え・・・はい?それ?」
「名字、・・・・・・名前で呼べって言ってるんだよ・・・。」

夜凪はの耳元に唇を押し当てるようにしてそう囁いた。
彼独特の柔らかくそれでいて色気を含んだしっとりした声がの鼓膜を震わせる。

「・・・・・・・あ、あのさ・・・・夜な・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・と・・トウワ。」
「何?」

どうしてあんなこと(・・・・・)したの?
と言うか、現在進行形でこんな(・・・)状況だし。
でも聞いたところではどうする気だろう。


遊びに決まってるだろう?まさかお前、本気だなんて思ってないよね?


もしいつもの調子でさらっと笑顔で言われたら、は。
そうだ。
変に期待して、どきどきして、
どっかの陳腐なドラマみたいに『一度寝たからって・・・』と言う様な台詞を夜凪から聞かされたら。
は多分、メチャクチャに傷ついて、二度とコイツの顔を見られなくなる。
怖い。
それが、とてつもなく。
そう思うと、は開きかけた口を結局また閉じてしまった。

「と、泊ってっていいんだったら・・・今日は泊ってく・・・。」

そして、最初に聞こうと思ってたのとは別の言葉を口にする。
不意に、彼が超至近距離でジッとを見つめている事に気付いた。
肌を直に合わせてる分、心臓の鼓動の早さが向こうに伝わってやしないかと変にびくびくした。

「な、何・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・、・・・、お前って・・・。」

そこまで言って、彼は何故か深いため息を吐いた。

「そんなにさっさと帰りたかった・・・?」
「えっ!?」
「俺が明日の朝の事なんか持ち出さなかったら、さっさと帰ろうと思っていたんだろう?」
「それは、・・・・えーっと・・・。」
「ま、お前が何と言おうと帰してやるつもりなんかなかったけどね・・・。」

言いざま。
夜凪はの唇に自分の唇をやわらかく重ねた。
同時に、彼の掌がのわき腹を撫でるように動く。
いつもは冷たい夜凪の手は、ずっとの体に回されていたせいかぬるい体温を保っていた。
裸のままのの下腹部と彼の肌とがすれ合い、
それだけで数時間前の行為を思い出してビリリとの体の中心が甘く疼く。
の唇を割って入り込んだ夜凪の舌がねっとりと口内を這いまわる感覚に意識を奪われそうになりながらも、
はどこかでそれに抵抗してしまった方がいいんじゃないかと思っていた。
は、夜凪が好きだ。
それはもう否定しようもない。
でもさっきが考えてたことが当たってたとしたら?
夜凪にとって、これは単なる遊びってヤツで、深い意味なんかなくて。
もしそうだったら、このままだけが溺れて、傷つくのは目に見えてる。
だったら―――――――――

「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・っ!?」

不意にから体を放した彼は、眉間にしわを寄せてを見下ろした。

「・・・・・・・・何か、言いたい事があるんだったら言いなよ・・・。」
「え?」
「そんな・・・強姦でもされてるみたいな顔してる女を抱きたい気分じゃない。」
「ごっ・・・!!・・・って、しかもそう言う気分の時はするんだ!?」
「ああ、するよ。」
「っ!!!」


やっぱり。



ずし、と、胸の辺りに一気に重みがかかる。
まるでその辺一帯が鉛になったみたいな感じだ。
結局、夜凪にとって相手(・・)であることに意味なんかないんだ。

「・・・・・・・無理・・・。」
「・・・・・何?」
「これが、キミ流の単なる遊び(・・・)ってヤツなら、は無理だって言ったの・・・!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

彼はほんの一瞬瞳を見開いての瞳を見つめた後、フッ、と、小さく溜息を吐いた。

「・・・お前みたいに何処から見ても平凡な上に、後腐れ悪そうな女、わざわざ遊び相手になんか選ばないよ。」
「なっ!!」
「知っての通り、俺は女に不自由はしてない。
だからってキャーキャー騒ぐ鬱陶しい手合いは興味ないけど・・・。」
「・・・・・じゃあ、は・・・・何で・・・・・・、」

更に言葉を続けようとして、は無意識にまたその口を閉じた。
何故なら、至近距離。
を見つめる夜凪の瞳。
いつも冷静で、何を考えてるかなんか全然分からない筈のその瞳の奥。
いつもは絶対に見せない、見せてくれない、『真剣さ』みたいなものが滲んでいたから。

「どうでもいい女を抱く様な無駄な時間・・・今の俺にはないってこと・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・夜凪・・・・・・・、それ、・・・・・・、を・・・?」
「ちゃんとした答えが聞きたいのなら、お前から口にすべきだよ・・・。」
「何処から見ても平凡で後腐れの悪いは、何とも思ってない相手とこんなことはしないわよ・・・!」

少しだけ拗ねたようにさっきの夜凪の嫌味をなぞってはそう返した。
本当は、彼からのちゃんとした(・・・・・・)返事が聞きたくて聞きたくて仕方なかったけど、
それを素直に口にするのが悔しくて、わざとそんな態度を取ってしまったのだった。

「よく分かってるじゃないか。」
「・・・・・・・・・き、キミねぇ・・・!」
「それで?結局、何とも思っていない訳じゃないのなら、お前は俺をどう思ってるんだ?」
「っ!?」

間近での顔を覗き込んでいる夜凪の目に意地の悪い笑いが浮かんでる。
もうとっくに答えは分かってるくせに、と言うか、答えを言ったつもりだったのに、
彼はそれでもハッキリとの口から言わせようとしてる。
自分より先に(・・・・・・)

「言うんだ、・・・・。」

夜凪の熱く湿った吐息がの唇を掠める。
同時にの吐息が彼のものと絡まった。
長い間密着し続けているお互いの体はついさっきまで心地いい体温を保っていた筈なのに、
今になってまた少しずつ熱へと変わっていこうとしていた。
彼がシーツの下の長い脚をの太ももにおしつけ、掌はの体をゆっくりと這いまわり始める。

「ちょっ・・・!?夜凪・・・!」
「・・・・・・・・2回目。」
「・・・・はい?」
「お前、さっきと続けて2度も俺を名字で呼んだね。
・・・名前で呼べって言った筈なのに、俺の言いつけを守らなかった。」
「・・・・・・・・、いや、だってそれは・・・まだ慣れてなくて・・・・・・・。」
「その上俺の質問にまだハッキリと答えてもいないしね。・・・・・・・・・、お前って本当に、躾甲斐があるよ。」


―――にっこり。


文字通り目の前にある夜凪の顔が満面の笑みを浮かべる。
どこか妖しい、色っぽいとさえ思えるその笑顔は、だけど同時にぞっとする何かが潜んでいる様にには思えた。
何か、本当に色々と、速まってしまったかもしれない。
そんなことを思っても当然後の祭りで。


「さっきの返事は・・・、お前の体に直に教え込んでやった後でも遅くない・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・躾けてやるよ、・・・・・・・・。」

やわらかく優しく囁かれた言葉は、だけど全然甘くない。
なのに。
長くてしなやかな夜凪の指に、生き物みたいに蠢く舌に、翻弄されて、の思考はまた溶けて行く。


だけど、今度は抵抗としようと言う気は起きなかった。


二人の体温が沸点に達してどろどろに蕩けてしまったその時は。
キミの望む言葉を口にしてしまうのもいいかもしれない。



絡まった吐息


(END)



アトガキ
ゼーハーゼーハー!!トウワ夢第3弾!と言うことで、初めての歌劇編。
本当はこれ、トウワから告白させてみようと言う流れだったんですけど・・・・・・。
・・・・・・・・・・その片りんすら見えぬ様な気がするのは気のせいかのぅ(誰だ)
途中で脳内にある話が二転三転して気が付いたらこうなってました。
ではでは、ここまでお付き合い下さいました貴重な姫様!本当に有難うございます。
海より深い感謝の気持ちを表しつつ、失礼致します!
Title by 選択式御題