半分以上足を夢の中に突っ込んだままの状態で、それでもはゆっくりと瞼を開く。
ぼやけた視界に同じ位ぼやけまくった思考。
暫くの間そのまま動かずにぼんやりと一点を見つめていた。
心地よいあたたかさと気持ちよさでこのまままた眠りこんでしまうかもしれない。
無意識の内に再びとろとろと瞼が下がりそうになる。
けれど、そこで不意に腰元に回された腕の感触に気付いた。
以外のもう一人の誰か(・・・・・・・)
それが誰なのか気付いた瞬間に、相手の顔が超至近距離にあることに同時に気が付いた。

「・・・っ!!ユキっ!?」


――――ガバリッ。


勢い良く身を起こし、は同じベッドで隣に横になっているユキを凝視した。
そして咄嗟に自分の体を見下ろす。


・・・よ、良かった、パジャマは着てる・・・。
ユキも・・・・・・よ、よし!洋服着てる・・・!


こういう場合、よくあるベタな展開だと自分も相手も裸でベッドで寝てました。
みたいなことがあるみたいだけどそれはなかったみたいだ。
妙なことを即座確認し、ほんの一瞬心から安堵する
だけどすぐに我に返った。


じゃなくてぇっ!!!!!!
つかこれそう言う問題じゃないよね!?



「ちょ、ちょっと!ユキ!ユキ!」

は慌てて未だに健やかな寝息を立てて呑気に眠っているユキを揺り起そうとする。

「・・・ん・・・んー・・・?」

僅かに眉間にしわを寄せて身じろぎしつつ、ユキは小さな声を漏らした。
でも目が覚めた様子はない。
はさっきよりも少しだけ力を込めて体を揺さぶり、彼の名前を呼ぶ。

「ユキ!起きて・・・!ユキ!マジで起きて、頼むから!」

殆ど懇願に近い情けない声では続けて彼に声を掛けた。

「ユキー!起きて、お願いします!」
「・・・ん、・・・・うー・・・ん、・・・・・・ん?」

そこでようやくユキがうっすらと瞳を開け、に視線を向ける。
目が覚めたばかりで覚醒していないせいか、焦点があってない。
だけど彼はすぐにを認識したようだった。

「あ、。・・・・・君、起きてたんだ・・・?おはよう。」

目をこすりながらゆっくりと体を起こしたユキは、大きなあくびをひとつ、した。

「おはよ・・・・・・・・・・、・・・・・・・、って!何でユキがのベッドで一緒に寝てんの!?」

反射的に挨拶だけは返し、それから即座、は彼に質問する。
ユキはもう一度欠伸をすると、それからうーんと唸って両腕を上へ伸ばした。

「え?何でって・・・、ああー、なるなる。やっぱ覚えてないんだ。」
「・・・・・・・、・・・・・・・・覚えてない・・・?ま、待って、・・・。」
「君は昨日の夜のこと、どこまで覚えてんの?あ、僕達と飲みに行ったことは忘れてないよね?」

ユキからの質問に、コクっ、と軽く肯く。
そうしながら、脳内を引っ掻きまわして記憶の引き出しを探りまわった。
そうだ、昨夜はユキと、それから学園時代の演劇部の皆と飲みに行った。
仕事場が同じでほぼ毎日顔を合わせては居ても、ああ言った形で皆揃ってゆっくり話す機会は滅多にない。
学園時代は部長や副部長を始め、とんだ曲者揃いの部活に巻き込まれてしまったと思ってたけど、
年月が経ってあんな風に皆とお酒を飲めるのが嬉しくて、
ついついいつもよりペースを速めて飲んでしまったような気がする。
元々お酒にそう弱くはないし、今まで記憶が飛ぶようなことは一度もなかった。
実際、いつもより飲み過ぎてしまっては居ても、皆と別れた直後の記憶まではある。
だけど。


・・・・・・・・・ま、待て、待てよ、
確か、サツキはカナデが送ってくことになって・・・、は・・・は・・・。


その先。
そっから先、何が起きたかを思い出そうとすると、記憶に霧がかかってイマイチ思い出せない。
落ちつけ、落ちつけ、と心の中で繰り返しつつ、どうにかそれから皆と別れ別れに帰り始めた自分を思い出す。


皆と・・・・?や、違う・・・・。そうだ・・・!確か、ユキが隣に居て・・・・・・・・。
それから・・・・・・・・・・・・・・・。


「ね、ねぇ・・・ユキ・・・。」
「ん?ああ、もしかして思い出した?」
「・・・・・・・・皆と別れた後、さ・・・・キミに寄りかかって・・・寝ようとした・・・りした?」

恐る恐る、はユキに向かって訊ねてみた。
の最後の記憶。
完全に途切れてしまう直前。
皆と別れた後。
を送ってくれることを買って出たユキが隣に立っていて、はいきなりその肩に寄りかかって、
殆ど崩れ落ちるみたいに眠りに着こうとしてた。
どうやらは、お酒が入り過ぎると速攻で眠くなる性質らしい。
今までそんな経験がなかったから知らなかったけど、昨日のあの凄まじい眠気はそうとしか思えない。

「そうそう!もうホントびっくりしたよ。
君ってばいきなり僕に寄りかかって来て、『ユキ、眠い。』だもん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・、さ、サイテー。
ごめん・・・!!謝って済むことじゃないけど、マジにごめん!!」
「え?ううん、まぁびっくりしたけど僕は気にしてないからさ。ただ・・・。」
「な、何・・・!?何かやらかした・・・!?」

同じベッドの上だと言うことも忘れ、思わずは身を乗り出してユキを見つめた。
ユキは少しだけ照れたみたいな顔で苦笑する。

「もしかして君から誘われてるのかなって、ちょっとどきっとした。」
「・・・・・・・・・な゛っ・・・・・・・・・・!!!!」

ユキの言葉に咄嗟に体が硬直する。
でも確かに、ユキの言う通りだ。
お酒が入った状態でしかも帰る直前に男に寄りかかって『眠い』なんて台詞を女が口にして来たら、
そりゃ誰だってそう言う意味(・・・・・・)かと誤解するだろう。
最悪。
最悪だ。
まさかあれから自分自身がそんな醜態を晒していたなんて。
しかもその相手がユキ。
一番、そんな姿を見せたくない相手なのに。
馬鹿だ。
調子ぶっこいて浮かれてお酒飲みすぎるなんて。
は本当に大馬鹿だ。
赤くなるやら青くなるやらの状態のの様子に、ユキは少し慌てた様子で付けくわえた。

「あ、でも安心してくれていいよ?当然、この部屋までは無傷でタクシーで君を送り届けましたから。
まぁ・・・・・・・その後はちょーっと(・・・・・)大変だったけどね。」

ちょーっと(・・・・・)大変と言う台詞がの脳内ですごーく(・・・)大変に変換される。
この上何をやらかしたんだ、自分。
と、不安に駆られた瞬間。
はハッとして自分の体を再度、見下ろした。
パジャマ。
パジャマを着てる。
皆と別れた後の記憶がないし、ユキがと一緒にタクシーに乗ってくれた記憶もない。
だから当然自分の部屋に帰って来た時の記憶もなくて。


、一体どうやって(・・・・・)着替えたんだ?


そんな疑問が頭を掠めた瞬間。
嫌な予感がした。
記憶がないながらも自分で着替えたんだったら問題なし。
だけど。
記憶が殆どすっぽ抜けてることと言い、目が覚めて隣にユキが寝てたことと言い、
凄く、大変、非常に、考えたくないけど、自分でパジャマを着替えたって可能性は、凄く低い様な気がした。
と言うことは、残る道はひとつ。
そこまで考えて、思考を中断した。
視線をユキに戻して、またしても恐る恐る、は口を開く。
本当は、聞きたくない。
確認したくない。
だけど、ユキに迷惑掛けたんだったら、謝らないと。
って言うか、既にメチャクチャ迷惑かけてるけど。

「ゆ、ユキ・・・・。」
「ん?」
、パジャマ・・・・・・・・これ、自分で?」
「え?あ、ああー・・・・あははは・・・・・・・・・・・・・・・・・。えっと、それは・・・。」

の質問に乾いた笑いで返したユキは、心底言い難そうに言葉を濁した。
さらに言えばから視線を逸らしたその頬が赤い。
その反応では即座、全てを理解した。
思わずボスリと勢い良く枕に顔を埋める。

「わっ!!?」

のその唐突な行動に彼は驚いたように声を上げた。
恥ずかし過ぎて顔が上げられない。
と言うか、ユキに合わす顔がないと言うか。
とにかく今なら羞恥心で死ねると思った。

「・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・この部屋戻ってから・・・・何した?」
「えっと、それってのパジャマを僕が着替えさせた経緯(いきさつ)のこと?」
「やっぱりキミに着替えさせたんだ・・・!」

理解しては居たけど、改めて本人からそう口にされるとあり得ない程落ち込んだ。
もう本当に本当に恥ずかし過ぎる。

「そんな落ち込まないでよ。この部屋に着いてすぐ、君が眠っちゃいそうだったから、
僕がせめて着替えて寝なよって言ったんだ。
そしたら君、僕の目の前で着替えはじめてさ、それで慌てて止めたんだけど・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「君、そのまま僕によっかかって寝ちゃったんだよ。
だから僕が着替えさせて、ベッドに運んだの。
途中までは脱いじゃってたし、・・・・・風邪引かせる訳にいかなかったから。」

ユキは悪くない。
悪くない。
悪いのはだ。
明らかに
だけど。
でも。


あり得ない・・・・・色々ともう・・・・・・・・・・あり得なさ過ぎる・・・・・・・!!!!


着替えさせられたということは、つまり必然的にそれは見られた(・・・・)ってことだ。
自分の情けなさと馬鹿さ加減にムカつくのを通り越して泣きたくなる。

「言っとくけど、僕、君には何もしてないから!
って言っても着替えさせはしたけど、でもホント!何にもしてないからさ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ・・・凄く、蛇の生殺しって気分は味合わされたけど・・・・・・・・。」

後半はぼそぼそと呟くようだったので、ユキの最後の方の言葉はにはよく聞こえなかった。
が落ち込むのと比例して、ユキまで焦って慌ててる。
悪いのはなんだし、ユキは明らかに巻き添えを食っただけだ。

「・・・・・・・・・・ごめん、ごめんなさい。もう何て言っていいか分かんないけど、
結局ユキ、家に帰れてないし・・・・・・・・・・・・・・・。」
「え?あ、ああ、・・・・・うん。でも僕は・・・・・自分から君を送ってくって言ったんだし、
それに全然嫌じゃなかったしね。それにさ・・・・・・。」

そこで不意に言葉を切ったユキが、の頭の斜め上あたりに手を置いた。
同時に、少しだけベッドが揺れて、微かにギシリとスプリングが軋む。
そこではようやくここが狭いシングルベッドの上だと思いだしていた。
余りに余りな昨夜の自分の失態に、そんなことさえ考える余裕もなかったけど。

「・・・・・・・ユキ?」


「今ここに居るのが僕で良かったってスッゴク思ってる。他の誰かが君のこと部屋まで送って、
その上着替えまでさせてたらなんて考えたくもないよ。
君の言う通り、色んな意味で辛かったけど、それは迷惑とかそういう意味じゃなくて、
・・・・・・・・・・あんな可愛くて色っぽい君を前にして、触れる事が出来なかったってのが辛かったって意味。」


何処か意味ありげに唇に薄らと笑みを浮かべて彼はそう続けた。
それはいつものあっけらかんとした明るいユキの笑顔とは違っていて。
一瞬。
固まったままぽかんと馬鹿みたいにユキを見上げる
それから数秒後。
彼がとてつもなく妖しくて意味深な台詞を口にした事実がの脳に達する。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・な゛っ!?ななっ、ななんっ!?ユキ!!??」
「だってってば僕が君の傍から離れて立ち上がろうとした時、『帰らないで』なんて言うんだもん。
の傍に居て』ってさ。・・・・・・正直、スゴイ理性がグラついちゃったんだけど、
それでも僕はあんな状態の君に手を出して嫌われたくなかったから必死で我慢して、
・・・・・・・・実はちゃんと寝たのも多分明け方位だと思う。」


・・・それは、眠かっただろうし、無理して起こして悪いことを・・・。
―――――――ってそうじゃない!!そうじゃないよね!?!!!


今の状況を自分の中で処理しきれなくて、硬直したままはユキを凝視し続ける。
不意に、ユキが僅かに口角を上げて笑った。
さっきと同じだ。
いつもみたいに明るく爽やかな笑顔とは違う、色気さえ見え隠れする、
なのに同時に悪戯っぽさを滲ませた、そんな笑い方。

「僕、本当に頑張ったんだよ?ねぇ・・・ご褒美が欲しいな。」
「・・・・・・・・・・え?ご、ご褒美?」

がそう問い返した瞬間。
フッ、と、一瞬でユキはとの距離を狭めた。
鼻先が触れ合うほどの至近距離。
そこに、ユキの顔がある。

「っ!?」
「君が嫌なら僕は今すぐここから出て行く・・・。だけどもし君が受け入れてくれるなら、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・このまま、キスさせて欲しい。」
「えっ!?」

さすがにこの体勢なら自分が今何をされようとしてるのか位は分かる。
分かるけど、そう言う意味だけじゃなく、は驚いて瞳を見開いていた。
ユキは普段から人懐っこくてスキンシップも多いけど、ただ単に軽いだけのタイプの人間じゃない。
好意を全くもってない相手にこんなことをするとは思えない。
さっきの意味深な台詞だって何だかんだで嬉しいと思ってる自分が居る。
にとってお酒に酔った後の醜態を一番見られたくない相手がユキだった。
だけど、ユキ自身も口にしてくれた通り、ここに居るのがユキで良かったと思ってるのもやっぱり本当だ。
どくどく。
どくどく。
鼓動が爆音を上げる。
中々返事をしないに痺れを切らしたように、ユキは自分から静かに口を開いた。


「分かんない・・・かな?僕・・・・・・・・・・君が好きなんだ。だから僕と付き合ってくれない?」


ど  く  り。


その時。
胸を突き破る勢いで鼓動を刻んでいた心臓が、ひときわ大きく胸を叩いた。
はこれ以上になく瞳を見開いて、彼を穴が空きそうな位に凝視した。

「っ、ユ、キ?・・・・・・・・・・ほ、んとうに?」

ビックリし過ぎて声が掠れる。
心の中で期待して、待って待って、待ち焦がれてた言葉。
でも、それを本人の口から告げられると、確かめずには居られなかった。

「本当。・・・・・・大体、好きでもないコにここまで付き合ってないし、
最初から部屋まで送って行くなんて言ってないよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そっか。」


何がそっか、なんだ。
もっと色気のある受け答えは出来ないんだろうか。
だけど勿論、そんなことを悠長に考えられる状況なんかじゃなく。

「で、さ、。返事、・・・・・・・欲しいんだけど。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あんまり待たせられちゃうと、強制的にYesってことになるけど。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「僕、昨日自分がこのまま干からびるかと思う位我慢したから、このまんまだと我慢できないよ?」

吐息が絡み合う程寄せられた唇。
低く囁くようにユキがそう言った。
それでも、口で言うほど強引には迫って来ない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・も・・・・。」
「・・・・え?、聞こえないよ。」

必死に声を絞り出して、告げた言葉。
だけど至近距離に居る彼にさえ聞こえないわたしの声。
はもう一度、掠れる声で呟いた。

も・・・・・・・・・・・・・・・、ユキが好き、・・・・・・・・って言った。」
「っ!!!」


ほんの一瞬の間を置いて、ユキが息をのむのが分かった。
が更に口を開こうとしたところで、彼がその唇を塞ぐ。
瞬間的にの呼吸も心臓も思考も停止してしまった。
触れ合わせただけのキスが、唇から舌を差し入れられてすぐに濃厚なものに変化する。
口内に入り込んだユキの舌は想像以上に熱くて、ぬめって独特の弾力のあるそれは、
まるで軟体動物みたいにの口腔内で蠢いた。
重なった唇の奥。
少しずつ確実に二人分のぬるい唾液が溜まっていく。
気付けばは無意識に彼の後頭部に腕を回し、
自分からも彼の舌に舌を絡め合わせていた。
生ぬるくとろみのある唾液が唇の端から溢れ、ツゥとの頬を伝う。
ユキはそれを舌でゆっくりと舐めとった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

いつもより低めの声で、ユキがの名前を呼ぶ。
ちゅ、と音を立ててキスを一回。
その後すぐに、彼はクスリと小さく苦笑して言った。


「・・・・・・・・君は、僕以外の男の前でお酒を飲みすぎるの禁止・・・!」



(END)




アトガキ
初・すみれ夢はユキでした〜!!って言うか、なんがあああああ!!
本当はもっと短くするか、そうでなくとも途中で前後篇に分けようかと思ってたんですけど、
無理でした・・・。実はユキには個人的に色々とトラウマがあるんですけど(笑 でも好きです!)
でも何だかんだでお初の割には書きやすかったです。あくまでもお初の割には、ですが!
とうとう書いてしまった訳ですが、すみれの夢小説って何気にドマイナーなんじゃ?
と言うか、絶対マイナーですよね。人気はあると思いますが、夢となるとマイナーであろう(誰)
読んで下さった姫様には本当に深く感謝感謝です。
ではでは、これで失礼致します。