「はははっ、それはメガネちゃんも大変そうだねぇ。トウワは基本的に苛めっ子だしさ。」
「いじめっ子・・・・・・・、そんな可愛いものじゃないって、アイツは。
人の事小馬鹿にしといて、素であんなこと言えるんだから。」

休日。
数日前にサツキと来た同じカフェの同じ席。
はサツキから夜凪と付き合い始めたと言う報告を受けた時の出来事を、
ユキに話して聞かせていたところだった。
ユキはどこか面白がっている様な表情で話を聞きながら、
手元のお皿にあるモンブランをフォークで次々口に運んでいた。

「『サツキのことを泣かせる人間は、俺だけに限定されるってことをね』ってどんだけSキャラ性格発言だっつの!」
「でもさ、それって結構熱烈な告白っぽいじゃん?俺だけってとことか。
案外上手くやってけるんじゃないかなぁ、あの二人。それに、君も気付いてるんでしょ?トウワの変化。」
「・・・・・っ!・・・それは、まぁ・・・・・・・。」

ユキの言葉に思わずもごもごと口を動かす
夜凪の変化。
と言っても、別に唐突に別人みたいに優しくなってるとか、そんな恐ろしいことじゃない。
よく気にしてないと分からない程度の、本当に些細な分かり難い微妙な変化。
それでも行動の端々。
サツキに対する思いやりみたいなものが確実に存在しているようで。
それは勿論、夜凪の奴だから、さっきも言った通り、相当分かり難いものだったりするんだけど。
そしてそれを受け止めているサツキは本当に嬉しそうに、
楽しそうに、綺麗な笑顔を浮かべていたりする。

「・・・・・上手くやってける、の、かもね・・・・・、うん・・・。」
「あはははっ!スゴイ複雑な顔だね、。」
「実際複雑だから。何かが気にすることじゃないんだろうけど、
部活中もあの二人が話してると無意識にチラチラ目がいっちゃうし・・・。」
「ああー・・・、そうだね、見てるね、いつも・・・。」

そう言ったユキが、何故か意味深にジッとを見つめる。
はミルクティーを一口啜ると、彼と視線を合わせた。

「ん?な、何?」
「・・・・・・羨ましい?」
「え?な、何が?」
「メガネちゃんのこと。今は勿論だけどさ、
トウワとイイ感じになり始めた頃からかなり幸せそうだったでしょ。
君ってば結構前からあの二人の事気にしてたみたいだし。」

言ったユキの表情。
気のせいか、何だか微妙に不機嫌っぽい。
ついさっきまで、笑ってたのに。

「・・・・・それはまぁ、羨ましいってのはあるかもしれないけど・・・。
あの二人を気にしてたのは純粋にサツキのことが心配なのであって・・・。」


――――――――って何ではユキに向かってこんな言い訳っぽいこと言ってるんだろう。


何となく居心地の悪さを感じ、はユキから視線を逸らしてミルクティーのカップに口を付ける。
彼はから視線を逸らさずにジッとこっちを見続けてる。
それから不意に、その瞳を少しだけ細めて笑った。

「そっか、だったら安心かな。」
「・・・・・・・・・・え?何が・・・・・・・?」
「うん、君って結構トウワのこと話題に出すこと多かったし、
もしかしたら実はトウワのこと気になってたんじゃないかって思っちゃって。」
「それはない!!」
「うん、それ聞いて僕も安心!」


にっこり。

ユキはいつものように満面の笑みを浮かべて、オレンジジュースを一気飲みすると、
グラスの氷を口に含んでボリボリと音を立てて食べた。

きょとん。
一瞬、は間抜けな顔でそれを見つめてしまう。

「えーっと、・・・もしもし?ユキくん?」
「うん?はいはい?何かな?さん。」

言いながら、ユキが空になったグラスをテーブルに置く。
カランと乾いた音を響かせて、残りの氷が形を崩した。

「・・・・・・・・・・・・、いえ、ナンデモないです。」
「えー?何それ、途中で止められるとスゴク気になるよ!」
「いや、うん、気にしない方向でお願いします。」
「いやいや、そんなこと言われると益々気にする方向に向かっちゃうよ。」

ユキ、もしかしてのこと気になってる?
なんて、聞けるわけがない。
どれだけ自惚れ発言。
ノリで冗談っぽく言えば笑いネタになるにはなるけど、
それでいつもの笑顔で否定されたら結構ショックかもしれない。

「とにかくまぁ・・・、サツキが幸せならは陰でそれを見守ろうと思う。」
「うわ、強引に話戻したよ、この人。しかもかなり巻き戻した話題だよね、それ。」
「綺麗にまとめた感じだと思って。」

微妙な誤魔化しをしつつ、はもうすっかり冷めてしまったミルクティー飲み干した。
それからお皿に残っている食べかけのシュークリームの最後の一口をフォークで突き刺し、口に運ぶ。

「ねぇ、友達の幸せを願うのは勿論いいことだけど、そろそろ自分の幸せ、考えてみない?」
「・・・・・・・・・え?」

もぐもぐと動かしていた口を一瞬ピタリと止めて、は視線を再度、ユキに向けた。
不意に、ユキが瞳を細めてやわらかく笑った。
何故か鼓動が大きく胸を突く、そんな笑顔。

「ユ・・・「クリームが付いてる」

が彼の名前を呼ぼうとしたのと同時に、ユキは片手を伸ばしての唇の端を親指でグイと軽く拭った。
しかも、こともあろうに指先についたクリームをユキは舌で舐めとったのだ。

「な゛っ!?」
「うん、甘いね。って、この位の量じゃ味は分かんないかな。でも最初に少し貰ったから、美味しいのは分かってるし。」
「感想とか聞いてないデスシ!!」

咄嗟のこと動揺して言葉遣いがおかしくなる。


何で。
何で。
何でこんな、ドラマや少女漫画に出て来るベタなバカップルめいた真似を!!??


過剰反応を示したの様子がおかしいのか、ユキはクスクス笑い声を立てた。

「君、声が裏返ってたよ、今。」
「ユキのせいでしょうが!」
「え?ああ、へへっ、ごめんごめん。」


な、な、何なんだ!?ホントに!!


正直驚いたのと恥ずかしいのとで顔を真っ赤にしたり、
それこそ少女漫画のヒロインの王道みたいな反応をした自分が憎かったりするけど、
嫌悪感なんてものは特に感じてなかった。


「そうそう、それで話を戻すけど。」


戻すんかい!

いつもならノリでツッコミいれるべきところも、動揺しすぎてそれどころじゃなかった。
そこまで純情系だとは思ってないけど、それにしたって時と場所と、
そして適切な関係と言うものがあるんじゃないだろうか。
なんてことを考えているにお構いなしで、ユキはまた、ジッとを見つめて口を開いた。


「メガネちゃんの幸せは陰ながら見守るってことで、君は君自身の事も考えていいんじゃないかな?」
「・・・・・・・・・・・・えーっと、う、ん・・・?つまり?」
「僕と、・・・幸せな(・・・)関係、築いてみない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・、幸せな関係・・・・、・・・・・・つ、つまり?」


「恋と愛の関係。」


言ったユキが、少しだけ頬を赤くして笑った。
どくどく。
の心臓、急速に鼓動を速める。
ほんの一瞬今彼の言ったばかりの台詞の内容が理解できなくて、は固まってしまった。
それから頭の中で何度かそれを繰り返し再生する。


・・・・・・・・・・これって、告白・・・・・・・・されて・・・・・?


「ゆ、ユキ・・・・、・・・。」
「僕じゃ、駄目かな?・・・・・・・ずっと好きだったんだ、君の事。
だから君がメガネちゃんのことでトウワのこと話題に出す度、スゴク心配だった・・・。」
「・・・・・・・・・・ユキ。」

を見つめるユキの真剣な顔。
今告げられたばかりの彼の台詞が、またの脳内に再生される。


恋と愛の関係。
つまり、恋愛関係。


「・・・・・・返事は、今すぐじゃなくてもいいから・・・、少し考えてみてくれない?」
「・・・・・・・・・・う、・・・・・・・うん、分かった。」

コクッ。
まるで機械みたいにぎこちなく頷く
ユキが小さく苦笑する。
それから彼は、達のテーブルに置いてあった伝票を手にして立ち上がった。

「今日はもうこれで帰ろっか?ここは僕がおごってあげるからさ!」
「え!?いやいや、払うよ!」
「いいって、いいって!こう言う時はラッキーだと思って奢られちゃいなよ。
んじゃ、先に出るね。また明日学校で会おう。」
「ゆっ、ユキ・・・!?」

が制止の声を上げるも、ユキは片手をひらひらと振りながら足早にレジに向かってしまう。
は暫くの間茫然とその背中を見送って、その後ようやく我に返った。
ユキはもう支払いを済ませて店外に出てしまってる。
は慌てて荷物を引っつかむと、彼の向かった方向に走り出した。



ユキは返事は今すぐじゃなくてもいいと言った。
だからこのまま今日はこれで別れても問題ないと思う。
思うけど。
だけど。


ユキの気持ちを嬉しいと感じたから。
凄く、嬉しいと思ったから。


サツキと夜凪。
夜凪はの天敵で、今でも油断ならない奴だと思ってる。
だけど、ユキの言う通り、はサツキを羨ましいと思ってた。
でもそれは当然、実は夜凪を好きだからとか、そう言う意味じゃなくて。
好きな人に想われて、その気持ちを堂々と受け入れられる立場にあること。
それから幸せそうな笑顔とか、恋する女の子特有の、あの、綺麗な表情とか。
そう言う色んなものを持ってるサツキを、羨ましいと思ったんだ。


そしては、そう言う色んなものを、ユキの傍で、感じたい。
他の誰かじゃなくて、ユキの傍で。
これが恋なのかってハッキリ断言できるほどしっかりしたものじゃないけど。
でも。

カフェから少し走った先で、は見慣れた背中を見つけた。


「ユキ!!!」


大声で彼の名前を呼んで、ユキを呼びとめる。
の声に気付いたユキが振り返って驚いた様子で足を止めた。



彼の傍まで近づいたら、息を整えて今の気持ちを正直に伝えよう。
のことだから、可愛らしい台詞なんか口に出来ないかもしれない。
だけど、今、この気持ちを、そのまま。


ユキ、キミに。


(END)



アトガキ
トウワとサツキのお話に続く感じになりました。何気にユキ3本目。
トウワと並ぶくらいに執筆してることにビックリ。
黒ユキもその内書いてみたいなと思いつつも、毎度同じ感じになります(笑
そして最終的な展開も最初考えてたのと違う所に辿りついてしまいました。
もっともっと曖昧な感じに終わる筈だったんだけどなぁ。
ではでは!ここまでお付き合い下さった超貴重な姫様!深く!感謝しております。
失礼いたいします