「、この私を待たせるとはいい度胸だな。
相手がお前でなければとっくに出て行っていた所だぞ」
学園内のハロウィンパーティ当日。
運営委員として忙しく走り回っていたその時間をどうにか割いて、
鍾会の待って居る教室に飛び込むと、案の定、開口一番、ヤツはこの上なく不遜な態度でそうのたまった。
「あー、それはどうも」
やっぱりそう来るか、なんて内心思いつつ、は取りあえず教室内に足を踏み入れる。
事前に遅れるってメールはきちんと送ってたし、
それどころか実は運営委員はハロウィンパーティ当日は忙し過ぎて殆ど時間が取れないし、
もしかしたら無理かもしれないとまで数日前から何度か言っておいた訳だけど、
鍾会は当然の様にそんなこと頭にないようだ。
覚えてないとか、忘れてるとかそう言う意味でなく。
私の為の時間が取れない等とはあり得ん的な方向で。
はははは、と、乾いた笑いを漏らしつつ、は再度、鍾会に視線を向ける。
「・・・鍾会、仮装なんかしないって言ってたけど、その格好・・・、ヴァンパイアだよね」
彼は黒いマントを羽織ったヴァンパイアの仮装をしていた。
正直性格にはちょっとどころじゃない程激しく難有りなヤツだけど、
ルックスはモデル並みにいいので、仮装である筈の衣装さえ妙にいい感じに着こなしている。
過剰な表現じゃなく、まるで映画の俳優が画面からそのまま飛び出して来たようにも見えた。
本当に、これで喋らなければ完璧だ。
「ふん、私はこんな馬鹿げたイベントでの仮装など断ると言ったんだ。
だが、周りのものが余りにもしつこく頼みこんで来たのでな、仕方なく着てやった。
でなければ私がすすんでこんな滑稽な格好などする訳がないだろう」
どこか自慢げでもあり、同時に忌々しそうに鍾会がそう返事をする。
さっきも言った様に、鍾会は性格を置いておけばルックスはピカイチなのだ。
多分、この仮装をすすめたのは女子生徒だろうけど、その辺の気持ちは分からないでもない。
彼の言葉には思わずひくりと口元を引きつらせた。
「忘れてるかもしれないけど、
その馬鹿げたイベントの為に走り回ってる人間の一人だからね、」
「・・・・・・だから馬鹿げていると言うんだ・・・」
そこで鍾会は何故かいつも以上に不機嫌な様子でボソリと呟いた。
基本的に彼はいつも態度がでかいし、相手を見下している様な感じだけど、
今日は何と言うか、その上御機嫌斜め過ぎる様子だ。
「そんなことよりも、お前はいつ着替えるつもりだ?」
「・・・?着替えるって?」
「仮装だ、・・・聞いた話によると妖精の仮装をするそうだな。
・・・ふ、ふんっ!お前が妖精とは笑わせてくれると思ったが、見てやらなくもない」
「・・・・・え?え?え?何のこと?は着替える予定なんかないけど・・・」
「何っ!?」
そのほんの一瞬、さっきまでより表情が和らぎかけていたと思っていたのに、
の返事に鍾会はまたしても眉間に深くしわを寄せた。
はきょとんと彼を見上げる。
「一部の運営委員は仮装してるけど、のとこはそれじゃ動き難いから制服のままだし」
「なっ・・・!?それでは話が違うぞっ!!」
鍾会は何故か妙に驚いた様子で声を上げる。
「いや、最初からが仮装するって話は出てないんだけど」
「・・・・・・・・何だとっ!?・・・くそっ!アイツら、この私を騙したな・・・!!」
そこでやけに悔しそうに拳を握る鍾会。
それにしても、何で彼がここまで悔しげにしているのかには全く分からない。
誰に何を吹きこまれたのかは知らないけど、そこまで悔しがるような事なのか。
えーっと、騙されたこと自体に怒ってる??訳じゃない、ような・・・。
「、この私がこんな格好をしてやって居ると言うのに、
運営委員だからなどと言う理由でお前は本気で着替えないつもりか!?」
「えっ!?いやいやいや、そう言われても・・・。
それに運営側は元姫と司馬照、それと夏候覇先輩辺りが仮装して十分盛り上がってたし」
「今はアイツらは関係ない。お前のことだ、」
何でそこまでに仮装させたがるんだ、この人。
あれだけ華のある人達が仮装して盛り上がってるんだから、
別に今更わざわざみたいなごく普通の一般生徒がやらなくてもいいんじゃないだろうか。
それに、仮装ってのはあれでいて皆結構手が込んでいる。
生徒達の仮装はハロウィンパーティが行われると決定してから少しずつきちんと準備されてきたものだ。
鍾会のヴァンパイアの仮装だって、単に衣装を着替えただけでなく、
牙も本物顔負けのものがついてるみたいだし、髪形もいつもとは違う。
今からが衣装を着替えて化粧をするとしても、結構な時間が掛かってしまう筈だ。
そして運営委員のにはそんな時間はない。
今も皆に無理を言って鍾会に会いに来たのであって、そろそろ戻る時間だったりするのだから。
「あのさ、鍾会、悪いけどやっぱり仮装は時間的に無理なんだよね」
「・・・っ、つまりお前は、この私に一人であのバカげた会場でダンスに参加しろと言うんだな?」
「・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・、・・・え?」
鍾会の言葉には一瞬驚いて目を見開く。
鍾会の言っているダンスってのは、ハロウィンパーティの終盤にある仮装ダンスのこと。
参加条件は仮装さえしていれば教師だろうが生徒だろうが関係ない。
そう、仮装さえしていれば。
「・・・え?うそ、鍾会・・・あんたもしかして・・・」
とダンスパーティに参加したくて?
それでの仮装に拘ってた訳?
いや、それだけじゃない。
あれ程馬鹿にしてたハロウィンパーティの仮装をしたのも、もしかしてその為なんだろうか。
なんて、やっぱりこれは幾ら何でもの自惚れってやつなのか。
だけど、目の前に立っている美麗なヴァンパイアの顔は何だか見る間に赤くなっていく。
それに比例する様に視線を逸らして仏頂面なのは、
照れ臭さを誤魔化した結果なんじゃないかと思えてしまった。
「そうだ!!この私がダンスに誘ってやろうと言っているんだ!も、文句などないだろうな!!」
鍾会は不機嫌そうな口調でそう言って、逸らしていた瞳で今度はじろりとを睨みつけた。
だけどその頬はどう見ても赤く染まっている。
その姿を可愛いと思ったの返事は、もう決まった様な物だった。
とは言え、やっぱり今から仮装するのは無理で、
そして、さすがに仕事に戻らなきゃならない時間でもある。
「・・・鍾会、ダンス会場には行けないんだけど」
「っ!」
「その、やっぱり仮装するには時間なくて、
でも・・・ダンス始まってからは運営委員も片付けまでは時間あるから、
またここで待っててくれるなら・・・って言うのは、どうか・・・な?」
が恐々そう訊ねると、鍾会はほんの一瞬いつもの彼からは想像もできない程柔らかな視線をに向けた後、
それからすぐに慌てた様子で返事をした。
「ふんっ、仕方のない奴だな。こ、今回だけはお前の我儘に付き合ってやろう」
「ありがと」
どっちかと言うと言いだしたのは鍾会なんじゃあ、と内心ツッコミを入れたけど、
そこは置いといて素直にお礼を口にする。
ふと時計を見ると、もういい加減に戻らなければ遅すぎる位の時間だった。
「やばっ、もう行かないと!鍾会、じゃあ後で!」
はそこでわたわたばたばたと教室を後にしようとする。
その背中に、鍾会が再度、声を掛けて来た。
「おい、!」
「えっ!?」
「・・・・・・、この私を余り待たせるなよ。ここに来る事を、忘れるな」
「うん、分かった」
念を押す様に言われた台詞がおかしくて、でも同時に何だか妙に嬉しくて、は満面の笑みで応える。
それからもう一度手を振ってはその場から離れた。
運営委員の仕事に戻る為に廊下を小走りに駆けながら、口元がにやにやと緩むのを抑えられない。
パーティはまだ中盤で、これから戻ればまた慌ただしく走り回る事になる。
それでも、それが終われば高慢でナルシストなヴァンパイア様があの教室で待ってくれてることだろう。
そう思うと、何だか妙にやる気が湧いて来た。
(End)
アトガキ
まさかの鍾会夢(笑)。もっとこう彼のグッドルッキンなのに残念過ぎる部分(褒めてます)
とか書きたかったんですけど、思いの外普通(?)になってしまいました。
てか単にちゃんと性格掴めてないのか・・・。あはははは!
因みに序盤鍾会の機嫌が悪かったのは夢主が運営委員のせいで
(当日になる前も含めて)会う時間が減ってしまったからです。
その辺も入れ込みたかったんですけど、また長くなりそうだったんで(苦笑)。
ではでは!ここまでお付き合い下さった有難い姫様方に深く感謝しつつ、失礼しますーVV