「ほら、、何ぼさっと突っ立ってるんだっての。早くこっちに来いよ」
「・・・お、お邪魔します」
「クックック、お邪魔なんてとんでもない。寧ろ大歓迎ですよ」


喉を鳴らして笑いながらそう言った凌統が、寝台の上で自分の横を示して手招きをする。
以前のなら、と言うかこの世界に来る前のなら、
そんな美味しい状況、体当たりする勢いで凌統の横に飛び込んでるだろう。
勿論、楽しくて無害な妄想の世界で、って意味でだ。
だけど今のこれは違う。
何と言うかもう驚愕と表現してもいいけど、
現実に本物のあの凌公積が相手にこんな状況を作り出してるのだ。
いや、それ以前にと彼が恋人になってるって時点で、
本当に今でも信じられない事だったりするんだけど。


「いや凌統、大歓迎って、それもどうなの・・・」
「いいから、ほら、さっさと来いって」
「どっ、っわあっ!!」


――――ドサリッ。


未だに寝台の傍に突っ立ったままだったの腕に凌統の手が伸びて来たかと思うと、
それを力一杯引っ張られ、はそのまま為すすべもなくその場に体を沈めた。


「ぶふっ!」
「・・・おやおや、俺としてはもうちょっと色気のある反応を期待してたんだけどね」
「・・・、今のあの不意打ちの何に色気を発揮すればいいの。
・・・てか、そんなものいつでも持ち合わせてない」


顔面から突っ込む形で倒れたは顔を上げてジロリと凌統を睨んだ。
『色気』なんてとは余りに縁遠い言葉だ。
悲しいことに対極にあると言ってもいい位に。
寧ろ凌統の方が女のよりもずっと『色気』ってやつを持っていると思う。
本当にまったく困った事に、凌統は画面越しで見てた時よりも間近で見ると更に男前で、
飄々としてるくせに気だるげな口調や雰囲気なんかも含めて妙に色っぽかったりする。
そりゃ、人気もあるってものだろう。
の世界でもそうだったけど、こっちの、
現実的な意味でも凌統は女性達にかなり人気が有った。
凌統と一緒に城内を歩いていると、大抵の女性は彼を見ている。
熱い視線ってのはまさにああ言うのを言うんだろう。
最初の内はもまだ向こうの世界に居た時の気分が抜け切れてなくて、
二次元的に見てた凌統のそう言う話を面白がっても居た。
友達と言う程度に親しくなってからも、ある程度まではからかう位出来てた筈だ。
なのに―――――


「あんたに色気がないって?そりゃ初耳だ」
「皮肉にしか聞こえないんですが」
「ひねくれ過ぎだっての。・・・なんなら俺があんたの色気ってやつを引きだして差し上げましょうか?いますぐに」


言いながら、凌統がの腰辺りに腕を回して体を密着させて来た。
ニヤリと笑った薄い唇が、意地悪さと一緒に嫌味な位に色気を覗かせる。


ああ、チクショウ、本当にイイ男だし。


なんぞと考えている場合じゃない。
どくばくと爆音を上げる自分自身の心音をこの上なく意識しつつ、
は凌統の視線から逃れる様に瞳を逸らした。
今までだって実は何度か似た様な状況になった事はあったし、
今更ここまで過剰反応することでもないと自分でも分かってる。
だけど、今回は場所が場所だけにやっぱり今までよりも妙に意識してしまう。
と言うより、緊張に近かった。


「イエ、ケッコウです!!」

必要以上にキッパリと言い放ったに、凌統が片眉を上げる。

「・・・そこまで力一杯否定するのかい?
・・・なぁ、、俺達は恋人同士ってヤツになれてたんだと思ってたんだが、思い違いだったのかねぇ?」


何となく拗ねた様な声でそう言って、凌統はの体に絡めた両腕にさっきより僅かに力を込めた。
同時にぎゅっと押し付けられた部分から、彼の硬い胸板の感触と体温が一層に伝わって来る。


「・・・い、いや、あの・・・そうじゃなくて・・・」
「へぇ?そうじゃなくて?」
「い、いつもはの部屋・・・だったけど、今日は・・・凌統のお邸だし、何か・・・緊張してるって言うか・・・」


そうなのだ。
基本的にいつもは城内のの部屋に凌統が寄って二人で過ごすってことが普通になってたんだけど、
今回は凌統が突然自分の邸に招いてやると言いだして、
殆ど何の心の準備も出来ないままここに連れて来られてしまった。
御両親に紹介されたなんて特に身構えるような話じゃなく、普通に部屋に通された形だったし、
そう言う事は以前の世界だって別に珍しくはない。
それでも、やっぱりとしては凌統のお邸に招かれたと言うだけでもう緊張せずには居られない訳だ。


「緊張ねぇ。そんなものかね。ま、何度も来てりゃその内慣れるさ」
「・・・・・・なっ何度もっ!?」


凌統のその言葉には思わず声が裏返りそうな程驚いてしまった。


「・・・なぁ、そこまで驚くってことは、もしかして嫌なのかい?」
「いや、嫌じゃないけど・・・、そんなに何度もお邪魔していいのかと」
「トーゼンでしょう。俺がそうしたいんだ」


これは、喜ぶべきなんだろうか。
勿論嬉しくない訳じゃないけど、何と言うか、凌統がどれくらい人気があるかってのを目の当たりにした今、
実はの前にもここに招かれた人が居るんじゃないかとかそんな余計な事を考えてしまった。


「言っときますけどね、さん、俺が自分の部屋に誰かを入れたのなんて初めてなんだぜ」
「・・・・・へっ!?ええええええっ!!??」



まるで心を読んだ様な絶妙な間合いでそんなことを凌統に口にされ、
は必要以上に驚いて声を上げる。


・・・」
「・・・スミマセン」


寝台の上で抱き合って横になってるってのに、甘い空気なんか微塵もない。
まぁこの場合、それっぽい空気になろうとしてるのをが全部ぶち壊してると言うか。
それでも自覚はあれども、やっぱり驚いてしまう。
はそんなに顔に出やすい性質だったのかと思うと恥ずかしい。


「やれやれ、俺はそんなに信用されてないんですかね」
「信用してないと言うか、凌統人気あるし、
とこうなる前だったらそう言う人が居てもおかしくないと思ってさ」


「・・・・人気、ねぇ。けどな、、誓って言うよ。
この部屋に個人的な理由で招いた相手はあんたが初めてだ」



間近に有る凌統の顏は予想以上に真剣だった。
を捕らえた腕と瞳が、ジッとの返事を待っているのが分かる。


「うん・・・、凄く嬉しい。・・・ありがと・・・」


俯いて視線を逸らしそうになるのをどうにか堪えてそう告げる。
実際本当に嬉しかったから、照れくささを理由に目を合わせないのも何だか凌統に失礼な気がした。
本当のところ幾ら恋人同士とはいえ、
こんな間近で見つめあうなんて甘ったるいこと、かなり恥ずかしくはあったんだけど。
しかもの顔をこれだけ間近で見れば、
がどれだけ本気で喜んでるかなんて分かり易く顏に現れてしまってるだろう。
正直それこそこっ恥ずかし過ぎることだけど、それでの気持ちが伝わるならこの程度我慢して見せる。
案の定、至近距離にある凌統の瞳がふっとやわらかく微笑んだ。


「ああ、俺も嬉しいよ。あんたがそう思ってくれる事が凄くね。
・・・ま、ここにあんたを連れて来られたってだけで十分浮かれてたんだけどさ」
「・・・・・・・・・・、え?浮かれてた?」


またしても思わず驚いて聞き返す。
凌統も実は顏に出やすい性質な筈なんだけど、自分が緊張してて一杯いっぱいだったこともあって、
彼が浮かれてるなんて全然気付かなかった。
自分のお邸だし、何処か寛いでる様にも見えた位だ。



「そりゃもう、自分で自分が恥ずかしい位に浮かれてたっての。
・・・あぁ、浮かれてたって言うか、今も、なんだけどな」



それを見抜けないなんてあんたもまだまだだねぇ。
なんて続けて、凌統はの頬に、唇に、軽い口付けを落とし始める。
抱き合い続けてた事で重なった体温はいつの間にか熱に代わり、
そこではようやくお互いの鼓動が同じほどどくばくとおかしい位に乱れてるのに気付いた。


この、ある意味夢の様な現実の中で、凌統とこうして恋人同士ってやつになってることに、
未だに戸惑ってる部分があるのは否めない。


だけど、凌統がたった今にくれた言葉も、を抱きしめてる両腕も、
唇の甘さややわらかさも、その全部がにこれが嘘じゃないと教えてくれる。


何より、これが夢だろうが現実だろうが、にはもう手放すなんて考えられない。
凌統を二次元視点じゃなく、『男性』として意識し始めてから、
凌統の周囲に集まって来る『彼女達』に本気で嫉妬を感じ始めてから、
にとって凌統は間違いなく現実に想いを伝えたい相手になってた。
それが叶った今でもそれこそ夢みたいだ、信じられないとは思ってるけど、
だからこそ、手放したくない。
凌統がに向けてくれる一つ一つ全部、いつまでも現実だと知らしめ続けて欲しい。



凌統からのやわらかく軽い口付けを、今度はから仕掛けて濃厚なものにする。
彼の長い脚がの脚に絡みつき、
同時には彼と同じほど強くその背中に回した両腕に力を込めた。



「・・・なぁ分かってるかい?・・・、今のあんた・・・凄く色っぽい顔をしてるぜ」


薄ら開いた瞼の向こう。
低く囁いた凌統の顏を見上げるだけで、今自分がどんなとろけた顔をしてるのかが分かる。
それが妙にくすぐったくて恥ずかしくて、だけどまた嬉し過ぎて、
は彼の言葉に返事をする代わりに再びその唇に自分の唇を重ねた。



その幸せな夢の名は、







後書き
おおお、この展開から微エロに転がらなかった自分に驚きだぜぃっ(誰だ)。
いつも寝台の上って言えば安易に微エロにって展開が多かったせいか(特に凌統だと)、
そうならずに済んだ事に驚きました。まぁ、これどう見ても最終的にはそうなるんでしょうけども。
私の中で数年前と違って凌統はただのたらし野郎じゃなくなった模様。
しっかーし!最後の終わらせ方とか、数年前と書き方全然変わってないからね、 精進すべきだからね、そこ。・・・す、すみません。
ではでは、ここまでお付き合い下さった貴重な姫様に感謝ですーvv誠に有難うございます!