不意に何の前触れもなくフッと瞼を開けて目覚めた明け方。
今の今まで夢も見ずに一度も目を覚ますことなく眠ってたんだってことに驚いて、
はその後数分間、ぼけーっとそのまま天井に視線を向けていた。
ここのところずっとまともに睡眠が取れずに居たのに、
今日は本当に自分でも気付かない間に気持ちよく眠りについてしまっていた。
は天井に向けていた視線をゆっくり隣へ移動させる。
心地よい体温と規則正しい呼吸音。
のすぐ隣で横になってるその人は、
戦場で敵兵達をあれ程震え上がらせるほど恐れられてる姿なんか想像もできない位、
穏やかな表情で眠っていた。
張文遠。
まさかこんなに間近にこの人のこんな顔を見られる日が来るなんて、思ってもみなかった。
だけど今のはもうよく知ってる。
普段の彼がどんなに優しくて誠実な人なのか。
今夜、が自分でも驚く位に気持ちよく眠れたのは、間違いなくこの人のおかげだ。
は張遼さんを起こさない様に極力注意しつつ、さっきよりも少しだけ彼に体を寄せた。


「・・・・・・殿・・・?」
「・・・っ!っと、ごめんなさい、起こしましたね・・・」
「いや・・・、私は元より眠りが浅いのだ・・・。そなたこそ眠れぬのか?」


そう言った張遼さんは気遣わしげな視線で間近からを見下ろす。
たった今目を覚ましたばっかりだってのにこの人は、真っ先にのことを心配してくれる。
そのことが申し訳ないと同時に嬉しいと思ってしまう。
張遼さんの傍に居ると、甘やかされてるなぁ、と、毎度思う。
彼が年上で、それに見合う程の大人だと言うのも有るだろうけど、
と張遼さんはそこまで大きく歳が離れてるって程じゃないのだ。
それでも、彼はいつもを甘やかしてくれる。


「ううん、逆です。かなりぐっすり眠れてて。
起きたのもついさっきだし、こんなにちゃんと寝たのは久しぶりですよ。
・・・って、まぁ、まだ起きるには早い時間ですけどね」
「そうか・・・、ここの所そなたの顔色が余り優れぬ様だとは思っていたが」
「すみません、心配掛けて。でも本当に今日は気持ちよく眠れました。
張遼さんのおかげですね」
「私の?」
「はい、・・・いつも嫌な夢ばっかり見て何度も目が覚めてたんですけど、
今夜は全然それがなかったから」


ほぼ毎晩のように見る夢の内容は、実は殆ど覚えてない。
だからそれがいつも同じ物なのか、違う物なのかもには分からない。
だけど、確実に言えるのは、それが決していい夢じゃないって事だ。
寧ろ、悪夢という部類に入るもんだと思う。
とにかく怖くて悲しくて、苦しくて、その夢にうなされる自分の声で目が覚める。
起きた直後は大体汗びっしょりになってて、妙に息が荒くて、それから眠るのが怖くて怖くて、
気付いたら朝だったなんてのは最近じゃ珍しくなくなっていた。
この世界に来てもう随分経つから、
元々今のがこっちの世界のの体だってこともあって、
ここの生活や人間関係にも溶け込めてる自信も有る。
だけど、今でもやっぱりひとつだけ、怖くて堪らないことがあった。


――――――――――――それは戦に出ると言う事だ。


命を奪い、奪われる覚悟を持って戦うこと。
自分自身の事は勿論、親しい仲間が、友人が、戦場で失われるかもしれないって恐怖。
構えた得物の先に居る敵兵の、相手の命を強制的に終わらせなきゃならないってことへの恐怖。
数をこなせば人はどんなことにも慣れて行く。
だけど、どうしても、これだけには慣れない。
違う。
慣れたくないんだと思う。
そしてそのことで、溜まり溜まった何かが、悪夢としてを苦しめてる様に思えた。


「・・・・・・・・・・」
「・・・殿・・・?いかがなされた?」
「いえ・・・」


張遼さんには迷いがない。
曹操様の目指す覇道を切り開く為に、その刃になると言う忠義心。
その為ならどんな非道な事もやってのけるってことも、現実的には目の当たりにして来た。
この人の強く揺らぎない思いが、
の弱くて臆病な心から生まれる悪夢を追い払ってくれたのかもしれない。


「張遼さん・・・ありがとうございます。今日の事だけじゃなくて、色々と・・・」
殿・・・、礼など不要。私こそそなたの存在にはいつも救われている。
我が身は殿の覇道に刃として捧げし身、安息とは無縁だと心得ていた。
だが・・・、こうしてそなたをこの腕で感じることで私は酷く満たされる・・・」


そう言って彼はを自分の腕の中に強く抱き寄せた。
もそれに応えて彼の背中におずおずと腕を回す。
間近に有る張遼さんの瞳が、薄暗い室内でも柔らかく細められたのが分かった。
たった今彼から告げられた言葉にの胸の奥が嬉しさと温かさで震える。


「さぁ、まだ起床時間までには少々間がある・・・。もう暫し、この貴重な時間に休まれると良い」
「張遼さん・・・けど・・・」
「フッ、でなければ、私の方が良からぬ思いを抱いてしまいそうだ。
余り、その様に可愛らしい顔を私に向けるものではない」
「っっな"っっ!?・・・・・・・・・は、はい・・・」


なんか恐ろしく聞き捨てならない台詞だったけど、ここは張遼さんの言う通り、素直に返事をしておく。
確かに、今までの事を考えたら、かなり貴重な時間だ。
本当は、このまま眠ってしまうのも勿体ないって思ったのも本心だけど。
おやすみなさい、と小さく呟いて目を閉じる。
それだけであっという間に睡魔がお迎えに来てくれるのが分かった。
本格的に起きる時間までそんなに長くは眠れないけど、
この分ならそれも気にならない位気持ちよく寝られそうだ。


意識が完全に落ちる一瞬前。
優しくて温かい手が、の頬と髪を撫ぜてく気配が、した。



やさしい眠りへ誘って







後書き
うおお、ビックリ。張遼って以前無双夢書いてた時も一回書いたきりだったんですが、
なんかあの頃よりも今の方が彼の事をすきかもしれん(笑)。
最後に不穏なことを言いつつも、今回は夢主に手を出してない紳士な張遼さんでした。
何か某アリスシリーズの蜥蜴っぽい感じになったのは気のせいだろうか(別ジャンルにも程がある)
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有難うございますーvv
乙女ゲメインの拙宅では本当に貴重な姫様方に感謝。失礼します