「よぉ、。こんな所に居たのかい?通りで姿が見えない筈だ」


城内で行われている宴をこっそり抜け出し、
一人でぼんやりと空を眺めていたに聞き慣れた声が掛けられた。
振り返らなくても相手は分かってる。
とは言え、まさか彼がここに姿を見せるとは思わなくて、ちょっとだけ驚いた。
綺麗なお姉さん方に囲まれて大層御満悦のようだったし、あの場から彼が移動するなんて意外だ。


「あ、ども、凌統さん。に何か用事でした?」
「うーん、そうだねぇ。これと言った用事がある訳じゃないが、
ただ、ここのところあんた、何となく元気がない様に見えたから、少し気になっちまってさ」
「え?」


凌統さんの予想外の言葉にこれまたは少し驚く。
彼が言った事には確かに心当たりがあったけど、まさかそれに気付かれてるとは思わなかった。
凌統さんの言う通り、はここ最近気分が落ち込み気味だった。
だけど自分ではそれを周りの人達にはそれなりに上手く隠せてる自信が有ったし、
こうしてこの事について話題に出されたのも彼が初めてだったから。


「ほほう、凌統さんって思ったより鋭い方だったんですね」
「おいおいそりゃどう言う意味だっての。
・・・けど、ま、それはつまり、俺の勘は正しかったってことでいいんですかね?」
「良いと思われます」


は素直にコクンと首を軽く縦に振って頷く。
適当に誤魔化す事も出来たけど、
の様子を気にしてわざわざ綺麗なお姉さん達の傍を離れてまで、
を探してくれた凌統さんに嘘を吐くのは悪いような気がした。
もっと言えば、そうまでしてくれたことが何となく嬉しかったからだ。
元々と凌統さんはそこまで仲良しさんな訳じゃない。
勿論、顔を合わせれば挨拶だってするし、世間話をしたりもするけど、
大体は他の誰かが一緒でこうして二人で話をすることは殆どなかった。
だから、あの広い宴の会場からが抜け出した事に凌統さんが気付いてくれる位に、
を気にかけてくれた事が何だか嬉しかったって訳で。


「良いと思われますって・・・、ぷっ、クック・・・あんたってやっぱり変わってるな、
あんたが異世界から来たって理由も有るんだろうけど、
それだけじゃないんだろうね、きっとあんたの場合」
「えぁ?そうですか?」
「そうなんですよ。・・・それより、何か落ち込む様なことでもあったのかい?」


凌統さんからの質問に、は数秒の間ぼやっと彼の顔を見詰める。
ここ最近ずっと気分が落ち込んでたのは確かだけど、特にこれという理由が有った訳じゃない。
この三国志の世界によく似た場所にがやって来てふた月とちょっと。
最初の内は色んな事が有り過ぎてゆっくり考える暇がなくて、とにかくここに慣れるのに必死だった。
だだからなるようになるかーって感じで今まで突っ走って来たけれど、
1週間位前から何だかそれも息切れ気味だ。
と言うよりは、多分、あれこれ考える余裕が出来たんだと思う。
そのせいで逆に考え込み過ぎた結果、
の気分グラフは自分でも思ってた以上にガクンと折れ曲がってしまった。


?」
「・・・空」
「・・・そら?・・・って、あの空だよな?空がどうかしたのか?」


突然が口にした単語に反応して、凌統さんが不思議そうな表情を浮かべる。
は軽く頷いて、人差し指を立てた片手を伸ばして夜空を示した。


「本当なら、この空は、どこにでも繋がっているものです」
「・・・・・え?あぁ、まぁ確かにそうだな」


返事をしつつも、凌統さんはが何を言いたいのかまだよく分からない感じだった。


の世界の・・・、小説、架空のお話とかで出てくる台詞にあるんです。
特にお互い大事だけど、離れ離れになってる人達とか、
えーっと、・・・そうそう『この空はどこまで行っても繋がってる。
今僕とキミが見ている空は場所は違っても同じものだ。だから寂しい時には空を見上げて欲しい』
と言う様な感じで」


本当はが見たのは小説だけじゃなくてドラマの中にもあったんだけど、
それは今特に重要な事じゃないから置いとく。
何度目かにぼんやり見上げた夜空に浮かぶ月は、見事にまんまるくて綺麗で。
何だかよく分からないけど泣けそうな気分だった。
はしぱしぱしぱしぱと高速で瞬きをしてそれをやり過ごす。



「・・・だけど今ここにある空を見上げても、あんたの大事な人達が居る空には繋がっちゃいない。
・・・・・・・・・・つまり、そういうことかい?」



「正解です」


はそう言って、夜空に向けていた人差し指を今度は真っ直ぐ凌統さんに向ける。
彼は少し驚いたように瞳を軽く見開いた後すぐに、困ったみたいに笑った。



「こう言う時位は、普通の娘さんと同じ反応をしてくれても構わないんだけどねぇ。
、あんたの反応はいつも予測がつかないぜ」
「ほほう、そうですか」
「そうですよ。でも、ま、最近解読はできるようになったかもな」


言いながら、凌統さんはゆっくりの目の前まで近付いて来る。
そしてそこで凌統さんの手が、が彼に向けたままだった片手をぎゅっと握った。


「うん?」


きょとんとして彼を見上げると、今度はその手をグイッと引っ張られる。
わっ、っと驚いている間に、は凌統さんの胸に顔をぶつけていた。


「ぶふっ」
「なぁ、、確かにここの空はあんたの言う様にどこまで行ってもあんたの世界には繋がっちゃ居ない。
だけどさ、あんたがそうやって大事な人達、家族や友達を思ってるのと同じように、
きっとあんたの大事な人達もあんたのことを考えてくれてると思うよ。
そう言う意味じゃ、繋がってる。・・・そう思わないかい?」
「・・・・・・・・・そうですね、そうだといいな」


凌統さんの大きな手が、の背中をぽんぽんと優しく叩いてくれる。
まるで小さな子供にするみたいな仕草だけれど、凄く心地よくて、全然嫌じゃない。
片手は握られたままで、その温かさにまたしても涙が込み上げてきそうだった。
は奥歯をぐっと噛みしめて、今度もそれをやり過ごす。


「・・・この体勢じゃ、俺からあんたの顔は見えてないことだし、周りには誰も居ない。
・・・・・・泣きたいなら、泣いてスッキリしちまいなよ」

「・・・・・・・へっ!?」


奥歯を噛みしめるだけじゃなくて、高速しぱしぱ瞬きまでしていたは、
そこで凌統さんから掛けられた言葉に驚いて小さく声を上げた。
まさか、凌統さんエスパー的な何かがあるんだろうか。
こんなにタイミングよくそんなことを言ってくれるなんて。



「・・・どうしても俺が気になるって言うなら、そうだね、俺は・・・空でもぼんやり眺めておくとしますよ」


返事が出来ずに居るに、続けて凌統さんがそう言った。
それと一緒に、背中にある大きな手が優しげにその周辺を撫でてくれる。
繋いだ手のぬくもりが一層強く感じられて、さっきまで噛みしめていた奥歯を緩めてぼぇっとしていたは、
気付いたらボロボロと涙を零して泣いていた。
慌ててごしごし片手で目元をこすってみても、ずっと我慢し続けてた反動か、
涙は全然止まってくれない。
後から後から、ぼたぼたぼろぼろの顔を濡らしてく。
参ったな、これ。
もう無理だ。
諦めたは、もう涙を拭く事もしなかった。



「・・・っ、ぅ・・・りょう"どう"ざん・・・」
「んー?」
「ぞら・・・きれい"・・・ですか・・・?・・・っ、・・・」


「あぁ、綺麗ですよ」



涙でぐしゃぐしゃの顔を上げないまま、訊ねたの言葉に、凌統さんはいつも通りの飄々とした、
だけどいつもよりもずっと優しい声でそう答えてくれた。
彼の片手は今もの背中を柔らかく撫でてくれていて、
もう片方は繋がれたままだ。
凌統さんの胸元はの涙で濡れてしまってるのに、彼は全然そのことを気にしてないみたいだった。



何が悲しいのか辛いのか、今は何だかよく分からない。
それでも涙は止まらなくて、そしてもう止めようとも思わなかった。


凌統さんが居なかったら、は一人で泣いてただろうか?
泣く事が出来てただろうか?
誰も居なくて一人ならと思えてただろうか?


色んな疑問が浮かんだけれど、結局はそれに答えを出す事は出来なかった。


違う。


答えはもう、全部出てた。
だけど、今は余計な事は考えずに、ただ凌統さんに甘えてしまおうと思った。


近くて遠い空の下







後書き
ひっさびさに執筆した無双夢でしたー。久々過ぎてこれ一本書き上げるのにえらい時間かかりました。
凌統夢でこんな穏やかな感じのものを書くのは数年前に書いてたものも含めて初めてかもしれない。
珍しくなんかこう優しげでがつがつしてない凌統、久々に執筆しましたが、気に入ってます(笑)
今でも私の愛は犬猿因縁コンビに向かってるぜ!(余計なひと言)
ではでは、ここまでお付き合い頂きました貴重な姫様方に深く感謝しつつ、失礼致します!