ここのところ大量の課題のレポートと、何かにつけ教授に用事を頼まれたりと、
は多忙な毎日を送っていた。
そして週末は何だかんだでバイト。
まともに休日だと言える日が殆どなくて、そのおかげで精神的にも肉体的にも疲れていた。
だけどが何より一番堪えたのは、シンと顔を合わせられなかったことだ。
シンは元々受験生だし、学校が終わった後は予備校がある。
そして彼はその忙しい合間にバイトをこなすと言うハードな日々を送ってた。
とシンのシフトが被ることは殆どなく、既に2週間以上彼と会ってない。
メールや電話はしてるけど、直に顔を合わせられない日が続くのはやっぱり寂しいものだ。
これでも付き合い始めてまだ日が浅い(会えてない日数は除く)訳だけど、
自分の方が年上だってことと、何より受験生相手に我侭なんて言えない。
と言う訳で、今日の今日まで我慢に我慢を重ね、ようやく達は会える時間を作ることができた。
そしては現在進行形で大学からシンの家までほぼ小走りで向かってる最中、なんだけど。
「シン!?」
の視線の先。
足早にこっちに近付いてきてる見慣れた姿には思わず足を止めた。
そう、それは今まさに、が会いに行こうとしてた人物だったから。
「何驚いてんの?」
「え?いや、だってまさか迎えに来てくれようとしてると思わなくて」
「出る前にメールしたんだけど、その様子じゃ見てなかったんですね」
「えっ!?あ、ホントだ」
シンの一言に、は慌ててバッグのポケットにるケータイを取り出し、
彼からのメールをいつの間にか受信してたことに気付く。
そう言えばシンの家に向かうことばっかり頭にあって、
自分がこれから行くと言うメールを送信したきり、その後の確認までしてなかった。
「ま、さんのことだからそんなことだろうと思いましたけど」
「あはは・・・、ごめん。でもホントに迎えに来てくれると思わなかった。ありがと」
二人並んで歩きつつ、達はシンの家に向かう。
「・・・・・・・・別に、俺が早く会いたかっただけだし」
ボソリ。
照れ隠しにぶっきらぼうに呟かれたシンの台詞に、は思わずまた足を止めそうになってしまった。
画面越しの時にも思ったことだけど、
彼はこういう不意の言葉や行動にどきりとさせられたりすることが結構多い。
ちらりと彼の横顔を見ると、目元が微かに赤くなってる。
こんなことを言うと絶対嫌がられるだろうけど、その様子が可愛くて、
嬉しくて、は思わず口元に笑みを浮かべた。
「何ニヤニヤしてるんですか」
それに目敏く気付いたシンが、不機嫌そうな口調で訊ねてくる。
だらしないのは自覚済みだ。
でも今回くらいいいじゃないか、久しぶりなんだし。
はそのニヤニヤを引っ込められないまま、答える。
「っ、いや、うん、嬉しくて、ついね」
言ってから、は以前から気になってたことを口にすることにした。
「・・・あ、ねぇシンあのさ、そろそろそれ止めない?」
「それ?」
「・・・敬語」
たまに普通の話し方になるものの、
が3つ年上ってこともあって基本的にシンはに対して敬語だ。
別にそれが嫌だって程じゃないんだけど、トーマや、
ミネやサワと気軽に話してるシンを見てると何となく羨ましいと思ってしまう。
まぁ、敬語とは言え、だって気軽どころかツッコミ入れられまくりなんだけど。
「・・・ああ、・・・分かった、じゃあこれからは普通に話す、これでいいだろ?」
「うん、宜しく」
「但し仕事中は今まで通りな」
「うん、分かってる」
さっきのことと言い、たったこれだけのやり取りに浮かれる自分に笑ってしまう。
付き合って日が浅いことや、何よりシンとこうしてまともに顔を合わせるのが久しぶりってこともあって、
いちいち甘酸っぱい気持ちを抱いてしまう。
こうして会話するだけで今まで蓄積された疲労が癒されてく気分にさえなってる。
全くも大した乙女だ。
いかんいかんと思いつつ、またしても口が勝手にニヤニヤと笑う。
でもシンはそんなに構わずスタスタとやけに足早に歩を進めていた。
そう言えばさっきから並んで歩いてるのに、とシンの間には、微妙に距離がある。
不自然ってほどじゃないけど、彼は何となく意識してそうしてるように思えた。
今までの流れ上、と近付くのが嫌だとか、そう言う風には見えない。
なんてことをが考えてる間も、シンは歩く速度を緩めず、
と言うか寧ろさっきより急いでる風にさえ見えた。
は慌ててそれに続く。
彼の家はもう目と鼻の先だ。
もしかして家に何かあるだろうか。
「?あのさ、シン、何か急いでる?」
シンは家の鍵を開けるのさえもどかしそうな様子でガチャガチャと乱暴に鍵穴に鍵を突っ込んだ。
「さんは、俺がどうして急いでるのか分からない訳?」
「え?あ・・・、うん?」
が質問したのに逆に質問し返されてしまった。
だけどその答えはには分からない。
一応それらしい理由を考えてみようと思ったけど、それすら思い浮かばなかった。
「そんなの決まってんじゃん」
「わっ!?」
そこでシンがドアの鍵を開け、突然の手を掴んだ。
そのまま強引に玄関に引っ張り込まれ、更にの背中を玄関のドアに押し付けるような形で閉める。
そして当然のようにの正面に立っているシン。
何だかどこかで見たような構図だ。
画面越しに。
確かこの後、シンはにキス――――
「ンぅ・・・っ!?」
なんぞとゲームのワンシーンを思い出す余裕があったのは一瞬だった。
そこで強制的にの思考が中断されたからだ。
シンのキスで。
それはまるで唇に喰らい付く見たいな、寧ろ噛み付くみたいなキスだった。
余りに突然で予想外の展開に、は瞳を一杯に見開く。
達は付き合ってるんだし、当然抵抗する要素なんかないんだけど、
それにしても心の準備も何も全くあったもんじゃなくて、
は重ねあった唇からシンの熱い舌が入り込んでくるのをただ受け入れることしか出来なかった。
それからシンはの口内で舌を散々暴れ回させた後、
軽く息を乱しながら、殆ど唇を放さないまま口を開いた。
「ムカつく、・・・何であんたいつもそんな余裕なんだよ」
「よ・・・!?な、何言って・・・、どこが・・・!?」
一体の何を見たらそんなことをのたまえるんだろうか。
突然の荒っぽいキスに息も絶え絶えになりながら、
は間近にあるシンの瞳を睨みつける。
「そう言うとこ、全部。
俺は長い間会えなくて、一分でも一秒でもあんたに会いたかった。
さっさと家に帰りたかったのは、早いとこさんと二人きりになりたかったからだ。
そう言うの、全然気付いてねぇだろ」
「・・・え?」
「あんたのそう言うところ、俺ばっか好きみたいでムカつく・・・」
言いざま、シンは再びの唇を塞いだ。
だってシンに会えない間寂しかったとか、
寧ろ自分ばっか好きみたいなのはこっちの方だとか、
本当は色々と異論はあったけど、その全部が口に出来ないままシンのキスで頭が一杯になる。
ドアに背中を押し付けられたまま、
シンの体がの正面から密着してその体温をダイレクトに感じた。
数週間ぶりに触れ合う感覚と、シンの匂いに眩暈がする。
やっぱりの方が飢えてたんだ。
唇を割って侵入した彼の舌があっという間にの舌を捉える。
二人の唾液が混ざり合い、口内でとろとろと量を増してくのが分かった。
「っは、・・・」
「・・・・・・」
無意識にが小さく零した吐息さえ飲み込むみたいにしながら、
シンは初めてを呼び捨てで呼んだ。
お互いの舌が二人分の温い唾液の中で泳ぐ。
の思考の半分以上は、久しぶりの感覚にもう蕩けきって正常に働いてなんかいなかった。
一瞬でも唇を放してるのが惜しくて、気付けば達は貪るようにお互いの唇を求めてた。
「・・・さん、ごめん、俺・・・もう我慢できねぇんだけど」
「え?」
軽く息を弾ませたまま、シンがそう言ってのわき腹から胸元までを撫で上げるようにゆっくり掌を這わせる。
それに合わせて彼の手が動いた後を追うように、の全神経が反応した。
間近にあるシンの瞳に分かりやすく熱が宿っている。
ぞくりと、の心と体が同時に震えた。
これは怖いからと言う理由じゃない。
「・・・で、でもここ、玄関・・・」
「だったら移動する・・・」
「・・・その前に、・・・その、シャワー浴びさせて・・・」
シンが何を言いたいかは分かっていて返事をしてるから、
は了承してるも同然の言葉を口にしていた。
正直、もう少し頭が理性的に働いてたらこんなこと絶対言えてないと思う。
だけどさっきも言ったように、
の頭はもうシンとのキスで蕩けきって使い物にならない状態だった。
「・・・ごめん、それ無理」
の手を引いて自分の部屋まで案内しつつ、
シンが目元を赤く染めて無愛想な口調で短く答える。
さすがにシャワー浴びれないのは辛い。
そう思ってもう一度同じことを口にしようとしたけど、
あっという間にシンの部屋に到着。
そして口を開く間もなくどさりとベッドに押し倒された。
さっきの硬質なドアの感触とは違う、やわらかな布団がを受け止める。
そして当然のように見上げればシンがの上に覆いかぶさってきていた。
「シン・・・」
「さんが何言っても、もう俺止まれないから。
今・・・俺はあんたに触れることしか考えてない、俺のことでさんを一杯にすることしか考えてない。
・・・俺は受験生だし、さんだって暇じゃないのは知ってる。
これから・・・また同じように会えない日が続くかもしれないってのも分かってるよ。
でも今は先のことより、今ここに居るさんに触れて俺を感じて欲しい、俺もさんを感じたい」
を見下ろすシンの瞳は熱と欲が宿ってるのと同時、酷く真剣で、
は彼から視線が放せなかった。
こんなのはズ。
こんな言い方をされて、頷かない訳になんていかないじゃないか。
それより何より、だってシンと同じだ。
久しぶりにこうして二人で会えた彼に、触れたいと思うし触れて欲しいと思う。
シンはを『年上だから余裕なんだ』みたいに思ってる節があるけど、に言わせればとんでもない。
そんな余裕、いつも微塵もなくて。
はただ、今この気持ちをシンに伝えるだけで精一杯で。
「、も・・・」
短くそれだけ答えて、は両腕を伸ばしてそれをシンの後頭部に回す。
そして想いを言葉にして返事をする代わりに、彼の唇に自分からキスをした。
(END)