深夜。
ふと目覚めて視界に入った見慣れない天井をぼんやり眺め、
それからごそりと少しだけ動いて体勢を変える。
のすぐ隣に寝ているトーマを起こさないよう極力注意しつつ、
はその寝顔をじっと見つめた。
二人分の体温が心地よく、同じボディソープの香りがの鼻腔をくすぐる。
今日はトーマの部屋に何度目かのお泊りだ。
とは言え、今回は『冥土の羊』でのバイトが予想以上に忙しくて、
その疲れが出たせいか、二人で食事をしてシャワーを浴びてそのままベッドに直行してしまった。
そして、極普通に就寝。
あの時は本当にお互い疲れてたし、それを特に不服に思ったりはしなかった。
実際、この様子じゃもトーマも朝まで目が覚めないだろうなと思った位だ。
ベッドに入っておやすみって彼に挨拶をして、それからいつ眠ったのかも覚えてない。
多分、結構あっという間だったんだろう。
それなのにこんな中途半端な感じの時間に目が覚めるとは思わなかった。
・・・お泊り、かなり久しぶりなんだけど・・・。
トーマと一緒に居られるだけで嬉しいと思ってるのも本音だ。
でも正直に言えば、お泊りってことは『そういうことだ』とやっぱり期待してしまってた。
これも下心というやつだろう。
最初の内はこのトーマの部屋が、画面越しに見た、檻で監禁という現場になってることで、
何だかんだいってビビってたはずなのに、今じゃこんなことを考える余裕があるなんて、
自分でも少し複雑だけど。
俗に言う勝負下着まで持ってきて、つけないままというか使いどころのないままの自分が、
何だかとても悲しい生き物に思えてしまった。
お互い疲れてたのは本当だし、疲れてる時にその気になれなんて酷なことを言うつもりはないんだけど、
妙な時間に目が覚めたせいか、妙なことばっかり考えてしまう。
これ、普通は逆なんじゃないだろうか。
何では一人でこんなに悶々としてるんだろう。
益々恥ずかしいと言うか悲しい気分になってくる。
と言うことで、これ以上おかしな思考を働かせるのは強制終了。
変わりにトーマに軽くキスをして、そのまま再度、寝ることに専念しようとした。
その時。
「さん」
「わっ!」
ぱちり、と。
余りにも唐突に、トーマが瞼を開けた。
驚いて声を上げたに、彼は小さく笑う。
「驚かせてごめん、いつ目を覚まそうか考えてたんだけどさ、タイミング逃しちゃって」
「・・・え゛!?・・・う、嘘、起きてたってこと?最初から?」
最初からと言うほど長時間じゃないにしろ、ぼんやりトーマの寝顔を眺め、
悶々としてた上に寝顔をキスまでしたとしては動揺せずにはいられない。
と言うか、本当にこれじゃあの方が男の子みたいだ。
トーマは別にが悶々としてたことまでは知らないだろうし、
さすがにそこまでは気付いてないだろうけど、後ろめたすぎて恥ずかしい。
「さんが体の位置変えてた位かな」
「それが起きて一発目にした行動だよ」
「ははっ、そうなんだ」
「・・・ああ、でもが起こしたってことか、ごめん、気をつけたつもりだったんだけど」
「それは全然構わなかったけど、寝顔観察されるのはさすがに恥ずかしかったね」
「だったらそこはもう起きてくださいよ、トーマさん」
殆どが悪いんだけど、照れ隠しに思わずツッコミを入れてしまう。
相手が寝てるからと思ってやってのけたあれこれの行動や感情が恥ずかしすぎる。
「うーん、でもそうしちゃうと自信なかったからさ・・・、って言うか今既に結構ヤバイ」
「?自信?ヤバい?」
起きるとなくなる自信って何だ。
きょとんとして聞き返すと、そこでトーマは寄せ合って既に密着してる体を、
自分の両腕を伸ばしてを抱き寄せ、更に隙間無く重ね合わせた。
どくり。
の心臓が分かりやすく大きく跳ねる。
「こういうこと」
「・・・っ!」
「さっきはお互い疲れてたし、さんもあっという間に眠っちゃったし、
だから今日はもうこのまま大人しく寝ちまおうって思ってたんだけどね」
「トーマ・・・」
「さんは多分気付いてなかったんだろうけど、俺のスイッチは寝る前から入りかけてたんだよ。
・・・それを完全に押しちまったのは・・・、さんのキスだって知ってたか?」
を抱き寄せたトーマが耳元に唇を押し当てる。
彼が口を開く度にその吐息がの肌を撫で、
いつもより少し掠れ気味の声が鼓膜を甘く震わせた。
薄手のパジャマの生地から伝わるトーマの筋肉の硬い感触や体温に、
今更ながらの全神経が反応する。
「今ならまだ・・・間に合うよ、嫌なら言って。さんが疲れてるなら我慢するからさ。
・・・って言っても、これだけ密着して言う台詞じゃないけど」
「・・・あの、さ、トーマ、・・・、」
「ん?」
「も、・・・って言ったら呆れる?」
『そう言う意味』でのスイッチなら、だってとっくに入ってしまっていた。
疲れたのも勿論だし、だから睡眠を優先したいと思ってたのも嘘じゃないけど、
トーマに触りたくて、触って欲しくて仕方なかった。
しかも見せる気満々みたいな下着なん持ってきてて
(結局睡眠モードに決まったから、今はノーブラだけど)、
自分だけそう思ってるみたいで色んな意味で恥ずかしくて口に出せなかっただけだ。
「それって、さんも俺に触れたかったってこと?」
「・・・そういう、こと」
そう返事をすると同時に、はぎこちなくひとつ、頷いた。
そこでトーマがほんの一瞬固まったのが密着した全身から伝わってくる。
もしかして本気で呆れられたのかもしれない、なんて心配をしていると、
今度は彼が小さく笑ったような吐息が耳朶に吹きかけられた。
「っ、と、トーマ?」
「ごめん、何か・・・今のすっげぇキた」
「え?はい?」
よく分からないがの言動の何かがツボに入ったと言うことだろうか。
みたいな可愛げのない女の何がそんなに来たのかは分からないけど、
トーマにそんな風に言われると、今更ながら照れくさい。
「さん・・・」
「・・・ん」
吐息交じりの低い声で名前を呼ばれたと同時、トーマがの唇をそっと塞ぐ。
そうしながら、彼は器用に片手だけでのパジャマのボタンを外し始めた。
室内はそれなりに適温だけど、やっぱり少しだけ肌寒く感じる。
でも今はそれを気にする気には到底なれなかった。
何度か啄ばむみたいに軽くキスを重ねた後、
トーマの舌がの唇を割ってぬるりと口内に入り込んできた。
その舌がその周辺を探索するように這い回り、そしての舌を捕らえる。
その間にトーマはのパジャマのボタンを全て外し終えていた。
唇を離さないまま、彼の骨ばった手がの胸元を弄り、
長い指が先端の突起をつまんで転がし始める。
「っは、」
「・・・さん」
まるでそこから微弱な電流でも流されたみたいな錯覚に陥って、は小さく体を震わせた。
口内からはお互いの唾液が溶け合って、ちゅくちゅくと粘着質な水音が聞こえる。
いつも思うけど、どうしてキスだけでこんなにいやらしい音が出るんだろう。
の体温は最初に目を覚ました時より明らかに上昇していた。
長く濃厚なキスで溢れた唾液が口の端を濡らし、トーマはそれを追いかけるみたいに唇を移動させた。
そして雫を拭い終わると、その唇を鎖骨へ、そして胸元へと下ろしてく。
彼の舌で濡れた部分を辿るようにの神経が追ってるのが分かる。
「俺と同じボディソープ使ってるはずなのに、さんの肌って、
俺のものとは全然違う匂いがする気がする・・・」
「え?」
「なんだろうね、・・・凄く、美味しそうな香りがするんだ」
「な、ナニイッテンノ」
状況が状況だけに、酷く卑猥な台詞を言われたように思えて、
思わずは手の甲で口元を押さえてトーマから目を逸らした。
実際、彼は今、どきりとするほど熱のある視線をこっちに向けてたから。
そこでトーマは小さく笑った後、一度体を離して自分も着ているものを脱ぎ捨てた。
その動作がいつもの爽やかな印象の彼とは対照的な色気を放っているようで、
は思わず目を奪われていた。
「いつもより優しく出来ないかもしれないけど、
さんが本気で嫌がるような真似はしないから・・・許してくれる?」
「・・・・・・それって、本気で、っていうところがミソだね」
「まぁね」
ニヤリと、どこか意地悪な笑顔を浮かべ、トーマは再度に覆いかぶさってくる。
はそれに思わず苦笑して、それから両腕を伸ばして彼を受け入れた。
「のぞむところです」
(END)