審神者友達と一緒に食事をした時、他愛ない会話の話題のひとつとして、
は最近の夢について話をした。
以前に彼女が夢占いにハマりだしたと聞いてたからだ。
は元々眠りが浅くて夢を見る方だけど、大体は夢を見たこと以外内容は忘れてしまってることの方が多い。
だけどここ一ヶ月、その日見た夢の物語とか登場人物とか結構覚えてたりする。
特に印象的だったのが、空を飛ぶ夢と大量に並んだ料理をがつがつ食べ続けてる夢、
それから見蕩れるほど綺麗な毛並みをした大きな狼が出てくる夢だった。
その話を聞いた彼女は哀れみの表情を浮かべてを見、肩をポンっと叩いて言ったものだ。
それは欲求不満の証拠ですよ、と―――
欲求不満、と言っても、本来言葉の正しい意味としては別に性的なものだけを示してる訳じゃない。
だけど、彼女がに向けて言い放ったそれは、どうやら間違いなく性的方向らしい。
彼女の夢占い診断によれば、が話した夢の内容が、
どれもこれも面白いほど性的な意味でフラストレーションが溜まってる象徴ばかりなんだとか。
おーまいがっ、どういうことなの。
なんてことを言ってすぐ白状するが、実は全然身に覚えがなくもない。
なくもないというか、誤魔化しましたすみません、身に覚えしかないです。
とは言え、まさか友達に指摘される程の状態なんて、ちょっと自分に引いてしまう。
高校生男子か、は。
最近審神者の仕事としては結構順調に進んでる。
たまに上から無茶なお達しがあって参ることもあるけど、以前に比べれば刀剣仲間も増えてきたし、
初期の頃から仕えてくれてる皆の成長もいい感じだ。
刀装の失敗も随分減り、どうすればどんな仕上がりになるか大体分かってきた。
審神者友達との情報交換で学んだことも上手く生かせてきてる。
問題は勿論まだまだ色々あるけど、中々満たされてると思ってた。
―――んだけど。
だからこそちょっと余裕が出てきて、こんなことに陥ってるのかもしれない。
深夜。
仕事を終え、風呂上りに一杯楽しんでいた。
どこのお父さんだって感じだけど、飲みたい気分って時はやっぱりあるもんだ。
友人に貰った赤ワインは思った以上に口当たりがよくて飲みやすく、
気付けば一杯どころか二杯三杯と飲み進めてしまってた。
もうボトルの中身は殆どないから、刀剣のみんなに見つかってしまわないように処分せねばなるまい。
がお酒を飲むこと自体は別に問題ないけど、
酒好きな何人かは何で自分にも声を掛けなかったんだと拗ねてしまう可能性もあるからだ。
しかも、このワイン、結構高級品だったりするから、その辺の意味でも証拠隠滅すべきだろう。
「おい、明かりがついてるってこた、アンタまだ起きてんのか?」
最後の一杯をグラスに注ごうとしたところで、少し離れた場所にある自室の出入り口用の襖からそう声がした。
余りの突然のこととには思わずびくりと大きく手元を震わせ、
そのままワインボトルを机の上に落下させる。
「ひぃい!わっ!」
ワインを注ぐ為に傾けていたボトルは、残り少ない中身をぶちまけ、ゴトリと机に転がる。
グラスの方はワインの注ぎ口が軽くぶつかった位で倒れずすんだようだ。
がシラフならボトルの方にももう少し素早く対処できただろうが、今更「もしも」はあり得ない。
机の上にボルドー色の液体が零れたと同時に、さっきまでより一層ワインの芳醇な香りが周囲に広がった。
まぁ、量的には大したことないから、この程度ならどうにかなる。
「どうした?何かあったのか?入るぞ」
既に声だけで誰だか分かってたけど、予想通り、襖を開けて姿を見せたのは和泉守兼定さんだった。
は彼の相棒である堀川君の影響で兼さんと呼んでる。
「・・・って、アンタ何やって・・・、しかもこの部屋、酒くせぇな、おい。
ったく、こんな時間に一人で酒なんか飲んでんじゃねぇよ」
「兼さん」
彼は零れたワインを拭くこともせずにぼんやりしてるに呆れた様子で溜息をつくと、
室内を軽く見回してからの居る机の横にある棚の上に置いていたダスターを手にした。
そしての隣に膝を着き、少し乱暴に机に広がったワインを拭いてくれる。
「ありがと」
「おお、おお、この俺が掃除してやってんだ、精一杯崇めろ、許す」
掃除と言う表現は何かちょっと大げさだし、崇めるって一体ってツッコミが浮かんだが、
ありがたいのは確かなので余計なことは言わない。
そこで兼さんは既にパジャマ姿のにちらりと視線を向けた後、すぐにその目を逸らした。
それから再び立ち上がる。
「明日一日休みだからってあんま夜更かししてんなよ。それじゃな、おやすみ」
「・・・っ!ま、待って!」
殆ど反射的に出た言葉、そして行動だった。
は彼の着物の裾を掴んで、思わず引き止めていた。
それでも、もしもこの時がシラフだとしたら、この先の行動はもう少しそれなりに常識的であったかもしれない。
だけどさっきも言ったように、そんな「もしも」は考えるだけ無駄の今更だ。
そして何より彼は、が友人による夢占いで性的欲求不満なんぞと診断された諸悪の根源でもあったりする。
と言っても、これでが兼さんを一方的に好きになって勝手に欲情してるような、
それこそ男子高校生がムラムラな発情期になってるんだったら、幾ら酔っ払ってるとは言え彼を巻き込んだりしてない。
(――はずだと思いたい)
でも、これでもと兼さんは両想いだ。
しかも、そうなってから結構な時間が経過してる。
この場所は刀剣が活躍した時代を中心にあらゆる時代に繋がってて、イマイチ時間経過がどうのってのが微妙だけど、
体感的に言えば三ヶ月以上は経ってるんじゃないだろうか。
主であり、人の身であるが、刀剣の付喪神である兼さんとってことに悩まなかった訳じゃない。
だけど、取りあえず今はそのことはちょっと一旦おいて置く。
には今、どうしても彼に聞きたくて、聞かなきゃ気が済まないことがある。
が彼の着物の裾を掴んだので、彼は足を止めて再びこっちに向き直ってくれた。
「何か用か?」
「あのさ、兼さん、・・・・正直に答えて欲しいんだけど」
「?何だよ?」
「・・・の事好きだって言ったの、気の迷いだったって思ってる?」
「・・・、・・・・・・・、はぁああっ!?」
兼さんはまさか突然そんな質問をされるとは思ってなかったらしく、
半分声をひっくり返して聞き返し、を見た。
「きゅ、急に何言ってんだよ・・・、アンタは・・・!」
彼の綺麗な白い肌、その頬が分かり易く赤くなってる。
はゆっくり立ち上がり、それから続けてもうひとつ、彼に質問することにした。
「付喪神って・・・もしかして・・・、その、人間と違って・・・せ、性欲とかないの?」
酔った勢いとはいえ、さすがのもこの問いはすらすら口に出来ず、
妙にぎこちない表情になる。
の言葉を聞いた兼さんはの倍以上は動揺したようだ。
更にぎょっとしていた。
「せっ・・・!・・・って、なぁ・・・。アンタ絶対酔ってるだろ?」
「うん、そだね」
「そだね、じゃねぇよ。開き直んな」
「・・・、兼さん、答えてくれないんだ?」
兼さんの正面に立って彼を見上げると、彼は赤く染まった頬を髪で隠すようにふいと横を向いた。
表情が不機嫌に見えるけど、別に怒ってる訳じゃないのは分かってる。
彼はふーっと、そこで長い溜息を吐いた。
もしかして、いや、もしかしなくてもこれは呆れられてんのか。
でも、もう後には引けない。
答えを聞くまで帰さないぞ、和泉守兼定。
「・・・単なる気の迷いなんて下らねぇ理由で口に出来るほど、軽いもんじゃねぇだろ」
「え?」
不機嫌そうな顔はそのままに、彼が口を開いた。
思わず聞き返したに、今度は睨むような視線が向けられる。
と言っても、さっきより頬の赤い部分が広くなってるから、何だか逆に可愛く見えてしまった。
なんて、本人には口が裂けてもいえないけど。
「さっきの・・・!アンタの質問の答えだよ。オレは気は短いが考えなしの阿呆じゃねぇんだ」
「・・・・・・」
「おい、ニヤニヤすんな」
兼さんの返事に無意識に口元が緩んでしまったに、彼はどこか照れくさそうにそういって視線を逸らす。
「だって嬉しくて」
「っ、は!そうだな、オレみたいな格好いい男にここまで言わせてんだ、そりゃ嬉しいだろうよ」
「・・・兼さん」
彼の名前を呼んで、一歩、踏み出そうとして足元が少しふらつく。
咄嗟に兼さんがの前に片腕を差し出してきてくれた。
おお、どこかでみた少女マンガのようだ。
てか、いかん。これ、思ってた以上に、、キテる。
そう思う一方で、酔っ払ってるからこそ出来る大胆さで、はするりと彼の腕からその胸元に身を寄せていた。
多分、シラフになってこの時のことを含めてあれこれ思い出した時点で、は爆発するだろう。
ぎくり、と。
一瞬、兼さんの体が硬直したのが分かる。
「まだ、もう一個の答え・・・聞いてない」
「っ・・・」
見上げた先にある彼がハッとした様子でぐりんと首を振ってから盛大に視線を逸らす。
さっきからこの繰り返しっぽいんだけど気のせいだろうか。
何と言うか、反応がよりヲトメ的な。
なんて思ってたら、再度、兼さんがに瞳を移した。
不機嫌さが増したみたいな顔なのに、頬が赤いせいでやっぱり可愛らしい。
[newpage]
「・・・オレ達は刀剣の付喪神だが、
人間より身体能力や霊力が高いっての以外は殆どアンタらと変わらねぇ。
っつーか、そんなこたこんだけ一緒に生活してんだからアンタだって知ってるだろ」
「うん、それは・・・」
確かに彼の言う通りだ。
彼らは普段城内で生活してる間、お風呂に入るし、
食事だってするし(傷を負った時以外はかなり短いけど)睡眠も取ってる。
そこだけ見れば普通の人間と変わらない。
彼にしては珍しく遠まわしな言い方だけど、つまり人間の男並に『そっち』に興味があるということだろう。
そのことには逆にショックを受けてしまった。
俗に言う恋人同士ってやつになってから随分経ってるけど、最初に軽くキスされたこと以外、
兼さんがに触れた記憶は全くない。
そうだ。
そのおかげでは絶賛悶々発情期男子高校生と成り果てた訳で。
それでも彼が人間と違ってそういうことに興味ないなら仕方ないと、ある意味納得できた。
だけど、どうやらそうじゃないらしい。
ってことは、あれか。
和泉守兼定。
彼の前の主である新撰組の土方歳三と言う人は、その容姿から随分女性に人気があったという。
当時で言う恋文ってやつも山ほど貰っていたんだとか。
土方の刀であった兼さんもきっと、沢山の女性を見てきたはずだ。
もしかしてそんな彼にはじゃその気になれないってことなんじゃ。
「・・・おい」
「はい?」
「・・・いいんだな?」
「え?何が?」
突然の相手の言葉に今度はの方が驚く番だった。
何だかよく分からないけど、が一人でショック受けて呆然としてる数秒の間に、
兼さんの表情がさっきまでの照れくさそうに拗ねてたのと違う感じになってる。
そして、何の了解を得ようとしてるのかが分からない。
「・・・分からねぇのかよ」
「いやいやいや、だから何の話?」
「・・・・」
あ、イラっとした。
ぽかんと彼を見上げてそう思った数秒後。
兼さんが不意にの体に両腕を回して自分の方にぐっと引き寄せ、
見上げたままのの方に軽く体を傾けた。
「っ!」
さらり。
彼の美しく艶やかな長い黒髪が、の頬を掠める。
同時に視界一杯に広がった兼さんの顔に驚いた瞬間。
の唇に彼の唇が重なり合う。
ただ柔らかく押し当てられ、触れ合わせるだけのキスが数秒続き、
が抵抗しないことを確認した彼は、真っ赤な舌をぬるりとの口内に侵入させた。
唐突な急展開に頭のついてってないは、
アルコールが入ってるってことだけじゃなく頭の中にぐるんぐるんと何かが回ってるような状態だった。
自分で望んだことでもあるくせに、それが実際に起こるとパニくってしまう。
密着してることで普段より軽装の兼さんの体温が着物越しに伝わってくる。
彼はの口腔を探るように味わうように舌を蠢かせ、はただ夢中でそれに応えていた。
腰に回った彼の腕がさっきよりも強くの体を引き寄せ、更に太ももを割ってお互いの足が絡められる。
は元々アルコールで体温が高くなっていたけど、彼も全然負けてない。
「っは、・・・ふ・・」
無意識にの口から零れる声が妙に甘ったるかった。
結ばれた舌と舌が強弱を付けて吸い上げられて、ちゅぷりぷちゅりと粘着質で卑猥な水音を発してる。
その音にさえ興奮して、の体の中心が少しずつ疼きを訴え始める。
さっき飲んだばかりの赤ワインの味。
唾液で随分薄れてるはずなのに、あれよりもずっとずっと濃厚なものに感じてる。
彼の手の平がの薄いパジャマの生地の上を滑り、それが少し遠慮がちにわき腹付近まで移動した。
そして、胸の膨らみぎりぎり、触れるか触れないかの位置で、その動きが止まる。
「あっ・・・」
「いいねぇ、その顔・・・そそる」
言って、兼さんは口の端を微かに上げて笑った。
「な、何で・・・急に・・・」
「・・・急じゃねぇよ・・・別に」
「え?・・・や、でも・・・今まで全然・・・」
そんな素振りは見せなかった。
まるで今までどおりで、この数ヶ月を見ても勿論、ついさっきまでのことを考えても、
彼のスイッチが良く分からない。
「アンタに触れることに慣れちまったら、オレは・・・、
欲しい時に欲しいだけ手を出しちまいそうだったからな・・・。自制してたんだよ」
「・・・自制・・・」
はぼんやり兼さんの言葉を繰り返した。
その間に彼の手が今度はパジャマを捲り上げて直に肌に伸ばされる。
後は寝るだけのつもりだったので、ブラは外していた。
他人の手が素肌に触れると、妙なくすぐったさを感じて自然と体が震える。
なだらかな胸の膨らみを下から軽く持ち上げられて、兼さんの指の感触が伝わってきた。
その形に沿って、自分の体の一部がぐにゃぐにゃとまるで粘土細工みたいになってるのが分かる。
「・・・あ、」
「・・・ほら、な・・・。こんなに気持ちイイんじゃ・・・すぐ止めてやれなくなっちまうぜ」
「かね、さん・・・」
いつの間にかの心臓の鼓動の速さと呼吸の乱れが同じ位になってる。
体全体の血が沸点を目指してるような感覚。
後々考えたら恥ずかしすぎて一人壁ドン頭バージョンをするに違いないような、
べたべたの甘ったるさに濡れた自分自身の声に、驚いてしまう。
「・・・なんて声出してくれんだよ、アンタは・・・」
どこか切羽詰った口調でそう言って、兼さんは再びの唇を塞いだ。
最初のキスとは違い、唇が重なった瞬間から濃厚なものに変わる。
呼吸を忘れて、喉を焼かれそうな、そんな錯覚に陥るキスだ。
あの赤ワインの味は、もうとっくに達の唾液で洗い流されてしまっていた。
それでも、口内が蕩けるみたいに熱いのは何でだろう。
兼さんの長く骨ばった指が、の胸の突起を転がし、は思わず小さく声を上げた。
「あ・・・ぁっ」
「酔ったアンタに焚き付けられて手出したのが始まりじゃ、
格好つかねぇってのは・・・分かってんだけどねぇ。悪ぃな・・・もう少しだけ・・・」
兼さんはまだ気付いてないようだけど、
酔った勢いとは言えこれは本当はがずっと望んでたことだ。
分かり易く欲求不満になるくらいに。
シラフのがわーぎゃーなるのは自分の行動に対してで、
彼に触れられることを少しでも嫌だと思うなんて絶対にあり得ない。
今は深夜。
夜明けが来るのはまだまだ先。
彼のもう少し、を、もっと先まで引き伸ばしたい。
がそんなことを思ってるのに気付いたら、あなたはどんな顔をするんだろう―――
(了)