「ねぇ、一緒に温泉に入りたいって言い張ったの、お前なんだけど、
何でそんな離れた場所で、しかも後ろ向いてんの?」
「・・・・・・、どうしてこうなった」
いや、どうしてもこうしてものせいなんだけど。
たった今清光君が言ったとおり、が自分で言い出したことなんだけど。
ここは皆で使ってる共同の大浴場とはまた別の、城の敷地内にある屋外の温泉だ。
屋外とは言えちゃんと回りは壁で囲まれてるし、それなりの広さもあり、少しぬるめのお湯が肌に心地いい。
空を仰げば美しい満月が見えるという、快適空間。
本来ならリラックス効果間違いなし。
―――なんだけど。
今のにそれを楽しむ余裕はない。
微塵も、一ミリも、これっぽっちもない。
「ったく、これじゃ俺が悪者みたいじゃん」
「・・・いや、そ、そんなことは」
「さっきもいったけどさ、二人で温泉入るんだって駄々捏ねたの主なんだからね」
「わ、分かってるけど!だって酔っ払ってたし!」
「そうね、でもあの時、俺は後で後悔するから止めとけって言ったよな?
一日考えてからそれでも一緒に入りたいんなら入ろうよってさ。
だけど主、全然俺の話聞いてくんなくて」
「・・・ううう」
全くその通り、ごもっともである。
昨夜開いた宴会で、調子こいて飲みすぎた。
それを介抱してくれたのは他でもない清光君だった。
彼もお酒に強いほうじゃないけど、昨日は殆ど飲まなかったみたいだ。
と言うか、が他の刀剣達からお酒をすすめられてグイグイ飲んでたのを見てたらしく、
その速度から後々がどの程度酔うかを察してくれたらしい。
案の定、酔っ払ったは清光君に抱きついたり触りまくったりとセクハラ行為を働きつつ、
彼に自分と一緒に温泉に入ろうと強要した。
おーまいがっと。
今思い出しても恥ずかしいと言うかあり得ないと言うか。
どこの悪代官だよ。
記憶があるだけにあの時の自分のドタマをぶちのめしてやりたい。
そして清光君はさすがに酔っ払った人間を温泉に連れてくるなんて危険すぎると、
その日はを部屋まで運んでくれた。
因みに、布団に横になってあっと言う間に眠り込んだのもだ。
そして翌日、つまり今日。
事務仕事を終えて夕飯を済ませた後、清光君から声を掛けられた。
約束通り温泉に行くよ、と。
「ねぇ、そんなに嫌なの?」
清光君に背中を向けたまま、しかも取れるだけの距離を取ってるの背後から、
彼が小さく溜息を吐いて言った。
は慌てて左右に振る。
「っ!?嫌だったらここまで来てないし」
「だったらせめて逃げるの止めろっての」
「逃げてない」
「そんだけ壁に張り付いといてよく言うねぇ」
何か今日の清光君はいつもより意地悪っこな気がする。
いや、これはあれか、のせいか。
が酔った勢いでセクハラしまくった上に(彼が止めてくれたにも関わらず)温泉強制しておいて、
土壇場になって一人でわーぎゃーしてるからか。
「・・・清光君」
「なに?」
「やっぱり、怒ってるよね?このセクハラ審神者野郎と思ってるよね?」
「・・・、思う訳ないじゃん。俺、主に触られるの好きだよ」
「!!そ、ソーデスカ」
何で今までの棘チックな感じからいきなりそうくるかな。
そういう不意打ちは良くないと思います。
どうしてくれる。
違う意味でも心臓ばくばくしてきたじゃないか。
タオル一枚巻いた状態の胸元から、自分の鼓動が面白いくらい分かり易く伝わってくる。
「あのさ・・・、今から俺がそっちに行っても逃げない?」
「えっ!?えっと、・・・う、うん・・・」
ちゃぷり。
が返事をした直後。
背後で清光君が動いた気配がして、その拍子に波立ったお湯が小さく音を立てたのが聞こえた。
そして、あっと言う間に彼はの真後ろに立っている。
殆ど体が触れるか触れないかの距離だ。
既に自分で退路を経ったにはそれを避けることも出来ない。
「っ!?ち、近すぎじゃない!?」
「どこまで行くとまでは言ってなかったからなぁ」
「なにそれ」
昨日がセクハラ働いてた時はどっちかというと真っ赤になってたと思うんだけど、
何でいきなりこんな積極的になってるんだ。
もしかしてこれある意味戦場で言形勢有利な攻めの体勢って感じなのか。
元々背後がら空きだし、有利も何もないかもしれないけど。
内心このまま爆発しそうなほど混乱しながら、はぎこちない動きで振り返った。
清光君は腰にタオルを巻いてはいるものの、上半身は裸だ。
彼はどちらかと言うと細身のイメージがあるけれど、こうして見ると無駄な肉がないのは勿論、
筋肉のつき方も綺麗で、俗に言う細マッチョというヤツだろうか。
白い肌も滑らかそうで、彼の体を濡らしたお湯を弾いてる。
艶やかな黒髪がしっとり湿って、いつもほのかな色気を放ってる清光君をぐっと色っぽく見せていた。
「主」
「っ!!」
いかん。
幾らなんでもこんな近い距離でじろじろ見すぎだ。
は大げさにばっと顔を再度、前へと向ける。
そこで不意に、背後から清光君の両腕が伸びてきて、そのままの体を捕らえてしまった。
反射的にの体が大きく震える。
の肌と彼の肌を隔ててるのはが巻いてる濡れたタオル一枚だ。
背中全体が彼と密着して、あの硬い筋肉の感触と両腕の感触が酷く生々しい。
「きき、清光君!?」
「背中ばっか見てんの、飽ーきーたー」
「いや、あの、だからって・・・、あっ・・・」
清光君のしなやかな指先がするりとの首筋を撫で、そのまま顎を上向かせられる。
必然的には彼の方に振り向く形なっていた。
彼の薄く血色のいい唇が間近に迫っている。
「俺の裸、見たんだから・・・責任取ってくれるよね?」
いつもの清光君の口調とは違う。
低い声でそう言って、至近距離でを見つめる赤褐色の彼の瞳から目が離せなくなる。
「えっ?そ・・・っ」
続きは言わせて貰えなかった。
清光君がの口を塞ぎ、何度も啄ばむように唇を食まれる。
そして、開きかけの唇を割ってぬるりと熱い彼の舌がの口内に入り込んできた。
更に、彼の片手がの胸の膨らみをタオルの生地の上から孤を描くみたいにゆっくり揉みしだく。
「・・・お前の胸ってさ、タオルの上からでもスゴクやわらかいよな・・・」
唇を重ね合わせたまま、清光君はそう言って微かに笑った。
その間も掌や指先での胸を弄び、タオルの生地でその突起が擦れる感触に、
の下腹部の中心が甘い痺れを訴え始める。
これは、ヤバイ。
既に色々あれでそれな状況だけど、とにかくヤバイ。
ぬるめのお湯のおかげで未だにのぼせそうな気配がないのはいいのか、悪いのか。
彼とは両想いだし、こうなるのも自然と言えば自然だけど。
何度目かのキスを交わしながら、
はいつの間にか体ごと彼の方へと向き直って両腕をその体に絡め返していた。
濡れた肌がぴたりと隙間なくくっつき、タオル越しに自分の胸が形を変えてるのが分かる。
口内で混ざり合う唾液は少しずつ量を増し、舌と舌がまるで生き物みたいに縺れてた。
彼が二人分の唾液を飲み込み、僅かに唇を離したところで、は口を開く。
「清光君・・・」
「ん?」
「えっと・・・き、機嫌、直った?」
「俺、別に最初から機嫌悪くなかったよ」
「でも呆れてたし」
「そりゃーね。でも、ぶっちゃけ期待してたからさ」
「・・・はい?期待?」
聞き返したに、清光君がなんかよりも数百倍可愛らしく、
そしてぞくぞくするほど色っぽい表情で笑みを浮かべた。
「俺に下心がないとでも思ったの?
酔っ払った主のことだから、止めても無駄なんてこと、分かってたっての」
「・・・っ!」
清光君は、悔しいほどにを分かってる。
寧ろ、酔っ払っても振り回されてたのは、の方、かもしれない―――
(了)