燭台さんがいつもの髪に塗ってくれるそのヘアケア用の美容液は、
ほのかに甘く爽やかなシトラス系の香りがする。
お風呂上りのの頭を丁寧にタオルドライした後、彼はそれを指先に少量取り、
これまた丹念な手つきでの髪にしみこませてくれていた。
その間、と彼は他愛ない会話を楽しみつつ、眠る前のリラックスタイムを満喫するって訳だ。
そして今夜も、暫く遠征に行っていた燭台さんから、
久しぶりにこうして髪の手入れをしてもらってるところだった。
「ところで、実は君にお願いしたいことがあるんだけど、聞いてもらえるかな?」
「?燭台さんがお願い?珍しいね、何?」
は椅子に座り、その背後に彼が立ち、の髪に触れている。
丁度美容室に行った時みたいな状態で、と彼は話をしていた。
と言っても、目の前に大きな鏡があったりする訳じゃないから、
が振り返るか彼がを覗き込むかしない限りはお互いの表情は見えない。
「僕の名前のことなんだけどね」
「うん?」
「そろそろ呼び方を変えてもらえると嬉しいんだけどな」
「呼び方・・・、ああ!燭台切さんってことか!でも語呂悪くない?」
「いや、それだと格好付かないのは変わりないよね。と言うか君、語呂で僕の呼び方決めてたの?」
「うん、まぁね、燭台さんって呼びやすいし」
「・・・は、ははは、それなら下の名前の方が呼びやすいんじゃないかな」
が首をひねって振り返ると、見上げた先の燭台さんは困ったように苦笑していた。
そう言えば、彼は最初に達の仲間に加わったとき、前の主である伊達政宗自体の事は嫌ってないけど、
命名の仕方には納得いってないという内容の説明をしてた。
何でも、人を斬った際に青銅の燭台も一緒に切れたことが由来ってことだけど、
彼曰く幾らそれが青銅の燭台だったとしても、もうちょっと強そうなものだったら「カッコ良かった」らしい。
燭台さんは内外面共に彼なりに格好いいことにこだわりがあるようだから、
その辺特に気になるんだろう。
とは言え、彼がの所に来てもうそれなりに時間は経ってる。
が主ってことで一応『燭台さん』呼びを受け入れてくれてたのかもしれないけど、
の中ではすっかりコッチで定着してしまっていた。
「何か今から下の名前で呼んだら・・・、微妙に周りにからかわれそうな気がする」
考えすぎかもしれないけど、今更が彼を『光忠』呼びしたら、深読みしてくる刀剣も居そうだ。
爽やかだったりねっとりだったり嬉々としてだったり、ぽぽぽんっと何人かの刀剣達の顔を思い出す。
まぁ、それこそ今更と言えば今更かもしれない。
と燭台さんが実はもういわゆる深い仲ってやつになってしまってることに、
薄っすら気付いてる者も居るだろう。
「それは大丈夫なんじゃないかな。
ほら、君、長谷部君にも名前の呼び方についてお願いされたことがあっただろ?」
「・・・あ、ああ、そう言えば・・・」
燭台さんとは大分お願いの理由の方向性は違うけど、
確かには長谷部さんの言葉で彼をへし切りさんとは呼ばなかった。
燭台さんの言いたいことは分かる。
分かるんだけど、白状すると結局のところ単にが照れくさいだけだったりする。
「ぜ、善処します」
「ああ、お願いするよ」
残念な政治家の言い訳みたいな返事をしてしまった。
それでも燭台さんは困ったように笑いつつも、の返事を受け入れてくれる。
そんな会話を交わしてる間に、彼はすっかりの髪を綺麗に手入れし終えていた。
その手触りを確かめるように、燭台さんの長くて骨ばった指が髪の間をするする滑ってく。
「うん、今日もイイ感じだね」
「いつもありがと、ホントに後は寝るだけなんて勿体無い位綺麗」
「・・・・」
そこで何故か彼のの髪を梳く手がピタリと止まった。
そして、髪の根元を軽く持ち上げられる。
不思議に思って振り返ろうとしたところで、燭台さんがこっちに体を傾けた気配がした。
「どうした・・っ・・・!?」
うなじと首筋の間。
そこに、顔を埋めるように彼が近付き、後ろから肌に唇を押し付けられる。
ビクリ。
やわらかにくすぐるみたいに触れたその感触に、反射的にの体が震えた。
「・・・実を言うとね、遠征から戻ってきてから、こうして二人きりになれるチャンスをずっと狙ってたんだ」
「え?」
「ごめんね、こんな飢えた狼みたいな言い方しか出来なくて。
もっと格好良く誘えれば良かったんだけど・・・」
温かな吐息と一緒に彼はいつもより低めの声で囁くようにそう口にした。
そこで再度、の首筋に唇を触れさせる。
今度はさっきと違って肌に吸い付き、ちゅ、と小さな音を立てた。
音だけ聞けば可愛らしいけど、やってることは全くちっとも可愛らしくなんてない。
「・・・君に触れたいんだ」
欲と熱を纏った口調を隠すことなく彼はそう言った。
が返事の代わりに小さく頷くと、燭台さんはゆっくりの正面へと回りこんだ。
そして、まるでお姫様に仕える騎士みたいな恭しさで、に片手を差し出す。
その姿が何だかおかしくて、思わず笑ってしまった。
つい数秒前までの艶のある口調と今のこのポーズは、何かちぐはぐだ。
「ここで笑われちゃうと本当に格好つかないなんだけどなぁ」
「ふっ、ごめん、・・・でもさ、格好付けなくていいと思う。燭台さん元から格好イイしね」
「っ、・・・君は・・・・。いや、それじゃあ・・・奥に移動してもいいかい?」
「・・・うん」
■□■
人の体温ってのは、ここまで高くなるもんなんだろうかと、自分の体の熱さに驚いてしまう。
それと同時に、と変わらないかそれ以上に熱を持っている燭台さんの素肌にもまた驚いた。
人間であるも、付喪神である彼も、こうして抱き合ってしまえば何も変わらないように思えてくる。
燭台さんは呼吸を軽く乱しながら、貪るようにの唇を自分の唇で塞いだ。
密着させて絡み合うようにした手足、体。
お互い汗で濡れていることもあって、まるで吸い付くみたいな感覚がある。
燭台さんの硬い腹筋や胸板の感触が直に伝わってきて、
それだけでどんどん自分が興奮してきてるのが分かった。
口内で唾液に溺れるように動く彼の舌が、の胸を捏ねる彼の手が、触れ合ったその全部が、
の思考をあっと言う間に飲み込んでしまう。
「困ったな・・・、君のどこにさわってもこんなに気持ちイイなんて・・・、反則だよ」
唇を離しての首筋に顔を埋めた彼が、そう言って吐息混じりに苦笑する。
それからすぐにの耳たぶにねっとりと舌を這わせた。
の下腹部に押し付けられた彼のものが、既に硬く勃ち上がっているのが分かる。
入り口付近を彼の先端で擦られて、それだけでぬちゅと小さく音がした。
見なくても、自分のそこがどれだけ濡れてるのかなんて分かってしまう。
耳朶から首筋へ、鎖骨へ、彼の唇が下りていった。
燭台さんの舌がの肌を辿る度、無意識に呼吸が浅くなり、体が小刻みに震える。
「っは、・・・」
「君は・・・耳より首筋の方が感じ安いみたいだね・・・。ここは・・・どうかな?」
言って、彼は片手で弄んでいた胸の膨らみの突起を指先で軽く転がした。
その微かな刺激に反応し、の体にそこからビリリと電流が走ったような感覚が襲う。
の様子で何かを察したらしい彼は、隻眼の金色の瞳に普段は見せない、獣じみた笑みを浮かべた。
「可愛い感じ方だ・・・、大丈夫だよ、僕がもっと気持ちよくしてあげるからね」
「・・・っ、しょく、そういうこと、言わなくていい・・・」
の抗議の声が聞こえてるのかいないのか、
燭台さんは今度は胸の谷間から右胸へと舌をぬるぬると移動させて行く。
濡れた弾力のある独特の感触が素肌を滑る。
そして、彼はの胸の突起をその舌でねっとりと舐め上げた。
「っ、っは・・・ちょっと、待って・・・」
「待てない」
いつもは鋭く見える外見と違ってどちらかというと穏やかで紳士な彼は一体どこに行ったのか。
いや、手つき自体は優しいし、大事にしてくれてるのは分かる。
だけど、そういう問題じゃなくて。
燭台さんはの制止に耳を貸してくれず、容赦なくの思考も感覚も溶かしていく。
彼はの胸の膨らみの先端を口に含んだ後、軽く舌で転がし始めた。
更に、その片手がの内腿を撫で滑り、足の付け根へ伸びていく。
「もう随分濡れてるね・・・」
そう呟くように言った彼の声こそ、欲情にたっぷり濡れていた。
思わず興奮での喉が鳴ってしまいそうになる程に。
さっきから一方的に余裕を奪われて、何もかも乱されてんのはだけみたいに思ってたけど、
こうして彼の声や表情を見れば分かる。
一方的なんかじゃない。
そうだ、だけじゃない。
ぬぷり。
彼の長い指がの中を確かめるようにその中心へ向かって埋め込まれる。
半透明の液体に濡れたその場所は、殆どあっさりとそれを飲み込んでいった。
呼吸も鼓動も乱れる一方だし、体の熱はお互い湯気が出そうな状態だった。
燭台さんの指がのナカで動くたび、分かり易く粘着質な水音がぬちゅりねちゃりといやらしく響く。
彼は何度目かのキスをして、の舌と自分の舌を絡ませた。
「君の感じる場所を・・・全部知りたいな・・・。もっと深くまで・・・」
「・・・っ、し、知ってるくせに」
「ダメだ、まだ足りないよ・・・」
の唇を甘く食み、彼はそう言って微かに笑った。
「僕は人を斬る道具だけど、君を傷つけることはしない・・・」
「うん・・・」
は小さく頷き、自分から彼の頬へと手を伸ばす。
そして彼の眼帯を撫で、濡れた唇を指先でなぞった。
「・・・ここで、余裕のある格好いい男なんて演じないでね。逆にが凹む」
「ははっ、・・・そんな事が出来るんだったら最初からもっと上手くやってるよ。
僕が今どれだけ焦れてるかとか、飢えてるかとか、
全部知ったら、君は逃げ出したくなっちゃうんじゃないかな」
燭台さんと肌を重ねるのはこれが初めてな訳じゃない。
だけどお互いに自分たちの立場も、
そしてこの行為が霊力的にも面倒なあれこれを呼び起こす危険性があるのも理解してるから、
極力控えていた部分があった。
「そんなことで逃げないし・・・。てか、嬉しいよ、それ」
「・・・っ」
の言葉に反応して、彼の頬に赤みが増す。
は両腕を彼の後頭部へと回して、そのまま彼を引き寄せる。
の唇が彼の唇に重なるその間も金色の隻眼がジッとを捉えていた。
燭台さんはのキスを受け入れながら、片手での腰を抱き、もう一方の手での膝裏を持ち上げる。
必然的に両足が広がり、の下腹部の中心に彼の硬く勃起したものがゆっくり押し当てられた。
入り口のひだの部分をぬるとその先端が僅かに割り入る。
「挿れるよ・・・?」
「・・・ん」
「もしも痛かったら言ってね・・・」
はなるべく体に力を入れすぎないように心がけ、同時にゆっくり息を吐き出した。
さっきの彼の指の感触とは太さも長さも全く違う、異物感。
ぬちゅずぷと卑猥な水音と一緒に、その硬い昂ぶりがの内側に少しずつ入り込んで来る。
その熱とざらついた皮膚の感触、血管の存在を確かに感じながら、は無意識に背を逸らしていた。
痛みはないが、それとは別の何か、甘く痺れるような感覚に、零れだす声を止められない。
「あっ、はあっ、あぁっ」
「君は・・・声まで甘いな・・・。・・・っ、
ねぇ、お願いだから全部入るまで・・・僕を・・・追い詰めないでくれよ・・・」
燭台さんのものを全部飲み込んだところで、
彼が浅い呼吸を整えるようにさっきのと同じ形でゆっくり息を吐き出す。
その表情がぞくぞくするほど色っぽくて、思わず見蕩れてしまっていた。
「・・・動いていいかい?」
「うん・・・」
彼がゆっくりと腰を使い、それと同時にのナカに埋まったものがぬるぬるとその内壁を擦った。
の反応を伺いながら、燭台さんは少しづつ動きに緩急をつける。
お互い乱れた呼吸の合間に無意識に切羽詰った声を漏らしていた。
ねっとりととろみのある半透明の液体がと彼の繋がった部分から溢れ、
じゅぶじゅぷと泡立った音を発している。
最初よりも質量を増し、硬さを増した彼のものは、悔しいほど的確にのいいところを狙ってきていた。
「あっ、っは、ああっ、ん」
悲鳴に近い自分の声が遠く近く途切れて聞こえる。
彼と密着したところから全部が蕩けて無くなりそうだなんて本気で考える位に、
完全に全部が全部、それこそ思考回路も溶けていた。
燭台さんの荒い呼吸と切羽詰った表情が、一層の興奮と快楽を煽る。
自分が何者で彼が何者であるのか、このとき、は完全に忘れてしまっていた。
「っ、・・・みつただ・・・っ」
「っ!?」
まるで小さな子供が覚えたての言葉を口にするように、
は舌足らずの掠れ声で彼の名前を呼んでいた。
その一瞬。
今まで以上に炎が噴出すみたいに彼の熱が一気に上昇した気がする。
そこから先は本当にバカみたいに何度も何度も繰り返し彼の名前を呼び、
これまで一度も感じたことのない最高の快楽の波に溺れてた。
■□■
「・・・ごめんね、折角お風呂に入った後だったのに結局また入りなおさなきゃならないな」
湿った空気と独特の香りに包まれたままの室内。
燭台さんは苦笑してそう言うと、を片腕に抱いて空いた片手で髪を梳いてくれる。
まだ汗も乾いてないし、密着して絡めた足と足の間は精液でぬめって濡れていた。
「・・・ううん、こっちのお風呂使えばすぐだし、平気」
一応城内には共同で使っている大浴場とは別に個別にお風呂場がついてたりする。
ここは時間の狭間だから、一見時代劇的に彼ら刀剣の活躍した時代の城の形を取ってはいるが、
置いてあるものは大体見た目の古風さと違って現代的な部分も多い。
この部屋につているのは実はお風呂場と言うよりシャワールームだ。
いつもは広々とした大浴場を使ってるけど、場合によっては手軽に使えるシャワールームは便利だ。
「少し・・・眠っていい?・・・一時間位したらシャワー浴びる」
「ああ、その時は僕が起こしてあげる」
「・・・寝ないの?」
「僕はまだ余り眠くないからね」
隻眼をやわらかく細めて笑った彼は、の唇に軽くキスをした。
既にぐったりとしているとは違い、彼の方は今すぐにでも戦場に向えそうなほどいつもと変わらない。
確かにと変わらないくらい汗をかいて浅い息を繰り返していたはずなのに、
疲れている様子は全くなかった。
さすがというべきなのか、何なのか。
「・・・あ、眠る前にひつだけ、いいかな?
「ん?」
「・・・その、ね、僕の名前の呼び方を光忠に変えて欲しいって話なんだけど」
「うん」
「やっぱり、今まで通りで構わないよ」
「・・・、・・・え?いいの?」
ずっと燭台さんと呼んでたが言うのも何だけど、彼は『燭台切』と言う部分を余りお気に召してない様子だった。
だからこそ、今回もその話題を持ち出したんだろうし。
それなのに、突然どうしたんだろう。
はすぐ間近にある彼の顔をきょとんと見つめる。
燭台さんは目元を少し赤くして、から少しだけ視線を逸らした。
もしかしてこれは照れてるんだろうか。
でも何に?
「・・・初めて君に名前を呼ばれたのが・・・、さっきの・・・だったからね。
皆の前で『光忠』って呼ばれると・・・僕は多分、
今夜のことを思い出しちゃって平常心じゃいられなくなると思うんだ」
「――――・・・・、・・・・、・・・・!!!!???」
言われて、気付く。
確かにそうだ。
が彼の名前を呼んだのは、あれが初めて。
「ああ、まぁ、そういうことだから・・・」
そこで燭台さんはぎこちなく笑みを浮かべた。
「う、うん、そだね・・・」
そこまで深く考えてなかったけど、も妙に恥ずかしくなって不自然な頷き方をしてしまう。
「でも我が侭を言わせて貰えば、二人きりの時は・・・僕の名前を呼んでほしい」
「・・・・っ!」
は彼の言葉に一瞬俯き、それから小さな声で返事をした。
「「善処します」」
の声と燭台さんの声が重なる。
反射的に顔を上げると、彼の金色の左目が少し悪戯っぽく笑う。
お見通しだよ?と言われてるみたいで何だか悔しい。
燭台さんはの頬に再び軽いキスを落とした。
「そろそろ休んだ方がいい。一時間後に一度起こすよ」
「・・・おやすみなさい、・・・・・・み、つ、たださん」
「っ!・・・ははっ、ああ、おやすみ」
次に彼の名前を呼ぶときは、もっと自然にもっと『格好よく』口にしたいもんだ。
(了)