「よっ、待ってたぜ」
「ひっ!?ぎゃ・・・・むあぅっっ―――」
深夜0時。
ようやく事務仕事を終えて、久しぶりに城の一角にある温泉へいそいそと一人、向った。
実は温泉のある場所は城の敷地内とは言え、工房や自室からは少し離れた場所にある。
なのでいつもは普通にシャワーか、刀剣の皆が使ってない時間帯に大浴場へ行くかだった。
今回は疲れてはいたけど、だからこそゆっくり久しぶりにここの温泉のぬるめのお湯に浸かって疲れを取ろうと思ってた。
思ってた、のに―――
洋服を脱いでタオルを体に巻き、脱衣所のドアを開けて露天風呂のある外へ出て(周りはちゃんと塀に囲まれてる)、
ドアを閉め終えたその時、は鶴丸さんの奇襲に遭った。
まるで降って沸いたように彼はの背後から、笑顔で声を掛けてきたのだ。
突然のことに驚いて悲鳴を上げようとしたの口は、
背後から伸びてきた彼の手で素早く塞がれてしまう。
反射的に相手が誰なのかは分かってたけど、そういう問題じゃない。
はもがふが情けない抗議の声をあげながら、鶴丸さんの腕の中でじたばた暴れた。
「よしよし、思ったとおり、いい驚き方だ。
だが、ここで悲鳴を上げられちゃ困るんだ、手を放すから、その辺よろしくな?」
この体勢だとからは顔は見えないけど、ニッと笑って満足げな表情を浮かべてる彼は安易に想像できた。
正直まったくちっともよろしく受け入れたくない。
ついさっきの奇襲でビビリすぎて心臓がばくばくどくどく高速で脈打ってる。
とは言え、このままだと背後から鶴丸さんに抱きしめられてるみたいな状態で、
驚きとは別の意味で心臓が持たないだろう。
は仕方なく、彼に伝わるようにこくりと頭を上下させた。
それに応えての口を塞いでいた彼の手が離れ、その体もの正面へ回りこんでくる。
「〜っ〜っ!つーるーまーるさん!何をしてくれちゃってんの!?」
「まぁそう興奮するなって」
「します!と言うか、何でここにあなたが居る訳!?」
は鶴丸さんに掴まった事で少しズレてしまったタオルを片手で軽く胸の上まで引っ張り上げながら、
ギラリ、ジロリと効果音の付きそうな目で彼を睨んだ。
と言うか、何でこの人当然のように温泉に入ろうとしてるスタイルなんだろうか。
腰にタオルを巻いてるだけの、上半身も両足もむき出しの状態だ。
睨んでるのに目のやり場に困ってある意味目が泳ぐ。
彼はそんなにお構いなしに、いつもの暢気な笑顔を浮かべていた。
「言っただろう?待っていたって。君と約束したからな」
「・・・、・・・はい?」
鶴丸さんの思わぬ返事にはまたしても驚いて聞き返す。
そこで彼は今度はニヤリと口の端を上げて笑って見せた。
「一緒に温泉に入るんだって言っていただろう、昨日の夜の話だぜ。忘れちゃいないよな?」
「・・・・・・」
おーまいがっと。
は数秒の間考えて、思い出した昨夜のこと。
確かに彼の言う通り、は鶴丸さんと温泉に入る約束をした。
しかも、言いだしっぺはなんとだ。
昨夜は宴会で飲みすぎて、鶴丸さんも結構飲んでて、
でも酔っ払い指数が圧倒的に高かったのはの方だろう。
彼の体に突撃する勢いで抱きついて、それと同じ位の勢いで温泉に行こうと口走った気がする。
いや、気がするんじゃなくて、間違いなくが自分で口走りやがったんだけど。
「な、ナンノ話ダロ?ワタシ昨日酔ッテテ記憶ナイナー?」
「そうかそうか、だったらそれはそれでいいぜ。俺が覚えてるからな。
昨日の君の行動には俺も驚かさせてもらったぜ。なんなら詳しく話そうか?」
「嘘ですすみませんでした覚えてます勘弁してください」
鶴丸さんの口から昨日の酔っ払ってた時のの言動なんか聞かされたら、
恥ずかしすぎて情けなくて居たたまれなさ過ぎる。
仮にも彼ら付喪神の主であり審神者であるってのに威厳0どころかマイナスだ。
まぁ、最初から威厳なんてないのは知ってるけど、それにしてもあんなの単なるセクハラ野郎だろう。
「あっはははっ、ま、そんなにビビるなよ。別に取って食おうって訳じゃないんだ。
ただ俺は、約束通りここで君の体を洗わせて貰おうと思ってね」
「・・・、・・・・・、っ!!!???はいいいい!?」
彼は何だかえらくさらっと言い切ったけど、その内容はさらっと流せるもんじゃ全くなかった。
の体を鶴丸さんが洗う。
と言うかもうそれは何のお店だよと聞きたいレベルのお話だ。
性別的に逆だけど。
とかそんなこと考えてる場合じゃない。
「いやいやいやいや、あの、それ、えええ!?ないよね?それはないよね?!」
「まぁな、俺も幾ら美味しい話とは言え、一度はきちんと断ったんだぜ。
だけど君がどうしてもって聞かなかったからな。
そこまで言われちゃ、男としては無下に出来ないだろ」
「・・・・」
そこは無下にされて全然構わなかった!
寧ろ後々シラフになったを思って敢えて無下にして欲しかったところだ。
が呆然と固まっていると、彼は更に続けた。
「それよりそろそろ湯の方に行こうか。今日の気温は過ごし易いが、さすがに裸のままだと少し寒い。
君に風邪でも引かれたら、驚きどころじゃないからな」
そう言った鶴丸さんはの片腕を掴んで露天風呂のある奥のほうへと進んでく。
「えっ!?いやいやいや、ちょっと待って・・・!」
「よし、まずはそこに座ってくれ。俺がかけ湯をしよう」
「いや、あの、話聞こうよ」
がツッコミを入れる間も彼はナチュラルにを風呂椅子に座らせてしまう。
何だかんだ言ってそれに従うもだけど。
鶴丸さんはまず自分がかけ湯をして、
それから桶を手にしてそれにお湯を汲むとの背中に回りこんだ。
「聞いてもいいが、約束は約束だ、そこのところは変わらないぜ。
お湯かけるぞ、タオル取ったほうがいいんじゃないか」
「ううううう、そりゃそうだけども。タオル!?やだ、取らないし!」
「そういうことだ、観念するんだな。ここまで湯に近付けば湯気でそう寒くもないだろう」
「・・・観念って・・・。寒いとか寒くないとかそういう問題じゃない」
達は器用に二つの話題を同時進行して話していた。
というか、これ、二つのってより、もう普通に『約束』が進んでしまってないか。
会話の前半では一応が話を聞いてくれって言ったことに対して返事してくれてるんだけど、
後半体を洗う準備が着々と進んでる。
「ま、最初は背中からだから、今はこっちだけでもいいか」
言って、鶴丸さんはの背中からタオルをさっと解いてしまう。
瞬間的にの背中は丸出し、無防備な状態になってしまった。
そこで後頭部辺りからゆっくりとお湯がかけられる。
「っ!?」
「お湯かけるぞ」
「もうかけてるし・・・」
彼ははははっと笑い声での言葉を受け流してしまった。
はで思わずハハハと乾いた笑いを漏らす。
もうここまでくれば諦めるしかない。
どうせ背中だけだし、そんなに長くはかからないだろう。
彼は後ろにいるから、から彼の姿は見えない訳で、
その分まだ落ち着かなくてドキドキそわそわするってのもさっきよりはマシだ。
「ひゃっ!?」
ぬるり。
突然背中に感じた彼の掌とボディソープの感触には反射的に声を裏返した。
まさか素手で洗うなんて思ってなくて、思わずは振り返って鶴丸さんを見上げる。
「えええ!?ま、待って、待って、手でやる気!?」
「おっ、驚いてくれたようだな。そのつもりだ。何か問題があったか?」
「あるに決まってんでしょうが!スポンジ使おう、そうしよう」
「すまんすまん、スポンジやてぬぐいの類のものは持ってきてないんだ。
だが今時は手で洗う人間も居るって話を聞いたぞ」
「いやいやいや、だからそうじゃなくて・・・」
確かにテレビか何かで最近は体を洗う時に素手で全身を洗うってのを見たことはある。
それはそれで別に悪くないと思うけど、今回ばかりは大問題だ。
「っ、つ、鶴丸さん」
はまだ話の途中のつもりだったけど、彼は再び掌にボディソープを取ってそれを泡立て、
少しの躊躇いもなくその手をゆっくりの背中に滑らせる。
彼の細めで長い指が、綺麗な手のひらが、ぬめった感触と一緒にの背中を移動する度、
何だかぞくぞくと妙な感覚がの内側から競りあがってくる。
肩甲骨の部分を丁寧になぞり、脇腹や脇の下の胸の膨らみの際どいところまで手が伸びて来て、
は無意識にびくりと体を震わせた。
触れるか触れないかのギリギリの位置で、彼の手は離れていく。
おかしな話、まるでを焦らすみたいなその手つきがいやらしくて、
何かにどんどん浸食されてってる感じがした。
「・・・さて、背中はこの位でいいか」
「・・・、え?」
今、鶴丸さん、背中『は』って・・・?
いやいやいや、まさかまさか、まさ―――
「っ、ぁっ・・・」
全力で頭の中で否定した想像が、0コンマの世界で実現してしまった。
さっきまで前に回り込んでこなかった鶴丸さんの手が、背後から大胆にの胸元を覆う。
しかも前だけでも、とガードしてたタオルはいつの間にかの足元に落ちていた。
女性の手と見まごう程色白の、だけど間違いなく男の人の手だと分かる形の泡をまとった彼の手指が、
ぬるぬるとの胸の膨らみを弄び始める。
「こっ、ちょ、セクハラじじい!せ、背中だけじゃなかったの!?」
「セクハラじじいってなぁ。最初から俺は『体を洗う』って言ってただろ?」
苦笑しながらそう返事をした鶴丸さんは、の耳元近くまで顔寄せていた。
いつの間にか彼も風呂椅子に座ってるらしく、すぐ背後に彼の体があるのが分かる。
こんな会話をしてる間も、彼の手は全く止まる様子はなくて、
白い泡と同じ位白い指がの肌に軽く食い込み、胸の先端を擦られていた。
「〜っ〜っ〜っ!!」
酔っ払った自分のことをセクハラ審神者野郎だと思ってたけど、この人には、
基、この付喪神様には敵わない。
と言うかこれで神ってどういうことなの。
あり得ない。
ありえなさ過ぎる。
「っっ、ちょっと、ま、待って、やっぱりもういいから!あ、あっ」
ぬるぬらとの胸を丹念に弄ぶ彼の手が視界に入るたび、
その掌や指の感触と一緒にの全身にいやらしい感覚が伝わっていく。
自分の体の一部が鶴丸さんの手の中で彼の指が動くのと同時に形を変え、
更に胸の先端を弾かれて、の呼吸が浅くなるのを感じた。
「君の肌は俺の手に吸い付くみたいだ。この白も良く似合ってるぜ」
「な、何訳わかんないこと・・・!そ、それより、もういいっ、から・・・!」
「おっと、こりゃ驚きだ。俺に約束を破らせたいのかい?」
「〜っ!」
言葉と同時に鶴丸さんがの背中にぴたりと自分の体を密着させた。
彼の雪のように白い髪がの視界の隅で揺れ、耳朶に唇を寄せられてるのが分かる。
細身だとばかり思っていた彼の胸板は予想以上に筋肉の硬さがあり、
の背中にその体温が伝わってきた。
鶴丸さんの片手がするするとの腰骨へ降り、太ももを撫でていく。
お尻付近の肌をなぞるみたいに指先が滑って、の体の中心が甘く疼いた。
「なぁ、まだ洗ってない場所は沢山あるぜ。ここも、こっちも」
「い、いらな・・・」
「それにほら、ここも・・・な」
白い泡がにゅるりと同じ方向に移動したのと一緒に、彼の手がの両足の付け根に潜り込む。
は。
と、は小さく息を吐いた。
拒絶の声を上げるより、彼の手の動きに意識を持ってかれてしまってた。
「どうやらここには泡が集中してるみたいだな、随分ぬるぬるしてるぞ」
そこはボディソープのぬめりとは別の、半透明の液体で潤っていた。
鶴丸さんはそれを分かっててわざとこんな言い方をしてる。
彼の手はの内腿からその少し奥へとぬめりと一緒に何度もそこを往復した。
反射的に足を閉じようとしたの耳元に、いつもより低めの熱を持った声が届く。
「そうされると逆に俺の手がもっと奥に入るんだがな」
「あっ」
「内側も、洗って欲しいってことか」
「ち、違うっ、ちが、っ」
鶴丸さんの指が割れ目を僅かにめくるようなくすぐるような動きで滑った。
そして再びその手を何度か往復させて、その度の中へと少しずつその指が潜っていく。
ぬちゅにゅちゅと粘着質なとろみを帯びた液体が彼の肌を汚していた。
「どうやら念入りに洗う必要がありそうだなあ」
「っ!?」
ニヤリと、彼が背後で笑った気配がする。
はそこで無意識に彼の方へと振り向いた。
予想以上に間近にあった鶴丸さんの顔が、それと殆ど同時にに近付き、そのまま彼に唇を吸われる。
「さて・・・、俺はここに居る間に後何回君を驚かせることが出来るかな?」
「・・・・・・・・」
こんな状況なのにどこか無邪気な子供みたいな声音、
それと同じ位分かり易く含まれてる肉食獣の舌なめずりみたいな凶暴さ。
白い肌と銀髪に映える金色の瞳が、すっと細められた。
取って食おうって訳じゃないなんて、一体どの口が言ったのか。
優雅で美しい鶴が、突然猛禽類の鷹や鷲になってしまったと錯覚するほどだ。
だけど悔しいことに、こんな時でも彼は、鶴の美しさも全く失ってなくて。
こんなことになるなら、お酒なんか二度と飲まない、とも思わせてくれないなんて、悔しすぎる。
「ま、安心していいぜ。君を退屈させたりしない」
再びの唇に吸い付く彼の唇を拒むことも出来ず、
泡にまみれた彼の手が大胆に動くことでまたしてもは思考も体も翻弄されてしまう。
それを受け入れるどころか、望んでたのかもしれないなんて思う位に頭の中は相当色々キていた。
ああ、そうか、結局は、拒むことなんか本当は考えてなかったってことなんだ。
(了)