青い果実は甘いか苦いか


薬研藤四郎は本当に戦場育ちなのか、特に最近そのことに疑問を持ってしまう。
と言っても、彼の戦場での実力はもう十分理解してるし、その辺の能力云々には何の疑いを持つ余地もない。
が言ってるのはそういうことじゃなくて、寧ろ、戦場とは全く関係のない部分のことだ。
例えば―――


「さすがにこの状況でこっちに集中して貰えねぇと、俺もいささか傷付くんだが」


薬研君にそう声を掛けられ、はハッとして正面に座っている彼に視線を移した。
いかんいかん、ちょっとぼんやりし過ぎて遠い目になってたかもしれない。
達は今、一組の布団の上に座っていた。
もっと言えば、今はお互いの洋服を脱がしあっていた最中。
つまり『この状況』と言うのは、『そういう状況』だ。
確かにこれで相手が別のことに気を取られてたら気分駄々下がりになってしまうだろう。
だってこんな場面で他に意識をやれるほど慣れてなんか居ない。
今日のは事務仕事に徹底してたから、着物じゃなくて洋服を着てる。
と言うかまぁ、特別な日でもなけりゃ着物より洋服のときの方が圧倒的に多いんだけど。
工房での仕事にしろ事務作業にしろとしては洋服の方が動きやすい。
そして、薬研君は戦場に向かう時とは違い、
黒シャツにネクタイを締め、サスペンダーを着けた黒の半ズボンを履いてる。
この格好の時決まって羽織っている白衣は既に畳に投げ出されていた。
そう言えば、メガネもいつの間にか外してしまってる。
はまだ彼のネクタイを解いてシャツの三段目のボタンに手をかけてる途中なのに対し、
彼はもうの前を全て肌蹴させて殆ど下着姿にしてしまいかけてた。
おいおい何ですか、その早業は。
が手を止めてたのなんて、ほんの数秒のはずなのに、どういうことなの。

「・・・えーっと、集中してないっていうか、考えてたの薬研君のことなんだけど」
「俺の?」
「うん・・・」


嘘は吐いてない。
と言うか、そのままだ。
が彼の戦場育ちがどーのという事を考え始めたきっかけ。
それは、彼が『この手』のことまでやけに自然でスムーズに進めてしまうから。
と言っても別に薬研君が女慣れしてそうとか場数踏んでそうとか、そういう方向じゃない。
だけどもしかしてと思わせてしまう何かが、薬研君にはある。
それは外見年齢とは関係なく、彼の内側から滲み出てる『男』っぽさのせいかもしれない。
現に今だってこんな時でも緊張したり、焦ったりしてるのはどっちかと言うとばかりで、
薬研君の方がずっと冷静に見える。
なんだか納得いかない。
正直に言えば、彼と見つめ合って洋服の脱がせあいなんて、本当は今すぐ爆発できる位には恥ずかしい。
さっきからの手の動きがぎこちないのも、実は指先が微妙に震えてるからだ。
今が夕方で、明かりを付けてないから室内は薄暗いまま。
そのおかげで手元がよく見えないってのを言い訳には出来る。
表面上はまだどうにか普通よりちょっと照れてる程度に装えてるが、
実際は笑えるほど緊張でガッチガッチだ。


「薬研君・・・、戦場育ちって言ってたけど、その・・・」
「ん?」
「・・・・・・いえ、ナンデモアリマセン」

何を。
何を言い出す気だった、
戦場育ちって言ってたけど、こういう事もうまいんだね。
とでも言うつもりか。
いやいやいやいや、ないわ、ないない。
それこそ恥ずかしすぎるわ。


「?途中で止められると気になるな」
「き、気にしないで」
「・・・なぁ大将」
「はい、・・・っ!?」

が返事をした直後。
薬研君は両膝を着いてとの距離をあっと言う間に詰め、
ボタンを外し終えて肌蹴たシャツからの背中に直に両腕を回した。
素肌に彼の掌の感触が伝わり、反射的には小さく体を震わせる。
薬研君はの肩に顎を乗せるような形でを抱きしめたかと思うと、
その唇を耳たぶ付近に寄せて言った。


「ここには俺と大将二人だけだ。恥ずかしがらずに、言いたいことを言っちまっていいんだぜ?」
「〜っ〜っ〜っ!!!」

こ、こ、このおおおお!!!
だから、だから、だからそういうところがっっ!!

いつもより少し低めの掠れ声。
吐息交じりの熱を含んだその声は、少年なんて形容は全く似合わない。
その甘ったるい台詞さえ、男前さを滲ませて、同時にぞくぞくするほど色気を感じる。
を抱きしめてる両腕は、よりも細いくらいだし、の体は彼の腕に収まりきれてないってのに、
この包容力は溢れ出る色っぽさは何なんだ。
視界に入る白く細い足は間違いなく未発達の、子供と言ってもいいものなのに。

「大将?」

ほら、言えよ。
と、薬研君がを促す。
わざとなのかそうじゃないのか、彼が喋るとその唇がの耳たぶをくすぐった。
背中に回されてる手が肌の上を緩やかに滑り、ブラのホックをぷちんと呆気なく外してしまう。

「や、薬研君は・・・っ!」
「何だ?」

返事をした彼が、下から覗き込む形でを見つめた。
切れ長だけど大きな瞳は、まだどこかあどけない。
そのくせその奥に、ゆらりと揺らめく炎が見えて、目が、離せなくなってしまう。

「・・・薬研君は、ズルい・・・」
「ズルイ?俺が?」

そうだ、そうだ。
本当にズルイぞ、薬研藤四郎。

「・・・なんか、こ、こんな時でも、余裕っぽいし・・・、自然だし、より色っぽいし」
「大将、そりゃ褒めてくれてんのか?だが、そうだな、俺から言わせてもらえれば・・・」
「あっ・・・」

薬研君の手の平がの胸の膨らみへ移動し、更にゆっくり揉みしだき始めた。
そしてそこで彼はの唇ぎりぎり、自分の唇を寄せてくる。

「自然と言うのはよく分からんが、こう見えても単なるガキじゃない。
それに、色っぽいってのは俺じゃなくて・・・大将のほうだ・・・」
「っそれはな―――」

い。
と言う一文字は、そのまま薬研君の口に飲み込まれてしまった。
薄く小さな唇は、見た目に似合わず可愛らしくないキスをする。
のものよりやわらかく弾力のある小さめの舌が下からの口内を抉る様にして入り込んだ。
自分のものじゃない ぬるい温度。
その間も薬研君の手はの胸を弄んで、指先で尖った先端を擦られる。
の体温は悔しいほど上昇の一途を辿り、呼吸が浅くなるのを止められない。
いつの間にか絡め取られ、縺れた舌がお互いの唾液を吸い上げて妙にいやらしい水音を響かせ始めていた。
もう既に、の思考は半分溶けそうになってる。

「・・・っは、・・・」
「大将・・・」

キスの合間。
吐息交じりの湿った熱を帯びたその声で、薬研君がを呼んだ。

「目を開けて、俺を見ろ・・・」
「え・・・?」
「どうだ、今の俺は・・・余裕に見えるか?」

静かに瞼を上げ、彼の言葉に従って、は至近距離にあるその表情をじっと見つめる。
間近すぎて最初は焦点を結べなかった瞳が、はっきり薬研君の顔を捉えたその瞬間。


ど っくん。


胸の奥の心臓が、大きく鼓動を刻んだ。
それと同時に、は無意識に僅かに左右に首を振る。
それは彼の問いへの答えだった。
今の薬研君はどんな鈍い人間でも分かる位に余裕のよの字も見えない。
飢えた獣を直に見たことなんかないけれど、彼を見て真っ先に思い浮かんだのはそれだった。

「・・・だろうな」

どこか照れたように、そしてまた何故かまんぞくげに、薬研君が笑う。
口元だけを歪めたその笑いは、無邪気な少年とは程遠いものだった。
彼はが途中までしか外せなかったシャツのボタンを自分の手でプチプチと素早く全部外し終える。
そしてそこからまだ幼さを残した薄い胸板に細い腰露になった。
以前に目にしたときも思ったことだが、は俗に言うショタコンってヤツではないけれど、
それでも彼の外見と言動のギャップに妙な背徳感も手伝って、ぞくぞくする。


「やっぱり・・・薬研君はズルイね」
「・・・そりゃ、お互い様ってヤツじゃねぇか?大将」
「本当言うとさ、戦場育ちっていうから、もっとこういうのに、奥手なのかと思ってた」


あくまでの勝手なイメージだ。
とは言え、ぱっと見いたいけな少年にも見える訳だし、こう考えるのも不思議じゃないと思う。
勿論、今はそんなこと全くちっともこれっぽっちも思ってやしないけれど。


「戦場しか知らないとは言ってない、だろ」


そこで妙に不敵に笑う薬研君が憎らしくて、中々いい感じに思考回路が溶けてきたは、
今までの分反撃してやるつもりで彼の唇に食らいついたのだった。

(了)

もうちょっと妖しいのも書きたい勢いで愛してるよ、薬研ニキいいい!(最愛は清光です←)ここまでのお付き合い、誠に有難うございました!