「・・・・・・・・・・・・・・・あー、・・・・えっと、・・・・・・・・」
ようやくベッドから体を起こすことが出来るまでになったは、
ゆっくりと薄暗い周囲を見渡した。
実はもう結構前に意識は戻ってたんだけど、頭が重くてぼんやりしてて、
思考を働かす事が全く出来なかったのだ。
目を覚ましたばっかで寝ぼけてるとか、そう言うレベルじゃなく、
今までに経験のない感じの感覚だった。
実は今もまともに思考が動いてるかって言うと微妙なとこだけど、
さっきに比べれば格段にまともだ。
「・・・・・・・・・え?てか、ここ・・・どこ!?」
余りにも見覚えのなさ過ぎる室内の状況に、は思わず一人、呟いていた。
目覚めた場所は自分の部屋の中だとばかり思ってたけど、
ここはの部屋とは似ても似つかない所だ。
薄暗くて細かいところまでは分からないまでも、一見して自分の部屋じゃない事なんかすぐ分かる。
それにさっきから気になってたけど、この暗さ。
もしかして、と言うか、もしかしなくても今は夜なんだろうか。
じゃあ、あの変なちっちゃい男の子のことは・・・夢?とか・・・??
お約束の夢オチ。
あの不思議過ぎる出来事をそうやって片付けてしまえば本当に簡単なことではある。
だけど夢の中の感覚にしては妙にリアルで、
何よりあの子との会話をしっかり覚えているが居る。
勿論、その内容が余りにもぶっとんでるからこそ、夢だろうと思ってるんだけど。
それにしたって、例えあれが夢だったとして、
じゃあがこの見覚えのない部屋に居ることの説明になるのかって言うと、
そんなことはない。
はのろのろとベッドから這いだすと、そのまま冷蔵庫に向かって歩いて行き、
その中からミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。
そしてそれに直接口を付けてごくごくと水で喉を潤す。
「・・・・・・・・・・・・っ!?」
瞬間。
は自分自身の余りにも自然過ぎる行動に驚いてしまった。
無意識だったとはいえ、今、は、
何の躊躇いもなく冷蔵庫に近づいてこのペットボトルに手を伸ばした。
その上普通に飲んでしまっている。
極自然に、まるで自分の部屋の物みたいに。
はもう一度周囲をきょろきょろと見回した。
勿論どう見てもの部屋じゃない。
どこをどう取っても、の部屋にあった物なんか見当たらない。
知らない場所だ。
全然、知らない。
――――――――――だけど、本当に?
何故だか不意にそんな疑問が浮かんだ。
そんなことを疑問に思うこと自体おかしい。
はそこでベッドのまくら元にある時計に目を向け、今が深夜の3時頃だと確認した。
深夜。
もう一体、何がなにやら分からないことだらけだ。
大体元々は学校に向かう所だった筈で、そこで近道として使ったあの階段から転がり落ちて、
その後あのおかしな場所の不思議な男の子に会って、そして今は―――――――――
何なんだろう、これは。
本当にまるでどこかで見た小説か漫画みたいな陳腐な展開だ。
はゆっくり窓辺に近づき、外を見下ろした。
勿論、外から見るその場所もやっぱり、見慣れない所。
その筈なのに、何だか普通に知ってた様な妙な気分になっている。
それとも単に今までの状況から予想した通りの展開だから、
そんなおかしな気分になってしまってるのだろうか。
そこで窓の外から窓に映る自分自身に視線を移した瞬間、
ぎくり、と、体が思わず強張ってしまった。
「・・・・・・・・・え!?う、そ・・・・・・・!?」
――――ドッ・・・・。
その拍子に片手に持っていたペットボトルが床に落ちた。
水はまだ大分残ったままだから、それがカーペットの上に零れて染みをつくってしまっている。
だけどにはそれを気にとめてる余裕なんか全くなかった。
窓ガラスに映るの姿。
肩まで伸ばしていた筈のの長い髪が、殆どショートに近い位の長さになってしまっている。
この部屋に来て自分の姿を鏡や何かで目にしなかったとはいえ、
こんなあからさまな変化に今まで気付かなかったことにもまた驚いた。
は窓ガラスに手を伸ばし、掌をぺたりとそれに押し付け、そこに映る自分自身を凝視する。
確かに今朝まではの髪はいつも通りの長さだった筈だ。
ここに来る前、あの不思議な男の子に会った時だって、の髪は今までと同じく長いままだった。
それなのに。
「・・・あ、案外これはこれで似合ってるかも・・・・・・・・」
っじゃなくってぇええ!!!
本当に、何?
何?何が起こってる訳?どうして、何でこんなことに!?
今頃になってどくどくと心臓が早鐘を打ち始める。
何が起こってるかなんて、
これだけ現実味のない出来事が次々起きてて今更そんな質問は馬鹿げてるとも思うけど、
やっぱり冷静でなんていられなかった。
脳内パニックに襲われながら、茫然と突っ立ったままのの足元。
ペットボトルから零れた水が、の裸足のつま先をひやりと濡らした。
そこでハッと我に返ったの耳に、
不意にあのおかしな世界で出会った不思議な男の子声が蘇って来る。
――――――あのね、お姉ちゃん!これは夢じゃないんだよ!だから
・・・・・・・・・・ま、さか、・・・・・・そんな。
嘘、よね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?
呟くように口にしたそのの問いの答えが出たのは、
夜が明けて朝を迎えた後だった。
(続く)