プロローグ

授業中にぼけーっと外を眺めて居たのが先生にバレて、
黒板に書かれた数式を解かされるハメになってしまった。
四苦八苦しつつもどうにかそれを解き終えて、自分の席に戻ろうとした、その途中。
和希と目が合った。
アイツはと目が合った途端、ぶっ、と吹きだすのを堪えた様な表情を見せ、
隣に座っている啓太に咎められている。
は他の生徒や教壇に居る先生に気付かれないように、和希に向かってじろっと睨みを利かると、
その隣の啓太ににっこり微笑んで見せた。
正直、今でも信じられない。
こんな風に彼らと自然に接する事が出来るなんて。
だって、このパラレルワールドに来る前まで、
にとって彼らは二次元の存在、画面越しに見るゲームの中の登場人物だったんだから。
こうやって改めて口に出すと、本当にどんだけ妄想し過ぎてるんだって感じだけど。
でもこれは事実だ。
まさか、なんてレベルで驚けるのを通り越せる状態で、
彼らはとリアルに接する人間になってるんだから。



あの日。
がこの世界にやって来た夜が明け、朝を迎えたあの日。
は殆ど一睡も出来ず、
啓太と和希がの部屋に迎えに来てくれるまでどうやって過ごしたのか思いだせないような状態だった。
彼らがの部屋のドアを
(そこがベルリバティスクールの寮だったことはこの後に知ることになる訳だけど)
叩いて声を掛けて来たその時になってようやく朝が来てるんだと気付いた位だ。
とにかくはその位余裕も何もあったもんじゃなかった。
それから更に恐る恐る開けたドアの先に居た二人の姿を目にして、
の頭の中はもうパニックの嵐、嵐で、
二人は二人でがパジャマのまま出てったりしたから相当慌てて、を部屋に押し戻すと、
遠慮しつつも彼らもの部屋に足を踏み入れた。
!お前どうしてまだ準備してないんだ?そ、そんな格好で出てきちゃ駄目だろ」と、
顔を赤くしつつ動揺する啓太に、それに同意してに説教めいたことを言おうとする和希。
だけど当然はそれどころじゃなくて。
だって、どこからどうみてもゲームの登場人物そのまんまな人間が二人も目の前に現れたのだ。
もう今起こってる事が、と言うか昨日の階段から落ちて以降起きてる事が、
夢だか妄想だか分からなくなってしまい、とにかくの頭の中はぐちゃぐちゃだった。
それからは二人には体調を崩してると言う様なことを言って誤魔化し
(きれてなかったかもしれないけど)、殆ど二人を追い出すような形で彼らを部屋から出した。
その後も授業が終わって昼休みに入った位に啓太と和希がを心配して様子を見に来てくれて、
その頃になってようやく、
ほんの少しずつだけど、の思考がこのメチャクチャな現実に追いつき始めたのだった。
今思えば、それは多分、あの謎の小さな男の子が、
の体にこっち(・・・)の世界の記憶とか知識とかを残してくれたおかげなんだろうけど。
とにかく、目の前に居る伊藤啓太と遠藤和希が実はレベルが高すぎるコスプレの人とか、
俳優さんとかではなくて、
正真正銘本物だと理解してしまう位には、この世界のことを受け入れ始めて居た。
本当なら絶対あり得ないし、短時間でそんな簡単にそんなことを納得できる訳もないんだけど。
まぁそういうことで、そのことをきっかけに、は少しずつこっちの世界のがどんな人間で、
今、どんな状況に陥ってるのかってことを知った。
まず、と啓太の関係。
は彼の従姉妹で一つ年上の幼馴染。
但し、一年前に交通事故に遭って入院経験がある為、止むなく留年することになったから、学年は一緒だ。
和希とは、啓太は今の所まだ思い出してないみたいだけど、
実はも彼と小さい頃に何度か顔を合わせて居る。
そして、こっちのは和希がこのBL学園の理事長だと言う事を知っていた。
だからまぁ、諸々の事情もとは違う意味でこっちのは分かってる訳だ。
BL学園から啓太にプラチナペーパーが送られた時、相当無理を言って彼と一緒にここに入ったらしい。
そりゃそうだ。
個人の能力云々なんてこと以前に、BL学園は全寮制の男子校。
本来なら女のを受け入れられる訳がない。
それでも結果的に今こうしてがここに居ることが、こっちののスゴイ所。
結局、男装して男子校に潜り込むと言うドラマ張りに現実離れしたことをやってのけてんだから。
――――――――――と言うか、もう全てにおいてとしては恐ろしくとんでもブッ飛び設定なんだけど。
大体ベルリバティの略がBLと言う、明らかに分かり易いその線(・・・)の世界観。
そこに女の自分が飛び込むなんて、エキセントリックとしか言いようのない状況。
だけど、そうだ、もうにとってあり得ないことなんかあり得ないんじゃないかって位には、
はあの日、階段から落ちてからずっと、信じられない出来ごとの連続だった。
そしてあれから一週間。
こっちのが啓太とこの学園に来てからも含めて言えば10日目の今。
ドタバタしつつも少しずつ確実に、はこの世界とこの学園での生活のコツを掴み始めて居た。
ま、勿論、周囲は男子生徒ばっかりで、自分自身も始終男装してるし、
が女だと知っている人間は限られた極一部、
色々と気疲れの多い毎日ではある。


、授業はもう終わったぞ。いつまでもぼーっとしてないで、食堂に行こうぜ」

授業が終わったことにも気付かずに、またしても頬杖をついてぼんやりしていると、
少し離れた席の和希と啓太が近づいて来た。
和希の言葉にはハッとして視線を二人に向ける。

「あの、・・・、大丈夫か?気分が悪い・・・とかじゃないよな?」

啓太が気遣わしげにそう言ってを覗き込んだ。
男主人公とは言えこの啓太は好感が持てるし、感情移入しやすい本当にいい子だと
画面越しに見てる時から思ってたけど、
直接こうして会話を交わすようになってそれを益々実感してる。
啓太は間違いなく、皆に愛される可愛いヤツだ。

「平気、ちょっと考え事してただけ」
「そうか。それじゃあ一緒にご飯、食べに行こう!」
「うん」

短く返事をして、は手早く机に広げたままの教科書やノートを机の中にしまった。

「よし、悪い、二人とも。お待たせ、それじゃあ行こっか」

達は揃って教室を出ると、学食に向かうことにした。
その途中に他愛ない話をしつつ、廊下を進む。
こんな何気ない学園生活の1コマも、以前のの目から見たら本当に不思議な感じだ。
大好きなキャラに囲まれて学園生活を送ってる、なんて言ったら、
凄く楽しいことだけみたいなイメージだけど、勿論状況が状況だからそんな単純な筈もなく。
以前よりは男言葉やそれらしい態度に慣れてきたとはいえ、
気が緩み過ぎたり、感情が抑えきれなくなると女言葉がぽろっと出たりってのも珍しくない。
それでも今は。


―――あのね、お姉ちゃん!これは夢じゃないんだよ!だからあっち(・・・)でもちゃんと頑張ってね!約束だよ!


あのおかしな世界の不思議な男の子の言っていた言葉通り、
ここが夢なんかじゃないってこと、はもう理解してる。
そして、ここで頑張って生きていこうと、は、覚悟を決めて居た。


そうだ、この世界で、個性的すぎる面々と一緒に、はここでの生活を目一杯謳歌してやるつもり!


(END)

あとがき
・・・・・・ってことで、まーたしてもプロローグなっがくなりましたが(笑)、
学園ヘヴンで女主、異世界トリップです。
咎狗の時も思いましたが、マイナー部類に入ること決定な内容・・・。
しかし短くしようと焦って随分駆け足部分が多い様な・・・(しかも努力が実ってない)。
ではでは!ここまでお付き合い下さった大変貴重過ぎる姫様に大感謝です。
有難うございます。ではでは、失礼致します