眠れない夜はきみと

七条は夜型だし間違いなくまだ起きてる側の人間だろう。
しかも明日は学校が休みだ。
就寝時間を過ぎたからって七条が大人しく寝てるとは思えない。
は七条の番号を呼び出し、迷わずそれを発信した。
彼はたった3コールという予想以上に短い間で電話に出てくれた。


『はい、もしもし、君?』
「うん、・・・起きてたよね?」


相手が起きていること大前提で電話した訳だけど、一応訊ねてみる。


『はい、PCでプログラムの見直しをしているところでした』


彼からの答えはある意味予想通りの返事だった。
と言っても何をしてるかまで深く考えてた訳じゃない。
今七条はPCプログラムの見直しをしてると言った。
ってことは、タイミングとしては余り良くなかったってことじゃないだろうか。


「ごめん、邪魔しちゃったね」
『いいえ、丁度ひと段落つくところでしたから、気にしないで下さい。
それよりもくんが電話してくるなんて珍しいですね。何かありましたか?』
「え?えっと・・・」


雷が怖くて電話した、なんて、やっぱりちょっと恥ずかしくて言えない。
は咄嗟に言い訳を考えて、一番無難な返事をすることにした。


「特に何かあった訳じゃないんだけど、ちょっと眠れな―――」


言いかけた、その時だった。



ズッゴオオオオオン。



今までで一番大きな、まるで地響きのような低く凶暴な音が辺りに響き渡った。
これは落ちた。
確実に落ちた。
絶対落ちた。
間違いなく落ちた。


「ひいいいっ!!!!!」


一瞬にしてパニックに陥ったは、無意識に悲鳴を上げる。
誤魔化す余裕なんて全くなかった。
危うく取り落としそうになった携帯をしっかり握りなおせてたことすら奇跡だ。


君?どうしました?大丈夫ですか?』
「っっ、だ、だだ、だだだだだ、だいじょうぶっ」


ごめんなさい嘘です全然大丈夫じゃないです。

不自然な位にどもりまくって返事をしてるくせに、心とは全く逆の答えをかえす自分が憎い。
とは言え、相手はあの七条だ。
の態度で彼はすぐにどういう状況なのか分かってくれていた。


君、落ち着いてください。雷の音で不安になっていたんですね』
「し、七条っ、・・・」
君』
「な、何?」
『今から君の部屋に行ってもいいですか?』
「・・・え?」
『雷はまだ収まりそうもありませんし、君も誰かが傍に居たほうが安心できるでしょう』
「あ・・・」


七条の思わぬ申し出と、を気遣う優しい声。
本当は、その言葉に甘えて飛びつきたかった。
だけど今は既に寮の就寝時間を過ぎてしまってる。
もしも七条がこっちに向かう途中に見回りの人間に見つかりでもしたら、叱られるのは彼だ。
いや、でも七条ならその辺上手くやってくれそうだし、ここは甘えてしうのもありじゃないか。

「あの・・・」
君?』
「だ、大丈夫!は平気だから!じゃっ!」


結局はそう返事をして電話を切ってしまった。
そして、切った直後に激しく後悔した。


何故切ったし、自分!!


最後の最後に変な意地を張ってしまった。
しかもせめてもう少し感じよく終わらせられなかったものか。
突然電話して七条に気を使わせてその上今度はまた突然電話を切ってしまった。
明日は学園は休みだけど、直接顔を合わせることが出来るならちゃんと謝っておこう。
自業自得で自己嫌悪に陥りつつ、
それからは取り敢えず雷様のコンサートから気を逸らす手段を考えた。
だけど結局特に何も思い浮かばず、七条との電話を終えて約15分経った頃。
誰かが控えめにの部屋のドアをノックした。


君、起きていますか?」
「っ!し、七条・・・?ま、待って!今、開ける!」


深夜とは言えないまでもこんな時間だからちょっと身構えたけど、
ドアの向こうから掛けられた声に少しだけホッとする。
は慌ててドアに向かった。
そしてなるべく物音を立てないように、それでも素早くそれを開ける。
開いた先に居た七条は黒の上下のパジャマ姿だった。


「こんばんは、君の様子が気になって、来ちゃいました」
「あ、えっと、さっきは電話でごめん。突然電話切ったりして」
「いえ、僕の方こそ突然押しかけちゃってすみません。
・・・君さえ迷惑でなければ、中に入れてもらえますか?」
「う、うん!」


このまま立ち話してたら見回りの人間に見つかってしまうかもしれない。
は急いで七条を部屋の中に招き入れた。
それとほぼ同時にまた雷がばりばりばりっと凄い音で鳴り響く。
反射的に立ち止まってひいいいっと悲鳴を上げたに、七条が背後から右肩に軽く触れて言った。


君、僕が居ます。安心してください」
「あ、あ、うん。ご、ごめん・・・」


恥ずかしいところを見られてしまった。
いや、恥ずかしいもなにも、電話口でも叫んだし、
今彼がここに来てくれてるのもが雷にビビってるからなんだけど。

「この間君が見て見たいと言っていたサスペンス物のDVDを持って来ました。
あの時も言いましたが、何度見てもとても面白い映画でしたので、
君もきっと楽しめると思いますよ」
「七条・・・、ありがとう!じゃあきっと雷なんか気にならなくなるね」
「ええ、きっと。それから、ついでと言っては何ですが、飲み物とお菓子も持ってきました」
「おおお」


この時間に甘い物は乙女にとって最大の敵。
だけど、なんというか、この時間に食べる甘い物は何故かいつもよりもっと美味しく感じると言う。
それに何よりの為に七条がここまで用意してくれてるのだ。
それを断るなんてあり得ない。
は満面の笑みでもう一度彼にお礼を言った。


「ありがとう、七条」
「フフッ、君が喜んでくれて僕も嬉しいですよ、君」



□■□



ふ、と、目が覚めて数秒。
は瞼を開けたままぼんやりと天井を見上げていた。
そう、天井。
天井を。


「?・・・??」


何だろう、何か忘れているような気がする。
起きたばかりで思考回路が動き出す速度が鈍い。
はそれから更に数秒考えて、やっと我に返った。


何で普通にベッドで寝てるんだ!?


雷にビビってるを心配した七条がの部屋まで来てくれて、その後は二人でDVDを見て過ごしてたはず。
それなのにどうしては―――


君」
「どわっ!?」


唐突に真横の、しかも結構近い位置から七条の声がして、驚いたは間抜けな声を上げる。
更に反射的に声のした方向に顔を向けて、一層驚いた。
七条がのベッドでと一緒に横になっている。
はそのことに驚きすぎて咄嗟に後ろに身を引いた。


「危ないですよ」

ガンッ

「あだっっ!!??」


七条が注意してくれたのと、の後頭部に固い衝撃があったのはほぼ同じタイミングだった。
いつもは一人で寝てるベッドに二人。
しかも相手は男で女のより必然的に場所を取る。
は壁際に近い所に横になっていた。
それを気付かずに何も考えず後ろに身を引いたりしたもんだから、壁に激突した訳だ。


「〜っ〜っ!」
「大丈夫・・・ではなさそうですね。すみません、君。僕が驚かせたせいですね」
「ち、ちが・・・、七条は気にしないで・・・っ!」


いや、本当は違わないんだけど。
でもこの場合、やっぱり間抜けだったのはな気がした。
それから少しの間は後頭部の痛みが落ち着くのを待って、七条に訊ねた。

「ねぇ七条、達、DVD観てなかったっけ?」
「ええ、その途中で君が眠ってしまったので、ベッドまで運びました。
僕は自分の部屋に戻ろうと思っていたのですが、
あの時はまだ雷が鳴り続けていたので、君のことが気になってしまって」
「あ・・・、そうだったんだ・・・。ごめん、折角色々気を使ってくれたのに」


あれだけ怖がっていた雷は、七条が持ってきてくれたDVDを見始めてからは余り気にならなくなった。
確かに途中で物凄く眠くなったのを覚えてるけど、それは別にDVDの内容がつまらなかったからじゃない。
というかかなり面白くて、わたしは眠気に飲み込まれる直前まで踏ん張っていたのだ。


「続き、見たいから、また貸してくれる?」
「ええ、DVDはそのままにしていますから、返すのはいつでもいいですよ。
では、僕はそろそろ自分の部屋に戻りますね」
「・・・え?戻る?」
「ええ、雷はもう止んでいますし、君もまだ眠いでしょう?
・・・ふふ、そうそう、君の寝顔、とても可愛かったですよ」


そう言って、七条はいつもの胡散臭い笑顔をに向ける。


「なっ!」
「じゃあ、また・・・」
「あ・・・」


七条がするりとベッドから離れようとした、その直前。
は無意識に彼のパジャマに手を伸ばした。
そして、その袖を掴んでいた。


「・・・・赤城君?」
「え、えっーっと・・・」


カーテンの隙間からちらりと見た限りだと、
雨は降り続いてるようだけど、さっき七条が言ったとおり、もう雷は鳴ってない。
だったらは一人でも平気だ。
自分でも思わぬ行動だったせいもあって、自分で自分のしたことに戸惑っていた。
と言うか、引き止められた七条も珍しく驚いてるのが表情で分かる。
その顔を見ると益々自分のしたことが恥ずかしく思えた。


「ご、ごめん。あの、・・・」
「・・・君は僕に・・・ここに残って欲しいですか?」
「・・・あ、うん・・・」


七条からの質問に、は考える間もなく素直に頷いていた。
彼は少しの間をじっと見つめてから、くすりと小さく笑う。


「困りましたね、そんな可愛い顔でこんな可愛いことをされたら、
僕は本気でここに残りたくなってしまう」
「・・・か、かわ!?・・・か、可愛いかは置いておいて!ごめん、困るよね。
うん、何か色々ごめん」
「謝らないで下さい、君。君にこんな風に引き止めて貰えて、僕は嬉しいんですよ」


そう言って、彼はベッドサイドに腰を下ろした。
その仕草がなんだかやけにしなやかで、妙に色気みたいなものを感じてしまう。
目が覚めてからずっと心臓がどきどきしてるのが分かったけど、
その速度も速まって、音も大きくなっているようだった。


「七条・・・」
「僕はここに残ります」
「・・・うん」


七条がここに残るってことは、つまり同じベッドで寝るってことだ。
それはどう考えてもワアアでヒイイなことな筈なのに、は素直に頷いてしまう。
いや、元はと言えばがそうしてくれと頼んだようなものだけど、それでも普通に考えて色々問題だろう。
それでも頷いてしまったのは、結局のところ彼の答えにが喜んでいるから。
が再度、七条の為にベッドに場所を空けると、彼はそこへゆっくりと長身を横たえた。
一人用のベッドで二人、しかも相手が七条だからってこともあって、は物凄くどきどきしてる。
七条はに視線を向け、いつもの大変胡散臭い笑顔を貼り付けた。
嫌な予感がする。


「僕も男ですから、これでも君の寝顔を見ながら理性と本能の間で葛藤していたんですよ」
「・・・え?」
「その上君にあんな可愛い引き止められ方をしてしまって、正直・・・この衝動を抑えられる自信がありません」



にっこり。
笑顔のまま、七条がそう言って、との距離をぐっと詰めてきた。
の背後には壁。
逃げ場はない。
そしてこの状況を作ったのは誰だって、自身なんである。
まさに自業自得。


「は、はい?じょ、冗談だよね?」
「さぁ、君はどう思いますか?君」


そう答えた七条の表情が、さっきまでのあの好青年っぽく作られた笑顔じゃなく、
どこか意地の悪さを思わせるものに見えたのは、の気のせいだろうか。
いや、気のせいであって欲しい。
お願いします、すみません。


「君は僕のことは気にせずにゆっくり休んでくださいね」
「・・・・・・」


今更ながら、七条を引き止めたことを後悔し始めた
当然、時、既に遅し、なのだけれど―――

(END)


最後、最初に考えてたのとは全然違う方向に転びました\(^0^)/
一応元は微エロに向かうはずやったんや(笑)ただ、そうすると長くなるので止めるつもりでした。
でもどっちにしろ思ってたのとは違う感じになったな。七条はこれでようやくトリヒロで2本目。
前回も今回も分岐の選択肢ですが、増やせたから満足です。
何だかんだ言ってこの後夢主普通に寝てしまってそう。そして七条は和希と同じで一人我慢大会。
でも朝になって夢主が起きた時はいつも通りの態度ぽい。
ではでは、ここまでお付き合い頂いた姫様!感謝感激雨霰!同士様は執筆の糧!←
失礼いたします〜